Columns: Society
企業の社会的責任(笑)
Society金融危機後の不況下において、利益確保を優先することからしばらくトーンダウンしているものの、企業にとってCSR(corporate social responsibility; 企業の社会的責任)は、重要な関心事の1つである。Webサイトにも、CSRに関わる取り組みその他情報を開示している企業は少なくない。
ところで、そもそも企業の社会的責任には何が含まれるべきなのか。良質な商品・サービスを安価に提供し、社会を、つまり生活者の暮らしを豊かにすることは、CSRとも言えるし、それ以上に企業の存在理由(ミッション)である。一方で、雇用を創出することもまた、特に大企業や新興企業には期待されている。政策の文脈では新しい産業を育成し雇用を創出する、というような綺麗なメッセージが聞かれるが、実際に雇用の場を提供するのは総体としての産業ではなく、個々の企業である。
しかし、外食・小売業を始めとして、供給過剰の時代にあって価格競争が激化している中では、商品・サービスの低価格化と、良質な雇用は時に対立する場合がある。そこで企業はCSRに何らかの優先順位付けをすることになる。そして現在の日本を見る限り、社会的責任としての雇用や労働環境の順位は低そうである。それは何故だろうか。
Wikipediaでも挙げられているように、CSRのうちで大きな要素を占めるキーワードとして「持続可能性」ということを考えてみる。気候変動のような環境や、エネルギー・鉱物、最近もクロマグロで話題になった水産物といった資源の問題は、ビジネス以前の地球や種の持続可能性という点で深刻であるが、CO2の排出や、資源の利用について各企業が「合理的」に活動しようとすると、地球をあっと言う間に食いつぶしてしまう「共有地の悲劇」の問題があり、何とか参加者全員で市場のルールを握って、持続可能性を高めようとしている。そのルールを積極的に守っていこう、ということがCSRになる。
人材を貴重な資源と考えれば、基本的には同じである。ただ、過労死やメンタルヘルスで企業が人材を使いつぶすのは、日本社会にとっては損失であるが、1企業にとってはまだまだいくらでも代わりがいる状態であり、希少資源とは見なされていない。国内においてもまだまだ労働力は潜在的失業者を含めて過剰であるし、海外に目を転じればうなるようにある(と捉えられている)。持続可能性の面から労働力が軽く扱われる本質的な理由は、それが希少ではないからである。
そうした中で、企業があえて雇用をCSRの一部と捉える可能性があるとすれば、1つは環境問題と同様な法規制の国際水準(ILO)相当の徹底(*1)であり、もう1つは、法規制の後押しにもなるであろう、生活者の購買行動である。確かにネットではごく一部、雇用・労働問題に起因する商品・サービスの不買活動が見受けられるが、運動と呼べるほど本格的に広がっているとは言えない。自分も含めて、やはりほとんどの消費者としては安くて、24時間営業で、笑顔の接客で、顧客サービスが優れている方が嬉しいのだ。
(*1)労働基準監督署の体制強化は、ホワイトカラーエグゼンプションの推進などで御用学者と批判を浴びた八代尚宏氏すらも主張している。
CSRへの取り組みが財務的に余裕のある企業が余力で行う程度の限定的なものに留まっているのだとすれば、そして企業の社会的責任、CSR経営そのものが胡散臭く聞こえてしまうのであれば、それはとりもなおさず生活者である私たちの日々の選択と表裏なのではないか。
Posted: 2010年04月13日 00:00 ツイート