ずっと、あなたのことを・・・



とある古本屋で 「センチメンタルグラフティ〜再会」(角川書店/\ 620)を見かけ、「ふーん、巷では“ク○○ー”の噂が絶えないセンチなのに、ノベライズが売っているのか(ある意味当然かも?)。よーし、自分がどのくらい書けるか挑戦だ!」と変に(?)触発されてしまったのがきっかけです。影響されないために中身は殆ど読んでいないので、今度じっくりと立ち読みして比較しようかな?、なんて思っています。まぁ、売り物(しかもシナリオライター)にはかなうはずもないですが(笑)。
12人いるヒロインのうち、今回採り上げたのは・・・背景を見ればお分かりですよね? 安達妙子です。なぜこのキャラにしたのかというと、「一番最初にクリアしたキャラだから」・・・というのは冗談で、「『幼なじみ』という設定は比較的書きやすいかな?」と思ったからです。

[第1章][第2章][第3章][第4章][第5章]


第1章 突然の別れ

「あーあ、今日も帰ってきてくれなかったな・・・。」

みそ汁を味見していつも通りに仕上がったことを確認した後、妙子は思わずつぶやいた。鍋のふたがコトコトと音を立て、辺りにはいい香りがただよっている。今日は十八番のみそ汁以外にも、おしたしや肉じゃがといった得意料理を作っていたので、殊更帰ってきて欲しかったのである。

あれからもう7年半が過ぎようとしている・・・小学生4年生だった妙子も、来月には高校3年生。「月日が過ぎるのは早い」という言葉を今更ながら実感する今日この頃である。あの頃と比べると少しは女の子っぽくなったかな?、と自分でも思える。もっとも、鼻の辺りにあるそばかすだけは全然変わらないが。

(やっぱり、私のことなんか忘れちゃったのかなぁ・・・。あの手紙だけじゃわからないかもね・・・。)

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“彼”との別れは、あまりに突然だった。父親から“彼”が今日引っ越していったという話を聞いた妙子は、一瞬我を失った。

「そんな・・・だって、夜行で仙台へ引っ越しするって言ってたじゃない!?」
「予定が変わったらしくてね、先程ご挨拶して行ってしまったんだよ・・・。」

“彼”の家族が間借りしていた2階の部屋に駆け上がる。もう荷物は何もなく、広い空き部屋となっていた。だが、唯一残っていた机にふと目をやると、そこには置き手紙があった。“彼”の字だ。

(妙子、さよなら言えなくてごめんね。元気で。)

父親が止めるのも聞かず、急いで駅に向かった。プラットホームに駆け込んだ時、電車はまさにドアを閉じて出発しようとしていた。駅から離れていく電車を追いかけながら、妙子は必死で“彼”の姿を探した。

(‘あの時’のことを謝りたい・・・。そして・・・。)

だが、“彼”を見付けた次の瞬間、電車は速度を上げ、駅を離れていった。もう追いかけることはできない。息を切らせてプラットホームの一番端で立ちつくし、電車をじっと見つめる妙子。その視界から去りゆく電車がぼやけていく。電車が遠く離れていくからではない。涙がとめどもなく流れるからであった・・・。

(謝れなかった・・・。私のほんとの気持ちも言えなかった・・・。)

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「ねぇー、ばんごはんまだー?」

弟の純の声にハッとする。いけない、つい物思いにふけって・・・おしたしや肉じゃがをお皿に盛りつけて、急いで食卓へ持っていく。酒屋を営んでいる両親が配達に行っているので、今日の夕飯は純と二人きりなのだ。妙子が料理の腕を上げてきたので、母も安心して食卓を任せるようになり、こうなることが多くなった。

育ち盛りなのだろうか、最近純は早い時間からお腹を空かせることが多くなった。食べる量も以前に比べて増えたので、妙子もその辺のことを考えて作らなくてはいけない。もっとも、“彼”が来た時のことを考えると、少しくらい多めに作った方が却って好都合とも言えるのだが。

(でも・・・。)

肉じゃがをほおばりながら食べる純を見ながら、妙子は心の中でつぶやくのだった。

(プラットホームでのことを思い出す度に、胸が締め付けられるような気持ちになる・・・。)

あの気持ちは、今も決して色褪せることはない。むしろ、時が経過すればする程ますます強まるのだった。

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第2章 お化粧と隠し事

「ねぇ妙子、たまにはお化粧してみたら?」

1限終了後の休み時間に友人の奈津江が突然聞いてきた。慌てて首を横に振る。

「私、お化粧なんて似合わないもの。」
「妙子、あなた17よ? そういうことに少しは気をつかわないとだめよ。」
「だって、全然可愛くないし・・・そばかすもあるし・・・。」
「そんなことないわよ。私から見ても妙子は可愛いわ。それに、そばかすも魅力の一つよ。」
「そばかすが魅力的なんて、聞いたことないけれど。」
「『赤毛のアン』や『キャンディ・キャンディ』だってそうだったじゃない。」
「そう言われればそうだけど・・・。でも、どうして今になってそんなこと聞くの?」
「だって、『今、私は恋をしています』って顔に書いてあるんだもの。」
「え!? そ、そんなことないって!!」
「ごまかしてもだめ。妙子はすぐ顔に出るんだから。」
「もう、奈津江ったら・・・。」

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自分でも赤面しているのが分かる。顔がほてって仕方がない。その時、2限開始のチャイムが鳴り、奈津江は笑いながら自分の席に戻っていった。奈津江が気付いたってことは、やっぱり顔に出ているんだ・・・。隠し事ができない性格をちょっと恨めしく思った。

(でも、お化粧だったらしたことあるんだから・・・この前が初めてだけど。)

そう、妙子は一度だけ化粧をしたことがあるのだった。それは・・・。

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第3章 手紙

「そう、野菜はまず油通しをしなくちゃいけないの。でも、家庭だと無理だから、お湯に油を入れて、その中に野菜を入れるのよ。」
「そうか、あの時はいきなり中華鍋で炒めたから失敗したんだ。」

土曜日は、母に料理を習う日だ。今日の課題は野菜の炒め物。以前、見よう見まねで作ったものの、野菜がべちゃべちゃになってしまい、(基本的に何でも食べる)純でも食べてくれなかったのだ。

「こんなまずいの食べられない! また作っても食べないからね!」

と言われてしまいかなりショックだったので、今日はそのリターンマッチである。

(見てなさいよ、純・・・。)

Line

躍起になって野菜を切る妙子を見ていた母が、思い出したかのように聞いてきた。

「ところで妙子、なんでこの前『私が行く!』なんて言ったの? いつも『東京みたいな場所は私には合わない』と言ってたのに。」
「そ、それは・・・。」
「ははぁ、さてはあの子に会いに行ったのね?」
「う・・・うん。」

先週の日曜日は、東京で親戚の結婚式があった。本来ならば両親が出席するべきなのだが、仕事の都合上どうしても行けなかった。そこで、妙子が代わりに出席することになったのだ。ただ、いくら結婚式への出席とはいえ、都会嫌いの妙子が一人で「東京へ行きたい」とは言うはずもない。母はそのことを不思議に思っていたのである。

(あれが初めてだった・・・。)

結婚式に出席するための荷造りで、妙子は生まれて初めて化粧箱を手にした。でも、本当は結婚式でも化粧はしないつもりだった(結局、親戚に半ば強制されてすることになったが)。では、どうして化粧箱を・・・そう、“彼”に戒、期待と不安で胸をおどらせながら、妙子は“彼”の家に向かった・・・。

Line

「やっぱりねぇ。変だと思っていたのよ。で、どうだったの? 会って話しをしてきたの?」
「ううん・・・留守だったの。」

だが、それは嘘だった。“彼”の家に誰かいるのは分かったが、どうしてもチャイムを押すことができなかったのだ。押そうとしても、指が動かない・・・。でも、このままでは帰れない。せめて、私がここに来たことを伝えたい・・・。妙子は手紙を書いた。

<覚えていますか?/初めて会ったあの日のこと/そして、あの思い出を/あなたに・・・ あ・い・た・い>

初めて会ったのはいつの頃だろう? 電車から私を見付けてくれたのかな?・・・様々な思いが入り交じる中、手紙を書いた妙子だが、どうしても名前を書くことができなかった。

(もしかしたら、私のことなんかもう忘れてしまったかもしれない・・・もう7年半もたつのだから・・・。)

この7年半、片時も“彼”を忘れたことはなかったけれど、“彼”はもう私のことなど・・・そんなこと、とても耐えられない・・・結局、手紙だけポストに入れて帰ってしまったのだった。だが、帰りの新幹線の中で、妙子は名前を書かなかったことをひどく後悔した。

(あれじゃ、まるで“彼”を試してるみたいじゃない! 私ったら、なんてことを・・・。)

もっとも、今更どうしようもないことである。それでも、妙子は後悔せずにはいられなかった。

(‘あの時’も・・・‘あの時’もこんな気持ちになったっけ・・・。)

Line

「・・・妙子? どうしたの? お湯の中に入れすぎてもだめなのよ。」
「えっ・・・あ、いけなーい!」

母の声で我に返り、慌てて野菜をざるに移す。母はそんな娘の様子を見て、呆れながらも微笑ましく思うのだった。

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第4章 後悔

今日の課題である野菜の炒め物を母と純とともに食べる。考えごとをしていて失敗しそうになったが、歯ごたえはしっかりしているし、隠し味のオイスターソースが味に深みを出している。大失敗した前回とは比べ物ににならない。

「うん、今日のはおいしいや。これならまた作ってほしいな。」
「だーめ、この前あんなにひどいこと言ったから、今度作っても純には食べさせてあげません!」
「えー、そんなー!」

見事リターンマッチに勝利し、意地悪な態度で純をからかう。ところが純は真に受けたらしく、今にも泣きそうな表情を浮かべる。逆に今度は妙子が慌てる番になってしまった。

(純はあの頃と全く変わらないなぁ・・・。)

純を見ていると、3人でおままごとをしていた頃をふっと思い出す。もう戻ることのできない、楽しかった小学生の頃を・・・。

Line

「妙子とあの子はいつも一緒に遊んでいたけれどねぇ・・・いつ頃からだっけ? 別々に登校するようになったのは?」

そんな2人の様子を見ていた母が、思い出したように妙子に聞いてきた。

「え・・・さ、さぁ、いつ頃だったかな?」

妙子は母の言葉に胸を刺された気持ちだった。勿論、母は悪意があって言った訳ではない。それでも、妙子には苦い思い出がよみがえるのだった。

(‘あの時’、なんであんなことを言ったのだろう・・・。)

“彼”の家族は妙子の家の2階に間借りしていた。そのため、登下校もいつも一緒で、家に帰った後は純と3人で公園へでかけて、おままごとをして遊んだ。勿論、“彼”と妙子が夫婦で子供役は純である。

「はーい、あ・な・た」

と砂のご飯を“彼”によそってあげる。“彼”はちょっと恥ずかしそうな表情を浮かべながらも、笑顔で受け取ってくれた。しかし、このためにクラスの同級生から『安達夫婦』と言われるようになってしまった。

そして、‘事件’は起こった。小学4年生の5月、2人が教室に入ると、黒板に“彼”と妙子の相合い傘が大きく書いてあったのだ。前々から『安達夫婦』と言われていることは知っていたが、こうしてみんなの前で2人のことを言われたり書かれりするのは初めてだった。みんなからからかわれて恥ずかしくて、妙子は顔から火が出る思いだった。

「ちょっと男子! こういうことすんのやめてよね!
ぜんぜん好きじゃないんだから! ただの幼なじみなんだからね!」

恥ずかしさを隠すため思わず怒鳴ってしまい、辺りは気まずい雰囲気になった。それでも、内心の恥ずかしさを外に見せまいと必死だった。高校生である今の自分なら笑ってすませられるかもしれない・・・。でも、小学生にはとても無理な話だった。

その時の“彼”の表情を忘れることができない。困ったような、悲しそうな、とても言葉で言い表せない表情だった。それ以来、登下校も別々になり、おままごとをすることもなくなった。

(いつか、‘あの時’のことを謝りたい・・・。)

“彼”に悪いことをしたという気持ちはずっと抱いていた。でも、‘あの時’以来気まずくなった雰囲気のために、どうしても謝ることができなかった。そして、謝ることのできぬまま2ヶ月後の7月に“彼”は突然引っ越していったのである。心の中で、後悔の念は日増しに強くなっていった。そう、今でも・・・。

(私のほんとの気持ちはあの頃からずっと変わっていないのに・・・。)

Line

「留守だったといっても、妙子が来たことが分かるように置き手紙とか残してきたんでしょ? きっと遊びに帰ってくるわよ。」

妙子の沈んだ様子を察した母が、励ますように声をかける。

「だいじょうぶだよ! きっと姉ちゃんのことをおぼえているよ!」

純もいつになく(?)励ましてくれる。純らしからぬことであるが、彼なりに心配してくれていることはとても嬉しく思えた。

「べ、別に落ち込んでなんかいないって。心配してくれなくても大丈夫だから!」

慌てて平静を装うとする一方、内心では2人の励ましの言葉に勇気づけられるたb諱B」

妙子の沈んだ様子を察した母が、励ますように声をかける。

「だいじょうぶだよ! きっと姉ちゃんのことをおぼえているよ!」

純もいつになく(?)励ましてくれる。純らしからぬことであるが、彼なりに心配してくれていることはとても嬉しく思えた。

「べ、別に落ち込んでなんかいないって。心配してくれなくても大丈夫だから!」

慌てて平静を装うとする一方、内心では2人の励ましの言葉に勇気づけられるたのだった。

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第5章 再会

あれから一週間がたち、青垣高校も春休みに入った。もっとも、酒屋の手伝いをしている妙子にとっては、高校へ通っている時間が店の仕事をする時間に代わっただけであるが。

夕方から両親は配達にでけかていった。7時を過ぎ、そろそろ閉店の準備をしようと思った時、店の中に若い男性が入ってきた。

(誰だろう? 初めて来るお客さんみたいだけど・・・。)

一見の客であることに間違いはない。それなのに、妙子には何か見覚えのある客のように思えるのだった。

「いらっしゃい!」

いつものように元気に声をかける。が、次の瞬間ハッとしてその男性の顔を見つめた。

「あっ・・・あ、あなたは、もしかして・・・。」
「た、妙子? 妙子なの?」

7年半の歳月が過ぎても面影は変わっていなかった。間違いなく“彼”だ。

「ほんとに・・・。」
「妙子・・・久しぶりだね・・・。」
「う、うん・・・。」

(帰って来てくれたんだ・・・。)

手紙を出してから約2週間、妙子はまさに一日千秋の思いで待ち続けていた。そして、“彼”は青森に帰ってきてくれたのだ。

「えっ? た、妙子・・・。」

気付いた時には、妙子は“彼”に抱きついていた。‘あの時’のこと、プラットホームでのこと、手紙のこと・・・様々な思いが頭の中をよぎる。だが、妙子の口から最初に出た言葉は・・・。

「おかえりなさい・・・。」

“彼”は妙子が抱きついてきたことに驚きながらも、こう答えてくれた。

「た、ただいま・・・。」

もう言葉にならない。何て言っていいのか分からない・・・。

(ずっと、ずっとあなたが帰ってくるのを待っていたんだから・・・。)

妙子は自分の顔を“彼”に見られていないと分かっていても、涙があふれそうになるのを必死に押さえるのだった。

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ノベライズ(その2)

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