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未来型恋愛ビデオゲーム開発
恋愛ゲームNextage 第14回

0.概要

 2006年までに、80%の恋愛ビデオゲームソフトウェアは、2003年と比較してより多くのアウトソーサおよびフリーランサを活用して開発されるようになる(可能性指数=0.8)。同様に、2010年までに、特定の会社に正社員として所属しない恋愛ビデオゲーム開発者の割合が増大する(可能性指数=0.7)。2015年までに、これらの独立系開発者を支援するための、何らかのクリエイタバンク、あるいはクリエイタネットワークが誕生する可能性がある(可能性指数=0.5)。

2003/03/14初版

1.未来型恋愛ビデオゲーム開発

 以前に、これからの恋愛ビデオゲーム(以降単に恋愛ゲーム)はプロジェクトベースで開発されることになる、と書いたことがある。これはどういうことか。クリエイタが特定の会社に所属することなく、1つの作品ごとに、(やや大げさだが)世界中から最適なメンバが集まったプロジェクトが結成され、それによって作品が創造される、ということである。

 その経営学でビジネス界に強い影響力を持ってきたピーター・F・ドラッカーが提言した「ネクスト・カンパニー」のあり方は、このプロジェクトベース開発にマッチしたものである。ここでは、恋愛ゲーム開発体制の変遷を見ながら、未来の恋愛ゲームの創られ方を予見する。

2.開発体制の変遷

i)従来型開発

 ごく初期のビデオゲームソフトウェアは、プログラマを中心に1人または少数人数で企画、シナリオ、グラフィックなどという形で何でもこなす形で開発されたが、要求されるクオリティとボリュームが高く大きくなるにつれすぐに分業体制がとられるようになった(図1)。もちろん、小規模な会社では依然として1人何役もの役割を果たさざるを得ないだろう。図1でテスタが点線になっているのはそういう意味もあり、ある程度の規模のビジネス系システム/ソフトウェアでは専門のテスタがいないというのは考えられない(コンシューマゲームであればデバッグやチューニングを専門とする会社が存在するようだ)が、今でもPC系ビデオゲームでは他の職種の手の空いたスタッフが総出でテストを行っている状態だと思われる(そして品質は推して知るべしなのだが)。

従来型開発
図1 従来型開発

ii)現代型開発

 しかし、現在では図1の形が取れているのはAlicesoftなどごく一部の企業に限られると思われる。もはや「正社員を抱えるのはリスク」だからである。大企業のようにフロア代や保険料などで給料の3倍以上コストがかかる、ということはないにしても、何も生産しなくても座っているだけでコストが発生してしまう正社員よりも、オンデマンドベースで即戦力を利用できるアウトソーサの方がコスト的に有利なのは明白だ。また、必要なクオリティが更に高まるにつれて、自社だけで必要なリソースを賄えない、ということもある。一時期にしか必要にならないアニメータや声優をずっと抱えているのは非効率的過ぎる。こうしてこれらのリソースは専門のアウトソーサを利用する形が取られるようになった。また、シナリオや原画のようにビデオゲームの顔となる職種では、フリーランスとして活躍しているクリエイタが多く存在し、彼らもまた作品ごとに関わってくるようになった(図2)。Webによって有力クリエイタの発掘が容易になった、ということも強く影響していると考えられる。

現代型開発
図2 現代型開発

 プログラマは要らないで記したように再利用性が高いはずのシナリオエンジンにも一部ではアウトソース化が見られ、更には人物のみで背景が描けない絵師が増えたためか(それ自体はいいこととは思えないが)背景CGを強みとするアウトソーサも出てきている。「餅は餅屋」というように専門に特化した方が有利ということである。こうなると、もはや何がアウトソース化できないか、ということになってくる。

iii)未来型開発

 ドラッカーは「ネクスト・カンパニー」の姿としてそれを非生産部門を含む「経営以外の全て」とした。これを当てはめてみると図3となる。経営者は、自らの経営戦略に基づき、プロジェクトマネージャとプランナを選択して作品のコンセプトを共有する。プロジェクトマネージャはリソースコーディネータを活用して最適なメンバを揃え、スケジュールを立てプロジェクトチームをマネジメントして開発する。出来上がった商品を広報と営業は委託された専門の部隊が行う。

未来型開発
図3 未来型開発

 まさしくこれは「プロジェクトベース」の開発である。無論、必ずしも全てがその通りになるとは考えない。しかし、今以上に多くの恋愛ゲームが、アウトソーサとフリーランサを活用して開発されることになるという方向性は、かなりの確率で確からしいと考える。

 これによって何が変わるか。クリエイタにおいては、正社員として雇用されないということは裏返せば特定の企業に縛られない自由の身である、ということである。スキル/能力がより一層高い世界(大げさ)レベルで競争されるという厳しさがあるが、逆にスキル/能力があれば参加するプロジェクトを多くの中から自分で選択することができるようになる。

 ユーザ視点からは、図3を見れば分かるように、ブランドがそれだけでは実際に作品を創造するクリエイタと何も結びついていないことに注意したい。よって(今でもそうなりつつあるが)これまで以上にメーカ名やブランド名が作品の出来を何一つ保証しないということになる。ユーザはクリエイタをバイネーム(by name)で選択し、商品を購入することになる。スタッフ名が公開されていない恋愛ゲームはもう誰にも信用されない。

 未来型開発形態においてはもはや「ブランドの解散」はありえない。そもそもが作品ごとにしか集まらないのである。

3.新しい役割とクリエイタバンクの可能性

 未来型恋愛ゲーム開発は、その形態上新しい役割を要求する。1つはこれまでのプロデューサ/ディレクタが再定義されたプロジェクトマネージャである(別に職種名は変わる必要はない)。プロジェクトベースの開発ではそれぞれがそれぞれの職種のプロフェッショナルのフラットな集まりであり、上下関係はない。プロジェクトマネージャはビデオゲームプロジェクトマネジメントのプロフェッショナル、ということだけである。よってこれまでのように単なる指示・命令では通用しない。互いのプロフェッショナリズムを尊重し、作品の完成という共通のゴールに向けてメンバをモティベートし、あくまでパートナとして接していかなければならない。スケジュール/コスト/リスク管理能力はもちろんのこと、相当なコミュニケーション力と忍耐力が必要となるだろう。

 もう1つはリソースコーディネータである。未来型恋愛ゲーム企業は開発のための自前のリソースを持たない以上、作品ごとに各職種に対して最適なリソースを集める必要がある。そこでは広い人脈ネットワークを持ち、人を見抜く選択眼が要求されてくる。

 気をつけるべき点としては、作品のコア部分も含めた形でアウトソース率が極めて高くなってくると、そのマネジメントが大きなリスクになってくることである。納期にしてもそうであるし、コンテンツ業である以上、コンテンツの盗用や著作権には細心の注意を払わなければならないが、それを単に相手方のモラルに期待しているようではもはや立ち行かない。絶対の解決法は存在しないが、適切な契約を取り交わし、成果物に対するチェック体制をしっかりしておくことが最低限必要だろう。

 一方で、リスクヘッジを目的とする企業側のニーズだけでなく、フリーランスとなったクリエイタにとっても、(メーカに対しての)営業は苦手であるとか、契約内容やカネの難しいところで悩みたくない、創作に注力したい、といったニーズは存在すると思われる。将来こういったニーズを満たし企業とクリエイタのマッチングを支援するためのPC系ビデオゲーム専門の人材派遣的な組織(クリエイタバンク)や、あるいはもっとゆるやかなクリエイタネットワークが誕生する可能性があるのではないかと私は考えている。

参考文献

「ネクスト・ソサエティ」(P.F.ドラッカー/上田惇生訳/ダイヤモンド社/2002)


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