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2002年ベスト恋愛ゲーム投票─(3)総括
恋愛ゲーム学補講 第32講

2003/07/14初版

1.from 2002...

問、2002年の全体的な印象、2003年の恋愛系ゲームに期待することなどをお書き下さい。

ということで、最後に皆さんのコメントから2002年を振り返り、(すでに半分過ぎてしまったが)2003年を展望しよう。

 2002年の印象も、2001年の印象、すなわち大作不在感を継続しているか、より強くした意見が多くなっている。供給側からは依然として恋愛系ゲームの発売数が増加し続けている。ベスト恋愛ゲーム投票ノミネート作品が51作品(1997)→94作品(1998)→104作品(1999)→131作品(2000)→156作品(2001)→170作品(2002)と5年で3倍以上に膨れ上がっている中で(1997年の段階ですでに「嫌になるほど出て」いるなどというコメントをつけていたものだが…)、1作品辺りの重みがどうしても弱くなってしまう。とりあえずギャルゲー出しとけ的な感覚はとうの昔になくなっているが、恐らく、売れていない作品はとことん売れなくなっているだろう。

 合わせてユーザの嗜好も拡散している。図1にベストゲーム1位、ベストゲーム2位、およびベストゲームトップ10の得票シェアの推移を示したが、1999年の「Kanon」や2000年の「AIR」を頂点に、トップクラスの作品ですら求心力が下がる一方になっていることが分かる。

図1 ベストゲームの得票シェアの推移

 「大作」は決してプレイ時間が長い、ボリュームがあるとか、完成度が高いとかいったことだけで生まれるのではない。ユーザ側の熱狂的なコミットメント、2次創作を含んだ盛り上がりがあって初めて成立する。「大作」はメーカが作るのではない。ユーザが作るのである。トップクラスの得票シェアの低下は「大作」がより生まれにくい状況になりつつあることを示している。

 2002年もまた、PCゲームからコンシューマゲームへの移植や、リメイク、続編が多く発売されている。恋愛系ゲームの歴史が年齢を重ねる中で、新たな作品は過去の作品とも比較されることを強いられる。各メーカは「Kanon」や「AIR」といった過去の作品からの卒業と訣別を試みているのだろうし、その1つが2001年の「君が望む永遠」だった訳だが、いわゆる「鬱ゲー」は心理的な負荷が大きいため、結局のところメインストリームにはなれず、2002年は暗中模索の1年だったのではないか。そんな中で2001年後半から少しずつ盛り上がってきた「萌え」と「エロ」への原点回帰が、2002年には花開いたが、比較的作りやすい方向性だけに乱発されることになる。作品数の氾濫による1作品辺りの売上の低下がメーカを安全思考に振っており、強烈な個性を持つ企画・シナリオで引っ張っていくような作品の欠如、「人を選ばない作品」への傾斜をもたらしたのだろう。

 もちろん作品全体の完成度自体は年々向上しており、「合格点」レベルの作品がザクザク出てきているのはひとまず頼もしいことである。かつては絵とか音声とかキャラクタで売っていたこのF&Cの位置にオーガストやRUNE、XUSEといった有力メーカが登場し、もはや完全にお株を奪った形になっている。爆発的なヒットは望みにくいが、堅実な路線と言える。ただし、よりどりみどりなので何で差別化するかというのが問題になってくる。2002年は低年齢「風」のキャラクタ、妹系キャラクタが乱用されたが、極端なそれはユーザを限定し過ぎるし、低年齢志向作品自体が「コモディティ化」してしまうと、差別化ポイントでも何でもなくなってしまう。あくまで他社と違うことをやるという気概が必要だ。

2.to 2003

 2003年も作品数の増加は止まらないと思われる。6月までのノミネート候補はすでに96作品。この分であれば1年辺りの発売数の更改はほぼ確実と見ていいだろう。そんな中で2003年にはどんな恋愛ゲームが望まれているのだろうか。

 期待されている点は人により様々だが、正直なところ、熱烈な期待感というものがそもそも弱くなっているように思われる。メーカには「なにくそ」という反骨精神を持って貰いたいところだ。

 筆者としてはシナリオ/テキストの重要性は当然だが、今後はアニメーションへの取り組みに注目したいと思う。これまでの恋愛ゲームは絶対的に「動きのある演出」が足りていないと感じる。従来の立ち絵切り替えも頑張っているところは頑張っているが、そろそろ物足りなくなってきている。ムービーが多用できればそれに越したことはないが、労働集約的なアニメーションムービーは体力のないメーカには厳しいだろう。限られたリソースでいかに動きをつけるかが課題だ。LittlewitchのFFDはこうした課題への1つの回答である。またかつてコンシューマゲームでポリゴンとレンダリングムービーの連続的な切り替えが行われるようになったと同様に、スプライトベースのアニメーションとムービーが繋がらないだろうか。

 中高年層などのライトユーザがパッケージ買いするような「アダルトゲーム」とは違い、恋愛系ゲームは若年層が主な購買層であり、ネット感度も高い。2,3日すれば十分な情報が集まるので少し待てば自分に向かなそうな作品を回避できるようになる。このことも「ワーストゲーム」にハマらなくすることを支えているだろう。こうして「賢い消費者」が増えると、単に「人を選ぶが受けるユーザには受ける」作品であればいいが、根本的にダメなメーカには非常に不利な状況になる。何とか発売日買いのような初動の売上を促進するために、従来作品の本質ではなかったマーケティング要素がますます重要になってくることになる。

 残念ながら、コンシューマ移植やリメイクが幅を利かしているのは上期を見ても明らかである。特に音声の追加、画質の向上に加えてほぼ完全に普及したDVD化、WindowsXP対応という目玉があり、DOS→Windows3.1やWindows3.1→Windows95時代に見られたリメイクは当面活発になることが予想される。もちろん、そうすることで自ら過去の作品を新作の競合商品にさせてしまっているのだが。

 恋愛ゲーム離れは、単なる世代交代だけでなく、もしかしたら恋愛ゲームの限界を、ユーザが気づき始めていることの現れかもしれない。「萌え」と「エロ」とは言うが、「萌え」は「エロ」が奇形化したものに過ぎない。詰まるところ性欲に依存した商品なのである。今後の恋愛ゲームが成熟したユーザを繋ぎ止めて置くだけの深度とエンターテイメント性を獲得していかなければ、製作者とユーザを含む限定された恋愛障害者のためのマスタベーションスキームから抜け出すことは不可能だろう。


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