Columns: Society
「社会化装置」化する大学
Society先日の「内田樹の研究室: 資本主義の黄昏」がブログ界隈で反響を呼んでいるらしい。
た、魂の労働?
労働は神聖なもので、対価を求めるなんて意地汚いとおっしゃる?
やばいなあ、この考え方こそがニートやひきこもりを生み出すってことに気づいてらっしゃらない。
「好きなことやってんだから我慢しろ」ルートまっしぐらですな。
労働が神聖なら、それに見合った対価を出さないことこそを指摘、批判すべきでした。
センセイ、「資本主義の黄昏」どころか、これじゃ資本家の思考そのものですよ。。
(「JR西日本よりオーバーラン」より)
まず、仕事が「仕事というのは賃金を得るためのものではなく、仕事を通じて他者からの社会的承認を得るためのものである」という見解を15人のゼミの学生が出したというが、サンプルが教授に"従順"な、「功利的」な院生だったらどうするのですか? まず、院生という立場からして下手な真似はし難く、本音は語れないでしょう。それに「賃金を得るためのものではない」と正直に答えたとして、生活や肉体面・精神面に異常をきたすものではないという最低条件があるはずです。「仕事を通じて他者からの社会的承認を得るためのものである」は仕事が生活を、国を豊かにする手段でしたから今に限ったことではありません。
(「ネオリベ最凶の刺客!?」より)
まさに、企業は顧客満足や社会貢献を題目に労働者から際限のない労働を引き出そうとしている、と指摘した「魂の労働」的な話で、「資本主義の黄昏」というタイトルに反して、ある種の「操作意図」が見え隠れしていることは、すでに多々書かれているので改めて追加することは特にないが、個人的に、元のエントリを読んで感じたのは「『教育』がよく行き届いているなぁ」というものだった。
企業のマネジメント側の人間がどう考えるかという「想像力」を働かせてみれば、どういったマインドを持つ学生を採用したいかは明らかだ。現在の、そして未来にそうなるであろう企業社会のあり方に課題がない訳ではないし、それどころか多いに課題だらけではあるのだが、社会全体を変革するのに必要なエネルギーは余りにも大きく、容易ではない。もちろん時間もかかる。そうこうしているうちに、(研究の道を選ぶ学生は少ないだろうから)多くの学生は就職なり起業していかなければならない(正確には、大学として就職なり起業なりさせていかなければならない)のであって、学生が不幸にならないような「教育」を行うことはそれはそれで大きな意義がある(*1)。
(*1)何をもって幸福と言うかは微妙だが、現状ブランクのある人の就職の道は十分には開かれていないことがある。
欧州で仕事をした経験に照らし合わせてみてもそうだが、日本の多くの企業が、社員の(しばしば無報酬の)長時間労働によって支えられているのは確かそうである。しかし、心配しなくても、あと20年もすれば日本から「サービス残業」などというものはなくなるのではないだろうか。今、賃金を「時間」という分かりやすい基準から、ある種どうとでもなる「成果」を基準にして算出する「裁量労働制」の適用が拡大されてきており、スキルの蓄積しにくいパートなどを除けば、最終的に、正規雇用者はほぼ全て「成果」ベースの賃金体系となることが想定される。そこでは時間を投入することでは何の対価も認められることはなく、そもそも「残業」などという概念が存在しなくなるのである(*2)。言うまでもないが、就職でなく、起業するのであれば、初めから勤務時間などというものはない。
(*2)正確には、現状、裁量労働制でも時間外という概念もあれば時間外手当もある。あくまで現状は、だが。
件(くだん)の学生たちはいい成績を取るための適応として、本心からそう(「仕事というのは賃金を得るためのものではなく、仕事を通じて他者からの社会的承認を得るためのものである」と)書いたのではないかもしれないが、それでも企業からどういう学生が求められているのかを理解しているということで十分だろう(*3)。
(*3)ただし、付け加えれば、本心からそう書いた人も、一旦就職して、自分のカネで生計を立てるようになれば、やはり重要なのはカネだ、と思うことになるかもしれない。そういえば、日本で人気のあるマネジメントの権威・ドラッカー氏も「知識労働者は金銭では動かない」みたいなことを書かれているのだが(「ネクスト・ソサエティ—歴史が見たことのない未来がはじまる」などを参照)、日本では残念ながらどうも本来の意図から離れて都合良く解釈されているような気がする。
少子化でごく一部の大学を除けば学生を集めることがより難しくなってきている時代である。これからの学校の選択基準として「就職力」が更に大きなウェイトを占めて行く可能性は高い。「国家百年の計」としての大学(院)が不要になることはないが、それはそれこそごく一部の大学でのみ有効なのであって、ほとんどの大学においては「社会化装置」(「健全な諦め装置」と言い換えても良いか)としての役割が親世代から期待されている訳である。そうした中で、就職に有利な「教育」を行っていること、「優秀」なマインドセットを持った学生を抱えていることをアピールすることで、大学としても、「教育」者個人としても、マーケティング的な効果が期待できるのである。資本主義の課題を認識されつつも、喫緊の課題としての学生の進路を想うがゆえに「無茶」は書けない中で、バランスに腐心したエントリと見るのは好意的な見方過ぎるだろうか。
【参考: その他の言及エントリ】
[society] 働きアリが働く理由と、ニートが働かない理由。
[society] 『頭文字D』
[society] 企ての黄昏 −非-知の夜−
【適用が拡大される裁量労働制】
[work] 裁量労働制の拡張?
[work] 新裁量労働制
【他にはこんな「社会化」の本も】
[book] 正しい大人化計画 若者が「難民」化する時代に
「小中高=4-4-4(年)」の教育改革や「法的な通過儀礼」などの提言がされている。提言はいいとして、問題は自分の子どもなり孫なりを、書かれているような職業訓練色の強い学校に送りたいかどうかなんだけど。
なるほど、勉強になりました。
それにしても、学生さん達も大変だなぁと感じずにはいられないですね。
余程お人よしな一握り以外は、(煽りとまで気づきはしないにせよ)
こういった教官側の指摘に上手にあわせつつも、何らかの違和感ぐらいは
感じるでしょうに。それでも就職の事を考えていると、そういう違和感を
握りつぶしてでも「模範解答」を呈示しなければならないわけで、そういった
本音の違和感をマスクする術と、模範マスクをゲットする場として大学が
機能するという事を、好意的にとるか否定的にとるかは様々でしょうね。
また、一部の素直な学生さんは案外にこういう話を綺麗に鵜呑みに
できるかもしれず、彼らの精神衛生を短期的に向上させるかもしれませんし。
ですが、本音と建前の解離を学生さん達に一層強くアピールするという
副作用を孕んだ処方であるという事に、私は一抹の不安を感じますし、
他の多くの論者さんも感じていらっしゃるようですね。
秋風さん、はじめまして。いつも興味深く閲覧させていただいてます。また、これまでにも何度か私のサイトをとりあげていただきありがとうございます。
で、今回の内田先生の件ですが、最初に読んだとき、一体どこまで考えてこのようなことを書かれたのか私も相当戸惑いました。社会化装置という側面で考えると現実的にはそれでいいかもしれません。嘘も方便とはいいますし、普通に学校教育でも宗教でもそういった側面はあると思います。実際、知らない方がいいこともあるでしょう。秋風さんの反論は非常に綺麗で参考になります。
・・・ただ、権威のある方がニートを晒し上げるような記述をされたこと、既存の社会問題を語らずに、現状追認こそが正しいような表現をされていることに違和感を禁じえないんですよね(まあ、内田先生一人を糾弾しても仕方がないんですけど(^^;)。本音とタテマエで現状追認を進めることで、数年といった短期間では問題なくても、10~20年といった長期的視野に立って考えた場合、本当に今の世の中が改善するのか、と考えると疑問があります。
以前、「オレの前ではやめてね」というエントリーがこちらで取り上げられていましたが、社会適応者にしてみれば結局こういう結論になってしまうのではないか、自分が苦労してまで、現在の地位を不安定にしてまで行動しようはせず、「厳しい世間の荒波の中で生きてるオレカコイイ、適応できないお前は負け組w」などと、社会不適応者への侮蔑と自らの優位の確認で終わってしまうのではないか、と私は考えます。
借金まみれ、少子高齢化などで末期的ともいえる今の日本を考えると、若者に現状追認を進めるべきなのかどうか、それこそを考えるべき時が来ているのではないかと思います。虫歯をどう処置するかで、抜くことでの一瞬の痛みを選ぶか、それとも取り返しのつかなくなるかもしれない状態まで放置するのか・・・。
(たかが一学生の分際で甘い理想ばかりいうのが私の悪いところですが、現状追認から現状打破が生まれるとは思えないんです。)
シロクマさん、いつもありがとうございます。
bluedeさん、コメントでははじめまして…ですかね。
#いつも拝見させているので段々分からなくなってきてしまいました。(^^;
私も件のエントリを読んで正直何を意図しているのかイマイチ読み取れず
当初スルーしていたのですが、皆さんが一斉に反発されていたので、
バランスを取りたがる天の邪鬼な性格が出て勢いで書いたというのが
実際のところです。
企業なんてどうせ本音と建前の使い分けだらけですし、なんていうと
夢も希望もないですが、今の企業が進もうとしている方向性に問題
がないとはもちろん私も思っていませんし、このままだと、
ますます社会の不安定化が進むのは間違いありません。
ただ学生を全く見ていない教授を別にすれば、表立って企業には迎合するな、
とは言いにくい訳で、先生もやりにくいんじゃないかなぁ、というのが
今回のエントリの主旨ですね。
数年で独立するにせよ、新卒で就職できる機会は1度しかない訳ですから、
敢えて選択肢を狭める必要もありません。
あくまで「スキル」としての環境適応力は身につける一方で、
創造的でかつ批判的な思考力や反骨精神をしっかりと養って行くことが
大事…なんだろうと思います。
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Posted by: http://www.bb-dd.net/ : 2012年10月16日 04:35今日は~^^またブログ覗かせていただきました。よろしくお願いします。
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