X指定小説大賞参加作(オリジナル)

■ライク ア シングル(4)■

作・大場愁一郎さま

 

 

 

「もぉいいかい?」

「…まぁだだよっ。」

ぽさ…ぱさ…

 愁一郎の歌うような問いかけに、智秋も歌うように答える。

 少しだけ仕切りドアが開けられ、湯気がもわもわと溢れ出る浴室内からシャツ、ブラジャー、ヘアバンド、時計…そしてストッキング、ショーツ…先程まで智秋が身につけていたものすべてが床の上に落とされてゆく。その後で仕切りドアは勢い良く内側から閉められた。その素早さたるや鳩時計の鳩のようである。

「…もぉいいかいっ?」

「…まぁだだよっ。」

さら、さら…きゅふっ…ざざー…ぱしゃぱしゃ、ざざー…

 自らもタンクトップとスラックス、靴下を脱ぎつつ…愁一郎は焦れったそうに先程よりも強い口調で歌った。浴室内からは智秋の歌声とともに、かけ湯をしているとおぼしき水音が聞こえてくる。その前に聞こえた音は美しい黒髪をタオルで上げた音だろうか。

 裸の…一糸纏わぬ姿の智秋が左肩、右肩、とかけ湯をしているのかと思うと、愁一郎のペニスは今まで以上に熱く漲ってしまった。最後の一枚であるトランクスを脱ぎ捨てたあとも、主を威嚇するような猛々しさで固く固くそそり立っている。

 智秋の尻の谷間で擦れていた余韻がどうにも取れない。逸り水は相変わらず漏出を繰り返し、ツヤめく先端をヌルヌルに潤わせている。萎える気配は少しも無かった。うかつに握りしめたりすると、思わず自慰に走って性欲を処理したくなるほど高ぶったままだ。

 確かに、今まで愁一郎の胸中に智秋を抱いてみたいという想いは少なからず存在していた。オナペットとして使わせてもらったこともしばしばである。

 そんな智秋を今夜…正々堂々と、というわけではないが、抱けるなんて…。

 切望が現実のものとなった今…愁一郎の男としての本能は理性もきれい事も忘れさせ、彼女への愛しさを糧として雄々しく奮い立っている。

 彼女の鳴き声が聞きたかった。

 彼女の淫らな顔が見たかった。

 彼女と…果てたかった。

 ふられたことが傷となって残っているのなら、普段みさきにだけ向けられている愛情を分け与えて癒してあげたい。自分が慰めになるというのなら、全身全霊を以て応えたい。

「…もう…いいだろっ…?」

 全裸の腰にバスタオルを巻いてしまうと…愁一郎はもう、問いかけをおどけるような歌にはできなくなってしまった。焦れったさが物質化するよう、ジクン、と逸り水が滲む。

 勃起したまま入浴しなければならないのかと思うと気恥ずかしくてならなかったが、もう後はなかった。少しでも長い時間一緒にいたいという気持ちが最優先なのだ。

ちゃぽ、ちゃぷ…

「…もう、いいよ…?」

 湯船に肩までつかったような水音の後、しばしの間をおいてから智秋は返事を寄こした。

 彼女の声も、もう歌ってはいなかった。耳をそばだてていないと聞き逃してしまうような、不安に満ちた儚い声。おしゃべり好きな溌剌声も、今は借りてきた猫よろしくおとなしくなっている。彼女らしくもなくと言ってしまえば失礼かも知れないが、それなりに緊張しているらしい。

「…おじゃましまぁす…。」

 愁一郎は足音を忍ばせるようにして浴室に入ると、後ろ手でドアを閉めた。

 もうもうと湯気の立ちこめる浴室は照明の暖かな明かりがすみずみまで満ちており…その明かりの下で智秋は入り口に背中を向け、肩まで湯に浸かっていた。

 長い髪をタオルでコンパクトに包み込んだ智秋はうつむいており…まるで冷水にでもつかっているかのように小さく震えている。愁一郎は腰からバスタオルを取ってバーラックに乗せると、かけ湯をしてから智秋の耳元に唇を寄せてささやいた。

「…入るね。」

「…うん。」

 小さくうなづく智秋。バスオイルでも備えてあったのか、湯はラベンダー色でほんのりと香り立ち…それでも透明度は高く、智秋が湯船の中、小さく縮こまるように体育座りをしていることが見て取れた。

ちゃぽ、ちゃぷ…ざざー…

 愁一郎が智秋の背後で湯船につかると、立派なタイル貼りの浴槽から洗い場へと、過剰な湯が溢れこぼれる。

 こうやって大人二人がいっぺんに入ったとしても浴槽は縦横ともにかなりの余裕があるのだが、智秋は一向に体育座りの姿勢を崩そうとしない。

 その姿勢でなければ落ち着かないのだ。実際、愁一郎に入ってこられてからはその縮こまりをさらに強めたほどである。

 先程まで恥じらいすら忘れかけて愛撫に浸りきっておきながらも…裸の身体を愁一郎に見せてしまうことが恥ずかしくてならないのだ。

 親友と比較してしまうが、バストは里中雅美ほどの迫力がないし…。

 ウエストは桐山涼子ほど美しくくびれていないし…。

 ヒップは愁一郎の妻であるみさきほど形良くないし…。

 なんといっても前を覆う性毛が…倉敷由香のように美しくないのだ。

 これらすべては親友と比較した上での肉体的コンプレックスなのである。

 自分の身体には満足しており、ある程度の自信も持ってはいるのだが…親しい友人と見比べたりしたらどうにも見劣りする箇所が目に付いてしまう。自分もあれくらい美しければ、と無意味な想像をしたりもするのだ。

 そんな智秋だから両親に見せるのも恥ずかしいのに、ましてや相手が憧れていた愁一郎ともなればその恥じらいはなおさらであった。

 智秋は高校時代、愁一郎に男性の性欲やその処理方法を子細に教えてもらったことがある。思春期にさしかかり、ことさら女子に興味を示す男子を鼻で笑いつつも…愁一郎もまた同じなのか、そして愁一郎の理想はどんなものなのか、と疑問を抱いたためだ。

 質問を持ちかけるのも恥ずかしかったが、愁一郎もまた話しづらそうにしていたのをよく覚えている。誰もいない放課後の教室で、ともすれば不祥事が起きかねない状況であったが…普段から親しくしている間柄だけに、愁一郎ははにかみながらも自分の考え方や理想、そして処理方法まで洗いざらいを自分に打ち明けてくれた。

 同性の親友達ともその手の話題をおしゃべりのネタにしたことはあったが…男子の赤裸々な考え方、そしてあからさまな慰め方は智秋にとってあまりに衝撃的な内容であり、その衝撃で翌日丸一日寝込んでしまったほどである。

 その日一日じゅう…智秋は情欲の赴くまま、手淫にふけった。

 脳裏に翻すは愁一郎の笑顔。愁一郎の声。そして愁一郎の…思い描いたペニス。

 布団を抱き、ベッドの上で転げ回り、額を、唇を、乳房を、そして陰部を心ゆくまで慰め、独り寝の部屋に夢中で嬌声を響かせた。汗ばんだ身体を痙攣させ、何度達し…何度失神したかは覚えていないほどである。

 ゲームとおしゃべりが大好きで…男子も恋愛対象としてではなく、ただのおしゃべり相手としてしか見ていなかった智秋であったが、これがきっかけで性の誘惑を受け入れ、性の悦びを貪るようになっていったのだ。愁一郎への想いが本物になったのもちょうどこの頃である。親しい関係はもちろん崩れることは無かったが、確実に恋心は智秋の胸の中で芽生え始めていた。ついでにいうなら、お化粧やファッションに興味を示し始めたのもこの頃である。

 そんな今の自分を築いてくれた愁一郎に劣等感で覆われた身体を…とうてい彼の理想に登るはずもないと諦めていた身体を見せてしまうのが智秋には耐えられないのだ。情けなくて、申し訳なくてならないのだ。

 風呂の湯は温かく適温である。しかし、のぼせたわけでもないのに顔が熱い…。

ひゅぱっ…。

 恥ずかしくて…逃げ出したいくらいに胸が痛むのに、ヴァギナはきゅきゅっと締まり、湯の中に恥じらいの雫を噴き出した。結果的におあずけをくらうことになった愛撫に、身体の中にはもう鎮めることのできない炎が燃えさかってしまったようだ。

 できるものなら…今すぐオナニーで火照りを鎮めたい…。

「こ・ま・ざ・わっ…」

「ひっ…!」

 愁一郎が甘えるように呼びかけつつ両肩に手をかけてくると、智秋は大袈裟なほどの悲鳴をあげてしまった。愁一郎とともにいる現実に引き戻され、あらためて事実を認識するとヴァギナはさらに狭まり、ぴゅっ、ぴゅ、と新鮮な愛液を湯の中へ迸らせる。

「こっちおいでよ。そんなにちっちゃくならなくても、お風呂でっかいんだからさ、オレに気を使う必要なんてないぜ?」

「そうじゃなくって…あたし、身体に自信ないもん…かっこわるいもん…。」

「…そんなこと、高校時代から一度だって思ったことないぞ?」

「あたしが思うのっ!」

「じゃあ気のせいだ。智秋ってホント、イイ身体してるよ。」

 愁一郎の言葉はまさに本心そのものであった。魅力を覚えていなければ、思春期の性欲に飲み込まれていた当時でもオナペットとして使ったりはしていない。

 あぐらから足を投げ出し、両脚を開いた体育座りになると…愁一郎は縮こまっている智秋の両脚に手をかけ、懐へと身体を引き寄せた。つつつ、と背筋を指でなぞってやると、智秋は小さく鳴きながら背中を伸ばす。

 そうさせてから彼女の両肩をゆっくり…しかし力を込めて揉んだ。男の握力の前にその肩は柔らかかったが、凝っていることだけはしっかりわかる。肩揉みはみさき相手に慣れているのだ。

「なんだ?最近身体、動かしてないんだろ?ほれ、右腕大きく回してみな?」

「こう…?あ、んっ、んん…いい気持ち…。」

 首筋から肩、肩から背中にかけてを揉まれ、指圧され、言われるままに右腕をぐるんぐるん回す智秋。肩の凝りが、張りつめていた場の悪い緊張とともにほぐされていくようで最高に気持ちいい。安堵の溜息が肺腑の底から漏れ、柔らかな微笑がさざめく湯面に映る。

「なかなか上手いだろ?次は左腕…そうそう、ほら、だいぶ柔らかくなってきた。女の子は積極的に身体を動かして血行をよくしてないと。まぁ、男にも言えることだけどな。」

「優しいね…。こんなこと、アイツは…」

「ストップ!駒沢…もう思い出すな。忘れちまえ。」

「…そうだね。今は…今だけは大場くんにぜーんぶすがっちゃおう…。」

「そうそう…。なんにも緊張することなんてないんだ。そんな仲じゃなかったろ?」

 別れた男に思いを巡らせかけた智秋を厳しく制し、愁一郎は肩揉みの手を止め…その小さな肩を強くつかんだ。

 無理に言い聞かせてでも、終わったことにクヨクヨさせたくない。

 その一心で励ますようにそうした両手は…智秋にとってなんとも頼りがいのあるものであった。込められた力のぶんだけ安らぐことができる。嬉し涙で涙腺が震えかけたが、クスリと小さく笑って背中を愁一郎に預けると、涙腺決壊の予兆は遠のいた。

「大場くん…ありがとね。」

「ばーか、そんなこと気にするなって。」

 安堵しきった様子の智秋に笑いかけるようつぶやくと、愁一郎は智秋の玉のような肌を、より一層心を込めて揉んだ。

 少しは支えになれてるかな…。

 そんな愁一郎の満足感がこみ上げるにつれ、失恋の痛手でささくれだっていた智秋の気持ちも次第になめされてゆく。丁寧なマッサージは智秋にリラックスを促し、心地よくアルファー波の発生を誘った。湯の温もりと愁一郎のマッサージ、愛撫による適度な疲労と興奮で…智秋は心地よく眠りに落ちるよう目を細める。

「…だいぶ落ち着いた?」

「うん…。」

「じゃあもう身体のことも、過去の男のことも忘れる。いいな?みっつ数えると駒沢はキレイサッパリそれらを忘れる。いち、にぃ、さん…はい忘れた!もうお前は忘れたんだゾ?気にするハズがないんだかんなっ!」

「うん…もう…すっかり忘れちゃった…!」

 愁一郎のおどけるような気遣いがおかしくもあり、ありがたくもあり…なにより嬉しかった。嬉しかったぶん…感涙を押さえ込むことができなくなってしまう。うつむいた顔から湯の中へ、ぽとん、と清純な雫が滴った。

「あれ、泣いてんの?」

「な、泣いてなんかないよっ…眠くなってきちゃって…涙が…」

「なんだよそれはっ!ほら駒沢、次は腕貸して。」

「うんっ。こうでいい?」

 戯れるように笑い合うと、二人の身体から過剰な緊張はすべて解体されてしまう。穏やかに微笑んだ智秋が背後のたくましい胸板によりかかると、愁一郎は彼女の右腕を取り、二の腕を裏表まんべんなく揉みほぐしてやった。バスオイルの効能を染み込ませるよう湯の中でゴシゴシ摩擦して、智秋の柔軟な筋肉に愛撫とも呼べるほどのマッサージを施す。

 右腕全体を揉みほぐしたら、今度は左腕も同様にしてやった。二の腕は両手でぎゅっぎゅっと握るようにしつつ、手の平は指を大きく広げさせ、くまなく指圧する。

「ああ…ホントじょうず!気持ちいいよぉ…ホント、このまま眠っちゃいそ…。」

「そりゃあさぞかし気持ちいいだろうけど…オレだけ置いてくなよな?」

「わかってるわよぉ…そもそも置いてけるわけ、ないじゃない…?」

「え、それはどういう意味?」

 ほんのり頬を染めた智秋が振り返りながらそう言ったので、愁一郎は思わずその可憐さに胸をときめかせながら問うた。

 しかし智秋は苦笑するように微笑んだまま、右手で口元を押さえてなかなか答えてくれない。そんな彼女のふくらはぎに手を伸ばしつつ、愁一郎は重ねて訊き返す。

「置いてけるわけないって…オレにもマッサージ、お返ししてくれるの?」

「大場くんはあたしのマッサージより、してもらいたいことあるんじゃないの?」

「な、なんだよそれぇ?」

「だって…大場くんの…その、あたしの背中に当たってる…。」

「うっ…こ、これは…あはは…その、ごめん…。」

 智秋の指摘にギクリと肩を跳ねさせる愁一郎。

 そうなのだ。浴室に入る前から隆々と勃起していたペニスが、今は智秋の背中にあつかましいほど密着しているのだ。労りをもって接していたつもりなのだが、ほのかにたゆたう智秋の匂いに身体は反応してしまうらしく、恥ずかしいほど元気良くそそり立っている。

 智秋が愁一郎にもたれかかったため、背中とペニスは必然的に密着を余儀なくされたわけだが、二人が動くたびに張りつめた先端が擦れるのもたまったものではなかった。

 夢中で智秋を思いやっていたために気付かなかったが、もし愁一郎がやましい気持ちでマッサージに専念していたなら、今頃智秋の背中を逸り水でぬめらせていただろう。ともすれば湯の中で射精していたかもしれない。

 とにかく、愁一郎としてはどうにも決まりが悪い。これでは先程までの言葉からいっぺんに説得力が霧散し、下心が剥き出しになっているとも取られかねない。

「大場くん…さっきの続き、したいの…?」

「…ああ。駒沢さえよければ…したい。」

 当惑の溜息混じりに智秋が問いかける。愁一郎はふくらはぎへのマッサージを続けながら、気取ることなく欲望のままを言葉にした。

 したいのは事実である。時間も今夜限りであり、それになによりウソを言ったところで始まらない。

「…じゃあ…せめて今夜だけ、あたしを愛してくれる?」

「愛って言葉、あまり使いたくないんだけど…今夜は駒沢のことだけを考えるよ。今夜は駒沢と気が済むまでイチャイチャしたい…っ!」

 智秋がさらになにか言おうとしたとき、愁一郎は背後から彼女を抱き締めていた。わきから両手を差し込み、胸の前で交差するよう抱き締め、左手は右肩を、右手は左の乳房をわしづかむ。

「お、おおばくんっ!!ちょっと待って、お風呂の中でなんて、そんなの…!!」

「一緒にのぼせちゃおう?なんなら…お湯の中でセックスしてみる…?」

「うそっ!?ちょ、だめ…あっ、く…おおば、くぅん…!」

むにゅ、むにゅ…もみっ、もみっ…

 智秋の哀願を聞き流しつつ、耳元で誘いかける愁一郎。湯の中でわしづかまれた乳房は大胆なまでの動きで揉みし抱かれ、冷めかけた愛欲を柔肌の内側いっぱいに張りつめてゆく。中指の下敷きにされた乳首も右に左に転げ回され、土筆が土から芽を出すようたちまちのうちに起きあがり、ツン、としこった。

ドキ、ドキ、ドキ…

はぁっ、はぁっ、はぁっ…

 湯の温もりもあいまって二人の動悸は早まり…頬を満たす熱量が増す。智秋は乳房への強引なマッサージにイヤイヤしながらも、熱い吐息を隠そうとはしなかった。否、隠すことができなかった。柔らかく性感帯を包み込まれ、強く揉まれ…感じるままに吐息を漏らし、あごをハクハクさせて愛撫に浸る。

「ふぁ、は…お、おおば、くん…お風呂の中はイヤ…ベッドまで待って…あたし、まだ髪も洗ってないのに…!」

「はあ、はあ…こまざわ…こまざわっ…キスしたい、キスしようっ、こまざわっ…!」

「ふぁ、はあ、はあっ…おおばくん…」

ちゅ…ちゅ、ちゅっ…ちゅぱ、ちゅちゅっ…ぷ、ちゅっ。

 振り返った智秋と濡れた唇を重ね、吸い付き合いながら愁一郎は乳房への愛撫を執拗なまでに繰り返す。左手も右の乳房を包み込み、欲するままに双丘を揉んだ。

もみっ、もみっ、もみっ、もみっ…

 労りのマッサージは狂おしい愛撫へと目まぐるしく昇華する。手の平にピッタリサイズのお椀形をした丸い乳房はバスオイルの効能によって一際スベスベし、手触りは格段によくなっている。揉み飽きることのない弾力は揉めば揉むほどその心地よさを増し、智秋が乳房で感じていることがわかるようであった。快感が内側に凝縮しているようにも感じ取れる。

ちゃぽ、ちゃぷん、ちゃぽっ…

「ん、こまざわぁ…」

「ちゅ、ちゅ…ぷぁ、おおば、くぅん…」

 興奮の汗が混ざり始めた湯を波打たせ、愛撫に酔いしれながら互いの名前を呼び合う。

はあっ、はあっ、はあっ…ふぅ、ふん、ふんっ…

 上擦った呼吸、そして鼻息はさらに深く、弾みをつけてゆく。

ちゅ、ちゅっ…にゅむ、にゅぐ、もごもぐ…はくぁ、あむ、ちゅぷ…

 肩越しの口づけは唇どうしでは物足りなくなり、舌を差し出し絡め合って、焦れた口腔を慰める。

ドキッ、ドキッ、ドキッ、ドキッ…

 そうすることにより、発情の鼓動は密着した背中と胸板ごしに感じ取れるようになる。

 バイクのタンデムシートよろしく並んだ二人は、心地よさそうに目を細めてそれぞれが求めるもの…

 愁一郎は智秋の柔肌に、声に、反応に…

 智秋は愁一郎の愛撫に、力に、体温に…

 それぞれ浸り、興奮の吐息を…鼓動を湯気に乗せてもうもうと踊らせる。

「こまざわ、こっち向いて…からだごと…」

「うん…待って…こう?」

「うん、そ…。まだ入れないから、こっち向くだけ…」

 智秋は愁一郎が求めるよう、湯船の中で身体を入れ替えて向かい合った。愁一郎の脚の上に自らの脚を乗せるようにし、あぐらで彼の腰を抱き込むようにする。

 尻をずらして寄り添うと、愁一郎の勃起したままのペニスは智秋の性毛に撫でられながら、かわいらしい筋にそってむにゅっと押し当てられる具合になる。

ちゅ、ちゅ…くはぁ、あぷ…んー…ちゅ、ちゅに、ちゅっ…

 焦れる唇どうしを愛しさに任せて慰め合いつつ、二人は強く抱き合った。

 互いの体熱…。

 互いの息づかい…。

 互いの鼓動…。

 互いの抱き心地…。

 向かい合っている対象のすべてが愛しくてならず、せがみあいながらキスを繰り返した。角度をつけて封じ、細めては吸い付き合い、戯れるように突っつき合い、深く舌を差し入れて艶めかしく擦れ合う。

「なんだよ駒沢、よだれいっぱい溜めて…吐き出しちゃえよ…?」

「そんあんじゃあいの…おおばくんといっひょに飲みたいあぁって…」

「さっきもやったじゃん…えっちなんだから…」

ちゅむっ…じゅるー…じゅるー…ごく、んく…

 角度を付け、頭まで押さえて唇を密着させてから二人は混ざり合ってたっぷり溜まった唾液をキャッチボールのように行ったり来たりさせた。性的興奮で分泌の多い唾液は生暖かく、微かな粘度を有して互いの舌に、歯茎に染み込む。

 やがて智秋から半分わけして愁一郎へと流し込み、喉をならして飲み干すと…智秋も愁一郎もせつなげに眉をしかめ、唇の中でくぐもったあえぎ声を漏らした。

 互いの味が舌の根本にまで染みわたり、喉を通過して胃に流れ込む。唾液を飲み合う淫靡な戯れに智秋も愁一郎も一様に頬を染め、照れくささを隠すようそのまま唇の密着を維持し続けた。

しゅぷ…

 智秋の味に愁一郎は過敏な反応を示し、湯の中に逸り水を噴いてしまう。なんとも格好悪いが、男のしお噴きであった。射精するほどの勢いと量ではないが、無色の粘液は確かに湯中へ混ざる。ガチガチのペニスは根本の辺りから震えていた。うかつに刺激を受けたりすれば、たちどころに貯蔵されていた精液を思うさまに放ってしまうことだろう。

「…駒沢、ちょっとヤバイ…。オレ、キスしてるだけでイキそう…」

「あははっ!大場くんもそんな声出すんだね!かーわいいっ!だめよ?お湯、汚れちゃうから…」

「う、うるさいなあっ…わかってるよ…。」

 たちまち耳まで真っ赤になり、愁一郎は恥じ入るようにうつむいた。情けない顔を見られたくないためにそうしたのだが…智秋はなおも耳元で意地悪をささやきかけてくる。主導権掌握を確信した表情は人の悪そうなことこの上ない。さすがにこの時の楽しげな表情は高校時代のものと同じだ。

「あーあ、大場くんイッちゃうんだ!キスだけでイキそうになるなんて、まだまだお子様だね!!これで弱みひとつ、いただきっ!」

「な、なにが弱みだ、このデコオンナ!」

「ひゃっ、あああっ!?」

 浮かれたようにはしゃぐ智秋にカチンと来た愁一郎は、ゲームに勝てない時の子供のような顔をすると右手を腰の下深く潜らせ、暴発寸前のペニスの下で媚びるようにくねっていた女性の裂け目に触れた。ぷつぷつと性毛の生えた外側の肉も、その間からちょっぴりはみ出ている粘膜質の桃肉もまとめて摘み、無遠慮に揉みはじめる。すでに裂け目のまわりにはベットリと愛液がまとわりつき、尻の方までぬめり気が拡がっていた。

むにゅ、むにゅ、ぷにゅっ…

 智秋の陰部もまた柔らかで、裂け目の中などは指先がとろけそうなほどに熱い。その体温を感じ取るよう、愁一郎は中指を伸ばして裂け目に真っ直ぐあてがい、そろ、そろ、と前後して桃肉を刺激した。

「だめ、だめぇ…!いじっちゃだめえ…!大場くん、やめてえっ!!」

 予想外の反撃に首をフルフルさせて鳴く智秋。浴室いっぱいに響くあえぎ声に、愁一郎はほんの少しだけ胸が空く。やはり主導権は自分が握っていたい。

 中指に角度を付け、桃肉の縁からチョピ、と突き出ているクリトリスに触れる。薄皮を纏ったままの紅玉を指先でくにゅくにゅ指圧するだけで、智秋の裂け目からは生暖かい愛液がびゅっと噴き出てきた。ぬめりが右手にもまとわりついてくる。智秋のデリケートな内側は…感度も締まり具合もすこぶる良好であることが予想された。

「おいおい駒沢ぁ、すっかり濡れ濡れじゃんかよぉ?自分だってキスしてて、こっそりイこうとしてたんじゃないのかっ?」

「ち、違うよっ!あたしイキそうになんて…あ、あひいっ!いや、あ、だめえっ!そんなにいじったらイク、イキそうなのっ!!ああっ…しお噴き、止まんないぃ…!!」

 一オクターブ以上も上擦って鳴きながら、智秋はあっさりと嘘を認めてしまう。だらしない顔で愁一郎を見つめながら全身をブルブルさせ…拒むわりに腰を浮かせ始めた。智秋の腰は浴槽の底をずり、やがて愁一郎の右手は二人の股間に挟まれてしまう。

 智秋は求めていた。声にこそ出しはしないが、ジリジリ痺れる恥丘に押し当てられたままのペニスを求めていたのだ。

 タオルで髪を上げた素顔はどこかあどけなさを残しており、それでいながらも大人の色香をしっかり漂わせている。相反する雰囲気が綯い交ぜになっていることからも、智秋がどれほどの高みで悦に入っているかが窺えるようであった。

 実際、智秋は羞恥の果てに現れた途方もない快感に怯えていた。独り遊びのときよりもねばっこく、後に引きそうな気持ちよさに感涙が止まらない。

 付き合っていた男とは…交わってもここまで官能を得たことはなかった。否、官能を与えてはくれなかった。悦びを分かち合おうとはしてくれなかったのだ。

 愛撫もそこそこの、自己満足に過ぎないセックスとも呼べない戯れ…。

 智秋はまだ女に成り切れていなかったと言えよう。今さらながら、そんな男にヴァージンを捧げてしまったことが悔やまれてならない。

 初めての男が愁一郎であったなら…。

 そんな無意味な仮想現実をイメージするだけで、やりきれなさと寂しさに襲われる。

 それでもいま、こうして愁一郎と戯れているのは仮想の付かない、れっきとした現実なのだ。逆襲するように裂け目を攻められてはいるが、その手が本当に嬉しかった。だから熱っぽい目で愁一郎を見つめ、高ぶり続けることができるのだ。

 愁一郎は愁一郎で、そんな智秋を見ているだけで腰の奥を危なっかしく震わせ、射精に備えてしまう。括約筋に力を込めて最後の瞬間を必死に耐えているのだが…ペニスは智秋の恥丘に押し当てられたまま、最高の勃起を示している。

 そんな危険極まりないペニスを、智秋はおずおずながら右手で包み込み、あまつさえぎこちなく上下にしごきたててきた。みゅる…と噴き出る逸り水が湯に絡まり、智秋の手の中でぬめってゆく。夢のようなペッティングであった。

「おおばくん…あたしにも、気持ちよくさせて…。男の子って、こうするんだよね?女の子に入ってるの、イメージして…こうやってするんだったよね?教えてくれたでしょ?」

「駒沢っ!ちょ、ダメだってば!オレ本当にヤバいんだからっ!!」

「あ、あたしだって…大場くんにいじられてるもん、嬉しいんだもん…っ!!」

 二人してとろけそうな顔を突きつけ合い、性器への愛撫でよがり鳴く。もはや湯につかったままのエクスタシーは回避できないだろう。

ごしっ、ごしっ、ごしっ、ごしっ…

 智秋はツヤツヤパンパンに膨張している愁一郎の先端を握り、搾るようにしごき…

くにゅ、くにゅっ、もみゅ、もみゅ…

 愁一郎は小さくなって官能が凝縮したような智秋のクリトリスを摘み、はみ出そうな柔肉ごと揉みこねる…。

「お、おおばくんっ…先にイッたほうが負けね…?ホテル代、おごりってことで…!」

「くそぉ…こまざわっ、ごめんっ!」

 最後の最後までゲーム性を追求するよう不敵に笑う智秋。その声を振り切るように叫ぶと、愁一郎は何を思ったか智秋の身体を思いきり突っぱねた。思いも寄らない愁一郎の抵抗に、智秋はペニスを手にしていた右手ごと突き放されて浴槽の端に背中を打つ。

「いったぁい!急になによっ!そんなにホテル代もったいないってことっ!?途中で止めるなんて反則じゃないっ!!」

 乱暴された驚きと中断された憤りで智秋は声を荒げる。鎮火不可能にまで燃え上がった身体は意識に気付かれることなく、右手を裂け目の奥へと進ませている。無意識にオナニーしようとした、まさにそのときであった。

「こまざわっ!!」

「んっ…!?」

むちゅっ…

 智秋が憤慨している間に愁一郎は体勢を整えたらしく、不意を打つよう膝立ちの姿勢で唇を奪ってきた。ちょうど指先がクリトリスに触れた瞬間であったから、智秋は思わず膣を震え上がらせ、中枢にせつない痛みを閃かせてしまう。

ちゅ、ちゅ…んふ、むちゅ…ぢゅ…

 優しく、だけど激しいキス。愁一郎の鼻息が頬にくすぐったく、智秋は恍惚の涙を流して身じろぎしようとしたが…頭は彼の両手でしっかり固定されていた。キスが拒めないようにされていたのだ。

ちゅば…

「こまざわ…」

「ふぁ…」

 音立てて唇が離されると、甘ったるい唾液が糸を引いて湯面に滴る。キスの余韻だけで、もはや智秋は陥落寸前まで追いつめられてしまった。言葉も出せない。媚びた表情で目の前の愁一郎を見つめたまま、せがむように唇をひゅくひゅくさせるのみだ。クリトリスに触れた指先もそれきり動くことはなくなっている。

「こまざわ…」

「だめ…触らないで…おおばくんに、触られてるだけで…あたし…あ、あた、し…」

 慈しみを湛えた穏やかな表情で見つめると、愁一郎は両手で智秋の頬を包み込んだ。中指の先で耳の裏側をなぞられると、智秋は息も絶え絶えにそこまでつぶやく。もはや身体中が性感帯になってしまったようであった。熱くて、フワフワして…身体の中から髪の先に至るまで、なにもかもが高揚感に満ちている。

「こまざわ…好きだよ…」

「そ…っ!!」

「大好きだよ…こまざわっ…!」

ぺ、ちゅっ…

 愁一郎の言葉でいっぺんに放心してしまう智秋。目を見開いて硬直したタイミングを見計らい…愁一郎は目を伏せ、舌から先に彼女の額へと口づけた。生暖かく、そして吸い付かれる感触に智秋はきつく目を閉じ…衝撃に備える。

ちゅぱ、ちゅ、ちゅっ…

「ひ、どい…おおばくん…そんなの、はんそ、く…ふぁ、あ、イク!イクゥッ!!」

 愁一郎が額への熱いキスを繰り返すと、智秋は喉の奥からひきつった悲鳴をあげ、腰に激震を走らせた。ボッ…と身体中を赤らめ、

きゅ、きゅきゅ…びゅっ、びゅっ…びゅっ…

「ひぁあうっ!!あひっ!!ひ、ひぃあっ!!あああっ!!」

 浴室いっぱいに狂おしくよがり鳴き、ヴァギナを精一杯狭まらせて…湯の中へ立て続けにしおを噴き…爆ぜた。

 憧れの男性に憧れていた言葉をかけられ、憧れていた愛撫を施されたことによる幸福感の大津波に、意識も何もかも飲み込まれてゆく。真っ白な輝きの中で自我は儚く消失してしまった。

 ただただ、途方もなく暖かな絶頂感に包まれた居心地に浸り…

 ただただ、一人では絶対に得ることができない法悦に酔いしれる…。

「あ、はぁあ…あ、あぁ…」

「こまざわ…イッた…?」

「きもちいぃ…きもちいぃの…おおばく、あたし…イッた、まんまみたい…」

「イキッぱなしなのかな?よかった、駒沢…ん…?」

 額を唾液とキスマークまみれにしてから愁一郎は唇を離し、陶然として視線を宙に漂わせる智秋に尋ねた。どうやら失神にまでは至らなかったようだが、それでも智秋は確実に達しているらしく、エクスタシーを迎えたばかりの女の子の声…湯だったようなかわいらしい声で答えを返してくる。

 満足してうなづき、愛しげに微笑む愁一郎であったが…膝の辺りにある感触が伝わってきて、思わずパチクリとまばたきした。

しゅひゅぅううう…

 勢い良く拡がる生暖かな感触…。智秋は裂け目の奥にある小さな穴から、徹底的に緊張を解き放ってしまったのだ。

 即ち、失禁という名の解放…。

「…こまざわ…?」

 愁一郎が驚きと狼狽えを綯い交ぜにして呼びかけると、智秋は愕然としてうなだれ、羞恥に唇を噛み締めた。ぽとん、と涙が湯に落ちる。

「こんな…見ないで…いや…う、うっ…うぐっ…!やだ…ぜんぜん…っ!」

 小さく震えたかと思うと、智秋は左手で口元を押さえて嗚咽を始めた。よほど溜め込んでいたらしく、麦色の排泄はいっこうに止まらない。

 最後の一滴まで、心ゆくまで湯の中に放出すると…智秋はなんともいえない安堵感に満たされながらも、イヤイヤしつつ声を上げて泣いた。

 愁一郎の前でエクスタシーに登り詰めてしまい…あろうことか失禁してしまった…。

 そんな姿を見せてしまったことが悔やまれてならない。穴があったら入りたいとはこんな時をいうのだろう、と自己嫌悪しながら頭の片隅で考えたりする。

「駒沢、泣かないで…顔上げてよ。」

「イヤ…もう顔、見せたくない…恥ずかしい…!!」

「駒沢っ!!」

「…っ!」

 心の底から恥じ入り、塞ぎ込みそうになっていた智秋を愁一郎は強い口調で呼びかけた。一瞬怯えたように肩を跳ねさせ、智秋は涙と唾液でベトベトの顔を上げてしまう。

 そこには愁一郎の穏やかな顔があった。愛しさを溢れんばかりに湛えた顔があった。例えるなら、小春日和のような優しい微笑…。

 嫌悪などしていない。軽蔑してもいない。

 苛立っても、怒ってすらもいない。

 そんな愁一郎が、自分が顔を上げるのを待っていてくれた。

「駒沢…そんなこと言わないで。駒沢が顔、見せてくれなかったら…オレ、寂しいよ。」

「大場くん…でも、恥ずかしくって…いま、顔上げてるのもやっとなのよ…?」

 甘えんぼな上目遣いで、涙混じりにつぶやく智秋。愁一郎は苦笑しながら彼女の頬を撫でた。愛おしむように、そして自分から顔をそらすことができないように。

「恥じらうことなんてない。気持ちよくなってくれたんだから、嬉しいよ…。」

「でっ、でも…あたしが恥ずかしいんだもん…お湯、汚しちゃったし…」

「バカなこと言うけど、おしっこって汚くなんかないんだぜ?だから性器と同じ場所にあったりするんだ。ましてや男は兼用してる…。気に病むことないって。そもそもオレ達、風呂に入るのが目的で来たんじゃないだろ?」

「そうだけど…」

 なおも納得いかない様子の智秋を、愁一郎は胸の中に抱いた。引き締まった腹筋の上…ちょうどみぞおちの辺りに頭を抱き寄せる。

 左手でタオルを巻いた後頭部を抱き、右手で火照った頬をゆっくり撫でる。愛しさを込めて…また、元気づけるように…。

 そんな愛撫が絶頂の余韻醒めやらぬ素肌に心地よいらしく、智秋は愁一郎の腰に両手をまわすと右頬を彼の胸に当て、猫のようにすりすりして甘えた。

「んん…おおばくん…」

「駒沢…」

 たまらない居心地の良さ、そして愛しさに喉を鳴らす智秋を愁一郎は呼び返しながら愛撫し続けた。かわいらしいしぐさで振る舞う智秋を抱いていると、少しも微笑が収まろうとしない。

 そんな和やかな雰囲気ではあるが、身体は無粋なほどに素直である。

 湯の中から引き上げられた愁一郎の上半身は密やかに熱を奪われていたらしく、思わず肩口から寒気が走って身震いしてしまう。智秋もその震えに事情を察知したのか、両手を腰から上に移動させ、湯冷めした背中を手の平で確認してみた。

「大場くん、せっかく暖まったのに…反則なんかするから湯冷めしてるっ…。」

「あ、あはは…これくらいどうってことないよ…。それくらい一見の価値、あったから…智秋の、その…な?」

「やだ、もうっ…思い出させないでよ!反則のペナルティーとして、ホテル代、大場くん持ちだかんね!ホント、フェミニズムに欠けてるんだから…。」

「おごるにはおごるけど…おごられることが当たり前だって思ってる女、身を崩すって言うぜ…?」

 どちらからともなく、そっと身体を離し…智秋は見上げ、愁一郎は見下ろしながらそう言う。お互い、相手を揶揄しあうような楽しげな表情。智秋は達し、愁一郎はとりあえず波が引いたため、それぞれ心中に余裕を取り戻していた。

「あたしはバカだけど、身を崩すほどバカじゃないもんね。バカなら大場くんのほうがバカでしょ?」

「ああ、かわいいみさきを裏切ってる大バカだよ…。」

「あ、だったらあたしも親友を裏切ってる大バカ…。」

「バカはバカどうし…」

「もっともっと、バカになっちゃお…?」

 テンポよく言葉を交わし…愁一郎がおじぎするように身をかがめると、智秋は目を伏せて唇を差し出す。愁一郎は智秋の両耳を塞ぐようにしながら自分も目を閉じて、

ちゅっ…

 唇を密着させて再戦開始のゴングを鳴らした。

 

 

 

つづく。

 

 

 

■→次回へ

 

 

 (update 99/04/01)