裏恋愛ゲーム学


第3講 恋愛ゲームヒーロー学1〜『男らしさ』が変わるとき〜

98/12/12開講

2タイプの主人公

恋愛ゲームには、もちろんヒロインだけではなく、男性キャラも登場する。今回はまず、その中でプレーヤの分身(?)である主人公について考えてみる。

おそらくこれも「ときめきメモリアル」「同級生2」の影響があるのだろうが、恋愛ゲームの主人公は大きく2つに別れる。つまり、無性格系と有性格系だ。

特に育成系恋愛ゲームに多いが、「ときめきメモリアル」に代表される、無個性・無性格な主人公は、「ドラゴンクエスト」シリーズの主人公(※1)のように全く喋らないと言うことはないが、喋っても喋らなくても変わらないぐらいの透明なタイプである。

こういうタイプの主人公は、プレーヤが主人公になりきりやすいというメリットがあるが、逆に主人公のバックグラウンドが希薄なため、主人公絡みのシナリオを作りにくく、シナリオ系には余り向いていない。

もう一つの有性格系は、個性と言ってもそれはそれでかなりステレオタイプ化されたキャラクタが多い。
  • やれば何でもできるが、やろうとしない
  • 喧嘩が強い、気が強い
  • 軟派、もてる
といういわゆる「蛭田キャラ」(※2)はその後の恋愛ゲームや美少女ゲームに多かれ少なかれ影響を与えている。

主人公がある方向の性格付けをされている場合、シナリオ的には書きやすいけれども、プレーヤとしては自分と性格的に合えば理想的だが、自分と違う場合どうしても感情移入がしにくくなるという弱点がある。「どうしてそこでそんなことを言う?/する?」という違和感は誰しもが経験しているはずだ。もっとも、ゲーム内の主人公を「演じる」という遊び方をする人にとってはそれほど問題にはならないかもしれないが。

なお、最近では恋愛ゲーム全体がコンシューマ寄りになって来ているため、一応誠実そうな(笑)主人公も増えている。メーカによって傾向のようなものもありそうだ。(※3)

「ヒーロー」の条件

これらの恋愛ゲームの主人公に共通することは何だろうか。当然、「もてる」あるいは「(努力すれば)もてる」というのはある。駄作に良く見られるような(笑)よく分からないのにもてまくる主人公というのもどうかと思うが、(いくら努力しても)全くもてない主人公というのはさすがに見たことがない。(「ラブ・エスカレーター」の主人公は私がプレイした中では唯一プレーヤに優越感を持たせようとしていないキャラクタだったが、それでも彼には彼だけを見ていてくれている人がいる。それが命取りでもあるのだが……。)

恋愛ゲームである以上、ある種の充足感あるいは優越感を求めてゲームがプレイされるのだからこれは仕方がないだろう。(誰も振り向いてくれない、果ては自閉的になって自殺する、そんな恋愛ゲームというのも個人的には面白そうだが、きっと非常に寒いに違いない。(笑))

さて共通点に戻ろう。この恋愛ゲームの主人公を現実世界へと取り出した時に、果たして彼らがもてるのかというと必ずしもそうとは考えにくい(笑)のだが、少なくとも1つは学べるところがあるだろう。それは、「コミュニケーション能力」ということだ。彼らがゲーム内で本当にヒロインたちとコミュニケーションできているのかは何とも言えないが、実際現実の男性たちは、今この問題を突きつけられているのである。

時代を遡ると、昔、生きていくことが精一杯であった時代、あるいは戦争の中で生き残ることが必要であった時代には、肉体的に優れていることが非常に重要な男の条件だった。「男らしさ」という言葉に含められるものは、そうした強さだったのだ。一方、「黙して語らず」が格好いい男であって、べらべら喋るような男は女々しいという評価を与えられた。

しかし、衣食住に不自由しなくなり、また戦争も起こらず平和ボケしている成熟社会においては、そうした生存能力の高さのようなものはもはや必要ではなくなる。そこで今度入ってくるのが、「一緒にいて楽しい」という観点なのである。

話が面白い。一緒にいて楽しい。三高、という言葉が死語になって久しいが、「戦争男からコミュニケーション男へ」という宮台真司氏らの言葉を待つまでもなく、今求められているのはそういった、相手を楽しませることのできるコミュニケーション能力の高さであることは疑いもないだろう。(グローバル化が進む中で、広い意味ではビジネスにおいても同じような能力が求められていると言える。)これは、かつては女性がより優れている分野だった。

外見についてもそうである。とある調査によれば、平均的な男性の顔から20%ほど女性の顔に近づけた顔が男女両方ともにも好まれる傾向にある、という結果が出ているそうだ。ジャニーズ系を見ても分かることだが。野蛮な男はもう要らない、ということなのだろう。

こうした新しい男たちが恋愛競争の中で勝ち上がる一方で、時代の変化についていけない者たちが少なからずいるのももちろん確かであって、そういった男たちは必然的に淘汰されていくことにならざるを得ない。

『男らしさ』が変わるとき、この厳しい競争時代に生き残るには。

もうお分かりだろう。いわゆる「オタク」であること自体が問題なのではない。恋愛ゲームをしていること自体が問題なのではない。オタクであっても恋愛ゲームをしていてもコミュニケーション能力の高い人は実際たくさんいるし、そういった者は生き残ることができる。逆にいわゆる「一般人」であったとしても、コミュニケーション能力が低ければ当然淘汰を受ける。

要は、それだけのことなのだ。



#マズいね〜総論より先に核心に近づいてないか?(笑)











※1、この「ドラクエ」シリーズの主人公が喋らないというのは、シナリオライタである堀井雄二氏の「プレーヤ=主人公」を確立するためのスタンスであるらしい。「ドラクエ3」(?)かどれかで一度だけ主人公のセリフを入れたが、それすら後悔しているらしいという話を聞いたことがある。未確認だが。もう一方の人気RPGである「ファイナルファンタジー」シリーズの主人公たちがプレーヤの手を離れて勝手に演じているというのとは対照的で面白い。




※2、蛭田昌人氏は「同級生」シリーズの生みの親であり、美少女ゲーム界を代表するクリエイターと言っていいだろう。もっとも、最近のユーザが求める傾向が変わりつつある中で、必ずしもニーズに合っていない部分が出てきている感じも受けざるを得ないが……。






※3、主人公マップ……いい加減だがこんなものだろうか?(笑)