-Presented by Myaa-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………。

………。

………………。

 

 

 

 

 

 

1

 

 

「――――狙撃地点は双子山山頂。作戦開始時刻は、明朝0時。以後、本作戦を『ヤシマ作戦』と呼称します」

「了解!」

「(あとは…パイロットの問題ね)」

 

 

 

 

第7ケイジ直轄制御室

 

 

 

 

カチャ。

 

「初号機パイロットの意識が戻ったそうです。…検査数値に問題なし」

「そう。では、作戦は予定通りに」

 

「…でも彼、もう一度乗るかしら?」

 

「………双子山決戦、急いで!」

 

 

 

中央病院 第3外科病棟

 

 

 

カナカナカナカナカナカナ………。

カナカナカナカナカナカナ………。

 

 

カナカナカナカナカナカナ………。

 

 

カナカナカナカナカナカナ………。

 

 

 

カナカナカナカナカナカナ………。

カナカナカナカナカナカナ………。

 

 

 

蜩(ひぐらし)が鳴いている。 

 

その短い生を、ささやかに主張するように。

 

夕闇とともに、昼間の灼熱を宥めるような清涼な風が、吹き抜けていく。

 

壁の一面を占有した窓からは、柔らかな夕日…。 

 

 

蜩の声…。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少年は、確かにそこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

Prototype-00「蜩(ひぐらし)の声」

  


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不思議な光景がそこにあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「......あす午前0時より発動される『ヤシマ作戦』のスケジュールを伝えます」

 

「………」

 

「碇・綾波の両パイロットは、本日1730、ケイジに集合」

 

「………」

 

「1800、初号機及び零号機起動」

 

「………」

 

「1805、発進。同30、双子山仮設基地到着」

 

「………」

 

「以降は別命あるまで待機。明朝、日付変更と同時に作戦行動開......っ?!」

 

綾波レイの言葉は突然、中断を余儀なくされた。

 

それまで、気の抜けたような…言い表すならば『愕然』とした表情を浮かべて、一言も発しなかった少年―――碇シンジが、まったく唐突に、ベッドの中から手を伸ばして、レイを抱き寄せたからだ。

 

ものすごい力で左腕を引っ張られたレイは、次の瞬間、ベッドから上半身を起こしたシンジの上に覆い被さるような格好で、腕の中に捉えられていた。

 

左手に持っていた生徒手帳が、床に落ちて小さく抗議の音を立てた。

遅れて、宙に舞ったレイの水色の髪が、元の場所に落ち着く。

 

シンジは、レイの頬に自分の頬を押しつけるようにして泣いていた。

 

「.........」

「………っ」

「.........」

「………っく」

「.........」

「………っぅ」

 

 

 

カナカナカナカナカナカナ………。

カナカナカナカナカナカナ………。

 

 

カナカナカナカナカナカナ………。

 

 

カナカナカナカナカナカナ………。

 

 

 

「......恐いの?」

 

レイは、ひとりごとのように呟いた。

自分を抱きしめながら、肩を震わせているシンジから、なんとなくそう思ったのだ。

非礼ともいえる強引な抱擁に対しては、相変わらずレイは無反応だった。

…ただ、無理にシンジの腕を振り払おうとは思わない。

プラグスーツを脱いだままのシンジは全裸で、レイとの間を隔てるものは、かろうじてシンジの下半身を覆っているシーツのみ。

だが、別に嫌悪感もない。

むしろ…。

………。

 

レイの声が聞こえたのか、シンジは、レイの髪に頬をこすりつけるように、小さくかぶりを振った。

では…。

 

「......なぜ、泣いているの?」

 

シンジの双眸から滂沱(ぼうだ)と流れる熱いものの感触を、先ほどからレイの頬は感じていた。

 

「……あやなみ…ぃっ…」

 

しゃくり上げながら、シンジはレイを抱く両手に、ぎゅっと力を込めた。

 

あ、とレイが小さな声を上げる。

それまで、かろうじて右手で上半身を支えていたのが、とうとうシンジに完全に上体を預ける格好になる。

 

「碇君......くるしい」

 

胸を圧迫されて、レイはわずかに眉を寄せる。

いつものシンジであれば、即座に、慌ててレイを解放するに違いない。

だが、この時のシンジは、絶対に放すまいとするように、レイの頭を抱え込んでいた。

 

やまぬ嗚咽の声。

 

「.........」

 

レイは、あきらめたのか何も言わなかった。

 

 

 

カナカナカナカナカナカナ………。

カナカナカナカナカナカナ………。

 

 

カナカナカナカナカナカナ………。

 

 

カナカナカナカナカナカナ………。

 

 

 

スッ…。

 

いつまでも泣きやまぬシンジの背中に、レイは両手を回した。

なぜ、そうしようと思ったか、理由は定かではない。

特に、慰めようとかいう気持ちが働いたわけではない。

ただ、なんとなくだ。

 

その小さな動きに気付いているのかどうか、シンジは、レイの存在をひとつひとつ確かめるかのように、前に回した手で、髪に、背に触れていった。

 

「.........」

「………」

「.........」

「………」

「.........」

「…夢じゃ、ない」

「......え?」

 

シンジの呟きに、レイは怪訝そうな顔をした。

 

 

 

Lead to NEXT Episode...


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(updete 2000/06/29)