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恋愛ビデオゲーム産業の基礎分析
恋愛ゲームNextage 第13回

0.概要

 恋愛ゲーム産業をファイブフォースモデルにより分析した。

2003/02/24初版

1.恋愛ビデオゲーム産業の基礎分析

 恋愛ビデオゲーム(以下単に恋愛ゲームとする)への新規メーカ/ブランドの参入が止まらない。一方で、恋愛ゲームは依然としてニッチの商品であり、パイの大きさは決して拡大していない。一体どういうことが起こっているのか。どうすれば皆がより幸せになれるか。この辺りで恋愛ゲーム産業というものを基礎から考えてみよう。

 Structure-Conduct-Performance Model(SCPモデル)という考え方がある。これは、産業構造(Structure)が企業の行動(Conduct)を制約するため、その産業、ひいてはそこに属する各企業の収益性(Performance)に影響するという考え方であり、すなわち、まず最も重視すべき経営戦略として魅力的な産業を見つけることが大事であるということである。同様な言葉としてIndustry Structure Analysisがある。

 恋愛ゲーム産業は果たして魅力的な産業なのだろうか。もしそうだとすれば、一体それはどんな点においてだろうか。

2.5つの脅威

 恋愛ゲーム産業の魅力度を分析するために、ハーバード大学のマイケル・E・ポーター教授が提唱する業界構造分析のフレームワークであるファイブフォースモデルを適用しよう。ファイブフォースモデルでは、5つの脅威として「新規参入業者の脅威」「既存企業間の敵対関係の強さ」「購買者の交渉力」「供給者の交渉力」「代替品」を挙げ、これらの脅威が小さい程その業界が魅力的であるとする(なお、この考え方は競争こそ全てとする自由競争的な考え方とは相反していることに注意しておきたい)。

 早速「5つの脅威」を順に見ていこう。

i)新規参入業者の脅威

 新規参入が止まらないと書いているそばからこれである。もっともコンシューマとPCでは事情は異なる。コンシューマではハードウェアメーカに大きな力があり、初期投資がかかり、しかも恋愛ゲームが含まれるいわゆる「ギャルゲー」に対してあまりいい顔をされないため新規メーカが続々参入、といったことにはなっていない。一方で、PCゲームでは深く考えずともとりあえずWindowsに乗っておけばいいため、そういったハードウェアの制約はほとんどなく、開発も普通のPCがあれば事足りる。人的リソースは極論、絵師さえいれば何とかなる。初期投資が限定的な範囲で収まることから市場が飽和していると言われる今なお新規参入が続いている状態である。

 良くも悪くも「いい作品を出せば評価される」という土壌があり、ブランドに対する顧客のロイヤリティは一見強固なようでいて脆い。1,2の優れた作品を出せばあっという間にトップブランドにのし上がれるが落ちるのも早い。トップブランドを維持し続けるのは容易ではない。

ii)既存企業間の敵対関係の強さ

 これはどうだろう。分析をしようという人間がそういうことでいいのかという話もあるが、部外者である筆者には業界の内情はよく分からない。系列や派閥のようなものはあるだろうが、MicrosoftとSunといったような傍目に分かりやすい敵対関係は少なく、複数のメーカ/ブランドがイベントを共催するといった形で、ライバル同士であっても比較的穏やかに見える。もちろん開発スケジュールとは無関係に販売戦略上発売日をずらすということはあるようだ。

iii)購買者の交渉力 

 ない、と言うしかないだろう。そこに価値の本質がないとは言え、インストールすらできない商品、ユーザをテストプレーヤとしか思っていないバギーな商品がまかり通るソフトウェア分野は他にはない。劣悪な商品に対してユーザはいつでも「買わない」という権利を発動できるはずである。それで売れていくから一向に改善しないのも仕方がない。

iv)供給者の交渉力

 これまたない。恋愛ゲームはソフトウェアなので、一部のパッケージを除いては、他のソフトウェア産業と同様に人件費が一番のコストとなってくる。すなわちここで供給者とは恋愛ゲームの開発者、ということになるが、端的に「人並みの給料貰えてますか」「労働基準法守られてますか」ということである。ごく一部の名の通った有名クリエイタであれば発言力も違うだろうが、大半の労働力は安く買い叩かれていると思われる(そうでなければ採算が合わない構造になっているのかもしれないが)。

 さて、ここまで見る限りでは新規参入障壁が低いとはいえ一見魅力が高いように思われるのだが、問題になってくるのが次である。

v)代替品

 ニーズを満たす他の代替品が与える影響である。最近では携帯電話が書籍やCDの売り上げ低下の原因になっている(とされる)ように、「時間」「コスト」を媒介とすることで必ずしも直接競合する代替品のみが脅威となる訳ではない。恋愛ゲームの代替品としては以下の様々なものが考えられる。

a)アニメ・漫画
 恋愛ゲームはより正確には恋愛ビデオアニメゲーム(残念ながら実写での市場は生まれていない)なので、2次元絵(エロ)コンテンツとしての役割が大きい。恋愛ゲームではプレーヤが選択肢を選ぶことによって物語に対して働きかけることができるようになっているのが特徴だが、最近では選択肢が好まれないことから極限まで削り落とされているものが少なくなく、もはや「ビデオゲーム」ではなくなっている。そうなると競合するのがアニメ・漫画である。さて、今の恋愛ゲームはそれでしかできないものを提供できているだろうか。

b)ビデオゲーム
 恋愛ゲームは「ゲーム性」からの訴求力が弱いため、根っからのビデオゲームユーザには向かない。とはいえ筆者のようにプライオリティはRPG/SRPGにあっても恋愛ゲームに関心を持っているユーザは存在するだろう。

c)小説・映画
 「ゲーム性」を捨てたことで、物語媒体として機能することが一層求められるようになってきているが、それゆえにニーズがバッティングしてくるのが小説や映画といったコンテンツである。現状では物語の魅力で小説に勝てていないし映像的に映画に勝てていないと言わざるを得ない。ビデオゲームという別の表現形態なのだから文章や映像が多少落ちてもいいというのは通用しない。

d)アダルトビデオ・その他アダルトコンテンツ
 恋愛ゲームの中心であるPCゲームは、その性質上大きな声では言われないものの間違いなく「アダルトメディア」であり、a)と同様に大きな役割を占めている。何割かの2次元コンプレックスなユーザ(後日調査したい)においては実写系コンテンツは全く脅威にならないものの、実写もOKなユーザにおいては他のアダルトメディアは脅威になる。現状のほとんどの恋愛ゲームでは動きや臨場感と言った点で合格点におぼつかない。

e)Web
 恋愛ゲーム購買層の(汎用的なコミュニケーション力が弱いという)性質上、書籍やCDで言われるように携帯電話のコストが脅威となる範囲は限定的と考えられるが、一方でネットのコモディティ化により、Web上のアニメ/テキスト/音楽コンテンツやコミュニティサイト(掲示板/チャット/IM/P2P)の利用は時間の点から大いに競合してくる。自分でWebサイトを持つということになれば尚更だ。ネットの巡回やWebの更新に時間が取られてゲームをする時間がない、というのは昔からある話である。

f)恋愛
 他のRPGのようなビデオゲームと違って恋愛ゲームは恋愛と競合する。これは恋愛ゲームの非常に「面白い」点である。よほどゲームに熱中してパートナを放置していれば話は別だが、パートナに「Final Fantasy」をプレイしているところに踏み込まれても説明がつくのに対して、恋愛ゲームヒロインがプリントされた抱き枕を抱いて寝ているところに踏み込まれたらどういう事態になるかは想像に難くない。一方、それまで恋愛系ゲームに相当ディープにハマっていたはずの人がリアルでパートナを見つけた瞬間にあっという間に熱が冷めて離れてしまう例も少なくない(更に興味深いことに、結婚の場合は必ずしも熱が冷めないようだ)。これは恋愛が恋愛ゲームの強力な代替品として機能することの証左である。

3.別の「魅力」

 モノ余りならぬ、コンテンツ余りの超情報化社会において更に恋愛とも競合しなければならない恋愛ゲームは、ひいき目に見ても、経営戦略という点から魅力的であるとはとても言い難い。加えて、ほとんどの人が認めるように恋愛ゲームは社会性という点でも弱い。どれだけの開発者が世間に対して自らの職業を堂々と説明できるか、プレーヤが自分の趣味を説明できるか、ということを考えればそれは明らかである。SCPモデルでいう「魅力」はビジネスとして最も重要なカネから見た観点で、経営者にしろ、被雇用者にしろ、仕事をするモティベーションとしてカネ以外にはその次に重要な社会への貢献による充足感ということがあるが、それを期待するのは、残念ながら恋愛ゲーム産業では無理である。

 このことから、恋愛ゲーム産業は、経営者・被雇用者を問わず他のビジネスとは異なるモティベーション、異なる魅力によって突き動かされている(まさに「突き動かされている」というのが適切だ)ことが想像される。現時点で筆者はそれを「2次元美少女(あるいは美少年)」「恋愛」「エロ」「モノ作り(創作)」の4つであると考えている。長くなったので今回はここまでとするが、興味深いポイントであり、別の機会により深く考えたい。


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