X指定小説大賞参加作(オリジナル)

■ライク ア シングル(6)■

作・大場愁一郎さま

 

 

 

「こまざわ…」

「あたし、けっこう上手なんだよ…?」

 不敵な微笑を浮かべつつ、智秋はそう言って愁一郎を浴槽の端に腰掛けさせた。愁一郎は気恥ずかしさで若干戸惑いながらも、わずかに両脚を拡げてペニスを赤裸々開示する。

 それにしても…上手、と智秋を褒めたのは誰だろう。

 やはり、以前付き合っていたという男だろうか。

 口での愛撫が上手だなんて…あの駒沢が…他の男に…

ズキン…

 愁一郎の胸の奥に、またしても不快な焦燥感がたちこめる。今や自分の前でひざまづき、緊張の面持ちでペニスを見つめている智秋であるが、そんな彼女が知らない女性に見えてきて息が詰まるのだ。

 二十五という年齢でもあり、なおかつ異性と交際していたのであれば経験済み、という言葉に嘘はないだろう。口での愛撫も試していたとしてなんら不思議はない。

 しかし愁一郎にはそれが許せなかった。納得いかなかったのだ。

 まるで、憧れていた対象を汚されてしまったような心地…。信じていたものに裏切られたような心地…。

「嫉妬…?」

「え?」

「あ、いや…なんでもないよ…」

 思わず口をついてしまった言葉に、智秋がきょとんとした風に顔を上げる。愁一郎は慌ててかぶりをふり、平静を保とうと智秋の頬を撫でた。

 嫉妬…。自分が今抱いている心情は嫉妬なのだろうか…。

 しかし、嫉妬しているとしてその対象は誰なのだろう。

 やはり…以前智秋と付き合っていた男だと思う。他のどの男子よりも親しくしていて、智秋に関する事情ならなんでも知っていたつもりなのに…少なくともその男は自分の知らない智秋を知っているのだから。ましてやファーストキスや、ヴァージンを捧げてもらったのであるなら…

「駒沢…頼むよ…」

 悔しさがさらなる焦燥を生み、急かすような言葉を選んでしまう。文字通り、愁一郎は焦れていた。火照る智秋の頬を繰り返し撫で、ちょんちょん、と耳たぶを中指で弾いて合図を送る。

「じゃあ、するね?」

 愁一郎の気持ちも知らず、智秋は求められたことが嬉しくてならないといった笑顔でそそり立つ男性器を手にした。右手で幹を握り、左手で柔らかな袋を包み込む。

こしゅ、こしゅ、こしゅ…

 天を仰ぐ自然な向きのまま、真っ直ぐに幹をしごいた。湯上がり直後でしっとりとしているペニスは普段以上に熱く漲り、智秋を威嚇するようにビクンビクン動く。感じようは相当なものであろうことが窺えた。

「固くって、おっきいね…。さっきも少し触ったけど、こうやって目の前で見るとホントおっきいの、わかるよ…。」

「なんだか変な気分だなぁ…明るいところで間近に見られながらされるのって…」

「みさき、してくれないの?」

「明るいの、照れくさがるんだよ…。」

 焦燥感は愛撫が開始されたことで和らいだものの、気恥ずかしさがいまだに興奮を上回るのか、愁一郎は智秋の頭を右手でかいぐりしながら照れ笑いした。かかとを浮かせた正座から膝立ち状態になっている智秋は、そんな愁一郎を見上げながら間断なくペニスをしごきたててくる。

しご、しご、しご…もみ、もみっ…

 ゆっくり、しかしストロークは長く幹をしごき、時折握り込むように揉んだ。力を込めて握るたび、熱い興奮の血が幹いっぱいに巡るのがわかる。

 ツヤツヤに膨張している濃い赤紫色の先端も手の平を使って丁寧に揉んであげた。幹とは違ってほどよい弾力がそこにはある。指先で摘むようぷにぷに挟むと一瞬血が引いて白くなるのだが、すぐさま元の赤紫色に戻ってしまう。興奮の度合いは大きいようであった。

もみ、もみ、もみ…ころ、ころん、きゅっ…ぎゅっ…

 右手が亀頭を愛撫すれば、左手は陰嚢を…その中でささやかな重みを呈しているふたつの宝珠を愛撫する。指の中でころころ移動させ、形を確かめるようにひとつずつそっと包み込む。指先でつまんで刺激すると、さすがに愁一郎はつらそうにうめいた。

「こまざわっ、ちょ…そおっと…!」

「大場くんの新鮮な命…ここにたっぷりつまってるんだよね?」

「そ、そうだから…大事に扱ってよぉ、お腹痛くなるぅ…!」

「えへへ、ごめんね!いっぱい出るようにモミモミしてたんだけど…。」

 ペニスへの愛撫は背筋がゾクゾクするほどに心地よく、根本からもっともっと勃起するように跳ねるのだが…睾丸への愛撫はいささか刺激が強すぎて、愁一郎はつらそうに顔をしかめてイヤイヤした。情けない顔を見られている、という羞恥心も作用し、声がわずかに上擦り始める。

 智秋は最後に、幼子の頭をかいぐりするほどの優しさでころころっとふぐりを揺さぶって左手から解放した。苛みを終えた左手は愁一郎の腰に当てられ、すり、すり、と腰骨の辺りを撫でる。

「じゃ、お待ちかね…唇から、順番にいくね?」

「ああ…。手だけでもすっごい気持ちいいから…すぐにイッちゃいそうだよぉ…」

「なに情けないこと言ってんのっ!イッちゃったら最後までしてあげないからね?」

 弱音を吐く愁一郎をウインクとともにたしなめると、智秋は右手の筒でしごいていたペニスを正面に傾げた。張りつめた先端が智秋の青眼に位置するようになる。

 そっと目を伏せ、唇を心持ち突き出してから…

ちゅっ…。

「うぁっ…!」

 陶酔の目をして愁一郎が鳴く。過敏になった先端からは智秋の柔らかな唇が熱く密着してきている事実が如実に伝わってきた。智秋はペニスにキスを捧げているのである。

 すぼめられた唇はぴっちりと先端に押し当てられおり、金魚のようなおちょぼ口を密封している。先端の薄膜と唇の薄膜を介して、互いの興奮が激しく行き交うと…二人の興奮はいよいよ大きなものとなってきた。

ちょみ、ちょむ、ちょみ…

 智秋は唇を押し当てたまま、先端の弾力を確かめるように唇で噛んでみた。照れくささで目眩がしそうであったが、身体の奥に灯された情欲の炎はそれを忘れさせるほどに智秋を淫らにさせてゆく。愛しい愁一郎のペニスに口づけているのだと思うだけで、先程達したばかりのヴァギナは再びやんわりとくつろぎ始め、いやらしく痺れてきた。膝立ちのまま、そっと膝頭を摺り合わせてしまう。

「こまざわぁ…気持ちいいよぉ…」

 まぐわえるまで情欲を堪えるつもりであったのだが、愁一郎の中枢はもはや智秋の愛撫に狂わされていた。唇が小さく噛みつくたびに細波のような快感が何度も何度もペニスを震わせる。根本付近で危険な予感がジクン、とうごめき…熱い逸り水がゆっくりせり上がってくるのがわかった。愁一郎の愛液が智秋の唇を濡らすのにそれほどの時間はかからないだろう。

 口づけたまま、智秋はそっとまぶたを開いた。ヴァギナが焦れ始めたのと、ペニスに口づけしている羞恥極まりない事実で美しい瞳にはありありと困惑の色が窺える。媚びるようにする上目遣いの色っぽさは、口づける前とはまったくの別物であった。

ちゅっ、むちゅっ、むちゅっ…ちゅみっ、ちゅ…ちゅぱっ、ちょぱっ…

 視線を落とし、手にしたたくましいペニスを…根本辺りを覆う生え揃った性毛を見つめて智秋はゆっくりと頭を振り始めた。水飲み鳥がそうするような動きで、繰り返し先端にキスを撃つ。余韻を残すいとまを与えず、立て続けに唇の柔らかみを伝え…そして吸い付きながら離れ、吸い付きながら離れ…。

「ああっ…こ…こまざわぁ…っ。」

「ん…っ。」

にちゅっ、ちゅぷっ、にちゃっ、みちゅっ、ぬぷちゅっ…

 唇をヒュクヒュク駆使しながらキスを連発するうち、とうとう愁一郎は渋味のする愛液をおちょぼ口から滲ませてしまった。無色の粘液が智秋の唇にまとわりつき、密着しては離れるたびに音立てて糸を引く。

 浴槽の端に左手を突き、右手で智秋の頭をかいぐりし続ける愁一郎はすっかり彼女の愛撫に溺れていた。惚けた目をして、智秋がペニスに口づけてくるのを熱い呼吸とともにただただ見守る。

 ジュク、ジク…と逸り水が漏出するにつれ、危険な予感とともに得も言えぬ快感がペニスを満たしてきた。その快感は意識を心地よく冒し、痴呆のようにあごをハクハクさせてしまう。

 いい気持ち…。

 その一言に尽きた。特に恋愛を意識することなく親しくしていた女性が相手であるため…しかも不倫という関係であるため、背徳的な興奮が物凄い。

 正直な話…妻であるみさきに同じ愛撫を施されたとしても、きっと今ほど感じることはできないだろう。

 智秋は一旦キスを止めると、愁一郎を見上げながら小さく舌を翻し、唇にまとわりついた粘液を舐め取った。にちゅ、にちゅ、とペニスをしごきながら微笑みかける。

「なぁに?そのだらしない顔…ほっぺた真っ赤だよ?そんなにいい気持ちなの…?」

「はぁ、はぁっ…あっ、あんまりしごかないで…!油断したらイッちゃいそうなんだ…。こまざわ、すっげえ上手いよ…ホント、気持ちいい…。」

「へへーん、恐れ入ったか!じゃあズリズリはしばらくお休み…。」

 震える声で感想を述べると、愁一郎は強がりいっぱいで崩れそうな笑顔を浮かべた。他人のことは言えないほどに紅潮している智秋の頬を右手で包み込んで撫でてやると、彼女は右手でこさえた筒の動きを休止してくれる。汗ばんだ頬や潤んだ瞳を見るに、智秋も焦れったくてならないことが容易く推察できた。

 実際智秋も猥褻な戯れに情欲が溢れ、擦り寄せた膝頭の上…太ももの付け根にある充血した裂け目を愛液で濡らしていた。僅かに白っぽい愛液は膣口の奥から流れ出るままにされており、とろ、とろ…と内ももを伝い落ちてゆく。

 早く…できるなら今すぐにでも愛撫を中断して…入れてほしい…。

 この立派なペニスで、泣き虫のヴァギナを折檻してもらいたい…。

 憧れを、現実のものにしてもらいたい…。

 そう願うだけで腰の中の花筒は期待に打ち震え、搾りたての愛液をこぼしてしまう。

 いてもたってもいられない智秋は愁一郎のペニスを真上に向かせ、愛おしむようにして頬摺りした。陶酔に目を伏せてすりすりすると、火照った頬を逸り水が濡らす。

「おおばくん…おおば、くんっ…」

「こまざわ…かわいいよ…出任せなんかじゃない…マジで…かわいいっ…」

 荒い息づかいに乗せて愁一郎はそう言うと、両手で智秋の頭を押さえて自らの性器に押しつけた。熱い頬は柔らかく滑らかで、心地良い。

 智秋も嫌がることなく両手で愁一郎の腰をつかみ、夢中で頬摺りを繰り返した。口許をだらしなく開け、興奮に苛まれる胸を癒すため深呼吸を繰り返す。

すり、すり、すり…ちゅ、ちゅっ…

 智秋は左手を愁一郎の下腹、ちょうど盲腸の上辺りに当ててゆっくり上下に撫でさすり…顔をずらして幹に口づけを再開する。幹の裏側、太くせりだすようなパイプに唇をすぼめて吸い付き、角度を付けて幹をくわえる。

ちむ、はぷ…はみ、はみ…ちゅっ、ちゅっ…

 右手で腰を抱きつつ、ハーモニカを吹くようにペニスにむしゃぶりつく智秋。唇だけで挟むようにしつつ、まんべんなく感触が残るよう上下に移動する。

 頭を押さえつけてくる両手を退けてもらうと、智秋はあらためてペニスを手にし、手前に倒して横から吸い付いた。その仕草こそまさにハーモニカである。

ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ…

 左手で先端をつまみ、右手で袋を揉みながら右へ行き、左へ行き…。テンポよく、かつきめ細かに吸い付いて幹を巡る血管を震え上がらせた。愁一郎の性毛が頬にくすぐったいが、その程度のことは少しも不快にならない。

 ペニスの左側が終われば、右側もまた同様にしてやる。ペニスを持ち替え、また左へ行き、右へ行き…。幹の裏側を、両側を念入りに吸われれば吸われるだけ愁一郎のペニスは漲りを増して長く、太く、固く、熱くなってゆく。

 限界近くまで勃起し、たくましさを一際見せつける愁一郎のハーモニカを智秋の唇が奏で…その水っぽい調べは浴室内にしばし湯気とともに舞い、二人の耳を淫らに誘った。

「…擦れてるわけじゃないけど、キスされてるだけでもなんか、ヤバイ…」

「なぁに?メインディッシュもいただかないうちにもうごちそうさま?それってシェフに対して失礼だよ?」

「だって駒沢の料理、美味しすぎるんだもん…ほら、先っぽ摘んでる指先だけでも感じるんだぜ…?フェラが上手いってのはウソじゃないなぁ…」

「こんなの、まだフェラチオになんないよっ!ガマンガマン!」

 感じてくれるのは嬉しいが、もっともっと愛撫させてほしい。智秋は弱気になって鼻にかかった声をあげる愁一郎をたしなめると、ふたたびペニスを右手に握りしめ、カラオケのマイクのように構えた。そっと目を伏せ、唇を寄せる。

…ちろっ。

「くうっ!」

 濡れるおちょぼ口を舌先で愛撫され、愁一郎は自らの尻を両手で強くつかみ、おとがいをそらせてうめいた。柔らかくザラつく舌先の感触が、張りつめた先端にはあまりにも刺激的であったからだ。

ちろっ…ちゅるっ…ちるっ…

 アイスキャンディーを先端から少しずつ舐め取るよう、智秋はわずかに差し出した舌で愁一郎の先端を愛撫した。ジクジク溢れっぱなしの逸り水が舌の上で唾液と混ざり、ぽとん、と洗い場のタイルに落ちる。

ちゅるっ、ちるっ…でろーっ…でろーっ…

 渋味を舌先で直接感じてから智秋は舌を大きく拡げ、マッチ棒を擦るようなイメージで舌の腹を押しつけ、上下に往復してやった。パンパンに漲っている先端は柔らかな舌に埋まるようにしながら逸り水を塗り込み、さらにさらに高ぶってしまう。

「気持ちいいっ、あ、ちあき…気持ちいい…っ!!」

「ふふぅん、先っぽ、すっごい敏感だね!じゃあしばらくお預けにしよっか?」

 かぶりを振ってよがる愁一郎に意地悪く微笑みかけると、智秋は再びペニスを上向かせ、くびれの裏側にあるクッキリした筋の辺りに舌を走らせた。

ちろっ、ちろっ…べろーっ、ぺろっ、ぺろっ…

「う、う、う…っ!そこ、そこっ…!!」

「気持ちいいんでしょ…わぁ、すぐに溢れてくるね。ちゅぢゅっ…大場くんのラブジュース、美味しいっ!」

「ら、ラブジュースってことあるかよぉ…」

「女の子と一緒、これってつながるための潤滑液じゃない。男の子のだってラブジュースって言って支障無いと思うけどなぁ?ほらほら…ぢゅっ…まだ溢れるよ?」

 くぷ、と染み出てくる愁一郎の愛液は、彼がいかに感じているかがわかるほどに濃厚で量が多い。上向かされて十数秒ほど舐められただけにもかかわらず、たちまち幹を伝わせるほど漏らしてしまうのだ。

 智秋は愁一郎の逸り水を音立てて吸いつつ、今度は幹に舌を絡ませ始めた。幹の周りじゅうくまなく、舌の表と裏を駆使して舐め上げる。

ぺろっ、ぺろっ…れる、れる、るっ…

 幹の中央を太々と貫くパイプを押すようにし、そのまま先端からふくろの辺りまでを丁寧に往復して舐める。ふくろもチクチクする性毛とともに舐め上げ、内包されている大きめのさくらんぼをかぽ…と頬張ると、愁一郎は身震いして鳴いた。

「こっ、こまざわっ!ふ、ふくんじゃだめだよっ!あ、ああっ…!!」

「ふっふーん、こぽ、かぼ…ころ、ころん…ひゅむちゅむ…」

 情けない声でよがり鳴く愁一郎をからかうように笑うと、智秋は口に含んださくらんぼを舌の上でころころ転がし、唇で挟んで慰めた。

 愁一郎の新鮮な生命がたっぷり詰まったさくらんぼを頬張ってしまうと、智秋にしても焦れったさがいよいよ増してしまう。

 空いていた左手が股の間に滑り込んでゆき…指先で勃起したクリトリスをいじった。薄い包皮の上から中指で転がすようにゆっくりと指圧する。くつろいで開き、桃肉のはみでかけた裂け目からは熱い雫が愁一郎以上に漏出していた。摺り合わせていた膝元に愛液溜まりができているほどである。

「…こまざわ、オナニーしてんの…?」

「うん…だって…待ちきれないんだもん…大場くんの…」

 目ざとく察知した愁一郎に問われても隠そうとしない。愛しげに亀頭を包み込んで揉みながら、ぺろっ、ぺろっ、と幹を…くびれを舐め上げる。その間にもクリトリスを慰める指先の動きは早さを…強さを増していた。このまま慰め続ければ、愁一郎よりも先に膣内へ指を挿入しかねない。

ぺろっ、ぺろっ、ぺろっ…くにゅ、くちゅ、くりくり…くにゅん、くにゅんっ…

「大場くんの…おっきくて、固くって…すっごい男らしいね…」

「そ、そうか…?」

「高校の時から…ぺろっ、ぺろっ…こんなに、ガッチガチになったりしてたんだ?」

「そりゃ…まあね。」

 自分の逸物にそれほど自信を持っているわけでもない愁一郎は、子犬がするように一生懸命舐め上げてくる智秋に褒め称えられて気恥ずかしげに頬を染めた。

 高校時代からも修学旅行や部活動の合宿などで友人のものを見かけたりしたが、比較しても自分のものはそれほど立派とも思えなかった。あれからもうかなりの歳月が経過しているが、育ち盛りを遠く過ぎた今でも成長しているとは思えない。

 妻であるみさきに褒め称えられた覚えがないのは、彼女が愁一郎しか男性を知らないため、ということで納得もできる。ところが智秋には他の男との歴とした交際経験があるのだ。

 あくまでお世辞だろうと推察できるが…やはり手放しで絶賛されては悪い気はしない。愁一郎は照れたときのくせで、あごを人差し指でカリカリ掻いた。

 その間にも…智秋の愛撫は休まることがない。惚れ惚れとした目でペニスを見つめ、指先で先端をプニプニ揉みながらくびれの裏側にある筋を盛んに舐める。石清水をすするよう、伝い落ちてくる逸り水をも大きく舌を拡げて執拗に舐め取った。愁一郎の敏感な場所への一点集中攻撃に切り替えたようである。

 唾液と逸り水でほどよく潤滑する柔らかな舌は、確実に愁一郎を終焉へと導いていた。肛門を必死にすぼめ、少しでも長く智秋の愛撫を堪能しようと射精欲を押さえ込んでいるが、それももう限界に近い。ペニスの根本、奥深くで…情欲が凝縮されたような塊がジクン、とうごめく。

「こ、こまざわっ!オレ…もうホントに…!」

「ぺろっ、ぺろっ…ちゅぢゅっ…。ふぅ、もう…イキそうなのね?」

「うん…ホントヤバイんだよぉ…あ、そそ…触るんなら指先だけで摘んで…うん、そうやって…。いま握られたら、きっともうそれだけで出ちゃうっ…!」

「…ホントだ、大場くんのラブジュース、なんだか白っぽくなってるね。だいぶ精子、混ざってきちゃってるみたい…。」

 口づけするように吸い出しても逸り水は間断なく滲んできており、智秋がそれを間近で観察すると…もはや逸り水は無色を呈してはいなかった。薄めの重湯が粘液状になったようである。体内ではもう射精が始まってしまったらしい。

 そのことを慮った智秋は勃起しきっているペニスを指先からも解放してしまった。

「じゃあ波が引くまで、しばらく待とうか?」

「…早くイッちゃいたいって気持ちもあるんだぞ…?思いやってくれてるのか、焦らしていじめてんのか、どっちだ?」

「さぁてね?どっちだと思うっ?」

「…少なくとも駒沢、お前この状況を楽しんでるだろぉ?」

「そうだよ?楽しませてくれてありがとうっ!ふふふ…っ!」

こぽん…

 浴槽から栓を抜いて湯を流し始めると、智秋はおぼつかない足取りで立ち上がり、はしゃぐようにして愁一郎に口づけた。首に両腕を絡めると、愁一郎も背中を抱いて受け入れてくれる。

ちゅ、ちゅちゅ…ちむ、はむっ…ぷぁ、ちゅっ、ちゅっ…

 しばらく抱き合ったままでキスを続けた。今しがたまでペニスを愛撫していた智秋の唇には逸り水がねっとりまとわりついていたが、愁一郎は少しも嫌悪を示さない。

 ひとしきり抱き締め合い、唇を重ね合って歓びを交わした後、智秋は左手で愁一郎の右手をつかみ、焦れっぱなしの裂け目へと導いた。なすがままの愁一郎の中指がわずかに動き、濡れた裂け目に潜り込むと智秋は敏感に反応して肩を跳ねさせる。愁一郎は右手を裂け目にそって動かし、内ももにも触れてみて智秋の焦れ具合を確認してみた。

「…オレにしてくれてる間に…こんなになってたんだ?」

「うん…。だって、すごい興奮するんだもん…あたし、えっちかなぁ?」

「えっちだよ…熱くてヌルヌル…。クリトリスも、もうまたこんなに固くしてるし…。」

「い、いちいち声に出して言わないでっ!んっ…いい感じ…っ。」

 愁一郎の中指は濡れそぼった膣口をいじわるくなぞり、埋没させることなくそのまま裂け目を割り開くように戻って、親指と一緒にクリトリスをいじった。智秋は鼻息荒くよがると、愁一郎の中指を追いかけるように艶めかしく腰を振る。

 しかし、自分はもうすでに二度も愁一郎によくしてもらったのだ。今また夢中になってしまっては、それこそ独り善がりもいいところである。愁一郎にしてみても気持ちよくなりたいのは同じはずだ。

 寂しく、素っ気もないセックスばかり経験してきた智秋には、一緒に楽しむという思いやりの気持ちがどれほど重要なものかがわかりかけている。

 同時にそれは強い憧れでもあり…そして愁一郎ならその憧れを満たしてくれそうな気がするのだ。そんな彼の思いやりにあぐらをかいていてはいけない。

「大場くん…あたしはまた後でいいや。そろそろ続き、いいよね?」

「ん…だいぶ引いたよ…。興奮は相変わらずだけどね。ちゅぷ…ふふ、駒沢のラブジュース、甘酸っぱいっ!」

「やだ、もうっ!舐めちゃだめっ!!」

 愛液で潤った中指を口に含み、目の前で感想を述べる愁一郎を智秋は照れくさそうに怒ってみせる。右手をふりかぶったりするものの、その表情には少しの迫力もない。愁一郎の笑顔ひとつでアッサリ降参してしまう。

 バカ、とささやかな微笑で吐き捨てると、智秋は再び愁一郎の前で膝立ちになった。ちょうど浴槽の湯も抜けきり、ある程度の小休止ができたはずだ。愁一郎の言うとおりで勃起の勢いは衰えていないが、逸り水の漏出は止んでいるようである。

 右手で握り込んで正面を向かせ、しゅりしゅりと二、三度しごいてから…愁一郎を見上げて確認を取る。自分も覚悟を決めるためだ。これから始めようとしているメインディッシュに興奮を隠しきれず、耳鳴りまで感じている。

 愁一郎も情欲に濡れた瞳でうなづき、智秋からのメインディッシュを求める。そっとしごかれただけでも快感がすごい。焦らされて、そして絶頂の訪れを堪えた果てにペニスは敏感さも増幅されてしまったようだ。

…ちゅっ。

 あらためて鈴口に唇が押し当てられる。ほどよい弾力が亀頭の先からジンジンと伝わってきて愁一郎の鼓動を高鳴らせた。呼吸を速めながらも智秋の額から前髪を退かせ、

「駒沢…お願い。」

とねだる。こく、とうなづいた智秋は愁一郎の下腹部を撫でるようにしてペニスの根本をつかみ、目を伏せて…

あぷ…もぐ、もぐ…みょ、ぐっ…

 ゆっくりと唇を開き、吸い込むようにして頬張った。幹の中程まで受け入れた時点で智秋の口腔内は容積に余裕を失ってしまう。

 下歯を緩やかに覆った舌はツヤツヤな先端に押し潰され、喉の入り口付近にまで受け入れるとその大きさがあらためて実感できる。頬をわずかにすぼめると呼吸がつらくなり、自然と鼻息が荒くなってしまう。興奮を露わにしているようにとられるのでは、と過剰な羞恥心が智秋の胸の奥に拡がってきた。

「…こまざわぁ、すっごい気持ちいいよ…。舌も唇も、柔らかくって最高…。」

 上目遣いで見上げてきた智秋に、愁一郎は思ったままを口にする。ささやかなお礼とばかりに親指で額を撫でてやると、智秋はきゅっと目を閉じ、喉の奥で小さくうめいた。

 実際智秋のフェラチオは言うだけあって上手であり…ぐじぐじ、とうごめきながら包み込もうとしてくる舌や、そっと外圧をかけてくる喉の奥は絶妙であった。生暖かい感触に酔いしれると、たちまちペニスは逸り水の漏出を再開する。じわ、じわ、とパイプを通り、熱く染み出ていくのがなんともいえず気持ちいい。

 思わず立ち上がり、智秋の頭を押さえてグラインドを始めたかったが…愁一郎は智秋を性欲処理の道具として扱うつもりはなかった。学生時代の自分とは違う。今は…智秋の健気な想いを大切に受け止めたい。

 やがて智秋は鼻息で呼吸を整えると…

ぬるる…もぐぐ…ぬみゅむ…もぐぐ…

 ゆっくり、しかし確実にペニスが擦れるよう頭を前後に振り始めた。濡れた前髪は退けても退けても額に張り付くので、愁一郎はそのたびに横に流してやる。

 智秋は小首を傾げるようにしながら…そして、吸い付くようにしながら…様々なバリエーションで愁一郎のペニスを頬張り、一生懸命にしゃぶった。積極的に頭を振りつつ、艶めかしく舌をくねらせる。鈴口やくびれ、裏の筋を舌の裏表問わず慰め、少しずつ唾液と逸り水を嚥下していった。

「はあ、はあっ…あ、すごいな…こまざわ、ホントに上手だ…。もう…もうセックスしてるみたいにっ…きっ、きもち、いいよ…?」

「んっ…んっ…んふふっ、ふぅん…ちゅぱ、そう?嬉しいな…褒めてもらえて…」

 一旦ペニスを吐き出してかわいらしく笑うと、智秋は舌の腹で丁寧に亀頭を舐め、唇にふくんだ。

チュブ、チョブ…ヂュヴ、チュッ、チョヴ…

 小さなキャンディーでもしゃぶるように張りつめた先端だけを舐め、唇で挟み、引き込んで擦る。くびれのまわりを唇で絞めると、愁一郎はゾクゾクッと背筋に法悦の悪寒を走らせた。

「んああぅっ!!うっ、うぁ…すごいいいよぉ…!そんな美味しそうに…オレの、しゃぶられたら…こまざわっ、も、もう出ちゃうっ…!」

「ちゅばっ…じゃあ大場くん、立ってくれる?あたし、大場くんのザーメン飲んだげるから…もう思いっきり出して。ね、あと少しだけガマンできるよね?」

「くううっ…ここまで来たら、もう絶対に負けないかんなっ!!」

 危なっかしく身震いを続けるペニスを解放されると、愁一郎は悔しそうに顔をしかめながら叫んだ。浴槽の端から立ち上がると、冷たいタイルの壁に背中を預ける。

「はははっ!それでこそ大場くんだ!でもなんの勝負なのよっ?」

「…もう自分との勝負だね。智秋にはきっと敵わないよ。シックスナインしたら、オレが先にイッちゃうだろうなぁ。」

「大場くんなら大丈夫だよ。とびきりのヘンタイだから、何があってもあたしより先にはイカないって思うな!」

「あ、ひっでえ言い方っ!」

 戯れに言葉を交わすものの、二人とも声が震えている。愁一郎はもちろんのこと、智秋もまた我慢の限界に来ているのだ。ヴァギナは先程愁一郎に触れられたこともあり、目の前のペニスを欲してヒュクンヒュクン痙攣している。

 智秋の意識はもはや淫欲に支配されたようで…唇を寄せると、欲するままに愁一郎のペニスを頬張った。愁一郎の絶頂を速めるよう、乱暴なほどに頭を振る。

 乱暴とはいえ粗雑というわけではなく、真っ直ぐ確実にペニスを受け入れて…舌で包み込み、しゃぶる。唾液と逸り水がその動きで攪拌され…嚥下しきれないぶんが唇の端から溢れ出た。

もぎゅ、もぐっ、ちょぶっ、ちょむ…んく…ぷぢゅ、もぐ、もぐっ…

 愁一郎はだらしなく口を開けたまま、泣き出しそうな視線を中空に漂わせてフェラチオの心地よさに浸った。両手で自らの尻をつかみ、最後の瞬間を少しでも遅らせようと努力する。

 しかしその努力も…色魔に憑かれたような智秋の動きの前には無駄なあがきでしかなかった。思い切りよく頭を振り、先端を舌の上で擦らせながら喉の奥まで送り込ませるようにすると…ペニスは快感のみに支配され、情欲の血が激しく巡る。

 堰が決壊するには刹那の時間で事足りた。

「ああっ…こまざわっ!こ、こまざわあっ…!!」

びゅるるっ!!

「う、くっ…!!」

「んんっ…!!」

びゅうっ!びゅっ!びゅっ!

「くぁ、出…!!」

「んぶ…ふぅ…!!」

ドクン、ドクン、ドクン、ドクン…

「くっ…うぅ…うくっ…」

「ふぅ…ふぅ…っ…」

 むくくっ…とペニスが最後の膨張を示し、根本を大きく脈打たせた瞬間…愁一郎は望むと望まないとに関わらず、思い切りよく射精した。濃厚な一撃を叩き付けると、そのままリズミカルに二撃、三撃、四撃…。尾てい骨の辺りから吸い出されるような感触を覚えるほど、勢いは凄まじかった。愁一郎自身でもゾクゾクするほど、いつまでもいつまでも脈動が続いている。

 数週間ぶりのうえ、焦らしに焦らされた果ての射精は勢いも量も半端ではなく、太いパイプを蹴飛ばすようにして繰り返し繰り返し智秋の喉の奥に、舌の上に大量の精液を噴出させる。黄ばんで粘りけの強い精液はたちまち口腔内を満たし、舌の裏から唇と歯茎の間、歯の隙間にまで流れ込んで浸透した。

 たとえようもない渋味は鼻で深呼吸を繰り返すたび、むせこみたいほどの嘔吐感を催させてくる。智秋はきゅっと目を閉じ、混じりけのない純粋な愁一郎の味に身震いした。

「こまざわ…こまざわ、オレの精子…飲んでっ…」

「…んぶ…ん…」

ご、くん…。ごくん…。ご、くん…。

 恍惚の身震いすらきたす射精の余韻に上擦った声で哀願する愁一郎。その望みを叶えるべく智秋は時間をかけ、数回に分けてゆっくりゆっくり精液を嚥下していった。喉の奥に先端が密着したままということもあってか、嚥下する音がやけに大きく聞こえてしまう。その音がかわいらしい智秋に精液を飲ませている事実をより深く印象づけ、愁一郎の目から感涙をこぼさせる。

 頭の中がぼうっとして…なにも考えられなくなるほどに気持ちいい。

 盛大に射精し、頬張られたペニス自身が精液でヌルヌルにまみれてなお絶頂感は持続した。そしてその快感は頭が悪くなるほどの余韻をもたらし、事実愁一郎を惚けさせている。早くて深い呼吸を繰り返す口許から、絶頂感に見舞われたことで分泌の促された唾液がぽたぽたと智秋の膝元へと滴った。

 一方で智秋は…憧れていた愁一郎に射精してもらい、一撃が喉の奥にぶち当たった瞬間ひそやかにしおを噴かせていた。熱い迸りを受けて情欲はピークを迎え、ヴァギナ全体にせつない電撃を走らせたのである。

 そしてその熱い精液を飲み干した事実が、自分がいまどれだけ淫猥な行為を遂げてしまったのかを強く意識させてくる。

 精液を…あろうことか憧れていた愁一郎の精子を、飲んでしまったなんて…。

 その濃厚な精液は舌の根本にまでヌルヌルとまとわりつき、食道を通って胃に流れ込んでいった。渋味はいささか不快で、胃の方が何度か拒絶しようと暴れ回ったが…欲情による興奮で身体中が熱くなると、その反応は瞬時に収まってしまう。それどころか意識はさらなる精液を求めるよう、智秋に吸い付きを再開させるほどだ。

ちゅうっ、ちゅうっ…ちゅ、ちゅっ…ちゅうっ…

「こまざわ…んっ…気持ちよかったよ…。すごいいっぱい出た…。」

「ん…んん…」

 陶酔の声でかいぐりしてくる愁一郎に答える代わり、智秋は右手で根本近くのパイプを指圧し、左手で射精後のストレスをほぐさんとふくろの中のさくらんぼを優しく揉んだ。

 勃起したままで萎える様子のないペニスをしゃぶり、射精しきれなかったぶんまで丁寧に吸い出して飲む。じわ、じわ、と精液に続いて終わり水まで滲み出てきた。

ぬる、ぬるるるっ…ちゅぶ、ちゅ、ぱっ…。

 頃合いを見計らって頭を引き、ペニスを口内から引き抜いてゆく。

 名残惜しむようツヤツヤな先端を舌と唇で愛撫してから、智秋は水っぽい音を立ててペニスを解放した。ヌメヌメと光り、ほわっと湯気を舞わせたペニスはなおも隆々とそそり立って天井を仰ぐ。射精したばかりで感覚は鈍いが、強張りは少しも衰えを見せようとしない。意識には理性も羞恥も復活してきていたが、身体のほうはすっかり智秋のフェラチオに魅せられてしまったようだ。

「こまざわ、ホントありがとな。まずかったろ…?ほら、ゆすぎなよ。」

「ん…だいじょうぶ…だいじょうぶだから…ね、おおばくん…」

「ん?」

 ぺたん、とタイルに尻をついて座り込んでしまった智秋の前にしゃがみ込み、愁一郎は済まなそうにシャワーを手繰り寄せた。湯で口内をゆすがせようとしたのだが、智秋はその気遣いを片手だけで辞退する。

 不思議そうな面持ちで見つめてくる愁一郎から火照った顔を反らしていた智秋は、やがてゆっくりと上体をひねり、愁一郎に背中を向けてしまった。尻餅をついた正座のまま頭をうつむかせ、髪を左手で流すと…そっと前に進み出るようにして腰を浮かせる。

 智秋は…愁一郎に尻を突き出すようにしてよつんばいになってしまった。

「ちょ…こまざわ…?」

 白くて形の良い尻を差し出し、艶めかしく開いた裂け目をも露わにした智秋に愁一郎は戸惑い、思わず見とれて口許を押さえた。

 つるん…とした、丸くて柔らかな女性の尻…。

 恥じらいも忘れて剥き出されるがままの、色素の濃いすぼまり…。

 照り返し方も滴り方も、湯とは明らかに違う淫らな雫…。

 濃いピンク色に充血して、あられもなく奥まで開いた裂け目…。

 粘膜質の裂け目の縁で雫にまみれている小さな紅玉…。

 それらで構成される智秋の悩ましい痴態に、先程爆ぜたばかりであるにもかかわらず抵抗しがたい情欲が胸いっぱいにこみ上げてくる。

 その淫らにも美しい姿に愁一郎が言葉を失っていると、智秋はくいくいと尻を突き出すようにしてから振り返った。泣き出しそうな媚びた目で愁一郎を見つめる。

「お願い…大場くん、もう待てない…セックスしよぉ…?」

「こまざわ…お前…」

「あ、あたし…もうベッドまで待てないのっ!軽蔑されてもいい、今すぐ大場くんに抱かれたいのっ!ね、できるでしょ…?してよぉ…!」

「こまざわ…お前、いつの間に…」

 いつの間にこんな淫らな女性になってしまったのか。

 自分の知っている智秋はどこへ行ってしまったのか。

 変わってゆくのは仕方がない。時間は確実に過ぎているのだし、智秋とて同じ場所にいつまでも留まっている女性ではないはずだから。

 愁一郎が納得できないのは、智秋をここまで変えてしまった人間がいるということだ。そいつは少なくとも、自分の知らない智秋を知っているということになる。

 嫉妬…。独占欲…。疎外感…。

 いつの間にか唇を噛み締めていることに気付いた愁一郎の脳裏に、そんな単語が浮かび上がる。その単語の意味に突き動かされ、愁一郎は智秋の脚の間に進み入った。

「あたしだって、女だもん…。こんなせつない気持ち、ずうっと前から持ってたんだよ?ねえ大場くん、はやく…はやく大場くんと、ひとつになりたい…っ!」

「こまざわ…」

「お願い、すごい寂しいの…。だから、大場くんに慰めてほしい…!」

 焦燥感に包まれた智秋は背後を振り返りながら一筋、涙を伝わせた。

 失恋の痛手。温めていた憧れ。歯止めの利かない愛欲。

 それらの感情が綯い交ぜになり、智秋に嬌態をとらせ、嬌声をあげさせていた。切望した瞬間を前に腰がガクガクと震える。それでもなお智秋は下肢に力を込めて膝を浮かせ、できるだけ高く尻を上げて愁一郎をせがんだ。

さわっ…。

「ひぅっ!!ひ、ひゃああ…!!」

 愁一郎の両手がウエストをつかんでくる。触れられて、ゆっくり上下に撫でられると智秋はそれだけで陶酔の表情となり、鼻にかかったよがり声を漏らしてしまう。

「こまざわ…オレに求めてくれて、本当に嬉しいよ。オレだって一度は駒沢のこと憧れたんだもん…こっちから慰めさせてほしいくらいだよ…。」

「おっ、おおばくぅん…!」

「無理しないでいいよ、膝下ろして…楽にしてていい。」

「う、うん…」

 愁一郎の促すままに、智秋は膝を下ろして突き出した腰を元の高さに戻す。

 楽な姿勢に戻ったことを確認すると、愁一郎は膝立ちの下肢を開いて高さを調整し、あらためて智秋の身体に触れた。背筋を柔軟にほぐすよう、わきからウエストにかけてをゆっくりゆっくり往復して撫でる。そうすることで智秋は、ぐいっとのけぞるように背中をそらして熱く嘆息した。触れられるだけでも心地よいらしい。浴室内にかわいらしいあえぎ声が止まない。

「はうん…あっ、はあぁ…っ!気持ちいいよ、おおばくぅん…!」

「はぁ、はぁ…じゃこまざわ、そろそろ…。避妊、大丈夫なのか…?」

「えっと…いち、にぃ、さん…で…あ、今日はもしかして…まずいかな?一応外出ししてくれる?やっぱ怖いしね…。」

「なんだよぉ、だからベッドまで待てって言ったのに…。せっかく備え付けのゴムがあるんだからさぁ。」

「だーかーらー、もう待てないんだってばっ!はやくはやくっ!」

 妊娠の危険すら軽視してしまうほどに焦れている智秋。愁一郎は幾分困惑の色を表情に混ぜたが、早めに中断すれば問題ない、と覚悟を決める。

 それよりなにより…先程抱いた感情が愁一郎を奮い立たせていた。

 親友以上に身近に感じていた智秋を…自分ももっと確かめてみたい…。

 そう望むだけでペニスはすぐさま臨戦態勢を取り戻し、強く天を仰ぐほどに硬直する。余韻の素晴らしさを示す終わり水は、いつしか期待に満ちた逸り水へと変質していた。

 ぬる、ぬる…と先端でクリトリスに挨拶し、くみ…っと逸り水で潤うおちょぼ口に埋める。心地よい刺激を分かち合い、二人同時に小さくうめいた。

 そのまま右手に握ったペニスを、裂け目を割り開くように上昇させ、尿道口を通過して膣口に到達させる。確認はしていないが、智秋の発言や態度からしてヴァージンではないのだろう。合図さえ送れば気遣いなく挿入してかまわないはずだ。

 濡れそぼった桃肉に先端を埋め、ぐにゅ、とわずかに体重をかける。柔らかく抵抗感のあるくぼみにあてがうだけでも、内側の心地よさが想像できそうであった。

 そのままペニスから右手を離し、両手で智秋の尻をつかむ。ここまで外圧をかけていると、もはやペニスは抜け出て反り返ることもなくなってしまう。

 指が吸い付いてしまうような非常に手触りの良い智秋の尻を撫で、そのまろみを確かめてから愁一郎は最終確認を取った。

「こまざわ、入るよ…?」

「うん…」

 結合の興奮が胸躍るような緊張に変わる。武者震いしそうな期待に智秋はわずかにうつむいて目を閉じ、その瞬間を待った。あてがわれているペニスを引き込まんと、鈍く痺れ続けているヴァギナの襞ひとつひとつがヒクンヒクン動いているのがわかる。

 大好きだった愁一郎と…今、つながることができる…。

 長年の夢が叶おうとしている現実に、もう頭の中は真っ白であった。

 愁一郎が愛しい…。

 ただその一念だけが智秋を占めており、それ以外の意識は排除されてしまう。あとは怖いくらいの耳鳴りと身体中のうずきを感じているのみだ。

「ゆっくり入るね…。」

「うん…」

ぎゅうっ…

 先程と同じく言葉少なな了解を得て、愁一郎は智秋の尻を押さえたまま、体重を前に移動させるようにして腰を突き出していった。艶めくほど張りつめた先端は外圧によってゆっくり智秋の膣口を拡げ…愛液どうしの潤滑も得て、ぬむ…とわずかに埋没する。

 まさにその時であった。

「…ふぁ…ふぇ、ふぇくしゅっっ!!」

 ヒクヒクッと鼻の奥がむずがゆくなった智秋は…持ち上げた頭を振り下ろすような動作で豪快なクシャミをした。普段は小さく押し殺す術もわきまえているのだが、緊張による油断が逆にその緊張をきれいさっぱり解放してしまう。

 自分が大事な場面で何をやってしまったのかゆっくり認識できてきた智秋は、呆然と洗い場のタイルを見つめたままみるみる顔面を紅潮させていった。おまけに寒気まで肩口に感じ、ブルルッと身震いまでしてしまう。

「こまざわ…」

「ご、ごめんっ…!あたし…こんなときにあたし…う、ううっ…!!」

 愁一郎が躊躇いがちに声をかけると、智秋はカクンとうなだれ、謝辞を叫んだ。そのまま小さく肩を震わせて嗚咽を始める。

 大事な場面だったのに、わずかな油断で台無しにしてしまった…。

 思いきりはしたない格好でせがんだのに、せっかくの雰囲気を壊してしまった…。

 智秋はよつんばいの体勢のまま、タイルに涙を滴らせて心中自責した。唇を噛み締めて嗚咽を押し殺そうとしている姿も、健気と感じるよりも憐憫に思う方が優先してしまいそうなくらいであった。

 先程浴槽から湯を抜いたことで、浴室内の温度は急速に低下していたのだ。その温度変化が智秋の身体に意地悪な影響を及ぼしたのである。

 それでも智秋は自責せずにいられなかった。醜態を晒して愁一郎に嫌われてしまうのでは、という脈絡のない不安すら覚え、一層涙腺を緩ませてしまう始末だ。

「こまざわ…なんで泣くんだよ…」

「だって…だってあたし…うっうっ…!!」

 性器どうしの密着を解いた愁一郎が智秋の横にまわって肩を抱いても、智秋は顔を上げようとはしなかった。再びタイルにぺたんと尻をつけた崩し正座になる。

 愁一郎はそんな智秋の頭を左手で抱き寄せ、抱え込むようにしてかいぐりしてやった。なおも両手で顔面を覆って泣きじゃくる智秋に、言い聞かせるような口調で語りかける。

「何を泣いてんのかわかんないけどさ、駒沢はクシャミしただけじゃん。オレ、全然気になんかしてないよ?」

「…せっかく…せっかく二人でその気になったのに…あたし、台無しにしちゃったもん…」

「悪い方向に考えるのはやめなよっ。それにさ、駒沢…その気、なら何回だって作り直せばいいじゃん。オレ達、今日出会った仲じゃないだろ?」

「…」

 ぐりぐり、と擦り合わせるように頭を抱いてなだめ続ける愁一郎。どうにか智秋は泣き止んだものの、まだ顔を見せようとはしてくれない。愁一郎の一言一言を反芻しては自分に言い聞かせているようにも見えた。

「今できなかったぶん…ベッドで求めるからさ。な、駒沢…顔、見せて。」

「…恥ずかしいもん…泣いてた顔なんて、見せたくないよぉ…。」

「でもオレは駒沢から離れたくないしなぁ…。あ、じゃあもっと恥ずかしいこと言ってやろうか?」

「え…?」

「…さっきクシャミしたときさ、駒沢…またしお噴いたんだぜ?オレの、押し返すみたいにビチュッ!とかいってさ!」

かあっ…。

 覆った両手の向こうで、智秋はたちまち顔面を紅潮させてしまう。顔を覆っていながらも耳まで真っ赤になってしまうことから、耳元でささやきかけた淫らな言葉は不意打ちよろしく効果を発揮したことが一目でわかる。

 智秋はようやく両手を下ろしたが、真っ赤な顔は愁一郎に向けられることはなかった。すねたように、わずかに口許をとがらせている。

「…そんなこと言われたら大場くんの顔、もっと見れないじゃない…」

「あれ、逆効果だった?怒んなよ、デコオンナ!」

「あーっ、またそうやって言うっ…あ…」

 あだ名を呼ばれて思わず振り返った智秋は、自分が愁一郎に乗せられてしまったことに気付いた。振り向いた先には…愁一郎の嬉しそうな笑顔があったからだ。ふてくされて困らせるとか、真っ向から文句を言ってやろうとか思っていた気持ちはその笑顔の前に砂の城よろしくたちまち瓦解してゆく。

「おかえり、駒沢…。」

「あ、う…ただいまっ。」

ちゅっ…。

 照れ隠しに唇を押し当てれば、もう智秋の心からは自責もなにもかも、気落ちさせるような要素はすべて霧散してしまう。

 愁一郎の思いやる気持ちが行動や言動だけでなく、重ねた唇の薄膜を介して心に染みわたってきて…愛しさを分かち合うことができたからだ。

 悩みや嘆きは分かち合えば半分になるが、愛しさは分かち合うと二倍になる、とどこかで聞いた言葉が智秋の脳裏によぎる。愁一郎はもはや独り占め叶わぬ男性であるが、いつまでも親しく過ごしたい男性であることに変わりはない。

 もはや自分が結ばれているような錯覚に陥るほど、愁一郎のことが愛しくなってしまう。それくらい彼の優しさに惹かれていた。

 みさきが羨ましくてならない。学生時代から見知っていてわかっているが、心配りの上手い愁一郎のことだ、最愛の女性に対しては決してぞんざいな態度をとることがないだろう。それがわかっているぶん、毎日毎夜好きなだけ彼の愛情に浸ることができる親友が妬ましく思えるのだ。

ちゅ、ちゅっ…ちゅぱっ…。

「でも…」

「ん?」

「でも今夜だけは…あたしだけを見ててくれるんだよね。あたしを精一杯、慰めてくれるんだよね?」

「…もちろんだよ、駒沢…。今夜限り、気の済むまで…な。」

 唇を離すなり脈絡のないことを口走ってしまった、と思ったが…愁一郎は訝ることなく言葉を合わせてくれた。心から安堵感を覚え、膝立ちになってすがりつく智秋。

 愁一郎も倣って膝立ちになると、彼女の身体を力強く抱き締めた。肌越しに伝わってくる確かな鼓動が無性に嬉しい。頼られているという意識が深まり、守護本能とでもいうべき衝動が愁一郎を熱く奮わせる。

「駒沢、身体拭いたげる。」

「うん、お願い…。」

 愁一郎はバーラックに手を伸ばしてバスタオルを手繰り寄せると、智秋の身体をくるむようにして長い髪から火照った身体までくまなく水滴を拭ってやった。髪は丁寧に揉むようにして水気を取り、身体はわきから指先、胸元から尻の谷間まで恥じらうのもお構いなしに拭いてやる。

 湯上がりと発情のために身体中がほんのり桜色になっているのがなんとも色っぽいが、あまり感動して眺めていては先程のクシャミもあり、風邪を引かせてしまいかねない。愁一郎自身も絞ったタオルで適当に身体を拭き、最後に手ぐしで前髪をかき上げる。

「これでサッパリ、だね。どう?少しは落ち着いた?」

「うん、もう大丈夫だよ。ありがと、大場くんっ。」

「いえいえ、どういたしまして。じゃあベッドに行こう…。首につかまって。」

「え、連れてってくれるの?」

 きょとんとして問いかけながらも、智秋は両腕を愁一郎の首に絡める。愁一郎は彼女を一旦体育座りにさせると、そこから背中と両膝の裏に腕を伸ばし、立ち上がる要領で抱き上げた。

「わ、わわっ!」

「ふぅ。駒沢を抱っこ!デコオンナを抱っこ!えへへ、嬉しいっ!」

 驚いて見上げてくる智秋に、満足そうな愁一郎は満面の笑みを浮かべてはしゃぐ。

 結婚式などの宣伝ショットでチャペルをバックにした新郎が新婦によくやっているような抱き上げ方であるが、これは背筋力と腕力だけで持ち上げようとすると、いくら体重の少ない女の子であったとしても抱き上げた側は腰を痛めてしまう危険性がある。

 従って湯船から智秋を持ち上げたときと同様、両脚の力も使ってやるのがコツであり、またセオリーなのだ。えてして力仕事をこなしていれば自ずと身に付くテクニックであるが、要領さえわかってしまえば腕力、膂力に自信が無くとも誰だって簡単にやれるものである。難しいことなどひとつもない。

 愁一郎は特別力仕事を強いられる職種に就いているわけではないが、これはみさき相手に慣れているせいもあったりする。

「…ホント、大場くんって力持ちだね。男らしくってカッコイイ…!」

「へへへ、ありがとっ。でもこれってコツさえわかれば意外と簡単なんだよ?ま、とにかくベッドに行って一休みしようぜ?なんだかノドがカラカラだよ…。」

「あはは、あたしも!ちょっとお風呂ではしゃぎすぎちゃったね。」

 愛しげに互いを見つめ、屈託のない笑顔とささやかなおしゃべりを交わし合う。

 想いを寄せていた男性に抱き上げられた感動で、智秋は愛しさを唇に集める…。

 愁一郎の奥行きのある優しさに陶酔し、うっとりと目を細めた。

 愁一郎もまた、憧れていた女性を抱き上げられた感動で、愛しさを唇に集める…。

 智秋の甘えんぼな人なつっこさに本能が働きかけ、頼もしい光を瞳に湛えた。

 零距離で二人の感動が熱く熱く交わり合うと…

ちゅっ…。

 重ねた唇ごしに想いがスパークし、胸をたまらなく痛ませる。しかしその痛みは二人を惹き付け合う重要なエッセンスとなって、さらに強く唇をせがみ合ってしまう…。

ちゅ、ちゅっ…ちゅ、ちゅ、ちゅっ…はあ、はあっ…むちゅっ…

 二人にとって、もはやキスは生理現象のひとつであるかのようになっていた。もう一晩中でもキスしていたい気持ちである。むしゃぶりつくように唇を吸い、擦れ合い、ついばんで、また吸う…。

ちゅっ…くりゅ、ちゅぷっ…ん…ちゅ、ちゅぱっ…。

 心ゆくまで甘く、深い口づけを満喫すると…二人は舌を差し入れたままで唇を引き離した。暖めたミルクのような唾液がぴちゅ、と糸を引いて智秋の胸元に滴る。

「この、なんかヌルヌルして渋いの…もしかしてオレのザーメン…?」

「ふふっ、今頃気付いてるし…。ね、部屋に行ったらルームサービスでワインかなんか頼もっか?」

「こんなの飲ませちゃったのかぁ…って、ルームサービスはともかくとして、駒沢お前、まだ酒飲む気かよ?よっぽどおもらししたいらしいな。」

「や、やだっ…もうっ!また思い出させるっ!!」

「いてててっ!こら、暴れるなよっ!」

 失態を思い出させられてポカポカ小突く智秋に、痛がって顔をしかめる愁一郎。

 しかし二人の間には、やはりこうした戯れ感覚も惹き付け合う重要なエッセンスであるようだ。学生時代に戻ったような雰囲気で、お互いとびきり素敵な笑顔を浮かべずにはいられない。

「大場くん…ベッド、連れてって…。」

「うん、じゃあ行こう。」

 ひとしきりじゃれあってからもう一度見つめ合い、コクンとうなづく。

 愁一郎は右足を上げて器用にノブを倒してドアを開けると、智秋をしっかと抱き上げたまま浴室から踏み出し、一夜限りのねやへと向かった。

 

 

 

つづく。

 

 

 

■→次回へ

 

 

 (update 99/04/01)