すらっぷすてぃっくす 第参話
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エヴァ小説 すらっぷすてぃっくす
第参話 がんばれ、レイちゃん!
最終更新日:1997年5月30日
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ゴウン・・・ゴウン・・・
第3新東京市の全域に張り巡らされている地下鉄網。
今、わたし達はその1つに乗り帰宅の途についていた。
4人掛けの座席で、わたしの正面には碇君。その隣にはおじさま。そして、わたしの隣には今日知り合ったばかりのアスカが座っている。 本当は碇君の隣に座りたかったんだけど・・・碇君は早々と窓際の席に着いたおじさまの隣に座ってしまった。
さっきからアスカはおじさまに色々と話し掛けている。おじさまは「ああ。」とか、「そうだな。」とか表情も変えずに相槌を打っているだけだけど、アスカはそれでも楽しそうだ。
碇君は、所在なさ気にじっと下を俯いている。
わたしも何を話せばいいのかわからなくて、ずっと黙ったままだった。
やがて、ホームに地下鉄が滑り込む。
そこで電車を降り、エレベーターで地上へと向かう。
エレベーターの扉が開くと、目の前には真っ赤な夕焼けが空を赤く焦がしていた。
わたしは赤い色が好きじゃない。
赤は流れる血、消えていく命を連想させるから。
だから、わたしは碇君のシャツの裾をつまんだ。
碇君はその時は少し驚いたような顔をしたけど、すぐに微笑み返してくれた。
わたしの不安を察してくれた碇君が、嬉しかった。
そこから家まで、わたしは碇君の裾をつかんだまま歩いていった。
その前では、アスカに腕をしがみつかれたおじさまが歩いている。
5分も歩いたころ、わたし達はマンションの玄関に辿り着いた。
エレベーターのランプが11で止まり、扉が開く。
ちょうど廊下が折れ曲がった所にあるドアの呼び鈴を鳴らすと、しばらくしてロックが解除されてドアが開く。
玄関では、おばさまがエプロンで手を拭きながら出迎えてくれた。
「あら、みんなお帰りなさい。それに・・・」
「初めまして、おばさま!惣流・アスカ・ラングレーです!」
「初めまして、アスカちゃん。碇ユイよ。ねえ、キョウコは・・・ママはどうしてる?」
「はい、ママはドイツで元気に暮らしてます!」
「そう、よかった。アスカちゃんも元気ないい子ね。」
「そんな、おばさまったら・・・」
そんなアスカを見て、碇君が思わず呟いた。
「どっしぇ〜、変わり身速いよな〜。」
アスカはそれが聞こえたのか、一瞬刺すような視線を碇君に向けたけど、それ以上は何もしようとはしなかった。
おじさまやおばさまの前で本性を現すのは、得策ではないと判断したのかもしれない。
「さあ、みんな上がって。ちょうど晩御飯の支度ができたところだから。」
「失礼しま〜す!」
アスカはまるで何度も来たことがあるかのような軽い足取りで、ダイニングへ向かっていった。
その後に少し疲れた様子の碇君、そしてわたし、口許を少しにやつかせたおじさまの順で続く。
今朝までより1つ椅子が多い食卓には、食欲を刺激するいい匂いの湯気を立てているおかずが、テーブル狭しと並んでいた。
「それでは、アスカ君の来日と新生活を祝して、乾杯。」
それぞれが席に着いたところで、おじさまがビールのジョッキを掲げた。わたしたちもそれに倣う。ただし、わたしと碇君、それにアスカはウーロン茶だけど。
肉が苦手なわたしやおじさまのために、おばさまは野菜中心の献立にすることが多いけど、さすがに今日は肉料理も並んでいた。
アスカはおばさまの手作りの和風ハンバーグを口に運びながら、碇君に対するときとは正反対の丁寧な口調で、おじさまやおばさまと喋っている。
「そうそう、アスカちゃん。ドイツから荷物が届いたんだけど、どこに置きましょうか。あ、アスカちゃんの寝室も考えなくっちゃね。でも、どうしましょう。余ってる部屋はないし・・・」
「それなら問題ない。アスカ君にはシンジの部屋を使ってもらうと、さっき話してきたところだ。」
「あら、シンジはどうするの?」
「シンジには物置を片付けて使ってもらう。」
「まあ、そうなの。じゃあ、シンジ。悪いけど、食べ終わったら物置を片付けて、シンジの部屋をアスカちゃんに貸してあげてね。」
「ウッ、ガハッゴホッ、・・・ええ〜!?」
ウインナーを飲み込んでいた碇君は、いともあっさりとおじさまの意見にに賛成したおばさまの言葉に、むせ込みながら文句を言った。
「ひ、ひどいや、母さんまで!」
「あら、仕方ないでしょ。それとも女の子を物置で寝かす気?母さんはあなたをそんな子に育てた覚えはないわよ。」
やっぱり夫婦ね。おじさまと同じこと言ってる。わたしも碇君とこんな関係になりたい・・・。
でも、碇君にはショックだったみたい。
「・・・ごちそうさま!」
自分の分のおかずを掻き込むと、さっさと部屋に引き篭ってしまった。
「もういいのか?それなら早いところ部屋を片付けておけ。」
おじさまの言葉に、碇君は必要以上に騒々しい物音で応えた。
「碇君、どうしたんですか?」
「ちょっとすねているだけよ。心配しないでね。」
「すみません、あたしのせいで・・・」
「いいのよ、アスカちゃんのせいじゃないわ。」
おばさまはああ言っているけど、碇君が物置に移らなければならなくなったのは、アスカが引っ越してきたせいに他ならないわ。
しかもアスカはそれをわかってて、碇君に意地悪をしている。

あの女、好きじゃない。

わたしはできるだけ早く夕食を食べ終わると、席を立った。
「レイちゃん、どうしたの?」
「碇君の、手伝いに行ってきます。」
おばさまの問いに短く答えて、わたしはダイニングを後にした。
碇君の部屋のドアの前に立ち、軽くノックする。
「碇君、手伝いに来たの・・・いい?」
乱雑な物音が一瞬止んで、中から慌てた様子の碇君の声が聞こえてきた。
「あ、綾波!ちょっと待って!?」
ドスンバタンと、一層物音が激しくなる。
怪訝に思い、ドアを開けてみた。
部屋に入った瞬間、わたしは足元にあった段ボール箱の中に信じられないものを見つけてしまった。
「・・・きゃあーっ!!」
「どうした、レイ!?」
わたしの悲鳴を聞き付け、おじさま達が駆け付ける。
そして、焦りまくる碇君の前に全員が揃った。
「いやーっ!不潔、不潔よぉ!!」
アスカはわざとらしく悲鳴を上げ。
「シンジ・・・お前も大人になったな。」
おじさまはなぜか目に涙を浮かべて感慨深げに呟き。
「ほんとうね。母さん、シンジはこういうことには興味がないんじゃないかしらって心配してたのよ。」
おばさまもなぜが感心していた。
みんなの視線が集中しているその段ボール箱には、「でらすっぴん」とか、「とうこうふぉとぐらふぃー」とか、「ぐれーぷくらぶ」といった、えっちな雑誌がたくさん詰め込まれていた。
「ち、ちがうよ!これは、その、ケンスケがいらなくなったから僕にくれるっていって・・・」
碇君は半泣きになって必死で弁解したけど、全く効果はなかった。
「何も恥ずかしがることはない。若い男ならば当然のことだ。」
「そうよシンジ。もっと胸を張っていいわ。さあ、明日はお赤飯炊かなくちゃ!」
なぜお赤飯なの?
わたしは疑問に思ったけど、それを口にする前におじさま達は満足した様子でダイニングに戻っていった。
そして、部屋にはわたしと碇君、それとアスカが残された。
アスカはおじさま達が完全に廊下の陰に消えてから、まじまじと段ボール箱の中の雑誌と恥ずかしさで真っ赤になった碇君の顔を交互に見比べた。
それから碇君を見下ろすように踏ん反り返って睨みつけ、言葉の爆弾を投げ付けた。
「・・・変態。」
しばらく沈黙が流れた後。
「う・・・うわあああぁぁぁーーーーーーー!!」
「碇君っ!?」
碇君はドアの横に立つわたしを押し退けて部屋を飛び出し、泣きながら廊下を走っていった。そして玄関の開閉音が耳に届く。
「ああ・・・碇君・・・」
「なによあいつ?ちょっとからかってやっただけなのに、バッカじゃないの?」
アスカは呆れたように腕組みをして、碇君が出ていった方を眺めていた。
「・・・・・・!」
パン!!
アスカの頬が鳴った。
叩いたのはわたし。アスカは赤くなり始めた自分の頬を押さえ、信じられないような表情でわたしを見ていた。
「レイ・・・あんた・・・」
「碇君は・・・碇君は、バカなんかじゃない!これ以上碇君を困らせないで!!」
わたしはそう叫ぶと、碇君の跡を追いかけた。
「どうしたの、レイちゃん!?」
おばさまの声が聞こえたけど、わたしは後ろも振り返らずに玄関を飛び出した。


どのくらい走ったのかしら?
息は切れ、足も動かなくなってきている。
それでもわたしは走り続けた。碇君の姿を求めて。
「碇君・・・」
暗い夜道が心細さを煽る。
なぜだろう?涙が出てきた。
「これは・・・涙。わたし・・・泣いてるの?」
自分が泣いていることに気付くと、次から次から涙が溢れてきた。
「碇君・・・どこにいるの・・・・・・逢いたい!」
涙も拭かずに、人気のない夜の街を駆け抜ける。
汗と涙で、前髪やシャギーが顔にはりつく。
その時、ふと不思議な感覚がわたしを襲った。
「これは・・・いかり・・・くん・・・?」
なぜか、足が勝手にわたしを運んでいった。
やってきたのは高台に位置する公園。幼いころ2人でよく遊んだ、公園。
「ここに・・・碇君が、いる・・・」
なぜだかわからないけど、わたしはそう確信した。
まばらな街灯の明かりとそれに群がる羽虫、そして噴水の水音のみが支配する公園を、何かに憑かれたように歩く。
木々の間を縫って作られた小道を抜け、第3新東京市を一望することのできる公園の外れに出る。
わたしと碇君がいちばん好きだった場所。
そのベンチに、碇君は座っていた。
「・・・碇君!!」
わたしの叫び声に、碇君は弾かれたようにこちらを振り向いた。
「あ・・・綾波・・・どうしてここに・・・?」
わたしは何も言わないままで、おろおろする碇君に近づいていった。
「心配、したのよ・・・」
目の前まで来ると、涙のせいでいつもの赤い目よりさらに紅くなった瞳で碇君に訴えた。
「だって・・・僕は、アスカにあんなこと言われて、いたたまれなくなって・・・」
「いいの!あんな人に何を言われたって、碇君は碇君よ!!お願いだから、もうこんなことしないで!わたしをおいてかないで!!」
また、涙が溢れてきた。
限界まで酷使された膝から、力が抜けた。
わたしはそのまま、碇君の胸の中に倒れ込んだ。
「あ、綾波!?どうしたの!?気分でも悪いの!?」
「大丈夫よ・・・碇君。だからもうすこし、このままで、いさせて・・・」
碇君のぬくもりが、鼓動が、優しさが伝わってくる。
このまま時が止まってしまえばいい。
わたしは、その時そう思った。


あとがき

たいへん長らくお待たせしました。ひあうぃー剛です。すらっぷすてぃっくす第参話「がんばれ、レイちゃん!」をお届けします。
今回は苦労しました。なんせレイの1人称!あまり喋らない、あまり目立たない、感情の起伏やセリフにも乏しいレイに話を進めさせるのは至難の業でした。実際、レイの1人称なんて「ジャンキー」の「厭世レイ(^^;;)」くらいしか見たことないし・・・
結果、今までに比べて量も短いし、話もほとんど進んでいません。ごめんなさいね。
内容も、書いてて恥ずかしくなるような恋愛物になってしまいました。これ読んで喜ぶ人っているんでしょうか・・・?だんだんレイがオリジナルキャラになりつつありますし、アスカは性格嫌味すぎるし。まあ、アスカ様には次回がんばっていただきましょう。

ということで、次回「がんばれ、アスカちゃん!(仮題)」よろしくお願いします。

最後に・・・感想のメールください!!!

第四話に続く

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