DEATH-03「最後の死」
13
シンジは、海岸で目を覚ました。
生きる者のない、LCLの海辺。
横に、唯一、自分以外の命。
アスカ。
シンジは、長い間、アスカにすがって泣いていた。
アスカは反応しない。
ただ、魂の抜け殻のように、虚空を見つめている。
ほかに誰もいない世界。
生きるという意志のないアスカ。
だが、シンジは生きた。
アスカを生かすために。
生きる意志のない人間を生き延びさせようとするのは、傲慢だろうか。
この時、シンジの精神が失調していたとしても、それを誰が責められるだろう。
シンジが、自分を責める日々は続いた。
「アスカ……飲んで」
「…………」
「アスカ……」
アスカは答えない。
シンジは、片手にすくったLCLを見て、それを自分の口に含む。
生きるための接吻。
シンジは、アスカの口に流し込む。
しばらくして…アスカの喉が、小さく動く。
単なる、呼吸のメカニズムに従って、喉の筋肉が収縮しただけだ。
だが、注ぎ込まれたLCLは、アスカの喉を通過する。
それを確認して、シンジは唇を離した。
「………ぅ………うっく……ひっく」
シンジは、物言わぬアスカにすがって涙を流す。
アスカは、こうして命を繋いだ。
こんな結末しかなかったのだろうか。
シンジは自問する。
『今が……その時なのよ。
もう、二度とない、たった一度の』
ミサトの残した言葉がリフレインする。
たった一度の生を。
どれほど無駄に過ごしたことだろう。
遅すぎた覚醒。
過ぎた時間は戻らない――――
どれくらい経っただろう。
何もない、しかし、静かな時間が、ゆるやかに流れた。
シンジはアスカの側にいた。
ずっと。
そして、その日――――。
アスカが呟いた。
「………………………………………シンジ」
そして、その直後、アスカは呼吸を止めた。
シンジは、まるで眠ってしまったかのようなアスカの顔を見ていた。
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
視界が滲んだ。
「アスカ」
その名前を呼んだ時、
シンジの中で、眠っていた奔流が流れ出した。
自分がどれほど、この少女を愛していたか。
アスカの姿が、脳裏に走馬燈のように浮かぶ。
蒼 い 影 に つ つ ま れ た 素 肌 が
「オーバー・ザ・レインボウ」の船上で、不敵な笑みを浮かべるアスカ。
「チャ〜ンス」と唇を歪めるアスカ。
時 の な か で
弐号機を、自分の体のように操るアスカ。
掌を重ねた時の、アスカの温もり。
静 か に ふ る え て る
加持に甘えてみせるアスカ。
ミサトに悪態をつくアスカ。
命 の 行 方 を 問 い か け る よ う に
風呂上がりに、バスタオル一枚でうろつくアスカ。
レイに文句を言うアスカ。
指 先 は 私 を も と め る
夕日を見つめ、膝を抱えるアスカ。
「ママ…」と寝言で涙を流したアスカ。
抱 き し め て た 運 命 の あ な た は
トウジとケンスケを平手打ちするアスカ。
ラブレターの山を踏みつけるアスカ。
季 節 に 咲 く ま る で は か な い 花
いつも僕を怒っているアスカ。
「バカシンジ」 そう、僕のことを呼ぶアスカ。
希 望 の に お い を 胸 に 残 し て
狂気に顔を歪ませるアスカ。
苦悶にのたうつアスカ。
散 り 急 ぐ あ ざ や か な 姿 で
微笑ってるアスカ。
泣いているアスカ。
私 に 還 り な さ い 生 ま れ る 前 に
………本当は、寂しがりやなアスカ。
大好きな……アスカ!
あ な た が 過 ご し た 大 地 へ と
アスカ…
こ の 腕 に 還 り な さ い
アスカ
め ぐ り 逢 う た め
アスカ…!
奇 跡 は 起 こ る よ 何 度 で も
「アスカあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっっっっ!!!!!!!!」
魂 の ル フ ラ ン
そして、少年はそこにいた。
Lead to NEXT Episode...
Back to Before Episode...
ご意見・ご感想はこちらまで
(updete 2000/07/02)