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Columns: Society

「ゲームのルールを変える」ゲーム

Society

ビジネスにおいて、トップメーカ以外のフォロワーが取るべき戦略として「ゲームのルールを変える」ということがある。トップメーカは通常、資金、人的リソース、技術力、ブランド力など、どれを取ってもフォロワーよりも強力なので、普通に同じことをやって競争していてフォロワーに勝ち目はない。そこで、トップメーカが考えつかない、あるいは、トップメーカがすでに持っている資源があるがゆえに取れない戦略を打ち出すことによって、競争のルールを変えることが競争に勝つために重要になる。文具業界で成功したアスクルなどは、そうした「ゲームのルールを変える」非常に有名な例だ。

もっと卑近な例で、「ゲームのルールを変える」有効さを示すものとしては、トランプ(カードゲーム)の「大富豪(もしくは大貧民)」がある。「大富豪」には3を4枚出すとカードの強弱が入れ替わる、というルール(「革命」と呼ばれる)があるが、これこそまさに「ゲームのルールを変える」ことであり、従来の強者がすでに持っている資源があるがゆえに弱者になってしまうという好例である。

さて、労働問題や少子化問題、非婚化問題のような、社会が抱える様々な問題についても、似たような「ゲームのルール」の側面が見られる。ある人は「構造」、つまり社会の構造的な問題であり、「社会を変える」ことが必要だと唱え、また別の人は個人の努力の問題であり、「自分を変える」ことが必要だと主張する。恐らく、実際にはどちらも一面で正しく、どちらかの原因だけに帰すことのできないものなのだと思われる。

もちろん、先の「ゲームのルール」の話に従えば、一番効果があるのが、「社会を変える」ことであることは間違いない。しかし、これがなかなか難しい。個人的には「自分を変える」型の考え方をしがちであるのだが、そこには「社会を変える」ことのシステム上の困難さがある。高校の時のある先生が仰られていたことだが、「今の教育がおかしいと思うのなら、勉強して東大に入って官僚になって変えればいいじゃないか。その時になってもまだおかしいと思うかは分からんが」という笑い(?)話がある。

そうなのだ。社会の場合、現在の「ゲームのルール」を作っているのは、あるいは「ゲームのルール」を変えられる力を持っているのは、少し前の「ゲームのルール」に乗っかって勝者になった立場の人たちであり、当初は社会を変えようと思って頑張っている人でも、既存の「ゲームのルール」に則って競争に勝ち上がって行く中で、考え方に変化が生じている人が少なくないのではないか。これは政治家や学者、企業経営者などでも同じことが当てはまるだろう。「社会が悪い」と言うのは簡単だが、実際に「社会を変え」られる側に立たずに、実効性を持った活動を行うことは容易ではないし、「社会を変え」られる側に立った際に当初の志を維持し続けるのもまた容易ではないのである。

一方、そうした中で今、新たな種類の「ゲームのルールを変える」動きがしばしば見られるようになってきた。つまり、ゲームはゲームでも、「内なるゲーム」のルールを変える、という戦略である。

1つは1年ほど前に飛び出し、一躍有名になったのが「働いたら負けだと思っている」発言だ。多くの人はこの発言を馬鹿にしたが、これほど大きな反響を呼び、感情的な議論を巻き起こしたのは、少なくない人がその発言の中に込められた、ある種の真実性に気づいているからだろう。モノ余り、情報余りの時代にあって、現代は消費者の立場が非常に強い時代であるということが言える。逆に言えば、商売をする側(=働く側)は「顧客満足」を題目にいいように搾取されているのであり、常に消費者の立場にいられればこれほどラクなことはない、という訳だ。従来の、一定の年齢になったら働くのが当然という価値観からすれば噴飯モノだが、ひとたびその「常識」を疑ってみると、その「当然」性には何ら根拠があるものではない。しかし、現実問題として、多くの人は家族を抱え、生活するためには働かざるを得ないのだから、疑問を差し挟んでしまってはいけないのであり、それゆえ感情的に否定してかからずにはいられないのである。普段の自分の仕事に何の疑問も持っていなければ、一笑に付して全く相手にもしないだろう。

そしてもう1つが今年3月に出版され、恋愛に悩む一部の人たちの共感を呼んだ「電波男」だ。(これは「社会を変える」一種の宗教的側面もあるのだろうが。) 自分でも痛くてこっ恥ずかしいのだが、3年前に「恋歴社会に生きる」で、「セカイを変える3つの方法」(=i)社会を変える、ii)自分を変える、iii)価値観を変える)を書いた時は、内なる「ゲームのルール」を変えることがいかに「現実的な」選択肢であると言っても、この時代に恋愛でそれを実現することは難しいのではないか、という予想だったのだが、「電波男」はそれを難なくやってみせた。

もっとも、こうした「価値観を変える」型の方向性は、結果的に既存の「ゲームのルール」上の勝者・敗者を確固たるものにしてしまうという面も持つ。森永卓郎の「年収300万円時代を生き抜く経済学」が共感を呼ぶ一方で反発もされているのは、既存の2極化した体制を維持・強化することに加担してしまうことがある。

ともあれ、こうした動きは、2極化する社会を前にして、「多様化」の中でも従来は想像することができなかった、恋愛・結婚や仕事、カネという多くの人が囚われている根強い価値観から解放され、次の次元へと進化する人たちが現れつつあることを示している。新たな種類の「ゲームのルールを変える」ゲームが、今、始まろうとしているのかもしれない。

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Posted: 2005年05月29日 02:12 このエントリーをはてなブックマークに追加
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