X指定小説大賞参加作(オリジナル)

■ライク ア シングル(7)■

作・大場愁一郎さま

 

 

 

 カーペットにじっとり足跡を残しつつベッドの前まで辿り着くと、愁一郎は今度は左足を伸ばして布団と毛布をはぐり、智秋をシーツの上に横たえようとした。

「あ、待って。ね、お願いがあるんだけど…いい?」

「どした?」

「重くしてるのわかってて言うけど…もう少し、こうしててくれる?」

「いいよ。じゃあしばらく外でも見てよっか。」

 二人とも一糸纏わぬ生まれたままの姿であるのだが、今の智秋にはなんの精神的障害にもならない。愁一郎に抱っこされている現実がなによりも気持ちよくて、嬉しいのだ。

 しばらくこの夢見心地のままでいたい…。そう願うことは少しも贅沢ではないはずだ。

 智秋のささやかなおねだりを快諾すると、愁一郎は右足でベッドサイドにある照明スイッチをオフにした。夜の闇に包まれ、ほのかにポプリと洗い髪の香りのする部屋の中を窓際まで進み、そっとカーテンをまくる。

 七階の窓から見る夜景は液体化した真珠を飛沫かせたようにキラキラ輝き、鮮やかに大都市を彩っていた。智秋は左手を伸ばし、ガラスの冷たさを確かめてから陶酔するように息を吐きかける。白く曇ったガラスを指先で拭い、再び愁一郎に寄り添った。

「きれいだね…。この街ってすごいゴミゴミしてるイメージがあったけど…こうして見下ろしたら、まるで宇宙にでも来ちゃったみたい…。」

「なるほど、星の中かぁ…。そんな風に思うと、すごいロマンティックだよね。この星の中に…オレ達いま、ふたりっきりだ…。」

 しばし夜景に見入る。

 冷たそうな夜景と違って部屋は暖かく、互いの体温はより温かく…快適であった。

 そっと息を殺すと、空調の音だけがわずかに聞こえる。夜の喧噪はこの高みにまでは聞こえてこない。愛しい相手と二人きり、という状況が否応なしに強調されてしまう。

「あのね…?」

「ん?」

「こうやってね、男の人にだっこされて寝室まで運んでもらって…で、優しくしてもらうの、憧れてたんだぁ…。よくパソゲーなんかにもあるでしょ?パソゲーでなくってもいいや、マンガでも、ドラマでも…。」

「うん、わかるよ。そっか、駒沢…そんな風に思ってたんだ。」

 ぽつぽつと心情を吐露する智秋。その言葉には…そのように扱ってほしい、という願いも同時に込められている。照明を消す前に見えたのだが、まだ少し赤いままの瞳も考えれば誰でもそのことに気付くはずだ。

「大場くん…優しくしてよね?いまこうされてるだけでもすっごい嬉しいんだけど…。ああ、なんだか今夜は帰りたくないなぁ。ずうっと大場くんといたい。」

「今夜だけって割り切ってるから楽しいんだと思うぞ?毎晩会ってるわけにもいかないし、逆にそうなると楽しみも薄れちゃうよ、きっと。」

「えー、そんなことないと思うけどなぁ。大場くん、おもしろいんだもん…。」

「こらっ、わがままな唇はここかっ…?」

ちゅっ…。

 唇どうしの吸い付き合う音が響く。二人が目を伏せて深く密着すると、智秋の瞳からきらめきがこぼれ落ちた。歓喜が結晶となった、熱い熱い幸福の涙…。

 寂しさを慰めてくれる…傷心を癒してくれる暖かで甘やかなキスは、かつて憧れた男の唇によるものであったからなおさら感動がすごい。先程からキスは数え切れないくらいに交わしているが、一向に飽きのくる気配がしない。

ちゅっ、ちゅうっ…。

 息を止め、長く長く密着を維持する。唇ごしに互いの鼓動が聞こえるようであった。

 その鼓動は心からの充足感で弾みをつけられ、感動で沸騰しそうな血を身体じゅうに駆け巡らせ…興奮の汗をかかせる。唇を離すと、愁一郎も智秋も呼気を熱く震わせていた。

「…ベッドへ行こう。」

「あれ?なんか飲もうよぉ、ルームサービスでなくてもいいからぁ!」

「…やっぱり駒沢だな。ちょっと安心したよ。」

「…それってどーゆー意味っ!?」

 どうしてもノリが軽くなってしまう二人。不倫という関係を持つにあたっては、この二人の軽妙さは一夜だけのアバンチュールを楽しむには欠かせないものであろう。いたずらに重苦しくなっていては気まずい記憶が残るだけだ。

 あくまではしゃぎ調子の智秋に苦笑しながら愁一郎はカーテンを閉め、照明のスイッチをオンにしてから彼女をベッドに寝かせた。備え付けの冷蔵庫からボルヴィックの五百ミリペットボトルを一本取り出す。

ピキキッ…。

 ベッドの端に腰掛けてから、キャップを開けてボルヴィックを一口含んだ。なんだかんだ言いながら愁一郎もすっかり喉が渇いているのだ。冷涼な天然水はのぼせるような睦み合いの最中にあっても十分に美味しい。

「ごく、ごく…ん?」

「大場くん、あたしにもちょうだいっ!んー、んーっ。」

 智秋が人差し指を自らの唇に押し当て、ジェスチャーしながら物欲しげな目で求める。どうやら口移しで飲ませて欲しい、ということらしい。

ごぶ、ごぷ…ちゅっ…。

 愁一郎はボルヴィックを多めに含んでから智秋とぴっちり唇を合わせた。人工呼吸のマウス・トゥ・マウスのように九十度の角度を付け、すぼめて密着している唇を智秋に包み込むようにしてもらう。

 愁一郎はわずかに唇を開き、その隙間から少しずつ天然水を智秋の口腔へと流し込んでいった。智秋は小さく喉を鳴らしながらそれを嚥下してゆく。

んく、んく、んく…ふぅ…。

 流し込まれるだけをすべて飲み干してから、智秋は小さく嘆息した。それをきっかけに愁一郎もベッドに上がり、智秋に寄り添うようなうつぶせとなってボルヴィックの口移しを繰り返す。

ごく、ごくん…。

んく、んくっ…。

 角度を付けながら密着し、舌をもつれさせつつ…愁一郎が、智秋が喉を鳴らし合う。飲み干しては息継ぎして互いの照れ顔を見つめ…愛しさで浮かぶ微笑を惜しげもなく交わす。

「…冷たいだろ?」

「んん…いい気持ちぃ…。」

 愁一郎は智秋の真っ赤な頬を見て、まだ半分ほど中身の残っているボトルをムニ、と押し当ててみた。細かく汗をかいたペットボトルはいまだ冷たさを保っており、その心地よさに智秋はうっとりと目を細め、ボトルに頬摺りする。

「駒沢…まだ飲む?」

「ううん、もういいや。スッキリした。」

「じゃあ今度は…駒沢のおっぱい、飲みたいなっ。」

「大場くんのエッチ…。出るわけないでしょ…?」

 ボトルをベッドサイドに置き、愁一郎は無遠慮に左手を伸ばして智秋の乳房を包み込んでくる。そんな愁一郎を軽く小突きながらも、智秋は彼のおねだりを拒んだりしない。

 愁一郎は智秋に横からのしかかり、シーツに肘をついてから左手で乳房を揉んだ。右手でもう片方の乳房を寄せ上げ、差し出した舌先で、ちろっ…と乳首を舐める。ビクッと怯えるような反応を示す智秋。

 智秋の乳房は二十五という年齢にふさわしい美しさで見事に実っている。形も整ったお椀形であり、張りもまた素晴らしい。

 肌も実に滑らかで、寄せ上げて揉むとその感触だけでこちらも感じてしまうほどに絶妙だ。もちろん仰向けになったとしても、だらしなく横に流れたりしない。

 柔肌の頂点にあるラムレーズンにしても立派に成長を遂げていた。ツンツンにしこると愁一郎の唇にちょうどいいサイズになったりする。しかも乳首はもちろん、その周りの乳輪も色濃いピンク色で美しい。面積も決して大き過ぎず、処女雪のような柔肌を鮮やかに飾る乳首の部分だけでも美乳と評価してしまいかねないほどだ。

「こうやって間近に見ると本当にキレイだよなぁ。形も手触りもバツグンだし。それでいて敏感だったりするしね。くううっ!駒沢のおっぱい、本当に最高!!」

「ベタ褒めにされると、どうにも気恥ずかしいなぁ…。嬉しいけどね?」

「言っとくけど、お世辞なんかじゃないぞ?おっきくて、色も真っ白で…。でっかい肉まんって感じだな。」

「もう、もっといい例えができないのっ?」

「い、いててっ!思ったままを口にしただけじゃんかよぉ!」

 愁一郎の頭をゆるりと抱いていた智秋であったが、彼の言葉に苦笑すると、ぎゅっと左耳を摘み上げてやった。露骨に痛がる愁一郎の様子がおもしろく、また先程のようにそっと頭を撫でてやる。

 子供を持った母親の心境を思い描いていた。ここまであからさまではないとは思うが、乳房に手をかけながら一生懸命に吸ってくるのだろうと思うと、目の前の愁一郎にも眠れる母性がくすぐり起こされてしまう。

ちろっ、ちろっ、ちろっ…ぴちゃ、ぺちゃ…

 愁一郎は勃起した乳首を舌先で執拗に苛む。舌先から舌裏を使って乳首の先を刺激し、舌の腹全体でザラザラと舐め上げた。くにゅっと押し倒しても固くしこっている乳首は起きあがりこぼしよろしく、ピョコン、と跳ね起きてくる。

 乳首を取り囲む色濃い乳輪にも同様にして舌を這わせた。乳房を構成する柔肌のスベスベ感も絶妙であるが、薄くポツポツしてくる舌触りもまた心地よい。舌をくね回しながらぺろぺろ舐めると、智秋は緩やかに背中を反らせ、喉の奥で小さく鳴いた。

「はぁ…はぁ…大場くん、乳首、あんまりしないで…くすぐったい…」

「敏感だね。やっぱりおっぱいも性感帯なんだろ…?」

「うん…」

 愁一郎の直接的な質問に、困り顔の智秋はしおらしく答える。

 再び腰の中の筒が、キュンッ…と震えた。挿入を中断された裂け目もジクン、ジクン、と焦れ始める。自然と膝頭が摺り合い始めた。

 乳房への愛撫に専念している愁一郎はそれを咎めるでもなく、右手の指先に力を込めて柔らかみを揉み上げつつ、乳首をそっと口に含む。

ちゅぷっ…ちゅ、ちゅう…ちょむちょむ…ちゅ、ちゅっちゅっ…

 きゅっと唇をすぼめて乳輪にキスするような位置まで吸い付き、んまんま、と口唇期の幼子よろしく一心に吸った。標準よりも大きめと思われる乳房を下から寄せ上げつつ、むにりと唇を埋めるようにしてむしゃぶりつく。

「はむっ、はむっ…ちゅちゅっ、ちゅむ…ぷぁ、美味しい…いい気持ち…」

「んっ、んんっ!はぁ、おおばくん、いいよぉ…もっともっと吸って…。あかちゃんみたいにぃ…」

 母乳など出るはずもないのだが、愁一郎はそう感想を漏らしていた。

 そうすることが、なぜだか愁一郎自身の胸を和ませるからだ。落ち着くというか、安らげるというか…母に甘えていた頃の穏やかな心地が胸の奥から暖かく内圧を高めてゆく。くせになりそうな安堵感が、智秋の胸から得ることができた。

 智秋も智秋で、愁一郎に夢中で吸われて母性を覚醒させられていた。性感が次第に変質を遂げ、なんともいえない充実感へと昇華してゆく。

 言葉少なになって、鼻面を埋めるように一生懸命吸ってくる愁一郎がどうにも愛しい。目を伏せて心地よさそうに吸い付いてくる姿を見るだけで微笑が浮かんだ。乳房全体がピリピリ痺れ、内側から膨らむように熱くなってゆく。独り遊びでは決して得られない感触であった。

ちゅぱっ、ちゅちゅう…ちゅぱっ…もにゅ、もにゅっ…にりにり…

 さすがに愁一郎も幼子そのものではなく、今は愛欲に駆られる一人の男である。乳首を吸ってばかりもいられないことに気付き、今度は吸いながら引っ張り、逃してはまた吸い付き…という少々強引な愛撫に出た。密封状態で吸い上げられるため、智秋の乳首はすっかり充血してしまっている。それはもはやキスマークと呼んでも差し支えのないものであったろう。吸っては離し、吸っては離しされるたび、弾力良くぽよん…ぽよん、と弾むのがなんともかわいらしい。

 もちろんその間も左手による右胸への愛撫は途切れることはない。下からゆっくり、何度も何度もこね回された右胸はすっかり火照って特大の桜餅のようだ。執拗に苛まれた乳首も勃起しきりで、くりくりひねられ、つまんではしごかれ、ころんころんと転がされるうちに見事なくらいツンツンにしこっている。智秋はすっかり汗だくになっていた。

「次は、こっちも…」

「んああぅっ…!!」

 そんな右胸へと、愁一郎は唇と手を交替させた。指先でいじめぬかれた乳首に吸い付かれると、智秋は枕の上でおとがいをそらせ、ひきつるような鳴き声をあげてしまう。

 唾液でふやけてしまいそうな左胸を今度は右手が攻めると、智秋の心臓は怖いほどに高鳴り始めた。アンダーバストに触れるたび、その力強い鼓動を感じることができる。熱帯音楽のような力強さとともに、爆発してしまいそうなほどの儚さも兼ね備えた女の子のビートであった。

 智秋の悩ましい反応を前に、愁一郎もまた胸を高鳴らせ…強く耳鳴りを感じていた。顔面も汗ばみ、どんどん熱くなってくる。

 それはすっかり発情してしまった智秋のフェロモンによる効果であった。彼女の肌や汗に含まれる魅惑的なフェロモンは愁一郎の味覚、嗅覚に訴えかけ…彼を虜にしてしまう。

 妻帯者であり、こういった睦み合いには慣れているはずの愁一郎ではあるが、フェロモンは個人によって性質がまったく異なるものだ。

 もちろん態度やしぐさ、感じる場所なども人によって様々であるが、どれだけ女性経験のある男性でも、初めて抱く女性の場合には我を忘れてしまうことがあるのはこのフェロモンの影響によるところが大きい。

 愁一郎はみさき以外の女性を抱いたことがなかったから、やはり智秋のフェロモンに狂わされてしまう。淫靡な誘惑に抗しきれなくなると…

「はあ、はあっ…こ、こまざわっ!ちょっとごめんっ、キスさせて…!」

「んんっ…ちゅ、ぷあ…急にどうしたの…?」

「…オレにもわかんない…でも…ちゅ…んんっ…したくてなんないんだよっ!」

ちゅ、ちゅちゅっ…ぢゅるっ、ちむ…むに、ちゅ、ちゅっ…

 麝香にも似た強力なフェロモンを発している智秋本人にも愁一郎を狂わせた原因には気付かない。ただ求めてくる愁一郎に応えてやるのみだ。智秋としても求められればまんざらでもなく、むしろ自分からもキスをせがみたかったほどである。

 その智秋の心理もまた、愁一郎からのフェロモンによるものであった。発情した唾液や、ましてや精液を飲んでしまった今では強力な催淫剤を飲んでしまったのと同じだけの欲情を示してしまうことだろう。

「駒沢…風呂上がりなのに、もうこんな汗…」

「ん…大場くんだって汗だくじゃなぁい…」

 愁一郎が智秋の額や頬に浮かんだ汗を舐め取りつつ、そこにキスマークを残す。狂おしいまでの愛欲に駆られ、かわいらしい顔のあらゆる部分に舌を這わせ、吸い付いていった。

 智秋はやはり広めの額が性感帯であるらしく、あごや頬、まぶたや目尻よりもはるかに艶めかしい反応を示してくる。前髪の生え際を丁寧に舐め、その唾液をすするように音立てて額に吸い付けば、それだけでもう激しく身をよじって悶えてしまう。

「駒沢のおでこ、すっごい敏感だね…おっぱいやおまんこより感じるんじゃないの…?」

「そ、そんなことないよぉ…!大場くんの舌も…唇も…とろけそうに気持ちいいから…ひ、ぐぅっ…!くあっ、ね、もっと吸って、ちゅうしてえ…!!」

「おいおい、跡が残るって言ってなかったっけ?」

「いいの、もっとしてぇ…!おでこにちゅうしてよおっ!!」

「わかったよ…ちゅちゅっ…駒沢も、好きなようにしていいぜ…?」

 智秋のおねだりに応えるよう、愁一郎は彼女の額に熱い息を吐きかけてはぺろぺろ舌をくねらせ、ぶちゅっ…と唇を密着させて吸った。嬌声を絶やすことのない智秋も顔を動かし、愁一郎とかわりばんこでキスを撃ち合う。

 愁一郎が額にキスして、智秋が頬にキスする…。

 愁一郎が眉間を舐め上げては、智秋が耳孔に舌を忍ばせる…。

 額に淡い桜色の跡をいくつもいくつも残された智秋は愁一郎の下に潜っていくように身体をずらし、彼の胸元や首筋の汗を舐め取っては、お返しとばかりにキスマークを付けていった。口寂しさに任せて強く吸ったそれは、自分の額に付けられたものよりもずっと鮮やかに色濃い。

 愁一郎は一瞬妻への言い訳をひねろうとしたものの、今はもう目の前の旧友が愛しくてならず、この零距離にあって無粋な思案は止めることにした。そこで仕返しするように、智秋の首筋から肩口にもキスマークを付けてゆく。

「おおばくんっ…あたし、そんな上に付けてないよ…?明日、仕事行けないよぉ…!」

「こまざわだってなぁ…もしみさきに見られたらなんて言えばいいんだよっ!」

「あたしとしたって言えばいいじゃない…」

「こいつムチャクチャ言うなぁ…じゃあここならいいんだろっ?」

「え、やだ、あっ、あううっ…!!お、おば、くぅん…!!」

きゅうっ…

 開き直るような素振りを見せる智秋に愁一郎が吸い付いた場所は胸の谷間であった。柔らかな双丘の間に顔を埋め、汗ばんだ谷底に唇を押し当てて強く吸う。智秋も予想外の場所への口づけに背筋をそらせ、愁一郎の頭を両手で抱いて鳴いた。背中も汗ばんでいたらしく、シーツから浮き上がった肌に思わぬ寒気が漂う。

 抱き込まれているために頭を上げることができず、愁一郎は乳房の柔らかみに頬を擦り付けながら、唇を智秋のへそ辺りまでずらして逃れた。かたつむりの這った跡のように、鮮紅のキスマークから唾液がてらてらと薄明かりを照り返す。

「もう…キスマークつけられるの、痛いんだかんね?」

「オレだって付けられれば痛いよ…!」

「でも大場くん、いやがんなかったじゃない…気持ちいいんでしょ、実は?」

「駒沢だって、さっきまでオレの頭、押さえつけてたくせに!」

 ささやかな口論はしかし、からかうような微笑で交わされる。不満を鳴らしながらも、二人にとってキスマークを残される小さな痛みは快感になりつつあるのだ。

 その快感の存在を見つめ合って確認すると、二人の呼吸にはたちまち上擦ったあえぎが混じり始めた。愁一郎は智秋の右脚をまたぐようにしながらのしかかると、その身体を抱き締めて頬摺りする。智秋ものしかかられて不平を言うでもなく、愁一郎の背中に腕をまわして頬摺り返した。確かな重みによって、鼓動が同調するように聞こえてくる。

「はあ、はあっ…ああ…こまざわぁ…」

「はあ、んっ…はあ、おおば、くん…」

 暖かな抱擁に酔いしれ、夢中で頬を擦り寄せ合う。微かに湿った肌がそれぞれに心地よい。互いの息づかいを間近に聞き、互いの匂いを感じて呼吸はどんどん早く、熱くなってゆく。肌触りと温もりが愛しさを増幅させているようであった。

 ひとしきり頬摺りを堪能したあとで、また唇を重ねる。増幅された愛しさが唇を焦らせ、意識にキスを要求してしまうのだ。きつく目を閉じて鼻息も荒く、貪るようにそれぞれの唇を味わう。

ちゅぢゅっ…ふん、ふんっ…ちゅむっ、ちゅ、ちゅっ…くぁ、くりゅ、れりゅ…

 より深い密着を望むと、二人はまるで計ったかのようなタイミングで舌を差し入れた。ザラつく舌の腹を擦り合わせながら、角度を付けて密封する。口腔内でバタバタのたうつ舌の柔らかみはそれぞれの情欲の炎をますます燃え上がらせた。興奮で呼吸が詰まり、身体中がジットリ汗ばんでゆくのがわかるほどだ。

 照れくさくて、恥ずかしいのに…美味しくて、気持ちいいからやめられない。

 混ざり合った唾液を密着した唇の隙間から溢れるままにしつつ、愁一郎は右手で智秋の左半身を手の平いっぱいにまさぐった。

 うなじに触れた指先で首筋をなぞり、肩を包み込んで撫でる。そのまま小指からわきに忍び込みつつ、柔らかな乳房をつかんだ。手の平にフィットする形とサイズを兼ね備えた智秋の乳房は揉めば揉むほどに柔らかく、暖かくなってゆく。

「んぶっ、んんっ…!ちゅ、ぷぁ、むね…むねぇ…」

「はぁ、はぁっ、おっぱい…ぢゅぢゅ…好きだねぁ…こまざわ…」

「うん、うんっ…おっぱい、感じるの…でも、おおばくんだっておっぱいばっかり…」

 乳房を搾るようにして右手を動かすと、智秋はブルブル身震いして唇を離し、鳴いた。ぽおっ…とした表情で愁一郎を見つめ、うわごとのようにつぶやく。声はすっかり潤みきっていた。愁一郎の間断無い愛撫に、すっかり意識もとろけてしまっている。

 愁一郎も興奮で息を弾ませながら繰り返して智秋の舌を吸い、乳房を揉んだ。むぎゅ、と縦に握ると指の隙間から逃げ出しかねないほどに柔らかく、それでいて愛撫している実感を抱かせる弾力も充実している。

 赤く手の跡が残るほどに乳房を揉みほぐすと、右手はあらためて智秋のわきへと潜り込んだ。じっとり汗ばんでいるそこはフェロモンの分泌量が多い場所のひとつでもある。

こしょこしょこしょ…

 まんべんなく指先に汗を馴染ませてからくすぐると、口づけされたままの智秋はつらそうに鼻を鳴らし、愁一郎を跳ね上げんと上体をくねらせた。ぴちっとわきを閉じて防護策を講じてくることからも、やはり智秋はくすぐりにも弱いらしい。

 そういえば学生時代にも、智秋は友人達に背後からふざけて脇腹をつかまれたり、耳に息を吹きかけられたりすると辺りをはばかることなく悩ましい悲鳴をあげていたものだ。均整の取れた身体は当時から敏感であったらしい、と愁一郎は妙に感心したりする。

「ちゅ、ちゅっ…ぷぁ、駒沢って感じやすいんだね…。身も心も、すごいデリケートだったんだ…」

「ふぅんっ!ふぅ、ふぅ…もっと早く…気付いてほしかったなぁ…」

「だってさぁ…お互いそんな気持ち、表に出さなかったろ…。」

「…そぉだね、あたしももう少し頑張ればよかったのよね…。じゃあ…そのぶん取り戻せるくらい、慰めて…。」

「いいよ…いっぱいしよう…オレの知らない駒沢が見たいよ…。」

 過去を懐かしみながらも、願いが叶わなかったことを悔しがる智秋。しかしそのぶん、いまこうして抱かれると…何もかも差し出して甘えたくなってしまう。

 愁一郎としても求められれば精一杯応えたかったし、また、自分からも求めたかった。結果論ではあるが、結ばれる可能性があった女性を抱けることに、後ろめたさを背負いつつも何かに感謝せずにはいられない。

 再び吸い付くようにキスしてから、愁一郎は片手による愛撫を続行する。

 右手はわきを離れると五本の指を拡げ、今度は胸の横を通って脇腹に触れた。程良くくびれた脇腹にはそれでも適度な肉付きがあり、揉むとここでも女性の柔らかさを堪能することができる。

 ぷにぷに揉み、また摩擦するように撫で、指先を滑らせてへその穴を取り囲むようにすりすりなぞる。へその穴にそっと薬指を忍ばせると、智秋は目を細めながら小さくうめいた。程良く感じるようで、ふんふん鼻を鳴らして息継ぎを繰り返す。

 へその感度を確認したら、次は四本の指を揃えて背中へと進ませ、背骨を辿るように下降して尻に触れる。尾てい骨から続く、二つのまろやかな隆起からなる谷間へ進み入ると…そこは特にじっとり汗ばんでいた。

 その谷間にそって中指、薬指を奥へと進めてゆく。尾てい骨の先を探り当てたとき、腰の中できゅくくっ…と何かが鳴る感触が伝わってきた。

「なんか、鳴ってる…?」

「いまね、アソコ…きゅんってなったの…。大場くんがおしり、触ってるから…」

「おしり、触られるだけで感じるんだ?」

「感じるってほどでもないけど、くすぐったいの…。」

 目を伏せながら、諭すような口調で言う智秋。愁一郎も目を閉じて口づけながら、彼女の左側の隆起を大きく手の平を拡げて包み込んだ。

 智秋の尻もまた柔らかく、女性を象徴するまろやかさは必要にして十分であった。圧倒的でもなく、かといって頼りなくもなく、実に形の良い尻。

 さらに言えば、ザラつきひとつない絹のような柔肌は尻であっても同様であった。妻であるみさきにしてもそうだが、真っ白でつるつるで…なにか特別な洗い方、磨き方でもしていたのかと思うほどだ。

もにっ、もにっ…なでなで、なでなで…

 乳房でもそうであったが、本当に触り飽きない。手の平はシーツの上で下敷きにされているのだが、少しも圧迫感を感じさせないくらいに柔らかい。むしろこうして下敷きにされていることすらも嬉しく感じてしまうほどの心地であった。

 その下敷きからも逃れると…右手はいよいよ智秋の核心を目指す。中指の先が再びへそに触れると、そのまま真っ直ぐ下降して固めの性毛に覆われた恥丘に辿り着いた。

 とりあえず人差し指と薬指を太ももの付け根に沿わせたまま、もりもりした隆起を両側からむにゅっと摘む。あえて中指は中心に触れぬよう、遠ざけておいた。

「駒沢ってけっこう濃いめ?」

「ん…ほっといてよぉ…。はぁ、んっ…いいきもちぃ…。」

ぷにゅっ、ぷにゅっ…さわさわ…ぷにゅっ、ぷぢゅっ…

 柔らかく恥骨を覆い、裂け目へと続いて行く恥丘を摘み出すように揉み、以外と奥まで密生している性毛を掻き分ける。ディープキスと合わせてやると、智秋は膝頭を摺り合わせながら腰をくねらせた。恥丘を指圧されるだけでもすこぶる感じてしまうのか、足の指がきゅっと曲がってジャンケンのグーを作っている。ディープキスの向こうから漏れる艶めかしい声も、いまやほとんど吐息とかぶさっていた。

 愁一郎は頃合いを見計らい、中指を恥丘の割れ目にあてがう。くい、と曲げると指の腹は勃起したクリトリスを押さえ、指先は濡れそぼった裂け目に埋まって尿道口に触れた。

 その小さな穴を指圧するように中指をぐりぐり震えさせると、クリトリスも一緒に刺激されてしまう。智秋はビクンと肩を跳ねさせると、わずかに腰を浮かせてしまった。

「ぢゅっ…!ぷ、ふひぃっ!!くは、ちゅっ…んっ…!!」

「ふふふ…ぢゅっ、ぢゅう…はぷ、ちゅ、ちゅ…」

 クリトリスが指の腹で転がされるたび、智秋はビクッ、ビクッと身体を震えさせてよがり鳴こうとする。しかし愁一郎はそうさせまいと、意地悪く唇を塞ぎ続けた。髪に左手の指を差し入れて頭を押さえ、キスから逃れられないようにして吸い付き続ける。

 智秋は息も絶え絶えといったつらそうな目をしばたかせ、一筋涙を伝わせた。焦れた唇も、額も、性器も愁一郎に占拠されている事実で胸の奥の内圧が上昇し、気絶しそうなほどである。思いきりよがり鳴きたいのにそうできないため、張り裂けそうなせつなさはいや増すばかりだ。

んく…ん、くん…ぢゅるー、ぢゅぢゅっ…ちゅぷ…

 淫らにもつれあう舌を伝い、攪拌された唾液が流し込まれてくる。智秋は媚びた目で愁一郎を見つめながら小さく喉を鳴らし、それを受け入れた。微量ではあるが、唾液にも愁一郎自身のフェロモンが含有されており、喉を鳴らすたびにクリトリスの充血も増して感度を上げてゆく。

 そんなクリトリスを中指の腹が一回押し転がすごとに、ヴァギナはきゅうきゅう締まって愛液を搾り出した。今では肛門はもちろんのこと、先程愁一郎が触れていた尾てい骨の辺りまでねっとりと濡れている。シーツにもいやらしい染みが拡がっているほどだ。

 もちろん愁一郎にしても、智秋が濡れてきていることが指先から感じ取れるし…同じように自分も濡れていくのを感じている。

 逸り水を智秋のへその付近に漏出させているペニスはフェラチオの余韻からすっかり醒め、新たな愛撫を…突き詰めれば結合を望んで強く勃起している。智秋が身をよじるたびに柔肌と摩擦され、危険な予感を催すようにビクンビクン動いた。うかつな摩擦を与え続けられれば、無意識のうちに腰を振りかねないほどに情欲を漲らせている。

 愁一郎は智秋を絶体絶命にまで追い込むため、恥丘から離れた右手で核心を突くことに決めた。熱いナイフでバターを切るよう中指の先でぬめる裂け目を割り開いて…ぴと、と膣口にあてがう。あてがっただけで智秋の入り口はきゅんきゅん招き入れるように動き、びちゅ、と生命の音を立ててしおを噴かせた。

「ふうっ!ふうんっ!!ちゅっ…ふうんっ!!ううんっ!!」

「ん…?ふふふ、ちゅ、ぢゅ…」

 きゅっと目を閉じてよがり鳴こうとする智秋であったが、愁一郎は相変わらずそれを許さない。左手で額を押さえつけたまま、九十度の角度を付けて密着を維持する。嬌声はほとんど漏れず、代わりに唾液が隙間を割って溢れ出た。

 思う様に叫べず、焦れったさで気が狂いそうな智秋は震える腰をくいくい浮かせ、中指と膣口との接合を少しでも強くしようと努力した。意地悪する愁一郎の背中をばしばし叩いて激しく悶える。

ぬぷ、ぬりゅ、るるっ…

「んふうっ…!!んっ、んっ…んっ!!」

 そんな智秋の膣内に、何の予告もなく真っ直ぐに中指が押し込まれる。激しく身震いした智秋はのしかかる愁一郎を押し退けんばかりにのけぞった。ヴァギナも中指を来るべきものと錯覚し、きつきつに締め上げてしまう。

ぬちゅ…ぬるる、るるっ…。

 愁一郎は口づけたまま中指を根本まで一息に挿入し、ぴっちり膣壁に包み込ませた。奥に行けば行くほどヴァギナは熱く、どこもかしこもヌメヌメしていて…背高な襞のひとつひとつが感じているようにジクジクしている。

ぬりゅ、ぬぶっ…ぬちゅっ、ぬぷっ、ぬちゅ、にちっ、にちっ…

「ぷあっ!あんんっ!ひ、ひゃあっ!!あひっ、ひいいっ!!」

「あは、すっげえ声…!」

 中指を真っ直ぐ抜き差しされると智秋はたまらなくなり、愁一郎の左手と唇から強引に逃れて肺腑のせつなさを吐き出すようによがり鳴いた。悶えて乱打していた両手も、今では爪を立てんばかりに強く愁一郎の背中にすがりついている。智秋はすっかり困惑しきった火照り顔で、核心に触れてくる愛撫に酔った。愁一郎の指に合わせ、浮かせぎみの腰をリズミカルに振る。

「駒沢ぁ…だめだよ?中指でセックスしてる気になっちゃあ…。まだオレの、入ってないんだかんな?一人だけで気持ちよくなろうなんて、ずるいぞ…?」

「はふ、はふ…じゃあ入れてよぉ…!んっ…中指じゃ、ああっ!中指じゃ物足りないよぅ…!欲しい、早く欲しい…!!」

「ふふふ、駒沢のおまんこ、熱くって狭くって、ヒダヒダが凄いから気持ちよさそう…!中指だけでも十分気持ちいいんじゃないの?こぉんなにヌルヌルさせてさぁ…。」

「だめ、中指じゃだめえっ!大場くんの、おおば、くんの…っ!欲しいよぉっ!!」

 わずかに指先を曲げて、小刻みに膣内を引っかき回す愁一郎。濡れた花筒をほじくるように何度も何度も抜き差しし、ぐりぐりひねってはまんべんなく襞をくじる。

 そんな中指の動きで悦に入る智秋をからかい、より淫らな彼女を引き出さんと試みた。試みは功を奏したようで、愛欲に憑かれた智秋は恥じらいも忘れて愁一郎をせがんくる。

 その間も柔軟なヴァギナは愁一郎の中指を搾るようにしてすがりつき、潤滑を良くしてゆく。内側から膨らんで開花した裂け目はすっかり痺れきっており、その縁で勃起していたクリトリスも絶頂が近いためか萎縮が始まっている。

「はぁ、はぁ…ね、オレの…ほしい?」

「ほしい、ほしいのっ!このままじゃまた…ひとりでイッちゃうよぉ…!」

「いいじゃん…中指でも気持ちいいってことだろぉ…?イキなよ、遠慮なく…ほら、人差し指も一緒に入れたげるからさぁ…ほら、二本いっぺんに入るよぉ…?」

「あ、抜いちゃだめ…ひ、ひうぅ…ううっ!!」

ぬむむ…むっ…ぬっちゅ、ぬっちゅぬっちゅ…ぐにゅ、ぐにゅっ…ぬっぶぬっぶ…

 愁一郎はぬかるむ膣内から中指を一旦引き抜き、将棋の駒を摘むよう人差し指の背に中指を添えた。そのままあらためて膣内へと挿入し…根本まで押し込んでからストローク長くグラインドを再開する。二本の指でバタ足しながら大きくひねったりすると、智秋は左脚を所在なさげに持ち上げてしまうほど腰を浮かせた。締め付け具合も中指だけの時よりも強くなる。狭い膣を占拠する内径が大きくなったせいもあるが、智秋の本能は太くなった異物でさらに錯覚を強めたらしい。

「ひいっ!ひ、あっ!あはぁっ!!ふ、ううんっ!!」

「ほぉら、駒沢のえっち…。指だけでも十分じゃないか…。オレも駒沢に入りたいけど、指でこれだけ気持ちよくなってたら自信なくなっちゃうよ。指の方がいい、なんて言われたら立場ないもんね。」

「ふあぁ、あ、ひっ!!だめ、やっぱり違うのっ!おちんちんが欲しいのっ!指じゃイヤ…イッてもスッキリしないよぉ…はやく、はやく大場くんとしたいのっ!大場くんとセックスしたいのおっ…!!」

「ホントにしたい…?指じゃ満足できない…?」

「うん、うんっ!早く入れて、早く入れてぇ…!大場くんの、ちょうだい…!!」

 智秋は二本の指による摩擦で目が回るほどであったが、必死で愁一郎に焦点を合わせて哀願した。彼の背中に回した指が微かに爪を立てる。松葉崩しよろしく陰部を赤裸々にしたポーズで、片M字に曲げられた左脚は軽くつったようにピリピリしていた。

 愁一郎とひとつになりたい…。

 高校生活の末期になって強く抱いた想いは叶う寸前のところで焦らし抜かれ、智秋を淫らに堕としきっていた。親しくしていたことによるはにかみなどはとうに失せ、愛しさに突き動かされた性欲で彼女を強く発情させている。もう引き返すことなど考えられないところまできていた。以前の男ではとうてい考えられないことである。

 寂しさと焦りに任せ、何気なく言い寄ってきた男と付き合ってはみたものの、心の渇きは癒えることがなかった。なにより相手が癒そうとしてくれなかったのだ。

 独り善がりの、なにも得られることのない…セックスという名を借りたマスターベーションを手伝わされる日々…。

 それが愁一郎相手だとまったくの別物であった。妻帯者という余裕もあるのか、信じられないほど時間をかけて愛撫を施してくれる。結合を無理強いすることもない。

 それこそ意地悪く愛撫を重ねることによって、自分を解放させてくれるように桃源郷へと誘ってくれる。一緒に気持ちよくなることを第一に考えてくれる。

 つまりは…自分のことを思いやってくれる。

 あんな男にふられたことでクヨクヨしていた自分が馬鹿のように思えてきた。

 愁一郎が…やっぱり誰よりも好き…。

「大場くんっ!!」

「こ、こまざわ…?」

ちゅっ…。

 寂しさと愛しさが胸の奥で爆ぜ、智秋の背中を一押しした。ぐっと頭を起こし、愁一郎の頭を抱き寄せて口づける。予想外の反応に戸惑ったものの、愁一郎は慌てず騒がず、智秋が求めるままに唇を差し出した。吸いたいように、ついばみたいようにさせ、それに応えてやる。

 しばらくキスだけに専念し、心からの愛欲を確かめ合ってから二人はゆっくりと唇を離した。久しぶりに見る智秋の充実した笑顔が愁一郎の胸に甘酸っぱい一撃をくわえ、彼を一瞬たじろがせる。

「こまざわ…」

「大場くん、やっぱり好き…大好きだよぅ…。」

「こまざわ…あのなぁ、そんな顔して言われたら…オレ…」

「ふふふっ、だぁい好きっ!大好きだゾッ、こいつうっ!!」

「ちょ、おい駒沢ぁ…もう、ガキみたいなヤツだなぁ…」

 はりつめた緊張感がぱちんと弾けたように胸の中が軽くなる。達したわけではないが、衝動を包み隠さず告白してしまった瞬間に身体のうずきも心の靄も何もかも忘れ去ってしまい、ワクワクとした高揚感が満ちてゆく。

 そんな智秋に抱き締められ、膣内から指を引き抜いた愁一郎は苦笑しつつも智秋に頬摺りして応えた。歓喜の笑顔で抱擁を交わし、智秋の額に口づける。

 ほぅ、と恍惚の嘆息を繰り返す智秋に、愁一郎はささやくように問いかけた。

「駒沢、じゃあそろそろ…いい?」

「うん…さっきからしてしてって言ってたでしょ…?遅いよぉ…。」

 不平を言ってはいるが、智秋の声に怒りの気配は微塵も感じられない。火照りきった身体も先程までの切羽詰まった感じではなく、全身で愁一郎からの接触を待ちわびているようであった。固い雰囲気がゆっくりと和んでゆくのがわかる。

 智秋からの了解を得て、愁一郎はゆっくりと身体を起こした。そのまま何を思ったのか、智秋の胸の上をまたぐようにして膝立ちになる。しかも右手の指先いっぱいにまとわりついた、滴りそうなほどの愛液を乳房の間にべとべと塗りつけてくるので、智秋はきょとんとして愁一郎を見上げた。

「…なにしてんの?」

「なにって…駒沢のおっぱいでしてもらおうかなーって…。いいって言っただろ?」

 

 

 

つづく。

 

 

 

■→次回へ

 

 

 (update 99/04/01)