Research
恋愛ゲームのハイプ曲線(2004)
恋愛ゲームNextage 第18回
2004/06/21初版
1.恋愛ゲームのハイプ曲線(2004)
テクノロジに限らず、多くのものには流行が存在し、緩やかに伸びてきた(黎明期)のが一時期に急速に盛り上がった(流行期)後、その反動で急速に冷め(反動期)、その後a)一定の範囲で盛り返し(啓蒙期)定着するもの(安定期)と、b)冷めたまま完全に廃れていくもの(衰退期)の2つに分かれる。これを、IT系調査会社であるガートナーは「ハイプ曲線」と呼ぶ。決して長くない(12,3年程度)の歴史しか持たないながら、急速に多くのものを消費してきた恋愛系ゲームにおいても、また同様な傾向が見受けられる。ここでは、こういった恋愛系ゲームにおける、ゲームシステムや技術、コンセプト、および属性ついて、2004年におけるハイプ曲線を描いてみよう。なお、抜け、漏れ、認識の誤り等があれば遠慮なくご指摘頂きたい。
i)ゲームシステム/技術/開発環境
恋愛ゲーム(ゲームシステム/技術/開発環境)のハイプ曲線を図1に示す。
図1 恋愛ゲーム(ゲームシステム/技術/開発環境)のハイプ曲線
恋愛系ゲームにおいて、ごく初期に登場した形態(ゲームシステム)が、「ときめきメモリアル」を代表とするパラメータ育成シミュレーション系と、「同級生」を代表とするフィールド移動アドベンチャー系であるが、これらは多数の類似作品が登場した後、その姿をほぼ完全に消した。それはユーザがこれらの形態を望まなかったためであるが、その理由はシンプルに「面倒」ということであった。恋愛系ゲームにおいて、ユーザが求めているものはキャラクタと物語の消費であり、これらの恋愛系ゲームからのリターンに対して、パラメータ育成シミュレーションやフィールド移動アドベンチャーは入力負荷が高過ぎたのである(ビデオゲームにおける「楽しさ」は入力負荷とそれにより享受できるレスポンスの「快」のROI(投資対効果)によって決まることが指摘されている)。
一方、コンシューマゲームの「弟切草」「かまいたちの夜」を参考にした「雫」「痕」に始まる、画面全体に文章を表示するノベル形式は、それが必ずしも最適な形式でない(=シナリオ/テキストが大したことない)作品が一時期増加したため、ネガティブな捉え方をされる場合もあったが、それも落ち着き、現在では広く受け入れられるようになっている。言うまでもなく、恋愛系ゲーム登場以前の古くから存在する選択式アドベンチャーはすでに初めから安定していた。
これら以外では、たまに「NOeL」のようなインタラクティヴコミュニケーション系とでも言うべき意欲的な作品が存在したものの、トレンドとなるようなものは存在せず、近年では新しいゲームシステムの開拓はほとんど見られなっており、「キャラクタと物語の消費」フレームワークとして原初の選択式アドベンチャーを超えるものが出てきていないというのが現状である(その実態はことごとく「面倒」の壁の前に敗退している訳だが)。
この選択式アドベンチャーの進化系としては、LittlewitchのFFD(Floating Frame Director)と呼ばれるマンガのコマ割りのようなレイヤを動かして見せる演出システムが非常に特徴的ではあるものの、開発工数に対してユーザが得られる「快」のROIという観点で、効率が極端に悪い(と想像される)ため、生産性が劇的に改善されるような開発環境ができない限り、本格的普及は望めないと思われる。
もっとも、バックエンドのシナリオスクリプト記述環境としては、FFDに限らず、要求される演出水準の向上に伴い、工数が増加の一途を辿るのは目に見えており、開発環境の改善は今後の課題となるだろう。以前プログラマはいらないといった煽り記事を書いたことがあるが、この開発環境の改善という点では、まだまだ腕の振るいどころが山ほどあるのではないだろうか。
要素技術としては、トゥーンレンダリングを含む3Dや動画が、現在は幻滅期にあると言えるだろう。これもやはり開発工数に対してユーザが得られる「快」が見合っていないためだが、2,3年といったスパンで次第に受け入れられていく可能性がある。そのためには、生産性を向上するための、コンテンツ素材の再利用(いわゆるワンソースマルチユース)といった工夫が課題である。
まだ恋愛系ゲームにおいては、十分に活用されていないのが、ネット上のコンテンツ作成プラットホームとしてFlashが多いに活躍している、ベクタ系のアニメーション技術である。日本の恋愛系ゲームにおいては、2Dが当面主流であることは変わらないと考えられるので、2Dアニメーション技術として期待される。
(以下、続く)