第一話Bパート
作・ヒロポンさま
これからきっかり48時間、パパの検査は続くらしい。
その間、あのパイプの中に入っていたパパは、ずっと眠りつづけているらしい。
検査終了と同時に、LCLを抜き、パイプ部分と各種器材との接続を切り離した後に、初めて意識が覚醒するようになっているらしい。
らしい、らしい、らしい
私は、ネルフの食堂で親子丼を食べながら、リツコおねーさんからの説明を聞いたのだ。
難しい単語がバンバン出てきて、なんというか、よーするに、よく分からなかったのだが、とに角検査終了と同時にパパが目を覚ますということと、その作業に四十八時間かかるということだけはわかった。
「時間がかかるから、ユイカはいったんマンションに戻っても良いんだけど・・・」
リツコおねーさんは、そこまで言って、私に探るような目線を向ける。
「・・・戻るわけないわね」
あったりまえです。と肯いてみせる私。
ママだってがんばってるんだ。私だけが家でのうのうと待ってるなんてできないし、なによりも、パパの側から離れるのが嫌だった。
「そう、じゃぁ、部屋を用意しとくから、そこで待っときなさい。部屋は、レベルCのエリアになると思うから、友達呼んだりしても良いわよ。」
リツコおねーさんはそういうと、部屋の手配をするために、手に持っていた携帯端末を弄くり始めた。数秒後、自分の方に向いていた画面をくるっと反転させる。
「その赤くなっているところがあなたの部屋よ。念のためあなたの携帯端末にもデーター送っといたから」
言うなり立ち上がって、「じゃあね」と口にすると、さっさと食堂を出ていってしまった。このあっさりしすぎたところが、私はどーも苦手なのだ。
−これからどうしよう。
どうしようと考えてみたところで、今から四十八時間、私は待つしかないのだけど・・・・
「友達かぁ・・・」
呟きながら、加持ミユキの顔を思い浮かべる。
−ううん、今はそんな気分じゃない。
とにかく、この与えられた時間の内に、十四歳のパパと再会する、同い年の娘としての心構えをつくっておこう。
−いったい、どんな心構えなんだろう
私は、自分の考えに自分で突っ込みながら、与えられた部屋に向かうべく食堂の椅子から立ち上がったのだった。
窓から吹き込んでくる風の心地よさが、私の心を少しずつ落ち着かせていく。
あれからきっかり五十二時間後。装置から出されたパパは、今ここにいる。
世界政府準備委員会の下部組織となった新生ネルフのVIP専用医務室。白を基調としたその部屋は、今、夕日を浴びて、茜色に染められている。
ここに移されてから四時間たっても、パパは目を覚まさない。別段それは問題ではないらしく、ママもレイおばちゃんたちも平然としたものだ。検査の結果、すべての面で問題なく、後はパパが自然に目を覚ますのを待っていればいいらしい。
決まりきった窓の外の光景を見飽きた私は、ベットの上で眠っているパパの顔を見詰める。四時間も前から定期的に繰り返される目線の動きは、半ば自動化されていた。
−ひょっとしたら、このまま目を覚まさないんじゃあ
そういう不安。
−もし、パパが目を覚ましたら、なんていって声をかけよう
それもまた不安。
パパが変なパイプから出てくるまでの四十八時間。そして、このベットに寝かされてからの四時間。わたしは、ずーーっと、戸惑いぱっなしなのである。現状と自分の心の落差に。
パパが帰ってくるとわかったときの、あの浮き立つような幸福感は、どこかに忘れ去られ、自分でも嫌になるくらい不安な気持ちばかりが心の中に湧き上がってくる。
そもそも、よく考えてみたら、パパは私のことは知らないのだ。おまけにパパは私と同い年。十四歳のパパ−同い年のパパができる娘の心境も計り知れないけども、突然、同い年の娘ができる父親の心境も、なかなか計り知れないものだろう。
−パパは私の存在を知らない。もし、知ったら。快く思わないんじゃ・・・
不安。
あどけないといっても良いその寝顔を見詰めている内に、風が落ち着かせてくれた私の心は、再び不安に泡立ってきた。
すぅすぅ
すうすう
心地よさそうな二種類の寝息。
私の不安とはどこか別次元にあるような、幸せな響き。
パパの寝顔に向けていた目線を少し横にずらす。奇麗な栗色の髪が、茜の空に照らされて、うすくきらきらと輝いていた。その奇麗な縁取りの真ん中にママの幸せせそうな寝顔がある。何時もの燐とした表情からは想像もできない、安心しきったような幼い寝顔。
その右の手は、パパのパジャマをぎゅっとつかんで離さない。
ちょっとした大きさの医務室のベットの真ん中で、パパとママは寄り添うようにして、眠っていた。
もう、四時間もそうしている。すべての検査が終わり、パパをこの部屋に移したママは、休息を取ることを勧めるレイおばちゃんに、「じゃあ、そうさせてもらう」と意地の悪い微笑みを浮かべなから答えると、おもむろにパパの寝ているベットの横に潜り込んで、すーすーと寝入ってしまったのだ。
−そういえば、あの時のレイおばちゃんの、なんとも言えない表情。怒っているような、寂しいがっているような感情の流れ、あれは、何だったのだろう?
私は、再び窓の外に目をやった。
−ママは喜んでる。
幸せそうなママの顔を見ていると、一人でぐずぐずと身内に沸き上がる不安をくすぶらせている自分が、本当にどうしようもない、嫌な娘に思えてくる。
そして、そういう風に考えていると、−パパは私のことを快く思わないのでは?という不安感が、より一層リアリティを帯びて私の心の中に膨れ上がっていくのだ。
私は、すべての抵抗を止めた。心の中を不安がのたくり、引っ掻き回すのに任せてみる。
結局は、繰り返しだ。パパを待つ間ずっと繰り返された心の無限ループ
ふと、ここにレイおばちゃんがいてくれたらと思う。十四年間眠っていたパパの混乱を最小限に押さえるため、最初の面会は私たち家族だけにした方がよい、そう提案したのは、そのレイおばちゃんだった。今となっては、その提案が恨めしい。そばにいて、あの冷たくて柔らかい手で、私の頬をなでてもらいたい。子供のころ、私が挫けそうになったときに必ず私を支えてくれたあの手の感触。今、あの懐かしい感触が、無性に恋しかった。
「ぅっうぅーん」
その時、ぐずるようなくぐもった声が私の耳朶を打った。
はっとして、ベットの方を見やる。
私の眼がパパの顔を捕らえたと同時に、ずっと閉じられていたその目が静かに開かれた。
吸い込まれるような黒。十四年前の戦いで世界を救った英雄の眼。私のママを虜にした純粋なまなざし、それが今、私の顔に控えめに注がれていた。
「・・・・アスカ?」
初めて聞くパパの声。
−私のことママだと思ってる。
違います。言葉が出ない
私はあなたの娘です。口が震えていえない
ずっと、あなたに会いたかった。だめ、心が震えて何も考えられない
私は、夢にまで見た場面に遭遇して、ただ呆然とたたずむことしかできなかった。
沈黙が部屋を覆っていく。
パパは、まだ意識がはっきりしないのか、視線を私に向けたまま、それ以上の言葉を発しようとしない。
数分の、とっても長く感じられる時間の後に口を開いたのは、やはりパパの方だった。
「ぼくは・・あの時・・。・・・そうか、・・・帰ってこれたんだね?」
誰にともなく呟くその言葉に、私はただ肯いて見せるしかできない。
「アスカ?」
また、私に問い掛ける。
ふたたびの問い掛けに私が答えようとした瞬間、私とパパをつないでいた視線の流れは、栗色の流れによって断ち切られた。
ママ
いつのまに起きたのだろう、白い頬に涙の流れを幾つも作りながら、ママがパパにやさしく口付けていた。
触れるだけのキス。優しいキス。
「おかえりなさい。バカシンジ」
ひまわりのような笑顔を浮かべながら、そういうと、再び口付けする。今度は、長くて深い、大人のキス。
年頃の娘の前という気遣いは、全くないらしい。
「アッ、アスカ?」
さっきまでは、神秘的といってもいい雰囲気を纏いつかせていたパパは、ママの行動にあって、みっともないほど動揺していた。
「そうよ、バカシンジ。奇麗になったんでびっくりしたしょ?」
「・・・ぼくは?」
「サルベージされたのよ!かえってこれたの!」
「そう・・・僕は何年間取り込まれていたの?」
「・・・十四年よ」
「十四年・・・長いね」
過ぎ去った時の流れに呆然とするようなその台詞に、私の胸がチクリと痛む。
「そうよ、長かったわ」
「僕を待っててくれたの?」
すがるようなまなざしに、母性本能がくすぐられる。
「当然でしょ!私にとっての男は、シンジだけ・・・あの時そう決めたんだから・・・」
「アスカ」
「ふふっ、こーんないい女を十四年も待たせたんだからね!責任とりなさいよね!バカシンジ」
パパの首根っこにしがみついてほお擦りを繰り返すママ。今まで見たどんなママよりも生き生きとして、ママらしいその笑顔に、さっきまで、くだらない悩みで押しつぶされそうだった私の心が、少しずつほぐされていくのを感じる。
自然と私の顔にも笑みが浮かんでくる。
とっ、少し困ったような表情でママの愛情表現を受けていたパパと私の視線が再び結ばれた。
「・・君は?」
「あっ」
−えーと、なんて答えればいいんだろう。
救いを求めるようにママの方をチラチラと見る。するとママは、いたずらっぽい笑みを浮かべてパパに問い掛けた、「誰だと思う?」
「誰って、わからないよ」
パパの言葉
−パパは私を快く思わない。パパは私がいらない?
不安。不安。不安。
私の心に、不吉なキーワードが再び浮かびあがる。
「この子はねー、ユイカっていうの。・・・・あなたと私の娘よ」
「へっ?」
当然のように沈黙するパパ。
沈黙
沈黙
沈黙
沈黙
この間、私の心臓はドキドキしっぱなしだった。
「・・・・僕の娘?」
「そうよ」
ママは、打って変わった真剣な表情で、幼子に言い聞かすように、そう言った。
パパは、少しの間呆然としていた。
−当たり前ね。十四年間も眠っていて、帰ってみたら、十四歳の娘がいたなんて、パパじゃなくても吃驚するわよ
思っていたとおりのパパの動揺は、逆に私の不安を小さいものにしていった。
現実のパパとの対面。そのしぐさ、その言葉は、私の心にじんわりと染み込んでいく。
−この人がパパなんだ。
素直にそう思える自分に気づいて、私はなんだかうれしくなった。
気がつくと、パパはじっと私を見詰めていた。何かを探るように。真実を見つけ出そうとするように。
どれくらいたっただろう。いつのまにかパパは、目覚めたとき、初めて見詰め合った瞬間の、あの落ち着いた神秘的な雰囲気を、再び纏わせていた。
その手はいつのまにかママの肩にまわされている。安心しきったようにパパの胸に顔を埋めているママ。その二人の姿に、私の確信はさらに強いものになっていった。
−そう、そうなんだ。何もかもこれからなんだ。
十四年間のときを経て、パパとママの絆が再び結ばれたように、私とパパの絆もこれからゆっくりと結ばれていくんだと思う。
私のその心の動きにシンクロするみたいに、パパはうっすらと−あの写真のようなけぶるような笑みを浮かべると、ゆっくりとかみしめるように言葉を発した。
「はじめまして。碇シンジです。」
それは、はたから見れば間抜けな発言ではあった。
「自分の娘に、自己紹介してどうすんのよ!」
わざと怒った調子でママが言う。
−とまどい
そう、戸惑いだ。
でも、もう私には不安はなかった。
だって知ってるんだ。
これがすべての始まりだって
だから、わたしは始まりにふさわしい言葉をパパに返した。
「はじめまして、パパ。惣流ユイカです。」
第一話 終了
また、ヘボイ文章でだらだらと内容がないものを書いてしまいました。
もう、SS−ショートストーリーではないですね、これは。ぜんぜん、ショートでないもの。
えーと、一応これで、第一話は終了。なんといいますか、初めての投稿で、ぎこちない限りなんですが、ちゃんとお話になってますかねぇ(おいおい)。
第一話と言うからには、二話もありまして、つまり、続いてしまうんですよ、このお話(笑)。
何しろヘボヘボなものなので、続けていいようなものか、迷っているのですが、とりあえず続けさせていただきます。
最後になりましたが、みゃあさん、そして、ここまで読んでくださった皆さんありがとうございました。
ヒロポン
みゃあと偽・アスカ様(笑)の感想らしきもの。
みゃあ「あうううううううううううううううううううううう………」
アスカ様「アスカよ。なんだか最近このページでの出番が少ないわね。……ま、まあそれはいいことなんだけど」
みゃあ「はうううううううううううううううううううううう………」
アスカ様「……ちょっと、みゃあ。さっきから何変なうめき声上げてんのよ?」
みゃあ「はふはふはふぅ〜ん」
アスカ様「き……、気持ち悪い……。目がイってるわ」
みゃあ「だって…だって、素晴らしすぎるんですよぉ、この作品がぁっ!!一体この感動と、アスカ様とユイカちゃんへの熱すぎるリビドーをどこに向ければ良いものやらああああああ!!」
アスカ様「…ふう。相変わらず壊れてるわね、この男」
みゃあ「はあ…。『はじめまして、碇シンジです』ああっ!このセリフの絶妙さ!『はじめましてパパ。惣流ユイカです』このセリフっっ!ああっ、ユイカちゃ〜ん!!(爆)」
アスカ様「まあ、あたしの娘なら可愛くて当然よね。……で、でも別にこの話を認めたわけじゃないからね!勘違いして、変な方向に走るんじゃないわよ、ヒロポン!」
みゃあ「ああ……シンジくんにすがるアスカ様・キスするアスカ様の愛らしいこと……。『私にとっての男はあなただけ』なんて言われた日にゃあ!!ヒロポンさん、あなたは大天才だっ!」
みゃあ「ねえ、アスカ様もそう思いません?」
アスカ様「ま、まあ、シンジとのことはともかくとして、あたしを「美しく」書いてるところは評価できるわね」
みゃあ「またまたぁ。ところで『……あの時にそう決めたんだから』とありましたが、あの時っていつの時ですか?やっぱりナニの時なんですか?」
どがこっ!(飛び込み大ぱんち)びしびしびしびしびし(小足払い)、がつっ!(中ぱんち)ばきゃっ!(大きっく)
(8HIT COMBO)(古い…)
アスカ様「ぜんっぜん、変わってないわねアンタ……」
みゃあ「あう(^^ゞ」
P.S.一つだけ質問(笑)です。なぜリツコは「おねーさん」でレイが「おばさん」なのでしょうか?(笑)やはり「おねーさん」と呼ぶように強制されてるとか?(爆笑)
次が楽しみでしょうがない、みゃあでした。
読んだら是非、感想を送ってあげてください。