もう精神的準備は整っている。まだまだこの程度で満足なんてしたくない。もう遠慮するつもりもなかった。
望むがままに求め合いたい。今だけは本能に、欲望に忠実でありたい…。
「…そろそろ身体洗おっか。立てる?」
「えへへ、腰が抜けて立てないって言ったら、どうしてくれる?」
愁一郎の誘いかけに、智秋は天の邪鬼な返事を寄こして悪ガキのように微笑んだ。
もちろん腰など抜けていない。ヴァギナの焦れた感触も遠ざかり、千鳥足ひとつなく立ち上がることができただろう。
あえてそう言ったのは、もはや二人の間では習性とも呼べるからかい性のためだ。互いをからかうことで、相手がどんな反応で返してくるかが楽しみなのだ。二人のコミュニケーションのすべてが駆け引きといってもよかったろう。もちろんこのような場においてもムードを損ねるようなことはなく、むしろ気を和ませる潤滑油として作用してくれる。
だから愁一郎も意地悪で返してやることにしたのだ。
「しょおがねぇなあ…じゃあ立たせてやるから、オレの首に両手を巻きつけな?」
「両手?こう…っ?」
「ば、バカヤローッ!両手じゃなくて両腕!首絞めてどうすんだっ!」
「あははっ!大場くんが悪いんじゃない!じゃ、こんな感じ?」
「そうそう…」
しばしじゃれあったのち、智秋は愁一郎の指示通り首にしがみつくよう両腕を絡めた。愁一郎はうなづきながら再び湯の中にしゃがみこみ、智秋のつるつるな尻から太ももにかけてをすくい上げるよう両手をかける。
「…しっかりつかまってろよ?せぇ、の…っ!」
「え?ちょ、きゃっ!やだ、落ちるっ!!」
「落とさないって。ほら、両脚でもつかまるっ。」
「ああん…って、や、やだ!こんな格好っ!!」
ザバーッ…
全身の筋肉に緊張を走らせると、愁一郎は首にすがりつかせた智秋をそのままに湯中から立ち上がった。抱き上げられた体勢の智秋は両手で愁一郎の首に、両脚で腰にしがみついて引力に逆らう。愁一郎は怯えて恥じらう智秋を絶対に落とすまいと、彼女の柔肌にむぎゅっと指を食い込ませて支えた。
「けっこうあるかと思ったけど、駒沢って意外と軽いな。」
「すごぉい…。大場くんって力持ちなんだねっ!」
「オレを甘く見るなよ?だてに身体は鍛えてないさ…。じゃ、このまま洗い場まで行こうか?でもこの体勢って…まんま駅弁ファックだよな?」
「だから恥ずかしいって言ってるでしょ!早く下ろしてっ!!大場くんのヘンタイ!!」
「こら、暴れるなって!オレまでひっくり返るだろーがっ!!」
愁一郎の戯れ言で智秋は感心しきりから意識を取り戻し、顔面をいっぺんに紅潮させて激しく身体を揺さぶった。好奇心旺盛の智秋であるから、『駅弁ファック』という言葉が何を意味するものかは中学三年生の頃から知っている。
相手に大きく脚を開くようしがみつき、何もかもを見られつつ交わる体位なんて…
智秋は気心の知れた愁一郎が相手とはいえ…否、愁一郎であったからこそ恥じらって嫌がったのだ。
胸元辺りまで真っ赤になって身じろぎする智秋は両脚を洗い場のタイルに下ろそうとするが…その前に愁一郎の両手は彼女の太ももを滑り、膝の裏を抱え込んで止まる。
それと同時に智秋はスルッと両腕を滑らせ、必死にあがいた末にどうにか両手だけで愁一郎の首にぶら下がることができた。落下に驚いて振り返ったところに結露防止の熱線を内蔵したバスミラーがあり、そこに映し出された自分達の姿を見て智秋は再び息を飲む。
丸い尻を落としかけながらも、必死に愁一郎にしがみついているみっともない格好…。
「ああんっ!!大場くんっ、下ろしてえっ!こんな格好やだあっ!!」
「ナマケモノみたいだな…へえ、背中もおしりもキレイ〜!」」
「もうやだあ!早く下ろして…って、あ、あ…あ?」
「あ?ああ…あはは…萎えないね、どうも…。」
羞恥で錯乱しかけた智秋の視界に、萎縮することを忘れたかのような愁一郎のペニスが丸映しになる。愁一郎が気恥ずかしそうに苦笑すると、ペニスは挨拶するようビクン、と跳ねた。智秋は思わず目を見開き、ひきつってしゃくりあげると…
「ふぇ…っ!ふええええっ!大場くんのバカーッ!!」
「な、なんでオレが悪者なんだよぉっ!?」
いかに経験があり、直視もしたことがあるとはいえ…不用意に見慣れないものを見てしまえば誰でも平静ではいられないだろう。ましてや智秋が目にしたものは愁一郎の勃起しきった男性器なのである。先程までじかに触れ、愛撫していたのは事実であるが、血管が巡るグロテスクな肉体を見てしまえば恥じらいも動揺も生ずる。
愁一郎とて同じだ。よもやこのような関係を持ってしまうとは思っても見なかった智秋に直視されて恥ずかしいことこのうえない。当時のように、不敵に軽口を叩いてくれたならもう少し気持ちに余裕もできたであろうが、初々しく照れくさがって大泣きされてはたまったものではなかった。
浴室いっぱいに泣き声を響かせる智秋をなだめるようにして、困惑しきりの愁一郎は彼女をバスチェアーに腰掛けさせる。自分ももうひとつバスチェアーを引き寄せて向かい合わせに座り、智秋の身体に温かなシャワーをかけてあげた。
左肩から右肩、胸元から背中、尻。そして前、両脚…。両手で顔を覆って泣いている智秋の柔肌を左手で撫でるようにしながら、愁一郎は温湯で風呂の湯を流してゆく。
バスオイルなどの一切の添加物もなしに触れる智秋の肌は本当にきめ細かであった。ざらつく場所などほとんどない。どこもかしこもぷにゃぷにゃで、男との身体の違いをまざまざと実感してしまう。
妻であるみさきももちろん女ではあるが、元々体操部ということもあって各所は絶妙に引き締まっているのだ。余分な肉が無いぶん、揉み応えがいまいちかな、とは愁一郎が常々感じている贅沢極まりない不満だ。
「駒沢、ほら…もう泣かないで…。」
「うん…」
温かなシャワーと愁一郎の手でなだめられるうち、智秋も幾分落ち着きを取り戻してきた。歓びや嘆きの涙と違い、驚きの涙はいつまでも持続して溢れるものではない。一瞬のストレスを強制排除するためだけのものであるからだ。
身を強張らせて縮こまっていた智秋であったが、やがて胸元と前だけをわずかに隠しつつ、愁一郎に身を任せてシャワーに打たれる。給湯は確かなものであり、心地よい刺激を覚えるほどの勢いで湯を使用することができた。そのうちうなだれた顔も上げられるようになり、設備を確認できるまでに余裕を取り戻してしまう。
「お湯もしっかり出るし、バスチェアーだって美しいし…ホント細かいところまで気配りが行き届いてるね!」
「そうだなぁ、値段を考えるとヘタなビジネスホテルよりも快適かもな。」
シャワーを貸してもらい、今度はお返しに愁一郎の身体を洗い流してやりながら智秋は感心の声を上げた。愁一郎も浴室内に頭を巡らせて同意する。
浴室が広いのは既に説明したとおりであるが、シャワーは家庭のものと遜色無いくらいに温度調節が可能な上、勢いも強い。
浴槽から洗い場、シャワーの取っ手からバスチェアーにいたるまでは丁寧に掃除してあり、ぬめりひとつない。
ころん、とした丸いゼリー状のバスオイルがふたつ備え付けてあるほかに、シャンプーにリンス、ボディソープ、柔らかなスポンジが浴室内に用意してある。
余談になるが、洗面所にはカミソリにシェービングローション、ヘアトニック、簡単な乳液に保湿剤入りのフェイスマスク、石鹸や歯ブラシ、ドライヤー、櫛やブラシも数種類から用意してあって、徹底的に心配りが行き届いている。ともすれば高級ホテルばりの豪華さだ。
「…ホントに一流ホテルへハネムーンにでも来てるみたいだね。」
「いいよ、その気で相手しちゃう…。今夜だけ、オレ達新婚のカップルだ…。」
「そこまで見てくれていいの?あたしから離れられなくなっても知らないよ…?」
「駒沢こそ、オレから離れられなくなっても知らないからな…?」
向き合ってからかいあい…会釈程度の軽いキスを交わす。からかいの言葉をかけあいながらも胸の内では、離れてほしくない、という願望が横たわっているため自然と唇が焦れてしまい、求め合ってしまう。
矛盾する揶揄を紡ぐのは、相手の気持ちを確認するためのうわべ…。それだけでも二人の間では十分に了解が行き渡る。
即ち、それは旧交を肉体関係で温めることへの合意。当時抱いていた憧れを確かめ合うことに対する同意。
「イチャイチャはベッドでしたいな…とにかく、身体洗っちゃおうよ?」
「そうだな、じゃあオレから背中、こすっちゃる。」
「…とかいって、あ、手が滑ったぁ!なーんて胸触ったりするの、ナシだよ?」
「わかってるよぉ!失礼なヤツだなぁ。」
愁一郎はスポンジにボディーソープを染み込ませると、ジト目で勘ぐってくる智秋に後ろを向かせた。彼女の肩を左手でつかみ、右手でスポンジをゴシゴシ擦り込む。
湯上がりでほんのり赤らんではいるものの、智秋の背中は美しかった。
上げた髪の後れ毛が揺れる首筋。
撫で肩ぎみの、小さな肩。
真っ直ぐ通った背筋。
その背筋はやがて、まるい尻へと繋がってゆく。
肌も美しく滑らかで、ボディーソープの泡が乗ると一際つるつるになってしまうほどだ。もちろん尻に至るまでそれは変わらない。
きれいだな…。
上から下まで丁寧に、かつまんべんなく今日一日の汗を洗い落としてやった愁一郎の感想は、まさにその一言に尽きた。
少しでもおしゃべりしているつもりだったのだが、愁一郎の視線は智秋のきれいな背中に釘付けとなってしまい、一心不乱に背中を流すことに専念してしまう。自分ではそのつもりはなかったのだが、予想外の力がこもっていたのではないだろうか。肩から左手を話すと、赤く手の跡が残っていたりする。愁一郎は慌ててその辺りを優しく揉みほぐした。
「ほれ、終わったぞ?」
「へへへ、ありがと。じゃあ次、あたしね!」
「あ、あれ?駒沢、お前もう前、洗ってたのか?」
ひょい、と振り返った智秋の胸元には、もうしっとりとボディーソープの泡が乗っている。それは両手両脚に至るまで同じだ。右手が泡まみれのタオルをつかんでいることからして、愁一郎が背中を擦っている間に前を洗ってしまったのだろう。
「ずるいぞ、前も洗ってやろうと思ってたのにっ!」
「ま、前はいいよおっ!もう、エッチ!」
「エッチで悪かったなぁ…じゃまあ、背中頼むよ。」
不満げにしながらも愁一郎は智秋に背中を向け、自分もタオルにボディーソープを染み込ませる。智秋が同様に肩をつかみ、背中をゴシゴシ払拭してきたのに合わせて自分も前を洗い始めた。胸板から両手、両脚…。わずかに萎え始めたペニスは、特に入念に洗う。
「大場くんの背中はおっきいね…。あたしのほうが労力かかっちゃうよ。」
「なにが労力だ、別に三倍も四倍も面積があるわけじゃないだろ?」
「あはは、そりゃまぁそうだけど…あらためて感動〜!男の背中っ!」
「そりゃどうもね、ありがとう。」
ごしごしごし、ごしごしごし…
たわいもないおしゃべりを交わしつつ、智秋は愁一郎の背中を丹念に払拭した。
肩から背中からには鍛えられた筋肉が緩やかに波をうっており、男としてのたくましさを智秋に感じさせてしまう。実際肩幅も広く、上背もあるため智秋本人より背中は大きいのだが、その感動がより深く愁一郎の背中の広さを印象づけるのであろう。
筋肉質に隆起する両肩。
引き締まった背筋。
脇腹も鍛えてあるようで、予想以上に手応えがある。
かっこいいな…。
そう思った智秋は、より一生懸命力をこめて背中を擦ってやった。以前付き合っていた男のように見た目優先なんかではない。明らかに愁一郎のほうから強い男性を感じてしまう。それで愛しさがこみあげたのだ。
「はい、おしまい。大場くん、終わったよ?」
「ん、ありがとっ。じゃどうする?頭も洗っちゃおうか?」
「そうね。洗いっこしよう!」
泡まみれの愁一郎が振り返り、智秋の頭からタオルを解く。くるん、と丸めるように束ねられていた長い髪は智秋自身がほどき、わずかに前傾しつつ横に流して前に持ってくる。
自然な位置へ戻すと背中に届く智秋の黒髪は美しく艶やかで、手入れが行き届いているのが一目でわかった。
みさきは相変わらずのショートカットであるため、髪に触れられてもそれほどの反応は示さないし、特別の手入れをしているというほどのこともない。
しかし智秋のように長い髪というのは、また違った色気で愁一郎の胸を熱く騒がせてくる。先程まで智秋がしていたようにタオルで髪をあげることにしても、普段見慣れないぶん新鮮であった。
「あたしの髪、どうかな?みさきは確か、今でも短いんだよね?」
「ああ、でもみさきはみさきだよ。見慣れてるってのもあるんだろうけど…駒沢は長い方が似合ってる。オレはこっちのほうが好きだな。」
「す、好きって…か、髪型だよねっ?」
「な…なにを舞い上がってんだよっ!オレまで照れくさくなるじゃんかっ!」
二人して意味もなく胸をときめかせると、奇妙な雰囲気を打ち破らんと愁一郎はシャワーを智秋に浴びせかけた。時間をかけて丁寧に髪を濡らしてから、自分もシャワーを浴びる。愁一郎は髪を伸ばすほうではないので洗髪はすぐに終わる方だ。
ポンプ式のシャンプーを手の平に何度か取ると、愁一郎は慎重に智秋の髪へと馴染ませていった。素肌に感じたのと似たような心地で、髪もまた指通りが良い。
「…なんか怖いな、長い髪なんて洗ったことないから…傷つけちゃいそうだ…。」
「一緒だよ、結局は髪の汚れを洗い落とすだけだからね。頭皮なんかはぜんぜん同じだし。ただ引っ張って痛くしないでよ?」
必要以上に慎重になりかけている愁一郎に智秋は優しく説明しつつ、自らも手の平にシャンプーを取って愁一郎の髪をクシャクシャしてやった。そっと手ぐしを入れながら頭皮を揉み込むようにしてやると、それだけで愁一郎の頭は泡だらけになってしまう。智秋にとって、これはなかなかに羨ましいことだ。
「いいね、夏でも簡単にシャワー浴びれるんでしょ?」
「そりゃまぁそうだけど…でも駒沢、好きで伸ばしてるんだからいいじゃんか。長い髪なら浴衣や晴れ着なんかも似合うんじゃないか?」
「えへへぇ、あたし去年の夏にね、新しい浴衣、買っちゃったんだ!見たい?」
「へえ、そりゃ見てみたいな。今度の夏にでも同窓会しようぜ?どっかの花火大会に合わせてさ、全員浴衣で来ること!とか言って。」
「あ、それいいね!」
髪から汚れを落とすようにしながら、二人は間近に顔を寄せておしゃべりした。いつのまにやらほとんど抱き合えるほどの距離にまで近付いている。誰から近付いたというわけでもなく、それぞれの背後にバスチェアーがずれ動いた跡が残っていた。
愁一郎は智秋の長い髪に何度も何度も手ぐしを入れ、やんわりと揉むようにして泡立て、また手ぐしを入れた。シャンプーのトリートメント成分を毛先にまで擦り込むよう、美しい髪を労る意識で丁寧さを心がける。
智秋も愁一郎の前髪から後ろ髪にかけてを指で流し、むらにならないようまんべんなく擦り立てた。額を伝い落ちる泡は、その都度親指で拭ってやることも忘れない。
髪を十分に洗ってから、今度は頭皮にとりかかる。二人はコツンと額をくっつけると、両手の指を立てて頭皮を刺激するようゴシゴシ泡立てていった。爪を立てないように注意しつつ、余分な脂を毛根から掻き出すように頭皮を揉む。
うなじから耳の後ろ、側頭部に後頭部、頭のてっぺんから生え際に至るまでくまなく刺激するうち…智秋のほうから両手の動きが早くなってきた。
ガシガシガシ…ガシガシガシ…
「駒沢…?」
「…大場くん、今意識してあたしの生え際、こすったでしょお?」
「こすってないよ…なに、こんな感じでか?」
「ああっ!またやったあ!そんなにあたしのオデコ、拡げたいってわけ!?」
「た、試してみただけじゃんかよっ!ちょ、やめろよなっ!」
ガシガシガシ、ガシガシガシ…
負けじと愁一郎が手に力を込めると、智秋もそれに追随するよう力を込めて速める。
その無意味なやりとりを繰り返すうち、二人の両手は猛烈な動きとなって頭皮を刺激した。否、もはやこの動きではいたずらに毛根をいじめているだけかもしれない。ぐい、と額を押し当てたまま、必死になって両手を動かし続ける。
「いい加減にしろよぉ、髪が抜けるじゃんかよおっ!」
「大場くんだって、そろそろ罪を認めなさいよおっ!」
「罪ってのはなんだ、罪ってのは!?わざとじゃないって言ってるだろっ!!」
「男らしくないわよっ!ええい、これでもかぁっ…!」
非難しあってこそいるが、上目遣いで見つめ合う二人の表情は戯れにはしゃぐ子供の笑顔であった。いまや腕がつらんばかりの勢いでガシガシ頭皮を擦っている。髪に良くないことこのうえない悪ふざけだ。
そんな悪ふざけに、腕が悲鳴を上げて張り合えなくなったのは智秋が先であった。ぜはぜは肩で息をしながら、とすん、と愁一郎の肩に脱力させた両手を置いてしまう。
「あうぅ疲れたぁ、腕が痛い…」
「へへ、ざまーみろってんだ!!」
「あ、大場くん…!」
ちゅ…。
満面の笑みを浮かべて勝ち誇った愁一郎は疲れ果てて顔をしかめている智秋に顔を近づけ、角度をつけつつ唇を奪った。そのまま彼女のわきに両手を差し込むと、バスチェアーから降りて引き込むように背後へと倒れ込む。泡まみれの智秋が、同様に泡まみれの愁一郎の上にのしかかっているような体勢になってしまった。
「ちゅ、ぱ…駒沢、オレ達、ヌルヌルになってるね…。」
「ふぅ、ふぅ…うん、すっごい…ヌルヌル…」
「…駒沢のおっぱい、柔らかく押し潰されてるぜ?ヌルヌルしながら…あったかぁい。おっきくて、気持ちいいよ…。」
「ありがと…ふよふよしてるのわかるよぉ…はぁ、はぁ…息が、あがっちゃって…でも、大場くん…キスしたい…」
「いいよ、おいで…」
ちゅ、ちゅっ…ちゅ…ぷは、はぁ、くりゅ、ぢゅむ…れる、れ…こはぁ、ぷぢゅ…
照れ隠しの意味合いもあって、息が上がっているにもかかわらず智秋は積極的にディープキスを試みてきた。愁一郎は拒むことなく、むしろ歓迎するように舌を引き込み、絡めてゆく。息継ぎを何度も交えながら、唇が、舌が納得いくまで夢中で擦り合わせた。舌どうしが一足早く交尾を開始したようでもある。
その一方で、愁一郎は智秋の美しい尻を両手で撫で回した。ザラつきひとつないきれいな尻はボディーソープのおかげで一層すべすべになっており、その柔らかさ、まろやかさを両手いっぱいに満喫することができる。
丸くて余裕たっぷりなまぎれもない女性の尻は力を込めて揉むと、乳房までとはいかないが、指が潜り込むように柔らかい。指の隙間から逃げ出そうとするのは似たような感触があった。手の平でこねては指を埋めて揉み…そのたびに智秋は呼吸を弾ませてゆく。
愁一郎が揉み応えに堪能するよう、智秋もまた愁一郎の愛撫に堪能しているのであった。くすぐったくも焦れったい感触が、柔肉をつかまれるたびに熱く身体中を巡り、高揚感を煽り立ててくる。
愁一郎は尾てい骨のあたりを中指の先でクリクリいじった後で、ツツツ…と尻の谷間をなぞるように滑らせていった。さりげない動作で智秋の小さなすぼまりに触れる。キスに夢中になっていた智秋であったが、さすがにピクン、と身体を震わせて顔を上げた。
「ちょっと大場くんっ!どこ触ってんのよっ!?」
「…おしりの穴。」
「…じゃなくってねっ!?」
愁一郎のどこかずれた返答で、カアッ…という擬音そのままに紅潮する智秋。さすがに肛門を触られるのは経験がないらしく、嫌悪の表情にはそれなりの迫力が漂っている。
実際智秋は肛門など誰の指にも触れられたことがなかったし、触れさせようとも思っていなかった。そもそもここは生殖器ではないのである。セックスが目的であれば必要のない場所であるはずだ。
それでも愁一郎はひるむことなく、好奇心に満ちた微笑をひとつ、密着した指先を軸として円錐を描くようにすぼまりを指圧した。智秋の初々しくも緊張した反応が楽しくてたまらない。拒むように閉ざされていたすぼまりであったが、ボディーソープのぬめりもあって少しずつ中指を受け入れてゆく。やんわりやんわり、時間をかけてほぐされ…爪の先程度が埋まってしまう。
「オレ達、ヌルヌルだからさ…このまま中指、入っちゃうかもね?」
「バカ、やめてよっ!そんなの絶対イヤッ!」
「ここも奥まで洗わないと…ほら、力抜いて…」
「イヤって言ってるんだから…ああっ!だめっ、だめぇ…!!ひ、ひい…!!」
智秋の拒む声に聞く耳を持たず、愁一郎はすりこぎ棒を動かすような動きで中指へ徐々に力を込めていった。ぐに、ぐにゅ、と…少しずつ智秋の肛門へと忍び込んでゆく。
づ、ぷん…。
「ひあぅっ!!」
中指が第一関節まで埋まると、智秋は甲高く鳴きながら愁一郎の上でのけぞり、すがった両肩に爪を食い込ませてきた。せつなげに寄せられた眉根は、本来あり得ない異物の侵入に戸惑いを隠しきれない様子だ。
まさか、ここから内側に入ってくるものがあろうとは…。そもそも、尻の穴を責め苛んでくる愛撫があるなんて、想像もしたことがない…。
智秋は困惑に落ちながら、愁一郎の中指の動きに意識を集中させる。不用意に動かれては、どんな声を上げてしまうかわからないからだ。
「うわ、きゅきゅって締まる…。駒沢、どう?おしりも意外と感じちゃうだろ?ほら…もう第二関節まで入ってくよ…」
「ふうっ!ふ、く…っ!はああ…抜いて…息、できないよう…!」
ボディーソープの潤滑も借りて、愁一郎の中指はゆっくりゆっくり智秋の肛門へ埋没してゆく。すこし侵入して擦れるたびに智秋は歯を食いしばり、時には熱い嘆息をよがり声にして愁一郎に吐きかけた。思わぬ悦楽でだらしなくなった表情を隠そうともしない。
トクン、トクン、トクン、トクン…
愁一郎の興奮と智秋の興奮が同調を示してゆく。
智秋の下腹の下では愁一郎のペニスが再び熱く漲っていた。その漲りようは普通ではなく、まるで埋没している中指と神経が直結しているかと思えるほどであった。快感で勃起しきったペニスは、再び先端から逸り水を滲ませて二人の間を粘つかせている。
まるでもう肛門や…膣内に挿入されているかのように…。
ぬる、ぬる…つ、ぷっ…。
智秋の肛門に中指の全長が納まりきるまで…それほどの時間は要しなかった。折り重なった体勢のまま、智秋は愁一郎の中指を根本まで受け入れてしまう。
「ほぉら、気持ちいいよねぇ…これでぜんぶだよ…。どう、駒沢…おしりに中指、ぜんぶ入っちゃったよ…?」
「ふぁ、ふあぁ…抜いて、抜いてよぉ…こんな大場くん、嫌いだぁ…!」
「ありゃりゃ、嫌われちゃったな。でも駒沢…だらしない顔したまんまだよ?おしりもキツキツに締めつけて…気持ちいいのは気持ちいいんだろ?」
「…みさきにもこんなこと、してるの…?みさきも、おしり…感じるの…?」
「…みさきはもっともっと嫌がるんだ。だから試してない。それに比べて駒沢は…イヤっていいながらもそんなに抵抗しなかったじゃん。感じやすいんだねぇ。」
かあっ…。
愁一郎の言葉に、智秋は湯気が出そうなくらい顔面を紅潮させる。
確かに自分は抵抗しなかった。嫌悪感を抱いてはいながらも、愁一郎の愛撫と肛門の感触が調和し、なんともいえない性感となってきたからである。
性感となっているのは間違いなく、括約筋がぎゅぎゅ、ぎゅぎゅ、と愁一郎の中指を締め付けるのにあわせて、裂け目の奥からは精製したての真新しい愛液が漏出を再開していた。もうヴァギナを蹂躙されることが待ち遠しくてならなくなってくる。
「あたし…そんな、あたし…あたしも変なの…?」
異常と断定していた肛門への愛撫で悦に入っている自分に気づき、愕然とする智秋。親友も同じようにされて悦んでいるのかと思ったりしたが、そうではないという。
やはり自分は異常性欲者なのだろうか。それを見透かされたから、前の男は自分から離れたのだろうか…。
そう考えるだけで、なんとも惨めな気持ちがふくよかな胸の奥に満ちてきて中枢を不快に染めてゆく。愛しい愁一郎と身体を重ね、愛撫に酔いしれていながらも…やりきれない自己嫌悪で涙腺が軽く震え始めた。
ぎゅ…。
そんな智秋の頭を、愁一郎は左手でしっかと抱き寄せてきた。シャンプーの泡にまみれたままの頭に指を埋め、慈しむように何度も何度も撫でつける。
「…気持ちいいんだろ?だったらいいじゃないか。悪いことじゃない。気持ちいいことを探究し、それに浸るのは異常な事じゃないさ。人間らしいって胸を張らなきゃ…。」
「大場くん…」
そっと顔を上げさせてもらい、見つめた愁一郎の顔は自然この上ない笑顔であった。言葉にも振る舞いにも翳りひとつないことを照明する、とびきりの笑顔であった。
全幅の信頼を寄せて差し支えない…。
そう思えるほどに智秋は心を和ませてしまう。学生時代から変わることのない愁一郎の笑顔には疑いの余地はなかった。疑えるはずもなかった。自分はこの笑顔に…この裏の無い爽やかな笑顔に惹かれていたのだから。
つられるように微笑むと、智秋は先程までの陰鬱を霧散させてしまった。
深く考える必要などない。なにをしようとも、愁一郎は自分を責めたり軽蔑したりはしないのだ。ありのままを受け入れてくれるのだ。
愁一郎にすべてを任せてしまおう…。
愁一郎がたまらなく愛しくなってしまう。好意はより一層輝きを放ち、智秋の瞳にせつなくまたたき始めた。
とはいえ…肛門を奪われているこの体勢が恥ずかしいことに変わりはない。自分でも確かめたことのない肛門の感触を覚えられているのかと思うと、今すぐ逃げ出したくなりそうであった。ましてや肛門で嬌声をあげてしまおうものなら、正気に返ったときに顔が合わせられそうにない。
「…でも、でもでもぉ…こんなの恥ずかしいよぉ…!お願い、もう抜いてぇ…!」
「せっかく気持ちいいのに、もう抜いちゃうの?」
「だから恥ずかしいんだってば…あっ!あひっ!あひいいっ!!だめ、だめえっ!!」
意地悪く問いかけながら、愁一郎は智秋の内側で中指を暴れさせた。間違っても爪を立てたりしないよう細心の注意を払いつつ腸壁の各所を乱打し、締め付けに逆らうようぐいぐいと中指をひねる。
智秋は泡まみれの頭をフルフルさせ、随喜の涙と唾液を愁一郎の顔にぽたぽた落としてあえいだ。括約筋が中指をリズミカルに締めつけるのに合わせて、またしても膣内から愛液を迸らせてしまう。花筒の収縮はよほど強烈らしい。
「抜けって言ったりだめって言ったり、どっちなの…?」
「そっ、そんな意味じゃないのっ!抜いて、抜いてえっ!今すぐ抜いてよおっ!!」
「抜けってんだね?じゃあホントに抜いちゃうよ?」
「早く抜いて、もうあたし、あたし…!!」
「じゃあ…ゆっくうり…」
ぬる…ぬる、る…
快感に打ち震えながらも、泣き出したいほどの羞恥に嫌悪の姿勢を崩さない智秋。そんな彼女のうなじを左手で優しく撫でつけながら、愁一郎は中指を肛門から引き抜いていった。突き出された唇のように、色素の濃いすぼまりが少しだけめくり出されてしまう。
「あ、ふぅ…ふぁあ…ふう、ふう…大場くん…あたし、恨むからねっ…!!」
異物が肛門から抜け出てゆく感触に安堵の息を吐きながらも、智秋は恨みがましい目で愁一郎を睨み付けた。しかし睨み付けたつもりが、どうしても媚びた目にしかならないのが悔しい。認めたくないが、肛門は予想以上に性感帯であったのだ。
予想以上の興奮に見舞われているのは愁一郎もまた同じであった。肛門への愛撫は智秋を確実に高めることができるらしい。肛門への愛撫を許してもらえたのも初めてであったから、その新鮮さが興奮をより強く燃え上がらせる。
いまや愁一郎のペニスは智秋の反応に随喜し、彼女を押し上げんとばかりにガチガチに硬直して感涙を滲ませどおしであった。
もう智秋が…愛しくて愛しくてならない。
第一関節まで中指を引き抜いたとき、愁一郎は智秋にとどめを刺すことに決めた。
「駒沢…。」
「…なによっ…?」
「…やっぱ、やぁめた!」
「えっ?や、やっ…あひいいっ!!あふっ、あふうううっ!!」
子供をからかうような口調でつぶやくと、愁一郎は再び中指を智秋の奥深くへと押し込んでしまった。ずぷっと勢いよく、真っ直ぐに中指を再挿入された智秋は顔をしかめて鳴きじゃくり、憑かれたような激震を腰に走らせる。異物を締めちぎらんばかりに括約筋をひきつらせると、それに連動してヴァギナは立て続けにしおを噴いた。
「ゆっくりじゃなくって、いっぺんに抜いちゃうことにするねっ?」
今にも跳ね回りそうな智秋を左手で抱き締めながら早口にささやくと、愁一郎は了承も得ることなく、ずぷんっと一息に中指を引き抜いてしまった。
ボディーソープと腸液に濡れた中指が外気に触れた瞬間、一瞬で異物を失った肛門は弾みで強く締まり、智秋の腰の中でキュクッ…とヴァギナを絶叫させる。
「ひゃあっ!ふあああっ!!あああああっ…!!」
びゅっ!びゅびゅっ!
きゅっと目を閉じて失神に堕ちた智秋は、悩ましく上擦らせた無我夢中のよがり声を愁一郎の耳元に聞かせた。今宵二度目のエクスタシーに達してしまったのだ。
先程までの異物を探るよう、括約筋は戸惑うように収縮を繰り返し、それに併せてヴァギナもくねるように暴れ…十センチほども向こうまで愛液を迸らせてしまう。心臓は爆発するかのように鼓動を刻み、体熱が急上昇して泡の向こうから大量に汗ばんでしまった。
身体が熱くて…現実感が希薄で…。
何も考えられなくなってしまうほどの快感に、智秋は恍惚の境地で果てた。
「はぁ、はぁ、はぁ…あ…ああ…う…」
「すごいな…駒沢のイク時って…すごいえっちだ…」
「はぁ、はぁ…やだ…ん…あたし、また…」
一瞬の失神から復帰し、目の前の愁一郎を認識して恥じらう智秋。
一回目より軽いとはいえ、またしても絶頂に登り詰める瞬間を目撃されてしまった…。
極度の羞恥と、回を増すごとに大きくなってゆくエクスタシーの法悦に頭が悪くなってしまったような気がする。
それくらい辱められて…気持ちよかった。いや、気持ちいいのは今もなお持続している。独り遊びでも、以前の男との戯れでも経験したこともないイキっぱなしという状態らしい。今度こそ本当に腰が抜けてしまい、立ち上がれそうになかった。
「駒沢…駒沢がイッちゃう瞬間って、ホント素敵だ…。ね、もっと見せて…」
「大場くん…お願い、もう堪忍して…」
愁一郎はシャワーを手繰り寄せ、温湯を智秋に浴びせた。腰から背中、肩にかけてを拭いながら、包みこんでいる泡や汗、愛液を丁寧に洗い流す。長い髪にもシャワーを向け、丁寧に揉み合わせるようにしてシャンプーを流してやる。
ぐったりと脱力して許しを乞う智秋をタイルの上で仰向けに寝かせると、胸元やへそ、翳りや両脚にもシャワーをかけて洗い流してやった。
洗い流したとはいえ、エクスタシーの余韻まではそうすることはできない。乳房やへそを素手で拭うように洗い流されると、智秋は火照った身体を波打たせて小さく鳴いた。恨めしそうに愁一郎を見上げ、ぐったりと親指を噛む。
「大場くんのいじわる…おしり…すごい気持ちよかったじゃない…」
「矛盾した言葉だねぇ。気持ちいいの、嫌い?」
「嫌いじゃないけどぉ…もうっ…」
はにかむように視線をそらし、むくれてみせる智秋に微笑みかけると、愁一郎は自らもシャワーを浴びて泡を洗い流した。わざとらしく智秋の顔にシャワーを降りかけたりすると、すねたように苦笑して脇腹をこづいてくる。
しばらく横になって呼吸を落ち着かせると、どうにか全身に力が回るようになったのか智秋は身をひねり、愁一郎の身体を這い上がるようにして起きあがった。そのまま愁一郎に迎え入れられるようにして、きつく抱き締め合う。
二人して膝立ちのまま背中に指を立て、愛しさいっぱいで頬摺りした。お互い、憧れた相手を抱き締めている感動に浸る。
「立てる?」
「たぶん…ね。もうちょっとシャワー浴びさせて…。」
「一緒に浴びよっか?」
愁一郎に抱え上げられるようにして、智秋はどうにかこうにか立ち上がった。下肢に力はこもるものの、足元はやはりおぼつかない。膝はモジモジと摺り合わされたままだし、足の指が洗い場のタイルをひっかくようにしていることからも、いまだにエクスタシーの残滓は意識にこびりついているらしい。
愁一郎が手を伸ばし、温湯が噴き出るままにしていたシャワーをフックに引っかける。二人は洗い場に立ち、あらためて見つめ合ってから互いを抱き寄せた。固くすがりついた二人に熱い湯がとめどなく降りかかる。
愁一郎はもう一度智秋の髪を洗い、頭もしっかり擦ってやった。智秋も愁一郎の髪に指を埋め、頭皮からシャンプーを拭い落とす。
「気持ちいいよ、大場くん…」
「駒沢だって、いい気持ち…」
陶酔の声を感想にして聞かせると、二人はもう一度抱き締め合った。温湯以外の、互いの体温が心地よい。ひとときの恋を燃え上がらせる命の温もりが嬉しかった。
ちゅっ…
シャワーの下で、せがみあう唇は容易く願いを叶えられ、思うがままに甘い密着を遂げる。二人の唇は許されざる関係にありながら、あたかもそうなることが自然であるかのように違和感無く吸い付き合っていた。
ちゅう…ちゅ、ちゅ…ん…くぁ、ちゅ…ふぅ、ふぅ…ちゅむ、ちむっ…
目を伏せたまま、キスの感触を味わうように密着を維持し…角度を変えて、また吸い付く。互いの唇をついばみ合うようにしながら、生じた隙間に舌を差し入れた。もつれ合うようにしてくねりながら、唇は再び密着し…
くちゅ、くちゅっ…くりゅ、くみゅ、れるっ…かはぁ、はぁ…れろれる…
舌が擦れ合うと唾液の分泌が促され、唇はその端から混ざり合った唾液を滴らせてしまう。舌は互いの口腔内でくねりながら口蓋を、舌の裏を、歯茎を確かめ合い、そっと突っつきあった後で甘ったるい唾液を分け合って嚥下した。
ごく、ん…ちゅば…
シャワーの噴き出る音に包まれながらも、喉が鳴った音は聞き逃さない。惚けた顔を臆面無く晒し、目の前の異性をうっとりと見つめる。
「駒沢…ベッド行こう?」
「…ね、その前に…大場くんにも一回、イッてほしいな…?」
「え?」
きゅ、とシャワーの水栓を閉めながら、愁一郎は智秋のつぶやきを聞き返した。二人の身体から湯が滴る音以外は静寂に満ち…湯気だけがもうもうと浴室内に踊っている。
寄り添ったままの智秋は…愁一郎の肩に顔を乗せるようにしてうつむいていた。柔らかに挟み込まれている乳房の奥から熱い鼓動が伝わってくる。
智秋はなにやら躊躇っているらしく、返答を声にできずに鼻息だけを愁一郎の耳に聞かせていた。愁一郎も強引に問いただそうとはせず、自発的に答えてくるまで待つことに決める。じっと背中を抱いていた。
「あたしが二回、大場くんは…まだ一回もイッてないじゃん…?」
「…うん。」
直接的な答えはまだ返ってこない。愁一郎は智秋の温もりを押し抱いたまま、一言だけそう肯定した。
「…本番への予行練習ってことで…大場くんも一回、イッとこうよ…ね?手伝うから…」
「…っ。」
智秋が顔を上げたとき、愁一郎は無言でそっぽを向いた。気まずそうに唇を噛み締めているのは…ペニスが再び勃起を呈してきたからである。
手伝う、という智秋の言葉が過敏に作用し、過剰な期待と妄想をかきたてられた結果がそれであった。密着した腰の下、いささか不具合な方向に硬直する。わずかに身体を離すと、ペニスはぺたん、と天を仰いで主のへそを打った。
「イキたそうだね。素直な大場くん、大好きよ?」
「ごめん…すっごい無節操だよなぁ…。」
「何度も何度もお預けされてるんだもん…お風呂の中から、その…さっきのおしりから。あれだけガチガチになってたのに出させてもらえないんだから、無理ないよ…。」
労るような口調で愁一郎をフォローすると、智秋は彼のヤンチャ息子を右手に包み込んできた。勃起したてであるというのに、幹はもう驚くほどに硬直している。
しゅご…しゅご…しゅご…
亀頭の表面を手の平でくるむようにしながら、幹に一本ずつ丁寧に添えた指に力を込めて真っ直ぐ押し、引いて…また押し、引いて…。膣内を思わせるように筒をこさえ、優しくペニスを愛撫する。たちまち愁一郎の呼吸に潤みが増した。しっとり熱を帯びた吐息は絶妙な快感の他に、第三者にオナニーを手伝わせている事への興奮によるものでもあろう。
「こまざわ…んっ…こまざわぁ…」
「手だけでイッちゃうのは…もったいないよね?」
声まで震え始めた愁一郎に、智秋は愛撫の手を止めて微笑みかけた。その微笑は恥じらいに火照り、不安が微かに瞳を潤ませている。
ちゅっ…
頬へのキスは、恥じらいをすべて受け入れる覚悟のキス。せつなげな愁一郎の顔にそっと唇を押し当ててから、智秋は目を反らさずに告げた。
「大場くん…フェラチオしてあげる。」
つづく。
■→次回へ
|