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Columns: Society

公害としてのブラック企業

Society

雇用問題、就活の文脈をはじめ、ネットで広く使われるようになり、NHKでも扱われるようになったブラック企業を、「公害」と捉える考え方が出てきています。

[society] はてなブックマーク - 湯浅 誠さんからのメッセージ(2) 『若者を追い詰める"ブラック企業"』 | シリーズ・貧困拡大社会 | ハートネットTVブログ:NHK

なぜ「公害」なのでしょうか。従業員の劣悪な環境による被害は、一般には労働災害ですが、労働力というある程度(*1)有限な人的資本を、社会的な公共のリソースとして捉えた場合、「共有地の悲劇」が起きているからです(→コモンズの悲劇 - Wikipedia)。

(*1)移民を積極的に導入するということになれば、ほとんど無視できるようにはなるかもしれません。

正規雇用、非正規雇用を問わず、「代わりはいくらでもいる」と、使い捨て型の雇用が増加することで、経験・能力の蓄積が行われず、中高年での就職が困難になり、引退後の年金も不十分、ということになれば、将来の生活保護受給者はますます増加し、社会保障費用の増大により、全ての人にとって消費税増税などの大きな負担がかかってくるということは、十分に考えられます。いやすでに、就職氷河期世代以降が高齢化する20年後、30年後には、かなり高い確度で起こってくるであろうとさえ言えます。

NHKの番組収録後の湯浅氏のコメントでも、「働く現場がこの状態のまま続けば、社会が背負わなければいけない「ツケ」がもっと大きくなる日が来るぞと警鐘を鳴らしたいです。」とありますが、しかしそれは、あくまでも「社会」全体の負担なのであって、劣悪な雇用環境で労働者を働かせた「会社」に直接戻ってくる訳ではありません。何もペナルティがないか、無視できるぐらい小さいのであれば、労働者を使って使って使い倒した方が得になる場合も十分ありえます(*2)。

(*2)企業によっては、企業内での人的資本の蓄積が、組織能力として競争優位の構築に繋がっているというところもあります。そうした企業では、仮にハードワークではあるかもしれませんが、長期雇用を重視した待遇を提供しているはずです。

ブラック企業が労働力を次々と使い捨てるのが合理的だとしても、社会にとっては外部不経済が発生しているということになります。だとしたら、かつて日本でも様々な問題が起こった公害問題、環境問題と同様なアプローチで、何らかの規制や、問題の発生時に、賠償などによるペナルティ(本人・家族への賠償金の他、社会保険料の引き上げなど)を課すということが有力な対策になります。問題を起こした企業の公表や、およびブラック度の指標となるような、離職率といった情報の公開を義務付けることも有効でしょう。

環境規制も雇用規制も、行き過ぎれば、「六重苦」として、日本の企業立地の魅力を落とすことに繋がるので、バランスは必要です。しかし、例えば他の先進諸国と同水準の、ILOの労働時間や休暇取得の条約を批准することで、国際競争力が低下する、とは主張できないでしょう(→国際労働機関 - Wikipedia 日本の主な未批准条約)。競争のルールを徹底することでは、ルールを律儀に守っている企業にとってはプラスにも働きます。

もちろん、規制などなくても、安全第一とはどういう意味か : タイム・コンサルタントの日誌からで、

返す時には無傷で返す、のが原則である。だから、Human Resourceとして動員した労働者は、全員を無傷でかえさなければならない。これが『安全第一』の本来の意味なのだ。労働者だけでなく、建設機械であれ、工具であれ、勝手に傷つけてはいけない。作業にスペースを使ったら、返す時には“立つ鳥跡を濁さず”で、環境を汚さずに戻す。借り賃や保険料を払っているから良い、というものではない。

と語られているように、企業が、社会から労働力を借りて事業を行った後、健康であることはもちろん、技能や経験を積んだ人材を輩出し、社会に返せるような企業が、信用を集める社会になれば望ましいことは言うまでもありません。

Posted: 2012年10月24日 00:00 このエントリーをはてなブックマークに追加
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