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成熟期を迎える美少女ゲーム
恋愛ゲームNextage 第15回

0.概要

 先日発表された美少女ゲーム(ポルノアニメビデオゲーム)の「Mid price」を読み解く。

2003/03/23初版

1.近年のPCゲーム価格

 先日美少女ゲーム(ポルノアニメビデオゲーム)の第3の価格(らしい)として5000円という「MidPrice」が発表された。ユーザが参加すると言っても価格を設定するのはメーカでありどう参加すればいいのか分からないが、ここに来ての新しい価格帯の提案は多分に示唆的である。ここではこの「Mid price」を読み解こう。

 近年、美少女ゲームを含むPCゲームの価格はコンシューマゲームに比較して「高止まり」しているという印象があった。実際、21世紀に入ってからのPCゲーム価格帯はほとんど変わっておらず、8001-9000円のところに集中している(図1)。もっと具体的には「8800円」という定価がダントツに多く、60.5%(2001)、66.2%(2002)、64.3%(2003,-03/21)と60%以上を占めてきた。従来、5000円以下では、再販の廉価版や、アクセサリのような人気作品のオマケ的なソフトが多く、新作が提供されることはほとんどなかった。

2001年のPCゲーム定価価格帯
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2002年のPCゲーム定価価格帯
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2003年(-3/21)のPCゲーム定価価格帯
図1 最近3年のPCゲーム定価価格帯(参考: くさやのひもにょ

 「MidPrice」陣営が「低価格プライス」として挙げている2800円という価格も2001年に1本、2002年に5本、2003年2本あるのみであり、全体からみれば異端である。もちろん、作品数は少なくとも「妻みぐい」がデジクロニクルの2002年販売本数ランキングで1位を獲得しているように、販売本数での影響力は大きいだろう。しかし新作で2800円という低価格商品を投入できたのは潤沢な開発経験および人的リソースと強い財務体質を持つ(と思われる)Alicesoftだからこそ(恐らくは圧倒的なコストリーダシップによる認知度とシェアの拡大の目的で、善意に解釈すればユーザへの利益還元の目的で)できることであり、大半の中小メーカがこの価格で競争するのは現実的ではないと言うべきだろう。実際フォロワーはどことして出てきていない。

 一方、6割を占める「フルプライス」の8800円となると、これまではある意味ユーザも特に疑問を持たず、メーカとしても開発コストと利益率から出した訳でもなく何も考えずに設定していた面があるだろう。従来恋ZEROでも、「少々価格をどうこうするより先にいい作品を作れ」と言っていたように、美少女ゲームは極めて嗜好性の高い商品であり、価格がユーザの満足度に与える影響が小さいと考えられてきたからだ(内容が古いが例えばCSという考え方─(1)美少女ゲームのCS)。

2.成熟期を迎える美少女ゲーム

 今回の「MidPrice」はこういった考え方を自ら捨て去ることであり、美少女ゲームが本格的に成熟期(あるいはその先)を迎えつつあることを示唆するものである。例えそれがボッタクリ価格であろうが(必ずしもそうとも思わないが)8800円でユーザが満足しているのであれば利益を減らしてまで価格を下げる必要はないのであって、今回のそれは辛抱できずに価格帯の引き下げに踏み切ったように見える。「市場の閉塞感・業界の停滞感打破」を謳ってはいるものの、意地の悪い言い方をすれば、「価格以外で差別化できなくなりました」ということを自ら認めてしまっている、ということ以外の何ものでもないからである。

 とはいえ、このところのユーザが内容に見合う価格を明確に意識しつつあり、露骨な評判待ち、ワゴンセール狙い、という買い方が出てきてしまっている現状では、もはや無理もないことかもしれない。成熟市場の特徴として、NRIの黒崎氏は「ビジネスモデル変革による企業再生」で「i)商品のライフサイクルが極端に短い」「ii)高級ブランドと低価格品への消費の2極化」「iii)消費者の知識・情報量が多い」ことを挙げている。美少女ゲームの場合、i)は全くその通りであると言うしかない。iii)についても、無数に発売される中でプレゼンスを高めるため発売前の情報公開が重要になり、発売後は出来不出来が一瞬でネット上を駆け巡る点でユーザの情報量は増加の一途である(相変わらず発売日買いにこだわって地雷を踏むユーザが後を絶たないが…)。ii)はさしずめプレミア価格とワゴンセールの格差、ということになるだろうか(人件費がメインコストの労働集約産業である美少女ゲームでは内容を薄くせずに単に低価格品は通常困難と思われる。中国などへの海外発注が可能になればまた違う段階へと移行するだろうが)。

 どうやら8800円という「業界標準価格」にそろそろ無理が来ている、と言うことなのだろうか。ざるの会のTTNM氏は理屈研究室「商品ライフサイクルと企画の進化」で、「ある商品ジャンル自体のライフサイクルが終端に向かって行く(革新性に基づく魅力が薄れていく)につれて、企画や競争の一般性は高くなっていく。同時に価格の価値尺度性も上がっていく。」とする。先に恋愛ビデオゲーム産業の基礎分析では小説や映画と言った代替品の可能性を提示した(美少女ゲームが紆余曲折を経て「萌え」と「エロ」に落ち着きつつあるのは他の消費財と最も差別化できるところがポルノアニメコンテンツであるということに行き着くからではないかと見ている)が、美少女ゲームの企画/戦略はまさに純粋な中身の勝負からセグメント戦略を経て価格を含むマーケティング戦略のフェーズへと移行しつつある、と言うことができる。

 価値尺度性ということでは、「○エロゲ」(エロゲ…美少女ゲーム=ポルノアニメビデオゲームの俗称)という奇妙な単位を目にしたことのある方もいるだろう。定価が8800円の美少女ゲームの標準的な相場が6000円程度であることから、例えばある商品が3万円、という代わりに「5エロゲ」と言うのである。これは極めて嗜好性の高い商品が単位になっているところに可笑しさがある訳だが、「○エロゲ」として比較されたモノが選ばれれば当然その分の美少女ゲームの売上は失われる。この価値尺度の観点から言えば「MidPrice」は、「通貨」の切り下げということであり、消費財全体から見た相対的な価値の低下を受け入れた形になる。

 純粋に中身で勝負できなくなった、ということでは成熟期を迎えた美少女ゲームに感慨を覚えるとともに一抹の寂しさがあるが、恋ZEROは「MidPrice」を必ずしも否定するものではない。むしろ、「フルプライス」の長大な作品(「フルプライス」でも全然ボリューム不足なものも少なくないが…)に対して、コンセプト(とボリューム)を絞り込んだ手頃な価格の小品は、カネはそこそこあっても忙しくてプレイ時間の取れない社会人ユーザのニーズを上手くすくえる可能性がある。「MidPrice」あるいはこれに相当する価格戦略が今後他のメーカにどれぐらい波及するのか、興味深いところだ。

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