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続CS-(2)顧客とは誰か
恋愛ゲームNextage 第16回

0.概要

 恋愛ビデオゲームメーカは顧客を見つめ直し、市場の縮小化に備えて次なる戦略を用意しておくべき時期に来ている。

2003/04/13初版

1.顧客とは誰か

 CS=顧客満足とは、「顧客」「満足」という2語が繋がって出来ている言葉である。これまで「満足」については考えてきたが、「顧客」の方については余り考えてきていない。当然のことではあるが、「顧客」が「満足」しなければ意味がない。ユーザがメーカを選ぶのと同時に、メーカは今、より自社にとって高い価値を持つ「顧客」を選別し、彼らに対してより注力していく必要がある。ここでは「顧客とは誰か」を考えよう。

 恋愛ビデオゲーム(以下単に恋愛ゲーム)の顧客とは誰か。恋愛ゲームを買ってくれる愛好者である。当たり前じゃないか、と思われるだろうが、少々の注意が必要だ。すなわち、恋愛ゲームを「買ってくれる」人であって恋愛ゲームを「遊んでくれる」人ではない、ということである。きちんとカネを落としてくれる人以外は「顧客ではない」(何を言っているかはご想像の通り)のである(注1)。1本を大事に遊んでくれるユーザよりも、年100本買って積んでくれるユーザの方が業界にとっては大事なお得意様である。いや、どこかおかしい気もするが。平均的な恋愛ゲームユーザ像は、18歳から30代前半ぐらいの男性、恋愛経験に乏しい、と考えられるが、その意味では「時間はあるけれどカネがない」学生と「カネはあるけれど時間がない」社会人では社会人により強くコミットすべきである、と言えるだろう。

 こういった文脈でしばしば出てくる「サイレントマジョリティ」にも注意を払う必要がある。文句は多いが1年に数本しか買わない筆者のような人間は極論無視してよい。それよりも、黙って100本買ってくれる人の方が遥かに偉いのである。オンラインやオフラインのユーザアンケートもそういうフィルタをかけた上で見なければならない。顧客の声を聞いたつもりが、ブランドにとって価値の高い顧客になっていなかったということは避けたい。とは言え、嗜好性が非常に高く、マジョリティも何も全てがマイノリティな恋愛ゲームの場合は、全般的に熱心なユーザはネット感度も高く、メーカへの要望もきちんと出てくる率が高いことが予想されるので、さほど心配する必要はないかもしれない。

(注1)とはいえ、消費者は「売らんかな」姿勢が前面に出ているメーカには敏感に反応し、拒否感を抱く(どことは言わないが)。「損して得とれ」と言うように、消費者にまず良い印象を持って貰うこと、言い古されたWin-Winな関係が築けることが大切だ。ねこねこソフトは(恐らくそれを意識しているというよりは単に商売っ気が薄いのかもしれないが)結果的にユーザが支援したくなるという点で上手くいっている例だろう。

2.恋愛ゲーム産業の外部リスク

 一方で、そろそろ恋愛ゲームも、事業ドメイン、言い換えれば対象とする顧客層を再考する時期に差し掛かっているという気がしている。「題材・ストーリ・キャラクタの陳腐化」という内部リスクももちろんあるが、それとは別に以下の2つの外部リスクの脅威が次第に大きくなってきているからだ。

i)少子化

 これからのあらゆる産業は少子高齢化を前提として考えなければならない。特に前記のように現在の恋愛ゲームは18歳から30代前半あたり、第2次ベビーブームとその後何年かの年齢層によって支えられているのだということを意識しておく必要がある。仮に対象年齢層が同じであるとし、恋愛障害、は言い過ぎとしても親恋愛ゲーム者率が同程度とすると、何もしないでも恋愛ゲーム市場はどんどん萎んでいってしまうのである(2000年国勢調査参照)。ただでさえ参入メーカが多くパイの奪い合いになっているところへ、そのパイ自体が凄い勢いで小さくなっていってしまうのだから大変だ。

 いち早く停滞感が到来した一般のコンシューマゲームでは、すでに対策を打ってきている。RPGが分かりやすいが、スクウェア(現スクウェアエニックス)の最近の「Final Fantasy」シリーズではキャラクタの造形が欧米向きを強く意識したものになってきており、もはや日本だけでは商売にならない、海外で売ってナンボ、と考えていることが伺える。彼らの目はより大きな海外市場に向かっている。一方でナムコの場合は「Xenosaga」や「テイルズ」シリーズに見られるように、手堅いアニメファンへのコミットメントを強化することで、確実に本数を稼いでいこうという戦略である。

 恋愛ゲームではこのいずれの戦略も(容易には)取れない。そもそもがアニメファンに特化されているし、社会の大多数、特に海外の人からは幼児ポルノにしか見えない恋愛ゲームを海外でどうやって売っていけるのかという難題が待ち構えているからだ。

ii)児ポ法

 幼児ポルノ、という言葉が出たが、将来の改正を見越すと児ポ法は既存の恋愛ゲーム市場を根幹から破壊する可能性がある。特に性描写に拠って立つPC成人向けでは致命的だ。表立って声を上げているメーカはないようなのでリスクとは考えていない、あるいは規制されればそれに従います、ということなのかもしれないが、であればあらゆる児童ポルノに見える描写がない形で戦えるように備えておくべきだろう。

 i),ii)のいずれの場合も、恋愛ゲームメーカはどうも場当たり的で将来に対する準備が十分ではないように見える。5年後、10年後にどうやって食っていくか、という中長期的な戦略をきちんと立てているのか懸念される。

3.事業ドメインを再考する

 前記のリスクに対応するには、恋愛ゲームの事業ドメインを再定義する必要がある。「顧客とは誰か」を考えることは、裏返せば、「今は誰が顧客ではないか」、そして「今後誰を顧客としていくのか」を考えることでもある。さてどう広げられるだろうか。

i)恋愛健常者

 もちろん健常者でも恋愛ゲームは遊べるし実際遊んでいるが、現在の恋愛ゲームが恋愛と競合する以上それは限定的である。この層にアクセスするためには、恐らく美少女アニメ絵を何とかしないといけない。現在のアニメ絵は人によってかなり生理的嫌悪感を催す。よって今でいう「一般受け」とは次元の違うレベルでの「一般」に受ける絵にしていく必要がある。恋愛も前面からは一歩引いた形になるだろう。お洒落なイメージの獲得、映画やTVドラマに近いエンターテイメントへの転化。もっともその時恋愛ゲームはすでに別物になっているだろうが。

ii)18歳未満

 現在のPC18禁ゲームでは18歳未満は文字通り買えないことになっている。しかし少子化、と言ってもビデオゲームへの親和性が高いこの層にアクセスできないのは勿体無い。18歳未満を顧客とするということは、「エロ」抜きで戦う、ということだ。2003年現時点での恋愛ゲームは「萌え」「エロ」が主要素だが、そのうちの片方が使えない訳で、シナリオや音楽といった要素の重要性が必然的に高くならざるを得ない。

iii)40代、50代

 恋愛ゲームの歴史はそれ程長くないので、18〜20代からプレイしてこの世代に到達しているユーザはまだいない。ある年齢までには多くのユーザが「卒業」するものと考えられているが、実際のところどうなるかは見えない。まさに未知の領域であるが、継続して第2次ベビーブーム層を捕まえておけるのであれば少子化はさほど恐れる必要もなくなる。

iv)高齢者

 可処分所得にゆとりのあるとされる高齢者は、多くの産業が注目している一方で、今のところ恋愛ゲームとは別世界の住人であるが、iii)と同様に将来どうなるかは分からない。性欲は年と共に衰えるが恋愛は一生ものなので、高齢者にも受ける恋愛ゲームが出てくる可能性はある。

v)異性

 今のところ恋愛ゲームは男性向け、女性向け、がはっきり分かれている。これは「都合のいい」キャラクタが同性からは見ていられないというのが原因と思われる。一方で映画やTVドラマではそうなっていないことから両方に受けるものが出来ない訳はない。ただやはりその時恋愛ゲームは別物になっているだろう。

vi)海外

 いずれ国内市場に限界がくれば海外に目を転じざるを得なくなる(すでに一部のゲームは海外でも売られているようだが)。この時児童ポルノにしか見えない既存の恋愛ゲームでは問題外であり、やはり「エロ」抜きの勝負となる。中国や韓国などアジア圏は比較的親和性が高いと思われるが、一方で違法コピー率の高さは問題なので、パッケージ売りではない、オンラインゲーム化が考えられる。実際中国の12億人市場は非常に魅力的だ。

 恋愛ゲームの顧客ベースはもともと非常に狭く国内ですらほとんどの人が「顧客ではない」。よって、広げようとすればいくらでも広げられるはずだが、それによって恋愛ゲーム自体の価値が変質してしまう可能性がある。いたずらにドメインを広げようとして焦点がぼやけてしまうと誰も満足させられない結果になってしまう。言うまでもなく、すでに獲得している顧客を大事にすることは大切である。1作1作ごとにはきちんとターゲットを絞りつつも、市場の縮小化や今のやり方が通じなくなってしまった状況に備えて、メーカは次なる顧客を見据えていくことが必要な時期に来ていると言えよう。

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