<Prev | CG-Index | SF | 1997 | Next>
ビーグルIII世号シリーズ:←前のエピソード | 次のエピソード→
愛しのキム |
---|
◇◇◇
な、なんだ、あれは。1万8千度の恒星表面に・・・・・・なぜ人がいる?
ん?あの顔は、まさか、キ、キムじゃないか?!
もう一人、こいつはだれだ?くそっ、こっちを向け!だれなんだ?
キム!そいつはだれだ?!
◇
中尉 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・以上です、ウォーレス少佐。
少佐 アーヴィング中尉。君が映像データを破棄したのは重大な違反行為だぞ。
中尉 申し訳ありません。しかし・・・・自分の女房の・・情事を他人に見られるのには耐えられませんでした。
少佐 ふむ、君のブレイン・スキャンにも異常は現われとらんな。幻覚でないとすると、通常空間では遥かな遠隔地の光景がハイパースペース内を伝わって偶然にも・・・・というか不幸にも、当船のモニターに捕らえられたということかな。
中尉 そうです。キムが・・妻が私のいない間になにをしているか、よりによって私の当直時に映し出されるとは・・・・・・・・宇宙の神は皮肉な方です。
少佐 まあ、待ちなさい。ハイパースペースの性質は完全に解明されているわけではない。天然の入口は見つかっていないのだから、現在太陽系とこの船のエンジン周辺にしかないはずだ。太陽系の映像を捕らえても不思議はないが・・・・・・。
君の奥さんのキムは私の部下だったこともあるし、良く知っているが、そんな女とは思えんのだがね。本当に奥さんだったのかね?
中尉 間違えありません。ちょっと老けたような気はしましたが・・・・。
少佐 相手の・・・・その、男の顔は見ていないと言ったな。
中尉 後ろからだけですし、ぼやけてましたから・・。しかし女房の嬉しそうな顔はそいつの背中越しに、いやってほど見えましたよ。
少佐 中尉。やはり君は大変な考え違いをしているな。ハイパースペースは光速には拘束されん。超光速航法であり超光速通信なわけだ。
中尉 だから光でも何十年もかかる遠方の現在の出来事を・・・・。
少佐 現在ではない。このログを見たまえ。君が観測した時刻のハイパースペースの不規則波動が記録されている。これによると相対時間はプラス92メガ秒・・約3年だ。
未来だよ。君が見たのは3年後の未来の光景なのさ。
中尉 で、ではあの男は・・・・?
少佐 君さ、中尉。帰国後の君自身に決まってるじゃないか。3年後もますます君たち夫婦は仲むつまじいということだな。ハハハ、羨ましいことだ。
そら、そんなだらしない顔しとらんで任務に戻れ。事後処理は私がやっとく。
中尉 は、はい!・・・・・・ありがとうございます、少佐!
少佐 ああ、中尉。
中尉 は?
少佐 次の寄港地はブルーダイヤの産地だ。奥さんへのみやげは奮発するんだな。
◇
少佐 おお、中尉。その後元気そうでなによりじゃないか。
中尉 はっ、みんな少佐のおかげであります。
少佐 ハハ、私も君らに負けんようにこうして体くらい鍛えとかんとな。
中尉 あれ、少佐、その右肩のは刺青ですか?
少佐 ん?ああ、これか。私の故郷での習慣でね。この竜は家紋みたいなものさ。
中尉 お国へ行けば私も彫ってもらえますかね。
少佐 え?もちろんできるだろうけど、なぜだい?
中尉 なぜかわかりませんが、帰国したら私も同じものいれるらしいんですよ。
あれえ、場所も一緒だなあ。
◇◇◇
ビーグルIII世号シリーズ:←前のエピソード | 次のエピソード→
<Prev | CG-Index | SF | 1997 | Next>