3.佐久間アンプの種類

佐久間アンプの特徴につい,もう少し詳しく説明をしていきます。

1.イコライザーアンプ

EQアンプ,プリアンプとも呼びます。アナログレコードを再生するためのアンプです。佐久間式のパワーアンプへ接続します。
ほとんどのイコライザーアンプは,DENON(デンオン)のモノラルカートリッジDL-102を対象に作られています。
他社のモノラルカートリッジは出力などの点で,佐久間アンプのつないでも十分な結果を得られません。
なお,DENONのDL-102はモノラル用のカートリッジではなく,ステレオ録音のレコードをモノラルに変換するカートリッジです。

佐久間式イコライザーアンプは,メーカー製のイコライザーアンプに比べ,増幅率が大きく(ゲインが大きい,ハイゲイン),ローサーなどは,イコライザーアンプだけで十分な音量で鳴るほどです。
とにかく,「アンプの最初の方で信号を可能な限り大きく増幅する」というのが佐久間アンプの特徴です。
これは,経験上 スピーカーに近くなって(終段ちかくになって)トランスでも真空管でも,増幅率の大きなものを使用すると,あまり音がよくない,ということが分かっているからです。
また,佐久間式イコライザーアンプの出力インピーダンスは,16Ωや150Ωと低いため,メーカー製のパワーアンプには接続不可能です。

では,『MJ無線と実験』1980年5月号に発表された42ドライブ801Aプッシュプルイコライザーアンプを例に,少し詳しい説明をします。なお,このアンプは,5691と42が直熱管に変更されるなどしていますが回路構成はそのままで,今だ現役で,コンコルドがシゲティのヴァイオリンを鳴らすなどしています。

さて,回路図2-1は,42ドライブ801Aプッシュプルイコライザーアンプの回路図です。

信号部と電源部

図2-1をご覧ください。

アンプの回路図は上のほうに,信号を増幅する「信号部」の部分と,真空管に電源を供給する「電源部」それから,真空管のヒーターに電源を供給する「ヒーター部」からなっています。なお,直熱管のヒーターは信号も流れるので,この呼名は説明のための呼名と考えてください。

初段,ドライバー,終段

アンプには何本かの真空管が必要です。
入力端子に一番近くについている真空管を初段,最後に付いている真空管を終段と言います。終段の前に付いている真空管は,終段をドライブする(動作させる)ということでドライバーともいいます。このアンプでは5691が初段。42が2段目,終段は801Aです。42はドライバーでもあります。
RCA83は,電源用の整流管で信号の増幅には関係していません。しかし,整流管も音色には大きく影響を及ぼします。
これまで,佐久間さんのイコライザーアンプは,初段,ドライバー段,終段の3つの部分で構成されていましたが,最近では,2段になっています。
配線のしやすさなどから,製作される場合は,最近の2段で構成されたイコライザーアンプがおすすめです。

・初段

初段についてです。
まず,TKS-27でカートリッジの信号を大きくします。次の5691も増幅率の高い真空管です。
絵画にたとえれば,TKS-27と5691でデッサンをするようなものです。音楽の骨格はほとんどここで決まります。はじめがしっかりしていないと,後でどのような名球を使おうとも,もう手遅れです。下地づくりが肝心です。それだけに非常に重要な個所です。また,ここで生じたノイズは,音声信号と一緒に増幅されてしまいますので,製作には細心の注意が必要となります。
音色ですが,TKS-27は太い音がします。5691は高域に冴えがあります。ただ,たとえこの二つの音を直接聴いても,とても好い音とはいえないでしょう。あくまで,下地づくりです。
なお,初期のアンプでは,5691へのヒーターへの配線をシールド線で行っていましたが,その必要ありません。普通のケーブルを使って配線してもOKです。また,初段5691は直流点火していましたが,交流点火でも大丈夫な場合が多いようです。

・ドライバー段

ドライバーに直熱管を使うと,音色はとても好くなるのですが,ヒーターチョークなどを使ってヒーターハムが出ないようにする必要があります。ヒーターハムは,ハムはとも呼ばれ,スピーカーから聞こえるブーンという雑音です。
42は傍熱管ですから,ヒーターハムの心配はほとんどありません。
音色ですが,42はあまり個性の強い真空管ではありません。このアンプはイコライザーアンプなので,あまり個性の強い音づくりはさけたのでしょう。

・終段

801Aのプッシュプルとなっています。
図2-2の回路図のように,終段に真空管が1本のものをシングル,2本のものをプッシュプルといいます。
2本使っても,回路図で見て,横に並んでいる物はパラシングルといいます。
シングルは「s」,プッシュプルは「pp」と表記することがあります。

RCA-801Aは独特の高域を持った真空管です。801Aは流れる電流が少ないので,プッシュプルで使用する場合は,特性のそろったものを使用しないとハムが出てしまいます。すでに,高価な真空管になったので,数本の中から特性の同じものを選別することは不可能と思われます。
なお,同等管(差し替えて使用できる特性の同じ真空管のこと)にハイトロンVT-62がありますが,この真空管は交流点火では音が悪く使用できません。

・入力トランス

TKS-27は,長くイコライザーアンプの入力トランスとして使用されてきましたが,製造中止になりました。最近では,代わりにSTU-001を使用しています。音色,S/NともSTU-001のほうが優れています。
STU-001は,TKS-27に比べてサイズが大きいのでシャーシで場所(スペース)をとります。
最近の佐久間さんのイコライザーアンプは,初段と終段の2段構成が多いので,スペースの問題はありませんが,以前の3段構成のイコライザーアンプや,プリメインアンプを製作する時に,STU-001を搭載する時にはスペースが確保できるか注意してください。

・独自のイコライザー回路

イコライザーアンプやプリメインアンプ(後述)は,信号を増幅する途中で,イコライザー素子)が挿入されます。
レコードを演奏中に,カートリッジ付近に耳を近づけると,「シャンシャン」した音が聞こえます。 このような音で録音された音楽を,普通の音になるように補正するのがイコライザーです。
なお,佐久間アンプのイコライザー回路(イコライザー素子)は,モノラルカートリッジDL-102を使ってローサーなどを鳴らす場合に最高の音色になるように設計されています。
もちろん,DL102以外のカートリッジ,ローサー以外のスピーカーでも高能率なら,全く差し支えなく使えます。なお,イコライザーには,いくつかのタイプがありますが,ほかのタイプのイコライザー(世界標準のイコライザー)を佐久間アンプに使ってもトラブルの原因になるだけですので,絶対にさけてください。
電気的にも問題が生じますが,なによりも音色がおかしくなってしまいます。

初期の作品では,イコライザー回路に30KΩの抵抗が使用されていましたが,その後,VLシリーズ,最近は,VL-SSを使用しています。


音色,S/Nなど,すべてにおいて,VL-SSのが優れています。また,シールドも完璧です。
なお,VLシリーズはすでに製造中止になりましたが,佐久間アンプのイコライザーに使用できるのは,VL208,VL209,VL210です。型番が小さくなるほど明るい音がします。VL208はジャズ,歌謡曲に,VL209はクラシックにむいています。ネジを回転させてインピーダンスを変化させられますが,イコライザーには最小値で使用します。
今は使用されなくなった抵抗ですが,この抵抗の種類で音色は激変します。佐久間さんは金属皮膜の抵抗を愛用されていました。


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