山本 :アンプの話にもどりますが、トランス結合のヒントは金田さんに記事にあったということですが…
佐久間:俺のトランス結合っていうのは、今はっきり言えば金田さんのアンプがイ メージなの。金田さんのDCアンプ…
山本:もうちょっと詳しく。
佐久間:金田さんが最初にデビューした頃、あの人無帰還のDCアンプやってたの。山本:負帰還を真空管OTLから発展的に解消させるものとしてお作りになったと金田先生がおっしゃってましたね。
佐久間:それでね、その頃はあんまり影響ないんだけど、そのあと完全にコンデン サを抜いた直結のDCアンプつくったでしょ。
山本:SEコンデンサを入れないやつでしょう? 佐久間:一時『MJ無線と実験』で、えらくコンデンサの材質の良さとか銘柄とか話題になったけど無駄だったでしょ。
それをみているうちに俺もね、こんなにコンデンサが問題ならばコンデンサのないアンプを作ろうと思ったの。そうするとああいうトランス結合のアンプしかないわけ。直流をこう一次に流してさ、それでコンデンサを省いていく。入力トランス、ドライバトランス、アウトと3段重ねで。
僕の今のトランス結合の原型のコンデンサを一切使わないアンプというのは、イコライザ素子以外にね。パワーアンプなんか全然使わない。あれはもう金田さんのDCアンプがイメージ。おれにとってはあの人はやっぱり大恩人。浅野先生と同じくらい自分にそのイメージを与えてくれて、啓蒙したというか。ただ、考えていることは全然違う。あの方はやっぱり、あくまでそのなんて言うのかな、音というものをもっと理論的にとらえて、それでああいう手法にいったんだろうけど、俺はそうじゃない。
僕はね正直言って、あの人の言ってるああいう理論に対しては別に興味ない。ただあの金田さんの回路ってのは俺にとっては、今のトランス結合を生んだイメージと言うことにおいては、あの人が紛れもなく僕のイメージでした。金田アンプが俺のアンプのイメージだったなんておもしろいでしょう?
佐久間:どんどんやりましょう、美学の極致でも何んでも。
後藤 :山本君はそういうの好きなんじゃない? 文化人類学の立場から...
山本 :文化人類学とおっしゃいますけどね、文化人類学の考え方というのは、二つの文化をくらべて、こちらは、上等であるとか、こちらは劣っているとかかということはできない。と、そういう考え方なんです。そしてこう考えると、まあ、世の中にはいろんな意見がありますが、その意見にたいして、批評をしたり反対することは、本当にむつかしいことになります。
ですから、オーディオにもいろんなものがありますが、これが上等でこれがミーハーだというのはおかしいということになります。
何か学問やってると上等だっていう…そういうややこしいのが一部、インテリにはあるようですが、そういうのは本当にタチがわるい。学問やってることが上等なことだと思うようになると、人間おかしくなってくる。政治もおなじかもしれません。そして、悲しいかなオーディオも同じで、むつかしい理論のみに走る人や、測定器の結果を集めることがオーディオみたいに思ってる人もいる。それはそういう楽しみかたもあるわけなのですが、そういう人に限って、これが一番だ、とか、おれの方が上等だとか言いたくなるらしい(笑い)
佐久間:だから、俺も、オーディオのアンプなんてやってるの上等なあれだと思っ てない。たしかに、山本君がいうように回路のことに関してえらく自分が高等な手段で、無帰還のトランス結合なんて、すごく稚拙な、自分がやってることよりも低い次元の回路だっていうふうに思っている人が結構いるんだよ。
山本 :議論といったこともまったく同じで、たくさんしゃべる人、難しい言葉を使うと、高等だ、と思う人がいるようです。
佐久間:そうかもしれないな。
山本 :初心者も、面倒な回路を高級な回路だと思うみたいですね。
オーディオには、値段の高低はありますが、音色に高級どうこう、というのはおかしいように思います。
8/10