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持続可能な年金の財源はどこにある?

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60歳以上の高齢者が金融資産を6割も持っている(*1)中で、溜め込んで墓場まで持っていく(そして相続される側もすでに高齢者になっていていつまでも使われることがない)大きな理由として、年金などの社会保障への不安があるからということが一般に挙げられているが、もちろん、若年層に取ってみれば、年金の持続可能性はなおさら不安である。

(*1)例えば、年齢階層別の金融資産保有割合をグラフ化してみる:Garbagenews.com

年金の持続可能性ということでは、先月2月23日に開催された、社会保障審議会年金部会(第14回)に掲載されている国民年金及び厚生年金に係る財政の現況及び見通し(平成21年財政検証結果) (pdf) や参考資料ー平成21年財政検証関連ー (pdf) で確認することができる。特に国民年金については、基礎年金国庫負担割合を現状のままにすると、積立金を急速に使い込み、2027年には破綻すると警告している。それゆえ国庫負担割合を1/2に引き上げましょう(*2)、というのが提案であるのだが、国庫負担というのは要は税金であり、生活者が負担するということである。また、これとは別に全額税方式という案も議論されている。

(*2)この場合も、2050年以降、積立金は急速に減るが一応100年間は持続可能となるらしい。ただし、仮定となる経済の前提として、物価上昇率1.0%、名目賃金上昇率2.5%、名目運用利回り4.1%(全て中位の場合)というのが、これから日本が本格的に迎える人口減少社会(国立社会保障・人口問題研究所の日本の将来推計人口(平成18年12月推計)によれば、2055年には9000万人を切り、2105年には4500万人を切るとも予測される)にあって、信頼できるのかは疑問もある。

保険料の部分については、賦課方式ベースだから、働く世代が現在の年金受給者の年金を支える形になるが、昔は複数人の働く世代で1人の年金受給者を支えていたものが、今は3人で1人、やがて2人で1人、1人で1人を支える形になり、これではどう考えても潰れてしまう。保険料支払者と年金受給者との比率の破綻を防ぐため、高齢者の定義を見直することで、年金支給開始年齢を遅くして、それまでは企業に給料として出して貰おうというのが、政府の考えではあるものの、企業にとっても、一部の優秀な人には定年関係なく働いて欲しいが、希望者全員を養うというのは厳しいというのが恐らくホンネである。

人口がピラミッド型でなければ成り立たないネズミ講のような賦課方式の仕組みはこの少子化の中では持続不可能だ。一方で、税金を財源とすること自体は、必ずしも、筋が悪い訳ではない。賦課方式をやめて、積み立て方式にしたとしても、保険料を払えなかった人を切り捨てるのでなければ、いずれにしても生活保護で保障することになるのだから、それであれば、生活できるレベルの最低水準の年金は、保険料を払っていない人にも支給する方がむしろ現実的(高齢者向けのベーシックインカム的なものか)であり、それでこそ、「老後の安心」が実現されるというものである。

問題はつまり、国庫負担の分について、どのような税金を年金の財源に充てるのが最適か、ということになる。現在想定されているのは消費税であるが、年金だけで切り詰めて生活しなければならない高齢世帯からも取ることになるので、社会保障における貧困対策の意味合いとしては非効率だ。ただ、生活必需品の税率は極力下げる、低所得層には負の所得税で還元する、といったことを組み合わせれば機能はしそうだ。

他の選択肢として、年代が上がるほど格差が広がるのだとすれば(実際にそうなっているように)、同じ年代の中で再配分するのが効率的という考え方ができないか。つまり、働く層が高齢者を支えるのではなく、高齢者が高齢者を支えるモデルである。これならば、少子高齢化は必ずしも(*3)怖くない。高齢者が増えれば増えるほど、支える側も増えるからだ。

(*3)高齢者が全員揃って貧困化すれば別だが、今の状況を見る限り、考えにくい。

具体的には、相続税(もしくは資産税の方が早いが、いずれにしても正しく把握できることが必要)をメインで充てることになるだろうか。単純計算で、60歳以上が平均2000万以上の金融資産を持ち、年間100万人亡くなるとすれば、金融資産だけでも20兆円の数十%がターゲットになる。死んだら残った資産を(相続税として)生きている人に配分する(実際には積立金になる)、という考え方としては、17世紀にイタリアで考案されたというトンチン年金に少し似ているかもしれない。もちろん、単に相続税の累進度を上げるというだけだと、資産家が日本から逃げるから、基礎控除額を減らす形で薄く広く、ということが考えられる(ただ、そうなれば大半の世帯では贈与でほぼ全て移転してしまうかもしれないが)。公的年金は、寿命には格差がある~終身年金は逆進的か~ (pdf) でも指摘されているように、富裕層ほど食生活も良く、高度な医療を受けられやすいがゆえに、長寿になりやすい傾向があるのだとすると、年金そのものが逆進的な傾向を示すが、その点でも、相続税を充てることは補完的である。ただ、固定資産税を含めた、資本課税は、日本はすでに割合的に他の国よりも高い。資本課税の割合がどの国でも高くない(*4)のは、資本主義のインセンティブ構造上、資本家ばかりから税金を取るのはそう現実的ではないのだろう。

(*4)福祉国家の税収構造の比較研究 —OECD18カ国と新興産業国— (pdf)

Posted: 2009年03月27日 00:00 このエントリーをはてなブックマークに追加
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