RESTART「ただいま」

  


 

 

 

14

 

 

 

 

 

「…はっ!?」

 

 

シンジは、跳ね起きた。

 

 

はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…。

 

はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…。

 

はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…。

 

 

「(ここは………)」

 

真っ暗だ。

 

今までの記憶と、結びつかない。

 

辺りを慌てて見回す。

 

そして、天井を見上げたとき、そこが自分の部屋であることを、やっと思い出した。

 

「…シンちゃん?」

 

唐突にかけられた声に、びくっと、体を硬直させるシンジ。

 

おそるおそる振り返ると、部屋のふすまが少しだけ開いていて、廊下から淡い光が射し込んでいる。

 

薄闇の中で、部屋を覗き込んでいたのは、ミサトだった。

 

 

「………ミサトさん………」

 

呆然と呟くシンジ。

意識があやふやで、うまく一致しない。

 

「ごめぇん…起こしちゃった?」

 

「いっ、いえ…」

「昨日の使徒との戦いで疲れてるのに、ごめんね」

「えっ」

「?」

 

 

……そうか、あれは夢じゃなかったんだ。

 

 

「だけど、シンちゃんの部屋からすごい声がしたから、何かあったのかと思って…」

 

ミサトは、心配そうにシンジの顔を覗き込む。

 

「いっ、いえ。なんでもありません。ちょっと…」

「………」

「あっ、な、なにか?」

「…恐い夢でも、見た?」

 

クスっと、ミサトは笑うと、優しい声で言った。

 

えっ、とミサトの指さす先を見た。

それで初めて、シンジは、自分が泣いていたことに気付いた。

 

「あっ、えっとその………すみません、お騒がせしちゃったみたいで」

「いいのよ」

 

慌てるシンジに、ミサトはにっこりと笑った。

 

正直、ミサトは安心していた。

第5使徒との戦いで、シンジが見せた、やけに大人びた態度が、心の隅に引っかかっていたのだ。

いま、目の前にいるのは、いつもの14歳の少年だった。

 

「寝てるとこ邪魔しちゃってごめんなさい。おやすみ、シンちゃん」

 

「あっ、ミサトさん!」

 

「ん?」

 

おどけて投げキッスをして、ふすまを閉めようとしたミサトをシンジは、思わず呼び止めてしまう。

 

「あ……」

 

言うべきかどうか、少し迷って、

 

「僕…何か、言ってました?」

「?ううん、別に」

 

明らかにほっとした表情で、吐息するシンジ。

 

「…おやすみ、シンちゃん」

「…おやすみなさい、ミサトさん」

 

 

ふすまが閉まって、ミサトの足音が遠ざかっていく。

その後、キッチンで冷蔵庫を開く音がして、

 

プシュッ

んぐっんぐっんぐっんぐっ…

「ぷっは〜〜〜、くぅ〜!」

 

などという声が聞こえた。

 

 

寝酒代わりの一本といったところか。

 

……もう。しかたないな、ミサトさんは。

思わず苦笑するシンジ。

 

そして、すごくあたたかい気持ちになった。

 

 

 

時計を見る。

まだ、12時を回ったところだ。

 

「使徒との戦いで疲れてるんだから、早く寝ちゃいなさい。寝る子は育つ、よん♪」

 

という、作戦部長兼保護者であるミサトの言により、今日は9時前に眠りについたのだった。

ミサトはがさつだと思われがちだが、こうした人を思いやる配慮を忘れない。

 

「………」

 

シンジは、不意にベッドを下りると、机の前に歩いていった。

上から2番目の引き出しを開ける。

 

「………」

 

シンジは、その奥から銀色に輝く、十字のペンダントを取り出した。

いつもミサトが胸の前に下げているのと、同じ物。

 

「……どっちも、夢じゃないんだ」

 

それは、シンジが病室で目覚めたとき、いつの間にか握っていたものだった。

 

シンジは、しばらく冷たいままのそれを見つめていた。

自分の体温で、ペンダントが温もりを帯びるまで。

 

ふと、最初に目覚めたときのことを思い出す。

 

シンジは一人、顔を赤くした。

 

あ、綾波に抱きついちゃったんだよな…。

 

と、ギロリと睨まれたような気がして、シンジはバッと後ろを振り向いた。

まだ、ここにはいるはずのない人物の姿を思い描いて。

 

あ、あれは別に、そ、そういうつもりがあったわけじゃないんだよ…。

 

(…じゃあ、どういうつもりだってのよ、バカシンジ!)

 

い、いや、だから…

 

考えてみると、今日(もう昨日だが)は2回もレイと抱き合ってしまった。…2回目は向こうからだったが。

 

(…フン。別に、あんたとファーストが乳繰り合ってたって、あたしには関係ないけどねっ!)

 

アスカの声を聞いたような気がして、シンジはひとり、苦笑した。

 

 

これにしたって、僕自身が作った、アスカのイメージに過ぎないんだよな…。

 

 

シンジは、今はまだ海の向こうにいるであろう、栗色の髪の少女を思い浮かべた。

先程までとは違う、硬い表情で。

 

 

アスカ………。

 

 

包帯。

赤いプラグスーツ。

LCLの海…。

 

 

ぞくっ、とシンジは体を震わせた。

 

急に温度が下がったように感じる。

 

ガチガチ、と歯の根が合わなくなって、シンジは両手で自分の体を抱きしめた。

 

 

 

 

 

 

ミサトの部屋

 

 

 

 

「……今日は、シンちゃんとレイの活躍で、見事に使徒をやっつけました。マル…っと」

 

おちゃらけたことを言いながら、「サードチルドレン監督日誌」に、さらさらと記述を書き込む。

当然ながら、書いていることは、まったく別のことだ。

 

とはいっても、今日は本当にシンジの活躍の一言に尽きる。

レイが頑張らなかったわけではない。シンジが頑張りすぎたのだ。

 

いっつも、彼にばかり負担をかけちゃうわね…。

 

ミサトは、指の間に挟んだペンをブラブラさせながら、形の良い眉を寄せた。

本来は、大人である自分たちの負担が大きいものである。

だが、今はどうしても子供たちに頼る―――負担をかける―――しかない。

シンジたちの精神が不安定になるのは、むしろ当然のことなのだ。

 

その辺、リツコももうちょっと分かって欲しいわよね…。

 

キリッとした親友の姿を思い浮かべるミサト。

だが、本当はリツコにも、そんなことは分かっているのかもしれない。

自分などより、ずっと頭のいい彼女のことだ。

分かっていて、なお、割り切ってしまう。

ある意味、尊敬すべき点ではあるが、ミサトはそれを美点の一つとは数えがたかった。

 

あれがなきゃ、もっと取っつきやすいのにね。男にももてるだろうし。

 

言っても、「余計なお世話よ」と言われるのがオチだから、ミサトは言わない。

だが、時折、言わずにはいられない時もある。

今日が、ちょうどそんな時だった。

 

もうちょっと褒めてあげたっていいじゃない。

シンちゃんだってレイだって、あんなに頑張ったんだから。

 

あれだけの劇的勝利の後なのに、リツコが余りにもいつも通りなので、腹が立つミサトである。

 

そりゃあ、ピンチを作っちゃったのは、私たちのせいだけどさ。

 

そう。

あれは、今思い出しても、申し訳なさで一杯になる。

シンジがいなければ、大げさではなく、すべてが終わっていたかもしれないのだ。

 

ホント、今日のシンちゃんには、感謝してもし足りないくらいよねぇ。

 

…でもホント、なんで自分から、防御担当を言い出したのかしら?

 

ミサトはふと、今日のことを思い出す。

 

……ま、いっかあ。結果良ければすべて良しっていうものね♪

 

…彼女は基本的に、こういうお気楽な人物であった。

 

パタン。

 

「ふわあ〜あぁ〜」 

 

誰も見ていないのをいいことに、(見てたって遠慮などしないが)大口を開けてあくびをするミサト。

 

「はふ……さ、寝よ」

 

ミサトは、引っかけていた上着を、ぽいっと後ろに放り投げる。

…彼女の部屋は、相変わらず衣類が堆積している。

 

ごそごそと、タンクトップにパンティだけという悩ましい格好で、布団に潜り込もうとして…

 

ミサトは、廊下に人の気配を感じた。

普段いかにぼぅっとしていても、きちんと訓練を積んだ軍人である。

 

音を立てずに体を起こしかけて…

 

トントン…。

 

控えめなノックの音。

 

「……?」

 

まさか、侵入者が部屋をノックするとも思えない。

ミサトが沈黙していると、

 

トントン…。

 

先程よりも、ほんの少し大きいノックの音。

 

「はい?」

「…………ミサトさん」

 

声を聞いたミサトは、それがシンジだと知って、なぁんだと緊張を解く。

 

「シンちゃん?開いてるわよん」

 

開いてるもなにも、彼女の部屋も日本間だ。ふすまに鍵などかけられるわけがない。

 

ためらいがちに、ふすまが開いて、暗い室内に廊下の光が漏れてくる。

さっきとは反対に、入り口に立っているシンジのシルエットが浮かび上がる。

 

「まだ寝てなかったの?ダメよん、夜更かしは健康の敵…」

 

おどけて言いかけて、ミサトは、シンジの様子が少し変なのに気付いた。

 

「…どしたの、シンちゃん」

「ミサトさん………あの」

 

シンジは、わずかに震えながら、きゅっと寝間着代わりのTシャツの裾を握っている。

 

「あの………一緒に寝て、いいですか」

 

「………………………………はい?」

 

ミサトは固まった。

 

一瞬、思考が停止する。

 

やだ……シンちゃんってば、結構、だいたん。

 

わけの分からないことを考える。

 

数秒が経過してから、ようやくミサトは引きつった顔で口を開いた。

 

「いや…シンちゃんの気持ちは嬉しいんだけどぉ、それはちょっち、問題あるんじゃない?」

 

ミサトは、できるだけ音便にことをすまそうと、普段なら、「しっ、しつれいしました!」とシンジが真っ赤になって逃げ出しそうなことを言う。

 

「………ダメ…ですか」

 

しかし、シンジの方は慌てた様子もない。

ただ、すがるような瞳で、ミサトを見るだけだ。 捨てられた子犬のような目で。

 

そこで、ようやくシンジの体が小刻みに震えているのに気付いたミサトは、苦笑しながらため息をついた。

 

…そんな顔でお願いされちゃ、断れっこないじゃないの。

 

「いいわ……いらっしゃい、シンジくん」

「はい…」

 

シンジは安心したように、室内に入ってくると、ふすまを閉めた。

一方、ミサトは…

 

今のセリフ、リツコにでも聞かれたら、絶対からかわれるわね(汗)。

 

(あら、いつから年下好みになったの? …恋愛は自由ですけど、条例に引っかかるわよ)

 

今から明日の朝までの記録は、絶対、抹消しよう。 そう、固く決意するミサトだった。

 

シンジは、ミサトが広げている掛け布団を見て、ちょっとだけためらったものの、そのままミサトの横にぴったりつくようにして、潜り込んでくる。

 

ほ、ホントに結構、大胆ね。シンちゃん…。 まさか、慣れてるんじゃないでしょうね。

 

ミサトは勝手に勘違いしていた。

シンジのことだから、おずおずと背中合わせに寝る、くらいだと思っていたのだが。

 

しばらく、落ち着かなげに体を揺すっているミサト。

その間、シンジは、じっと体を丸めて黙っている。

 

「………ミサトさん」

「はっ?!あ、な、なにシンちゃん」

 

ぎくっと体を硬直させるミサト。

 

「………手……握っていてもいいですか」

「へ?」

 

一瞬、何を言われたのかわからず、間抜けな顔をするミサト。

 

「………あ、ああ!手ね、手。はいはい、どうぞ」

「………はい」

 

シンジは呟くと、ミサトの手を取って、それを胸の前で、しっかりと両手で握った。

そうして、ようやく安心したのか、シンジの顔から不安の影が消えていく。

 

「………ミサトさんの手………あったかい」

「…………」

 

その、安心しきったシンジの顔を覗き込んで、ミサトは体の力を抜いた。

 

馬鹿馬鹿しい。

自分は一体、何を想像していたのだろうか。

シンジが、そんな意図で部屋に来るはずがない。

 

ミサトはちょっとだけ頬を赤くして、もう一度、シンジの顔を覗き込んだ。

 

そして、優しい微笑みを浮かべる。

母のように。

 

おやすみなさい、シンジ君………

 

 

 

 

 

 

 

 

ミサトの手から伝わってくる温もり。

 

ミサトの匂い。

 

シンジは、あの悲しい別れしなの場面を思い出していた。

 

自分を勇気づけくれたミサト。

背中を押してくれたミサト。

 

そして、自分のことを気付かせてくれたミサト。

 

彼女はそのあと………

 

最期の瞬間は見ていない。

だが、あの傷では、決して助からないことは、シンジにも分かった。

 

 

 

いってらっしゃい……

 

 

 

彼女は、そう言った。

 

 

 

そして今、シンジは再びミサトの腕の中にいる。

 

ミサトがここにいる。

 

生きて、自分の側にいる……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ただいま………ミサトさん。

 

 

 

ただいま!

 

 

 

 

 

 

シンジは、ミサトのあたたかさに抱かれながら、安らかな眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――5時間後。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

むぐうっ……うー………うー……っ!!

 

シンジは、闘牛場の牛に押しつぶされる夢を見て、目を覚ました。

 

だが、目が覚めても、まだ息苦しい。

 

………ミサトが、シンジの頭を自分の胸の谷間に、がっちりと押さえ込んでいた。

 

「………ぷはっ!」

 

ようやく、その腕の中から脱出に成功したシンジは、顔だけ出して、肺に空気を送り込んだ。

 

辺りの様子を見て…

 

………すっごい寝相

 

シンジはあきれた。

頭が、寝た時と逆さまになっている。

 

ふう……ミサトさんに抱かれて窒息死……なんて、しゃれにならないよ。

 

ため息をついて、シンジは、未練がましくシンジの腰にしがみついているミサトの顔を見た。

 

そのあどけない……というか、だらしない顔。

 

シンジはクスっと笑うと、すごく優しい顔になって、ミサトのよだれを拭いてあげた。

そして、ぼさぼさになっている、その柔らかい髪を撫でた。

 

 

ありがとう、ミサトさん。

 

今度は、絶対に迷ったりしません。

 

もう、逃げ出したりしませんから。

 

必ず…ミサトさんを。

 

加持さんを。

綾波を。

そしてアスカを……みんなを、守りますから。

 

 

シンジは、ミサトの髪の上から、額に静かに口付けた。

 

 

「んが………」

 

すると、ミサトが、にへらぁ…と寝顔をだらしなく緩ませて、雰囲気をぶちこわした。

 

 

 

 

 

15

 

 

 

 

翌日。

 

昨日の戦闘で受けたダメージを配慮して、シンジはNERVの医局へと足を運んだ。

 

シンジ自身は、「大丈夫ですよ」と言ったのだが、ミサトがこれだけは譲らなかった。

 

正直なところ、シンジは今までよりも自分の体のことがよく分かるようになっていた。

昨日のダメージは、残っていない。

 

しかし、ミサトの言葉は、自分に対する思いやりから来ていることが分かっているので、シンジは大人しく検診に来たというわけだ。

 

 

実際、昨日の第5使徒戦は、かなり危なかった。

 

攻守をレイと交代したのは、レイに言ったとおり、彼女に危ない方を任せるわけにはいかなかったからである。

 

前回の経験から、シンジはポジトロンライフルによる初弾は、十中八九外れることが分かっていた。

普通に撃てば、使徒はこちらに合わせて砲撃を行い、両者のエネルギーは干渉し合って、命中することはない。

少しくらい早く撃ったとしても、結果は同じだろう。

ポジトロンライフルは、エネルギーの充填にとにかく時間がかかる。

そうすると、使徒が撃った後に撃つしか方法がないが、その場合、いったんは使徒の攻撃を受け止めなければならない。

その場合、結局、レイが危険にさらされることになる。

それならば、初弾で決着がつかなくても、自分がレイの零号機を守る方が分がいいと思ったのだ。

 

勝算はあった。

ATフィールドだ。

シンジは今や、ほぼ完全に、シンクロ率とATフィールドを操ることができる。

前回の経験からすれば、盾が溶かされてから、第2射まで1、2秒もなかったはずである。

そのくらいならば、十分、ATフィールドで耐えられる…と思っていたのだが。

 

実際には、第6変圧器群のトラブルという事態が生じ、ギリギリの戦いを強いられることになった。

 

あのトラブルは、本当に予想外だった…。

 

当たり前である。だが…。

 

同じように見えても、細かいところでは、以前とまったく同じというわけではないのかもしれない。

 

少し深刻になってから…シンジは自分の考えを笑い飛ばした。

 

それで当たり前だ。 すでに、第5使徒はレイによって倒される、という具合に歴史が変わっている。

 

それでなくては困るのだ。

 

…自分は、未来を変えに来たのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

診療室を出たシンジを、意外な人物が待っていた。

 

 

「あれ………綾波?」

「.........」

 

 

廊下の壁に寄り添うようにして立っていたのは、水色の髪をした少女。

 

レイは、シンジの姿を認めると、チラッとこちらを見て、体の向きを変えた。

 

 

「あ…の、どうしたの?あ、そっか、綾波も検診に来たの?」

「.........」

 

ふるふる。

 

「……違う、の?」

 

まさか、自分の具合を聞きに来たなどとは、夢にも思わないシンジ。

 

レイ自身、はっきりとした思惑があって、ここに来たわけではなかった。

 

ただ、なんとなく、足が向いただけだ。

 

 

…とはいえ、「ただなんとなく足が向く」などという行動は、以前のレイには決してなかったことだ。

その点だけでも、レイに少なからず変化が訪れているということが分かるのだが、当の本人たち二人は、まったく分かっていなかった。

 

 

「具合......」

「え?」

「.........」

「…………」

「.........」

「…………」

「.........」

「…あ、も、もしかして、僕?」

 

レイは、何も言わない。

ただ、紅い瞳で、シンジをじっと見るだけだ。

 

「あ、僕は大丈夫。どこにも異常は見あたらないってさ」

 

とりあえず、そう答えるシンジ。

 

じっ……。

 

「......そう」

 

良かった、とも何も言わない。

 

 

「(……相変わらず、綾波が何を考えてるのかは難しいなぁ)」

 

 

会話が続かず、困り果てるシンジだった。

 

と、突然レイが踵を返そうとする。

 

「あ、ちょっと…!」

 

ぴた。

 

「......なに」

 

「あっ、えっと…その」

 

あまりにも簡単に呼び止められてしまい、言葉が出ないシンジ。

 

「綾波さ……その、よかったら、ウチに来ない?」

「.........」

「…あ、来ないっていうのは、遊びに来るっていうんじゃなくって、ウチで住まないかってことで」

「.........」

「いや、違った、綾波の住んでるところ、人も全然いないしさ。ウチのマンションだったら、いっぱい部屋も空いてるし、ミサトさんもいるし、隣にでも引っ越してくれば、にぎやかになっていいんじゃないかなぁ…って」

「.........」

「あ、でも、綾波は、あんまりうるさいのって好きじゃないよね。あ、だから、無理にっていうわけじゃないんだけど、でもその、もし良かったらっていうか…」

 

僕は何をしゃべってるんだろう。

シンジは、自分の意志とは無関係に、口がぺらぺらと動いているような気がした。

言ってることも支離滅裂だし、第一、いきなりこんなこと言い出して、綾波が変に思うかもしれないし…。

 

そして、別にやましい気持ちはまったくないのだが、先程から言葉を継ぐたびに、栗色の髪の少女の怒り狂う顔が見えるような気がする。

 

「えっと、だからその……」

「いいわ」

「……………………へっ」

「......碇君がそうしたいのなら、そうするわ」

 

意外すぎる展開に、シンジはしばらく呆然と固まっていた。

 

 

 

 

アスカ来日まで、あと数週間………。

 

 

 

 

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(updete 2000/07/02)