「日常あるいは穏やかではない日々。」

Written by みゃあ  

 

 

 

 

「シテよ…」

やや視線を逸らし、唇をとがらせるように、彼女は言った。
気持ち、開いた両脚。
ブレザーのスカートの隙間からは、白い布地がのぞいている。

「え」

ガラステーブルを挟んで、カーペットに腰を下ろそうとしていたシンジの喉から出たのは、カエルが轢かれたような短い濁音だけだった。
唐突だ。
唐突すぎる。

あんたのすることって、私には理解不能なことが多い!

アスカはよく、そう言う。
だけど、それは僕のセリフなんだけどな、とシンジは言いたい。

思い返せば、ミサトと同居する彼女が、一人暮らしをするシンジのアパルトメントを訪れるのは、「こういうこと」をする時だけ。
過去数回だが、これまで百%そうだったので、きょうもそうなのかなと、内心、そわそわはしていた。
だけど、こちらがなけなしの勇気を振り絞って手を伸ばそうとすると、「ムードがない」、「無神経」、「空気読め」と、さんざんに責めるのはアスカの方だ。
それが、部屋に入るなりベッドに腰掛けて開口一番、これってどうなんだ?

冷静に思考をめぐらせているようで、さっきのアスカのひと言に、内心動揺が抑えられない。
シテ、ということは、そういうことなわけで、つまりそれは、してもいいということで…。
でもまだ二人ともシャワーも浴びていないし、アスカはいいんだろうか。

ふと見ると、彼女の視線の先にあるのは、ベッドの脇の何もない空間だけだ。
目元が微かに赤らんでいる気がするのは、自分でも唐突だと思っているのか。その羞恥によるものなのか?

どうすればいいのか、どうすれば正解なのか、迷っていると、アスカが焦れたように口を開いた。

「イヤなの…?」

さすがにそれに言葉で答えるほど、シンジも無神経ではない。
というか、これまでさんざん失敗に学んでいる。

覚悟を決めて、シンジはアスカに近づいた。
肩に左手をかけると、一瞬ぴくりと震える。
そこで、動きが止まった。
先日、言われたことを思い出したからだ。

「アンタって、本当にキス下手ねぇ。…もっと上達するまで、シンジからキスするの禁止」

そうだった。
…でも、こういう場合、やっぱりまずはキスじゃないのか。
まだまだ初心者といっていいシンジには、ほかの手順が思い浮かばない。
律儀に逡巡していると、ジト目のアスカが、自分から唇を重ねてきた。

「っんむ」

…柔らかい。
唇の先が、痺れにも似た甘い感触に包まれる。
それがアスカの唇だと感じた瞬間、顔中が沸騰したように熱くなり、頭に血が上った。

何度しても慣れることはない。
唇を合わせるのは、なぜこんなにも甘美なのか。
ずくん、と体の芯に火が灯り、シンジの中心が急速に頭をもたげてくる。
視界に大写しになったアスカの整った顔。
彼女の瞼が閉じているのを見て、シンジはあわてて、きつく目を閉じた。
股間の焦りがばれてしまったのではないかと、恥ずかしかった。

互いの唇が離れるころには、シンジはすっかり堪えきれなくなっていた。
少し不満気に上目遣いをするアスカには気づかず、胸元に手を伸ばす。

学校帰りのため、お互いに制服のままだ。
第二東京中央高等学校指定のブレザー。
震える手が、遠慮がちに差し込まれる。
リボンの下の白いシャツは、火照って、少しだけしっとりしていた。
サラサラとした生地の奥にある円い膨らみが、掌に包み込まれた。

「ちょっ……ん…」

おそるおそるといった感じで、柔らかな双丘に指が滑り、時折、遠慮がちに揉むように動く。
シャツと下着越しでも、その温度と質感は、シンジの呼吸を荒げさせるのに十分だった。

「むね、は、いいから…っ」

アスカは、上体を縮こまらせるように、シンジの手から逃れようとする。
夢から醒めたように、呆けた顔で、シンジは、うつむき気味の彼女の顔をのぞき見た。

恥ずかしいのだろうか。
アスカはいつも、ことさら胸を触られるのを避けているふしがある。
そうはいっても、十六歳の健康な男子であるシンジには、その感触はあまりにも魅惑的で、お預けを食らった犬そのものの顔になった。

「こっち…を、ね」

表情を隠したまま、アスカはシンジの手を取って、両脚の間に導いた。
手の甲が太ももに触れると、ぴくりと肩を震わせる。

「ぅ…わ…」

そこは、むっ、と熱気がこもっていた。
アスカの香りが一段と濃くなった気がして、シンジは小さくあえいだ。
自らの手の先を視線で追うと、わずかにめくれたスカートの陰に、白い布地が見えた。

「アスカ…っ」

たまらなくなって、シンジはアスカの首元に顔を埋めながら、そこに指をあてた。

「ゃ…ん、ン…っ」

今度は、はっきりと全身を震わせると、アスカは、腰を逃がすように奥へと後ずさる。
すると、片脚だけがベッドの上に乗った形になり、スカートがさらにめくれ上がって、あられもない姿になった。

頭に一気にのぼった血に、立ちくらみのような感覚をおぼえながら、シンジはそこを凝視した。

白い────────。

下着も白かったが、その先にある脚は、さらになまめかしい白さを誇っていた。
引き寄せられるように、太ももと下着の境界線あたりを撫でる。
アスカが、また震えた。
これだけでも目眩がしそうなのに、あの部分に触れたら、どうなってしまうんだろう。
知らず、喉がごくり、と音を立てた。
何度か触ったことはあるものの、やはり、そこは特別なものがある。
普段、決して許されることのない部分に指を這わせることの背徳感は、ズボンの中で痛いほど、彼を勃起させた。

中指が、中心に触れる。

汗ばんだ下着の生地越しに、ぬるりとした「唇」の感触。

濡、れてる…

気がつくと、シンジは、薄い布を一枚隔てただけの亀裂に沿って、何度も何度も指を往復させていた。

「あっ、あっ、あっ…っ!」

急激に高くなろうとする声を殺すように、アスカの手がシンジを上から押さえようとするが、逆効果にしかならなかった。
指がより強く沈んで、アスカの亀裂を撫で擦る。
布地とシンジの指の刺激が、ダイレクトな快感の波となって、彼女を襲った。
誰かの手にされるのは、自分で触れる時とは全く違う。
蕩けた身体の芯から、否応もなく悦びを引き出されていく。

「んー、んーっ…!」

口を結んで、いやいやとかぶりを振るたびに、彼女の金色の髪が、濃厚な少女の性の匂いをふりまいた。
アスカは、顔を真っ赤にしている。

彼女の顔を見た瞬間、
それまでの昂奮とは別種の情動が、シンジの胸を強く疼かせた。

可愛い…可愛い、アスカ。

普段口にしたら怒られそうな言葉を胸の内で繰り返しながら、夢中で愛撫に没頭する。
下着越しでも指が埋没するほど、そこは濡れそぼっていた。
とろりとした分泌物が、どんどん染みを広げていく。
いつの間にか二本、三本と増やされた指先で、ぬるぬるとした感触が熱を帯びてくる。
愛おしいそこを慰めるように、じわりと指を広げた。
すると、下着の下で、それに引かれるように、二枚の唇が開いた。
空気に晒されたことが、さらなる刺激となったのか、アスカはしがみつくように、シンジの胸元に顔を埋めた。

「…ちょ、と…もっ、と、やさし…」

最後の方は聞き取れないほど、アスカは身体をわななかせていた。
シンジの動きは、十分すぎるほど優しいものだったが、今のアスカには、それでも刺激が強すぎるらしい。

「うん…もっと…優しく、だね」

こちらも熱に浮かされたように、シンジは小さくうなずいた。
視線は、すでに肉の色が浮き出た、アスカの中心の部分に釘付けになっている。
彼女を気持よくさせたい。
その思いが、普段からは考えられないほど、シンジを大胆にさせた。
荒い息をついて、ぴくり、ぴくりと、小さく痙攣を繰り返すアスカを尻目に、視線の位置がどんどん下がっていく。

目の前に、滔々と愛液を湛えるアスカのそこがあった。
熱気と女の部分の濃密な匂いに、シンジのズボンの下では、強張りが何度もひくつきを繰り返し、先触れの汁が、すっかり下着の前を濡らしている。

それでも、欲望よりも愛しさがこみ上げて、シンジはゆっくりと下着のその部分を横にずらして、アスカ自身を露出させた。
彼女の髪より、やや薄い色の茂みの下に、淡い桃色の肉襞が重なり合っている。
うるさいくらいに、耳のそばで自身の鼓動が高鳴っている。
その繊細でなまめかしい唇を、ゆっくりと広げた。
その動きで、とぷり、と音がしそうな粘質の滴が、アスカの一番奥からあふれてきた。

「は………」

ため息のような吐息が、尾を引くようにアスカの口から漏れた。

「ゃぁ……す、する、の…?」

「うん…するよ」

「ほ、ほんとに、やさしく、よ。やさしく、だからね…」

「うん…するよ」

「っちょ、と何か怖いんですけど……っひぐ!!」

シンジの口が、その部分に埋まった。
先ほどのキスとはまた違った、アスカの感触。
知らず、口内に流れ込んだ潤いの元である雫を、飲み込んだ。

…甘くて、くらくらする。

「シ、シン…ん!ーっ」

もっと飲みたい。
好きな少女の体液を啜って、飲み下すという、倒錯的な行為。
しかし、今のシンジの頭のなかにあったのは、アスカのここを、もっと歓ばせたいという献身的な思いだけ。

以前、一度、こうした時には、途中でやめてしまったけど。
きょうは、絶対、最後まで…。

「待っ…だめ、それ、だ…めぇっ」

少年の黒髪を、ぎゅうぎゅう押さえつけるアスカ。
意に介せず、少女の陰唇を余さず口に収め、舐めしゃぶった。

「〜〜〜〜〜っ…!!」

声にならないうめきを上げて、アスカの細い喉がのけぞった。

外側の唇を指先で開き、内側の唇に埋もれさせるように、舌を差し入れる。
それに押されて、また、大量の蜜があふれた。
吸いながら、母犬が子犬にするように、薄桃色の粘膜を下から上へ舐りあげる。
アスカのそこの感触を舌先で、唇で感じるのは、なんて甘美。
そうすることを、アスカが許してくれているという事実が、脳髄をしびれさせるような快楽を生んで、シンジは何度も射精しそうになった。

おそろしいほどに甘い、アスカの匂い、アスカの味。
アスカは、もはや一切の加減もできず、左手が肩に爪を立て、両太ももでその間にある顔を締め付けたが、シンジはその行為に没頭していた。

「ダメ…ダメぇ…ダメなの…っ」

譫言のように繰り返すアスカの瞳は、焦点が合っておらず、残る右手は、次々に注ぎ込まれる快楽に抗うように、あるいは、さらなる悦楽をむさぼるように、自らの胸をつかまえている。

アスカの柔らかな体毛が、鼻先をくすぐる。
三方を肉に挟まれて、苦しそうにしながらも、シンジはスカートの下に手を回し、丸みを帯びた尻をさらに引き寄せようとした。

「きゅうけい…まって…もういい…おねがい…もう……あっ!」

露出した陰核を鼻でこすられたのが、最後の堤防が決壊するきっかけになったのか、アスカが切羽詰まった悲鳴を上げた。

「だっ、ダメ!待って!もうだめ!いっ…いくから!イっちゃうから…!」

その懇願は、耳をふさがれた状態のシンジには、ほとんど届かない。
しかし、アスカの震えから、その最後が近いことを無意識に感じ取っていた。

イって、アスカ。お願いだよ…僕でイって…アスカ、アスカ!

シンジは、優しく、優しく、ことさらゆっくりと、そこを舐り、啜った。

「っあ!………あっ、あーーーー……っっ!」

ゆるゆると押し上げられてきた坂を、最後は一気に駆け上って、アスカは思いきり気をやった。
絶頂感は長く、長く尾を引き、シンジの髪をくしゃくしゃにしながら、不規則な痙攣を何度も繰り返した。
同時に、精神的なオーガズムを味わって、シンジも幸福感に体を震わせた。
彼の高まりは、これ以上ないくらい濡れそぼり、陰嚢に精子を送り込んでいた。

 

 


 

 


「………………………あの」

見慣れた天井をベッドの上から仰ぎながら、シンジは心底情けない顔をした。
その首っ玉を、アスカがしっかりと抱いている。
いや、抱いているというより、しがみつかれているという感じで、シンジは大の字になったまま、全く身動きがとれない。
かれこれ、三十分はこうしている。
彼の股間の疼きは、慰められるどころか、張り詰めるだけ張り詰めたまま、行き場をなくしていた。

たっぷり数分は、クライマックスを堪能したあと、息を整えるまもなく、アスカはベッドにシンジを押し倒して…現在に至る。
シンジの言葉も、完全黙殺。

「あの、アスカ…」

あれだけの痴態を見せられたうえ、今なお、彼女の柔らかな身体の感触を、情事の後のすえた匂いを、目と鼻の先にぶら下げられている状態は、まさに拷問だ。
期待に高められた陰嚢が、痛いほどに張っている。
耐え切れず、再び口を開こうとするのを、アスカが制した。

「…今、余韻に浸ってるの。もうちょっと、待ってくれない?」

低〜い声が、わざとらしく、ゆっくりと紡がれる。
あ、これは怒ってるなと、普段は察しの悪いシンジも、この時ばかりは悟った。

「でも、僕もその…いろいろと限界、なんだけど…」
「待って、って…言ったわよね?」
「…」
「待ってって、言った」
「…は、はい」
「待って、くれなかった…お願いって言ったのに」
「はい…」

シンジは、口をつぐむしかなかった。

…しかし、これはつらい。
本当につらい。
あと少しでたどり着く山頂に、一向に近づくことができないなんて。
せめて、手が動かせれば。
いやいや、アスカがしがみついている状況で、そんなことできるわけない…。

 

 


 

 


(ぅう…これって、あんまりじゃない?)

結局。
アスカが、そのまま穏やかな寝息を立て始めてしまったため、シンジは彼女が目を覚ますまで、そのまま悶々と忍耐の限界に挑戦することになった。

 

 

 

アスカ編に続く

 

 

もどる