「あ、あたしが動くのっ?」
「そっ。智秋が気持ちいいように動いて…。とりあえずオレしか見えなくなるように…。」
ぼっ…と音が聞こえそうなほど真っ赤になる智秋。
自分で動くということは…ペニスを受け入れたままで腰を振る、ということなのか…。
愁一郎の言うことはもっともであり、自分達はセックスをしているのだから彼にしてもらうのを待っているだけでなく、自分からも積極的に快感を求めていいはずだ。それこそ前の男を…前の男とのセックスとも呼べないセックスを忘れ去るためにも…。
しかしそんな恥ずかしいことができるのだろうか。愛しい愁一郎の上で感じるままに腰を振り、よがり、むせび鳴いて乱れる姿を晒して正気でいられるだろうか。
「はっ…恥ずかしいよう…騎乗位なんて…。」
最後の躊躇いが目の前に立ちはだかり、智秋を戸惑わせる。恥じらった顔をそのままに、愁一郎の瞳を見つめて精一杯訴えかけた。
愁一郎があえて智秋が恥ずかしいようにさせるのにはそれなりの理由があった。
智秋に対して抱いている独占欲が…彼女のせつない独白によって理不尽にも機嫌を損ねたからであった。
…智秋が、そんな適当な男にヴァージンを捧げてしまったなんて納得ができないっ…。
また、それは智秋が付き合っていたという男に対する嫉妬でもあったのかもしれない。
…憧れていた智秋に初めてを捧げてもらったなんて、羨ましい…妬ましいっ…。
支えになりたい、という慈愛の気持ちももちろんある。しかしそれと同時に八つ当たりめいた嗜虐の気持ちも存在しているのだ。
しかしそれら二つの相反する想いは…愁一郎の胸の奥で以前から変わることのない愛しさという感情で内包することができる。あらゆる角度から分析しても、自分は智秋のことが好きであるようだった。
仲良くしたい、仲良くして欲しい、という願望が一際募る…。
「でも…おまんこ、したいんだろ?」
「だけど…だけどっ…」
「…だったら恥じらうことなんてないよ。ほら、オレのちんぽも…智秋のおまんこの中で待ちわびてるよ?」
意地悪くわざと淫らな単語を使い、愁一郎は智秋の尻を割り開くようにして揉んだ。一本一本の指を食い込ませるようつるつるの柔肌を揉みこね、ぐいぐい自らの腰に押しつけようとする。意識して肛門を締め、勃起したペニスをさらに固くさせてみた。
「あんっ!もう…さっきからヘンなことばっかりっ!」
「さっきは自分だって言ってたくせに…ほらほら、身体起こして。オレの胸に両手ついていいからさ。」
「…一回だけだよっ?気持ちよくなかったら、すぐにやめるからねっ?」
耳まで真っ赤になった智秋は恥ずかしさに任せて声を荒げる。キスの好きな唇はすねたようにわずかにとがっていた。
怒ってるんだぞ、というふうに振る舞いながらも言われるまま胸板に両手をつき、頼りなく上体を起こす智秋。そんな彼女の健気さが愁一郎にはたまらない。両手を尻から離し、下向きにされている乳房を包み込む。なかなかのボリュームを見せている乳房は下から持ち上げるとみっしり重い。
腰の上をまたぎ、あまつさえ乳房を両手にされて智秋は一際頬を染めたが…右手で髪を背中に流してからあらためて体勢を整える。
「じゃあ…してみるね?」
「いいよ…お願い。」
この体勢になってしまってからは、愁一郎の愛しげな微笑がどうにもまぶしい。智秋は覚悟を決めたように息をひとつ吐いて…
みゃくく、ぷっ…みゅるるっ…みゅくくっ…ぬぶぶ、ぶっ…
「んっ…ふうんっ…!!」
「あれ?けっこう気持ちよかったりするんじゃないの?かわいい声出しちゃって…。」
「ま、まだ気持ちよくないよっ…ひっ、んっ…奥に…つ、つっかえて…!」
なおも恥じらう智秋であったが、荷重を突っぱねた両腕に預け、積極的に腰を振って動きを軽やかなものにしていった。強がった手前、見上げてくる愁一郎にだらしない顔や声を晒さぬようせつなげに唇を噛み締める。
ぢゅぷ、ぶっ、ぢゅぷ、ぶっ…みゅぶ、みゅぶっ、みゅぷっ…
わずかに腰を浮かせ、ベッドのスプリングの助力も借りてぴょんぴょん飛び跳ねてはペニスを子宮口へと深く送り込む。十回も擦れ合う頃には智秋はすっかり騎乗位の楽しみ方を見出し、愁一郎の胸板に指を食い込ませてかぶりを振った。
「んっ、んんっ…!ふんっ、ん…ふぅんっ!!ひ、ぐぅ…!!」
「智秋、遠慮しないで声出してよ…かわいい鳴き声、聞かせて…」
「ふぁあっ!む、むねっ!胸揉まないでえっ!あ、ひっ…ひゃあっ!あっ!いいっ!!」
悔しそうに唇を噛み締めて声を殺していた智秋であったが、愁一郎に力強く乳房を揉みしだかれるとたちまちガマンできなくなり、ブルルッ、と腰の奥から震えをきたしてよがり鳴いた。一度声をあげてしまうと理性は欲望に追随できなくなり、腰を振るのに合わせて立て続けにむせび鳴く。
ぬっちゅ、ぬっぢゅ、ぬっちゅ…ぐにゅ、ぐにゅっ…べちゅ、べちゅっ…
「あんっ!はぁんっ!ん、ひ、ひぃあっ!い、いいよぉ、気持ちいいよおっ!!」
「ほ、よかった…。自分からちんぽを欲張るのも気持ちいいもんだろ?」
「うん、いいの…おおばくんの、おっきいから奥まで届くのおっ!!」
きゅきゅきゅ、と引きつるように膣内を狭めながらよがり叫ぶ智秋。本能が求めるままに上下し、深く埋め込んで腰をひねり、子宮口を突き上げようと丸い尻を愁一郎の腰に押しつける。
収縮した膣の中では敏感な襞がペニスに絡みっぱなしだ。細かい形がわかるほどに狭まって締め上げると、その密封状態の花筒から搾り出すように愛液が滲み出てくる。ペニスで栓をされてなお、しおを噴こうとしているのだ。
愁一郎もまた熱くすがりついてくるヴァギナにぬめりながらしごき立てられ、根本の奥深くで射精欲がジクン、とうごめくのを感じた。愁一郎は仰向けになっていると早く果ててしまうきらいがある。それはマスターベーションが日課となっていた学生時代から変わらない体質であった。
性器どうしが擦れ合う快感だけでなく、視覚からの刺激…すなわち智秋の嬌態も愁一郎を急激に高ぶらせる原因である。見た目よりもグラマラスな智秋が自らの上で艶めかしい表情で腰をくねらせている光景は、自分から攻め立てて登り詰めさせてゆく過程を見るよりも悩ましい。
視覚だけでなく、汗や唾液、粘液による嗅覚、味覚…。
二人の声や息づかいはもちろん、性器のぬかるみや衣擦れによる聴覚…。
これら五感すべてを楽しむことによって、セックスはより実りあるものとなってゆくのだ。望めば望むだけ、興奮は大きくなるのである。
そしてなにより、パートナーへの労りや思いやりという気持ちが大切だ。互いに高め合おうという意識がないと、いかに五感が満足であっても真の充実感は得られない。つまり、本物のセックスを知るためには第六感をも駆使しなければならないといえるのだ。
「はぁっ、はぁっ…ち、ちあきっ…!」
「んっ!ふぁうっ!お、おおばくぅん…!」
無我夢中で登り詰めてゆく智秋がかわいくてならず、愁一郎は搾るように乳房をつかみながら無意識のうちに腰を突き上げていた。智秋の上下に逆らうことなく、下りてきては突き上げ、上がっては引き抜き…。べくん、べくんっと下肢を打ち鳴らしてペニスを突き込んでゆく。
やがて智秋は膝立ちになり、愁一郎の胸板を上から押しつけるような体勢で彼のグラインドに酔いしれた。ブリッジするようにして何度も何度も腰を突き上げてきてくれる愁一郎に困惑しきった顔を見せ、ハクハクさせる口許からぽたぽた唾液を垂らす。愁一郎は滴ってくる唾液にまばたきしながらも、息を弾ませて狭い膣内をほじくり返していった。
「…お、おおばくん…ごめん、よだれ、垂れてる…」
「いいよ、気にしないで…気持ち、いいんだろ…?」
「最高…最高だよぅ…!こんなの初めてっ!!」
「へへ、よかった…男冥利に尽きるってもんだよ…。」
下から押し上げている乳房の向こうから智秋の心臓が狂ったように乱打しているのが感じられる。呼吸も不規則なものへと変わっていた。早く小刻みだったのが、今では震えながらの深呼吸になっている。それらの他に、とろん…と細められている瞳からも智秋が間もなくエクスタシーに達するであろうことが窺えた。
「こわい…こわいよ…なんかすごいの、すごいのぉ…おおばくん、い、イキそう…」
「大丈夫だよ、智秋…。オレなら側にいるから安心して…。さ、智秋…ちょっと手、下におろしてくれるかい?肩の向こう…うん、そうそう…」
「こ、こう…?あ、あぅ…んっ…」
ぬむ、ぬる、るっ…べたんっ。
未体験の絶頂感に怯える智秋を確かな口調でなだめると、愁一郎は彼女の両手をシーツの上につかせてから腰を下げ、勃起しきったペニスを膣内から引き抜いてしまった。ねばっこく愛液の糸を引かせながら、コンドームをはち切らんばかりに長く、太くなっているペニスは主のへそをしたたかに打ちつける。
太い栓が抜き取られ、弾みで花筒が強く締まって智秋は小さなうめきを漏らす。あからさまに媚びた目で愁一郎を見下ろし、せつなげにまばたきを繰り返した。
「抜かないでよぉ…おおばくん、ちんぽ…抜いちゃやだよぉ…!」
「ごめん、少しだけ待って!よつんばいのままにしててよ?」
「ふぅ、ふぅ…早く…はやくぅ…!」
愁一郎にウインクを混じえて懇願されると、智秋も駄々をこねにくくなる。つらそうに目を閉じると、おとがいをそらして焦れったさに耐えた。
愁一郎はシーツをつかんで身体をずらし、智秋の両脚の間から枕元へと抜け出た。少しでも勃起を維持させるために右手でペニスをしごきながら身体を起こすと、目の前には官能的な尻を突き出し、泣きベソになって振り返っている智秋がいる。ふり、ふり…と誘うようにして丸い尻を振ると、焦れったさを熱い溜息にして吐きだした。
「はふうぅ…。おおばくん、待てないよぉ…はやくあたしのおまんこに…」
「わかってるって、今すぐ入っちゃうよっ。」
最低限の慎みも忘れてペニスをねだる智秋に微笑みかけると、愁一郎は膝立ちで擦り寄って彼女が渇望するものを裂け目に埋めた。足の開き具合を加減して高さを調整し、ぐに、と割り開いて膣口にあてがう。充血を極めているような裂け目は色鮮やかな見た目通りに熱く、ほんの少し抜け出ていただけでも新鮮な熱がすごい。
みちゅ、と先端を中程までめり込ませ、あとは腰を突き出すだけになってから愁一郎は緊張を解きほぐすように智秋の背中を両手で撫でた。しっとり汗ばんだ肌に触れ、背筋を伸ばしてやるに緩やかな力を込めて何度も何度も前後させる。
「ふんっ…ん、んん…いい感じ…。」
「だろ?もう少し落ち着こうねぇ…。」
「…おおばくん、なんかすっごい慣れてるぅ。いつの間にこんなになったの…?」
「そりゃあ、ね?早くかわいい息子が欲しいしっ。」
「そっか、励んでるんだぁ。ふふふ…でも、なんでできないんだろぉね?」
「それがわかれば苦労しないよっ。」
ささやかに言葉を交わすうち、智秋も愁一郎も十分に落ち着きを取り戻してしまう。取りあえず智秋の呼吸が規則的になるのを見計らってから、愁一郎は彼女の美しい尻を両手でわしづかんだ。指をたて、智秋の尻がグラインドに合わせて動いてしまわないようにしっかと固定する。
「入るよ…。」
「ん…。」
真上からつかんでくる愁一郎の手の平とその握力、そして簡潔な言葉に智秋はうなだれて返事し、その瞬間を待った。
ぬる、るっ…
「ちあ、きっ…」
「う、ふっ…!あ、ああっ…!!」
先程まで埋没して奥の奥まで密封していたというのに、二度目の挿入は思った以上の抵抗感があった。絶頂の近いヴァギナが収縮を強めているためである。
いかに愛液で花筒いっぱいが潤滑しているとはいえ、それを再び押し広げながら突き進むにはそれなりの労力を必要とする。しかしその労力はなんとも居心地の良い圧迫感を持ってペニス全体を包み込んでくるわけだから、つらいという意識は愁一郎の内には生じない。むしろこれだけ狭まってくれていることに感謝したいほどだ。ラテックスコーティングされて感度が鈍くなっていることもあり、そのぬめり、締め付け、温もりは愁一郎を強く高ぶらせてしまう。
智秋も狭まった内側を強引に押し拡がられてゆくことで、そのせつないうずきがたちまち大きな快感となり、のけぞる勢いで顔を上げてしまった。虚空に助けを求めるようにしてハクハク口許を動かし、酔った瞳から感涙をこぼす。
ぷちゅ、ぬぶ、ぬるるるっ…とん…。
愁一郎のくびれが襞のひとつひとつをえぐりながら突き進み、深奥にまで到達してしまうと智秋の快感はいよいよもって巨大な波濤となり、彼女の意識を飲み込んでしまった。突っぱねていた両手がカクンと曲がり、犬が伏せをするように肘で上体を支えなければならなくなってしまう。
「っと、智秋、大丈夫?」
「だ、だいじょうぶ…ね、早く動いてぇ…あたし、あたしぃ…!」
「わかってるってば。じゃあ、ちょっと乱暴に…」
泣きじゃくるような声でせがんでくる智秋にうなづいてみせると、愁一郎は彼女の尻をつかみなおし、唇を噛み締めた。ただでさえも暴発してしまいそうな雰囲気の中、最後のグラインドを決心して生唾を飲み込む。
づぷっ、づぷっ、ぶちゅっ…ぶちゅ、ぶぢゅっ、ずぷっ…
ストロークは短いが、小刻みに膣の終点当たりの襞をくじり、子宮口を乱打させる。先端から伝わるこつん、こつん、とした弾力が智秋の全長を支配したという認識を強くさせ、愁一郎の充足感を喜ばせた。じわ、じわっと興奮の血が漲るのを感じ、愁一郎は言葉通りに腰の動きをどんどん速めてゆく。精製したての逸り水が幹の中心を通る太いパイプを抜け、先端のおちょぼ口からコンドームの精液溜まりに滲んでゆくのがなんとも心地よい。
濡れる愁一郎同様、彼のサイズに拡がった智秋の膣口からも発情の愛液はますます大量に分泌し、掻き出され…擦れ合う付近ではきめ細かに泡立ち、白っぽくムース状になっている。二人の激しい睦み合いをサポートしきった愛液は、少しずつ智秋の内ももを、愁一郎の内ももを濡らして伝い落ちてゆく。
「ああっ…ち、ちあき…いいよぉ、気持ちいいよぉ…っ!!」
「うん、うんっ!あ、あたしも最高…!こんなすごいの、生まれて初めてぇ!!あ、頭、悪くなっちゃいそう…気持ちいいってしか、考えられないよぉ…!!」
「智秋の気持ちよさ…少しずつオレに染み込んできてんのかな…ホント、気持ちいい…!智秋のおまんこ、奥の方ぐにゅ、ぐにゅってなってて…絡みついてきて…!!」
「お、奥もっとしてぇ、んっ、ふうんっ!!お、あ、あたしのおまんこ…ずっと奥にちょうだい、なんべんもなんべんもちょうだいっ!!」
膣の中でも一番熱量を秘めている辺りを集中攻撃されて、智秋も法悦に憑かれた笑みを浮かべて嬌声を響かせる。
もう膣内がトロトロに熔けてしまったかのように気持ちいい。身体がフワフワ浮き上がってしまうように実体感がなかったから、精一杯両手でシーツを握りしめていた。
小刻みにペニスを突き込まれるヴァギナや子宮口はもちろん…
両手にされて微震し続ける汗ばんだ尻も…
生温く愛液が伝い落ちてゆく内ももも…
べち、べち、と下肢が打ち合うたびにたぽんたぽん揺れる乳房も…
身体中はもちろん髪の先から爪に至るまで、なにもかもが性感帯となって智秋の意識を蝕んでくるようであった。無我夢中で叫ぶとおり、ここまで高ぶって悦に入ったのは生涯で初めての経験である。不安と期待に胸が踊り、括約筋が本能の命ずるままに愁一郎を締め上げた。ジクンッ、とした締め上げが鋭い快感となって智秋を脱力させる。
「ふああっ!あ、も、もう…だめ…!」
「くっ…ちあき、メチャクチャ締まる…!すごい熱いよ、これ以上動いたら…も、もう…今すぐにでも…っ!!」
肘でも上体を支えていられなくなった智秋は愁一郎が腰を突き出した拍子に前のめりとなり、あごと胸からシーツの上に突っ伏す。突っ伏してなお智秋は愁一郎に高々と尻を突き出し、彼のなすがままに身を委ねた。恍惚として潤んだ瞳はもはや焦点が合っておらず、か細く呼吸する口許からも唾液が溢れるままにしている。
そんな智秋を後ろからさらに強く押し上げるよう、愁一郎は躊躇うことなく腰をグラインドさせた。コンドームを装着しているために引き抜く必要もない。智秋の終点付近へリズミカルにペニスを送り込み、襞を掻き回して子宮口を乱打した。絶頂の近いヴァギナはいよいよ狭まり、粘っこく絡みついてきて身動きが取りにくくなってくる。
それは同時に射精の予感もペニスの根本へと殺到したためであった。少しでも気を緩めた途端、愁一郎は真っ白に爆ぜてしまうだろう。亀頭も幹も、もはや最高潮の勃起をきたしているのだ。
べたっ、べちっ、べたっ、ぺたっ…
愁一郎の腰と智秋の尻、恥骨の辺りと会陰が間断なく間の抜けた音を立て…
じゅぷ、じゅぷっ、づぷっ、ぶぷっ…
根本までペニスを受け入れたヴァギナは小刻みに生命の音を奏で、水っぽい調べが清楚な室内いっぱいに響き、二人の淫らな気持ちに油を注いでゆく。愁一郎も智秋も心地よい発汗と疲労に包まれ、気だるさの中でそれぞれの快感を見出していた。
いやらしい音が占拠している室内には二人のフェロモンもたっぷり立ちこめ、汗と熱気でジットリと蒸し暑くなっている。うかつにその湿った空気を吸い込んだ者があったとしたら、たちどころに欲情して自慰にふけってしまうだろう。それほどまでにこのスイートルームには淫靡な雰囲気が満ち満ちていた。
「ち、ちあきっ…ちあきっ…!」
「お、おおば、くぅん…!」
せつなげに眉をしかめて射精欲を堪えている愁一郎は、智秋に追いすがるよう前のめりになり、彼女の胸の下敷きになって柔らかくたわんでいる乳房を両手に包み込んだ。勃起した乳首を中指と薬指の間に挟み込みつつ、もみっ、もみゅっ、と力を込めて揉む。ペニスを突き立てられながらの乳房への愛撫に智秋はビクンと肩を跳ねさせ、上擦った声を腹の底から絞り出してあえいだ。
「はあうっ!うっ、ふぁあっ!!あひ、ひいいっ!!」
「ちあきっ…く、くっ…ちあきっ!!で、出るよ、出るよお…っ!!」
「いいよ、出して、出してぇ!あ、あたし…も…い、イ…!!」
情けなく鼻にかかった声で愁一郎が叫ぶと、智秋は息も絶え絶えになって答えた。フルフル、とかぶりを振った後で引きつけでも起こしたかのように腰をガクガクさせる。ガチガチのペニスはぎゅっ、ぎゅうっと握られるよう立て続けに締め上げられた。隙間から行き場を失った愛液が染み出てくる。
その狭い膣内で、愁一郎は最後のグラインドを繰り広げた。とん、とん、とんっと勢いをつけて子宮口を打ち、くびれで襞をえぐりつける。
射精を限界まで堪えるよう、愁一郎が両手にした智秋の乳房を握りしめた瞬間…彼女の身体の中を強い電流が一筋、走った。
ビ、クンッ…。
「い、いぁ、イクッ!イクうっ!!い、いひっ!!ひゃあ、ひくぅっ!!」
かあっ…と膣の奥が燃えるように熱くなったかと思うと、その熱は瞬時に身体中を覆い、意識を絶頂感の白一色に染め抜く。感涙が溢れ、体内で形が浮き上がるほどにペニスを締め上げている感触すらも遠ざかると…声を限りにしていた女の子の鳴き声もやがて、ぐったりとなって一切の反応ができなくなってしまう。
「ふぁ…ふぁあ…あ、あぁ…ぐぅぅ…」
智秋は達してしまったのだ。
初めて辿り着いた法悦の境地ではるかに持て余す快感を押しつけられ…全神経がそれの享受に回ってなお快感は中枢を冒し、彼女に失神を余儀なくさせる。失神しながらも身体中がブルブル微震しているのは、余韻が身体を奮わせているためだ。
大好きな愁一郎と心ゆくまでじゃれあい、焦らされた果てのセックスで身も心も満たされてゆく。深呼吸を繰り返す顔は、知れず笑顔を浮かべていた。
あとには貴重な精を逃すまいと…智秋の女性としての本能がペニスを強く締めつけるのみだ。
「ちあき、いっ…あ、ああっ…出るよっ、出るうっ!!」
エクスタシーに堕ちた智秋に数瞬遅れ、愁一郎にも限界が訪れた。狭まりきったヴァギナの中、一瞬だけムクッ…と膨れ上がり、
びゅるるっ!!
「ぅくっ!!」
びゅううっ!びゅっ!びゅっ!
「ふうっ!うっ!くううっ…!」
ドクン、ドクン、ドクン…
「ふぁ、くっ…出るぅ…こんな、いっ、いっぱい…!!」
智秋と深く繋がり合ったまま、思いきりよく爆ぜる愁一郎。
智秋の子宮口にめり込ませるよう先端をぐりぐり押しつけたあとで本能は理性を追い越し、愁一郎を心ゆくまで射精させる。一度飛沫かせてしまうと、もう堪えることはできない。二撃、三撃、四撃…新鮮な精液を膣の奥に送り込まんと太い管を脈打たせる。
しかしせっかくの精液は智秋の子宮へと流れ込むことなく…コンドームの先にある精液溜まりに噴き出てプクゥ、と膨れ上がらせるのみだ。透けるようなラテックス製の障壁ではあったが、その堅固さは忠実に使用者の思惑を守り通してくれる。
膣内射精を免れた精液は、それでもコンドームから溢れ出そうと亀頭からくびれへと滲み上がっていった。それだけ勢いよく、大量の射精であったのだ。
勢いと量からも推し量れるとおりで…愁一郎が手にした射精の心地は直前二回のものと比べても別格であった。一瞬だけではあったが失神してしまい、智秋の髪に顔を埋めてしまったほどである。
後から後から自分でも信じられないほどにペニスはたくましく脈動し、パンパンに張りつめた先端から精液を放ち続けている。その感触も、射精後の余韻も素晴らしかった。夢見心地、とはこのような状況を言うのだろう。
余韻に震えるペニスを引き抜きもせず、柔らかな乳房を握りしめたままで愁一郎は脱力し、智秋の背中にのしかかっていった。かろうじて残る理性が、彼女に重くしてはいけないと働きかけ…そのまま二人して、ころんと横になる。後背位で繋がったまま、二人はゆっくりと呼吸を整えて余韻に浸った。
「はぁ…はぁ…ちあき…ん、んんっ…」
「ふぅ…ふぅ…おおば、くぅん…」
上擦った声が元に戻らないので、愁一郎は慌てて咳払いしてみる。それだけ絶頂の衝撃が大きかったということか。余韻も大きいため、挿入したままのペニスは少しも萎えようとしてくれない。根本付近までぬっぷり膣内に埋まり、智秋の膣口を拡げたままだ。
智秋も失神の底から立ち直ったようで、濡れて震えた声ではあったが返事をくれた。それでも返事をするのが精一杯であるらしく、深呼吸を繰り返す以外は身じろぎひとつしない。深呼吸で乳房がふよふよ動き、イッたままであるのかヴァギナがきゅきゅ、きゅきゅ、と断続的に締め付けているのがせめてもの動きだ。
「…ちあき、気持ちよかったよ…。すっごいいっぱい出たみたい…。」
「あたしも…信じられないくらい気持ちよかった…。今もね、なんかまだ…イッてるみたいに気持ちいいのよ?いい感じ…最高…。」
「よかった…智秋に満足してもらえて。そろそろ抜こうか?」
「ううん…もう少しだけ、入ったままでいて…。おおばくんに包み込まれてる感じで、すごいあったかいんだ…。太ぉいの、あたしの中を押し広げてる…。胸だって…両手に包まれていい気持ち…。」
「ん…じゃ、もう少しだけ…。」
智秋のささやかなおねだりに応じ、愁一郎はまどろむように目を伏せると彼女の髪に顔を埋めた。すぅ、と鼻で深呼吸し、汗ばんだ背中にそっと口づける。愁一郎のいたずらで、智秋はくすぐったそうに喉を鳴らした。
最初から最後まで、なにもかもが優しいセックスの果てに本当のエクスタシーを見つけられたような気がする。終わった後にまで絶頂感が残り、身体中が敏感になったままという現象は未体験であった。
至高の悦びを教えてもらったことが嬉しくて、ありがたくて…せつなく満たしたままの胸の内圧は下がることを知らない。もうこのままずっと、愁一郎と一緒にいたくなってしまう。
みさきには悪いが、このままどこかへ愁一郎をさらっていきたい気分だった。今さら何を言ってももう遅いのは承知の上だが、学生時代から愁一郎への思い入れは人一倍強いものだったと自負できるほどなのだ。
好き、というのは言葉の上だけではなく…本当に愁一郎の何もかもが好きなのだ。
「お、おおばくん…あたしたちって、すっごい相性合うみたいだよね…?」
「ああ…智秋のなか、ぴっちり狭くって、敏感で、熱くって…それでいてすっごいヌメヌメになってくれるし…。オレの動きにも積極的に合わせてきてくれたしさ、身体の相性はホントピッタンコだよな。」
思わず口をついてしまった智秋の質問に、愁一郎は激しい交わりを回想してそう答えた。余韻がいつまでも消え去らないこともあるが、智秋の嬌態を思い返すだけで無節操なペニスは彼女の内側で熱く漲り直そうとするほどなのだ。それだけ智秋とのセックスは興奮に燃え、快感に濡れることができた。
「…そんなつもりで言ったんじゃないんだケド…」
「ん?なに?」
「なんでもなぁいっ!」
忘我による失言を心から悔やんでいた智秋であったが、愁一郎のずれた返事にいささかすねてしまい、ボソッと独語する。聞き取れなかった愁一郎が問い返してきても、もう智秋は本音を語ろうとはしなかった。
愁一郎とは今夜かぎり。いくら好きでも、もう彼にはかわいい妻がいるのだ。親友を悲しませることは、すなわち親友が愛する男性…つまり愁一郎をも悲しませることになるだろう。そうなってしまっては不本意だ。
あらためて今夜の関係に割り切りをつけると、エクスタシーによる脱力感や疲労感がみるみるうちに消失してゆく。身体は余韻による興奮でいまだに敏感さを維持したままであるが、手足はどうにか動かせるまで復調してきた。さすがに腰までは抜けていないようだ。
「おおばくん、そろそろそっち向きたいな。」
「ああ、じゃあ…抜くね。」
智秋の間接的なお願いに、愁一郎は乳房から両手を離して彼女の尻に触れた。智秋の膣内は収縮を極めており、おまけにかなりの密封状態であるから力を込めないと抜け出ることができない。やんわりと萎えてきているため、コンドームごとつかまないと抜け落ちる危険性もあるなど、最後まで油断は禁物だ。
並んで横になったまま、智秋の尻を突き放すようにしつつ腰を引き…
ぬる、みゅぬるるっ…ぽぶっ…
「んんっ…!」
「はい、お疲れさまっ。」
全長が抜け出た弾みで締まりの良さを表す空気音が漏れると、智秋はピクンと身体を震わせて悩ましげにうめいた。今の今まで押し広げていた異物がすっかり抜け出て、逆に違和感を覚えた花筒が最後の収縮を見せたためである。愛液の糸を引かせるペニスを追うよう、ぷぶっ、と小さくしおを噴く。
愁一郎は身体を起こすとベッドサイドのティッシュペーパーを何枚も引き出し、智秋を艶めかしく濡らしている愛液を拭った。尾てい骨の辺りから肛門、会陰…裂け目の中はもちろん、内ももに至るまでを丁寧に払拭する。
智秋を拭った後で自らの内ももや腰からも愛液を拭い、脱力したペニスからコンドームを引き剥がしてゆく。そっと精液溜まりをつまんでたるみを取りながら、少しずつ根本からずらして…びと、と脱がした。精液溜まりに納まりきらなかったぶんがせり上がり、くびれの辺りまでを白濁でヌルヌルさせている。
ペニスも同様にティッシュで拭きながら、あらためて使用済みのコンドームを観察した。濃厚な精液が淡いピンクのラテックスの中にたっぷりと溜まっている。今宵三度目の射精であるはずなのに、よくこれだけ放ったものだと自分ながらに感心してしまうほどだ。
「智秋、見てみる?こんなに出してたんだぜ…?」
「どれどれ…わぁ…。なんか、顔にかけたときよりも多くない?」
「うーん…きっとそれだけ、繋がってる時の智秋がかわいくって、気持ちよかったからだと思うよ?あ、これはお世辞なんかじゃなくって、実際に関係あるもんなんだぞ?自分の理想に叶えば叶うほど、気持ちよければ気持ちいいほどたっぷり出るもんなんだ。さすがに蓄えられてる絶対量は決まってるから、必ずしもそうとはいえないけど…。」
ゆっくりと上体を起こし、指先に摘まれてぶらん、と下げられているコンドームの先をまじまじ見つめる智秋に、愁一郎は照れ隠しも兼ねてうんちくを披露してみせた。もっともこの話は友人との猥談と経験則による知識であるため、科学的根拠があるのかどうかは愁一郎自身も不明だ。
余談はともかく。愁一郎は風船の口を結ぶようにコンドームをしっかり縛ると、大量に消費したティッシュペーパーとともにくずかごに詰め込んだ。これでもう一度シャワーを浴び、身支度を整えれば利用予定時間の三時間ちょうどであろう。
「…じゃあさ、大場くん?みさきと比べたら、どっちがいっぱい出ると思う?それに…雅美や涼子、ユッカとかも考えたとしたらどうかな?」
「そ…そんなこと知るかっ!それよりシャワー浴びようぜ?もう時間になっちまうよ!」
からかうように親友の名前を列挙する智秋。平静を取り戻した瞳には普段通りの溌剌とした光が輝いており、口調も楽しそうで今にも弾み出さんばかりに軽妙だ。
そんな智秋の揶揄で良心の呵責に苛まれる愁一郎は恥ずかし紛れにそっぽを向き、今さらながら前を気にしつつベッドから下りる。せめてバスタオルくらいは持ってきておくべきだった、と後悔しながら慌てて浴室へ駆け込んだ。
「ねえ大場くん!フロントに電話してもいい?」
「ああ、好きにすればいいよ。」
この期に及んで何をルームサービスしてもらうつもりなのだろう。
ベッドから聞こえてきた智秋の声に気前よく答えながらも、愁一郎は一瞬そう考えて小首を傾げた。
しかしシャワーから湯を出し、仕切りドアを閉めようとしたときに耳を疑うような声が寝室から聞こえてきた。
「あ、もしもし?えっと…休憩三時間って話だったんですけど、このまま宿泊、ということに変更お願いします。はい、はい、よろしく。すみませーん。」
「なにいっ!?」
シャワーの湯を止めると愁一郎は慌ただしく腰にバスタオルを巻き、駆け込んだとき以上の勢いで浴室から飛び出た。智秋の言うフロントに電話、とはルームサービスを頼む意味ではなかったらしい。
はたして智秋はベッドの上で毛布をひっかぶり、ちょうどインターフォンの受話器を置いたところであった。肩で息をして、鳩が豆鉄砲を喰らったようにきょとんとしている愁一郎を見て屈託無く笑う。
「おかえりっ!あははっ、なぁに?その顔ぉ…!」
「お、お、おかえりじゃないっ!どういうつもりだよっ!!」
愁一郎はベッドの横に回り込み、飛び乗るようにして端に腰を下ろした。怒っているわけではないが、智秋の行動が釈然としないために狼狽の色の方が濃く現れる。
そんな愁一郎を前にしても智秋は悪びれることなくごそごそと毛布の下に身体を潜り込ませ、ちら、と頭と両目だけを覗かせてきた。無邪気に状況を楽しんでいるらしく、両目は純然たる笑顔の一部分として細められている。
「どういうつもりって、今夜はお泊まり会っ!」
「お泊まり会、じゃないっ!今夜限りってコトじゃなかったのかよ?」
「今夜は朝日が昇るまで今夜でしょ?今夜は一晩中、みさきから大場くん、貸し切りっ!ね、もう一回しようよぉ!ホントに今夜だけだから!朝日が昇ってからは今後一切、もう絶対に身体を求めたりしませんからっ!!」
「か、貸し切りったって…そんなに頭下げられてもなぁ…。」
ゲームの模範演技でも見せてもらったかのような気軽さで、名残を惜しんでアンコールをせがむ智秋。毛布の端から拝むように合わせた指を見せ、ウインクまでしてみせる。
よっぽど一緒にいることが楽しいらしい智秋を頭ごなしに怒鳴りつけることもできず、愁一郎は困惑した風に溜息を吐き、右手で口許を押さえた。
みさきに黙って朝帰りなんかしたくはないし…かといって智秋をなだめるのも困難なような気がする。愁一郎は学生時代からずっと、口では智秋に勝てないのだ。
かといって叱りつけて強引に置き去りにすることもできない。関係を持ってしまったからには、もう自分達は共犯なのだ。自分だけ被害者ぶるつもりは毛頭ない。
愁一郎としては、今の睦み合いで智秋を満足させることができなかった自分が悪いのだ、というふうに考えてしまう。
「…みさき、幸せだね。なにがあってもちゃあんと第一に考えてくれるダンナ様がいて。」
「…読心術かよ、もう…。」
「えへへ、顔に書いてあるのよっ。」
智秋の鋭い指摘に愁一郎は苦笑を禁じ得ず、左手を伸ばして彼女の額に触れ、そっと前髪をくしゃくしゃしてやった。身体が落ち着きを取り戻しても敏感なところは敏感なままであるらしく、智秋は気持ちよさそうに目を細めて小さく嘆息する。
「…これからあたしがすることはぁ、大場くんの独り占めに成功した果報者に対する嫉妬心がさせることだからね?」
「ん?」
ふいにそうつぶやくと、智秋はベッドから裸の身体を起こし、再びインターフォンの受話器を持ち上げた。プッシュボタンのゼロを押して外線に切り替えてから、アーケードゲームで鍛えた人差し指、中指、薬指を駆使し、ゲーム感覚の軽快さで愁一郎もよく知っている電話番号を叩く。それは愁一郎の自宅の…最愛のみさきが帰りを待っている自宅の電話番号であった。
「ちょ、智秋っ…!!」
「しっ…!ん、んんっ…あ、あー、あー。」
何を血迷ったのか、と狼狽えかけた愁一郎を片手で制し、智秋は受話器からコール音を聞きつつ咳払いして喉の調子を整えた。リモコンでテレビの電源をオンにし、適当なバラエティー番組を映したりもする。
やがて受話器からコツンという接続音が聞こえ、もしもし、大場です、という二人がよく知っている声が聞こえてきた。不倫の真っ最中に妻の声を聞いてしまい、さすがに愕然となってうつむく愁一郎。
「あーみさきぃ?あたし!チャキちゃんだよー!あはははは!!」
「…?」
うつむいていた愁一郎が思わず頭を上げてしまうほどに豪快な笑い声が室内に響いた。智秋はその声にふさわしいほど愉快そうに破顔している。
「あのねー、仕事から帰る途中にさぁ、駅でバッタリ大場くんと会っちゃってぇ、で、ちょーっとムリヤリあたしん家に連れ込んだのよぉ!いやー気持ちいいっ!ひっく…酒はやっぱりいいわねえっ!!」
話の内容から察するに、智秋は自宅に自分を誘い込んで酒盛りを繰り広げた、という状況を捏造したらしい。確かに酒は飲んできたとはいえ、智秋も自分もすっかり酔いからさめているのだが…それにしても智秋の演技は絶品であった。妙にフラつきながらけたたましく笑い、ガリガリ頭をかいてしゃっくりまでしてみせる。
『あ、そうなの?連絡ないから心配してたんだけど…。チャキちゃん、あんまり愁一郎くんに飲ませないでよ?チャキちゃんに比べたらぜーんぜん飲めないんだから!』
酔って上機嫌の智秋が電話をかけてくることが珍しくないのか、受話器の向こうのみさきは少しも疑うことなく智秋に釘を刺したりしてきた。
愁一郎と智秋の親密さをわかっているからこそみさきは疑わないのであろうが…そんな純真なみさきを欺いているのかと思うとますますもって良心の呵責に苛まれる。命じられずともインターフォンの前で頭を下げてしまう愁一郎。
「はいはいわかってますよーっ!あ、ちなみに大場くん、もう酔いつぶれてまーす!あ、連絡するの遅かったかしら?きゃははははっ!」
『もう…!でも安心したぁ。智秋と一緒にいるんなら大丈夫だよね。風邪引かないように気ぃ使ってあげてよ。』
「わかってる、じゃあ毛布でもかけとくわね。じゃあまたね、ごめんねーっ!」
『ううん、こちらこそわざわざありがとっ!愁一郎くんに、みさきがカンカンだったって伝えておいて!』
「はぁい!じゃあねーっ!」
がちゃん、とわざとらしいほど乱暴に受話器を戻してから…智秋は愁一郎に倣ってインターフォンに頭を下げる。やるせなさそうに溜息を吐いてから腰をずらし、愁一郎と並んでベッドの端に腰掛けた。ぴっとり寄り添うと、背中で長い髪がさらりと揺れる。
愁一郎はしばらく躊躇うように天井を眺めていたが、やはり愛しい気持ちは偽れないようで…知れず左手は彼女の肩を抱いてしまった。それに合わせて智秋は小さく笑う。
「みさきには悪いことしたなって思ってるよ。でもね、それはあくまでウソをついたことに対して。大場くんとこんな関係になれたこと…あたし、後悔してないよ?」
「智秋…。」
「大好きなひとと思いっきりエッチしてさ、そのままくたびれ果てて一緒に眠っちゃいたい、その夜はずうっと一緒にいたい、って願望は女性なら誰しも持つものじゃないかな?少なくともあたしはそう感じたし、それに従ってるだけ…。」
真っ直ぐに愁一郎を見つめながら、智秋は確かな口調で告げた。その顔は媚びてもなく、憐憫を誘うふうでもなく…ただ幸せそうに微笑んでいるだけであった。ひとときの温もりではあるが、憧れていた男性との夢のような時間を過ごせたことで瞳は愛らしく潤み、控えめな室内照明を照り返している。
「明日からは新しい恋を探すよ。これは絶対約束する。女としての意地って感じかな?みさきよりももっともっと幸せになって、羨ましがらせてやるの!」
「ふふふ…そうそう、その意気だよ!頑張れ頑張れ!」
健気な智秋が微笑ましくなり、愁一郎は彼女を抱く左手に力を込めた。智秋は嬉しそうにニコニコしつつ、愁一郎の肩に頭をもたげてくる。
「…とかまぁカッコつけてるけど?実は大場くんとエッチしてると気持ちいいからお泊まりってことに決めたんだけどね?はははっ!」
「なーんだ、本能に忠実なんだな、このデコオンナは!」
「あはは、もうデコオンナって言われてもイヤな感じ、しなくなってるもんね!」
「ちぇっ!つまんねーのっ!」
ふてくされるフリをしながらしたたかにデコピンを見舞う愁一郎。智秋はすぐさま痛そうに顔をしかめたが、それでもじゃれあう感触はどうにも心地よい。
「何度も言っちゃうけど…好きよ、大場くん…」
「オレも好きだよ、智秋…」
「みさき、カンカンだったよ?それでも?」
「それとこれとは別だろぉ…?」
ちゅっ…。
思い出したように口づけする。智秋は愁一郎の肩にすがりながら、愁一郎は先程デコピンを食わせた智秋の額を親指で撫でながら積極的に唇を重ねた。
つづく。
■→次回へ
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