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恋愛市場におけるロングテールの可能性とその限界
Communication | SocietyWeb 2.0の要素として注目されたロングテールはもはや改めて説明する必要はないと思うが、簡単に復習すると、従来型の店舗では、80-20の法則(パレートの法則)が成り立ち、2割の商品が8割の売上や利益を上げるので、そうした商品を限られた店舗にディスプレイしていきましょう、だとか、2割の優良顧客が同様に8割の利益を出すので、そうした顧客を大切にしていきましょう、ということだったものが、インターネット技術の進歩により、売り場が事実上無限のオンラインストアと進歩した検索+リコメンド技術で在庫、マーケティング、販売のコストが抑えられ、これまでビジネスにならなかった残りの8割のロングテール領域で利益を上積みできる、という話であった。
よく挙げられる例としては、ロングテール領域が比較的大きなビジネスボリュームを出しているとされるAmazonや、本当かどうかは不明だが、「登録されている曲で1回も購入されたことのない曲はない」とされるiTunes Music Storeがあった(ほら、この辺でタイトルと繋がってきたでしょ?)。
さて、ここからが今回の本題だが、十分に自由な競争環境が発生している現代の恋愛・結婚市場においても、この80-20の法則は成立していると考えられる。すなわち、2割の人が、8割の恋愛経験(機会でもいいが)を独占している、ということである。もちろん、ここでは「2割」といった具体的な数字に意味がある訳ではない。性別によっても分布に違いがあり、恐らく男性よりは女性の方がなだらかな曲線になっていると思われる(男性の方が極端なヘッド-ロングテール構成になっていると思われる)が、ここでは特定の割合の人たち(ヘッド側)に機会と経験が集中しているというところにポイントがある(図1)。
図1 恋愛市場におけるロング(?)テール
従来型の「出会い」システムで、ヘッド側の機会と経験がより積み重なる方向に行くのは明らかだ。合コンが代表的だが、物理的にも心理的にもサイズの制限があり、合コンに参加できる人数には限界がある。人選にあたっては、自分よりランクの上の人を呼ばないとかいった行動があるものの、とはいえ限られた人数の中で場を微妙にするようなルックスや喋りの人たちに声がかかる可能性は小さい。そうなると、ロングテールのテールに行けば行くほど合コンに参加する回数が限られてくる訳だから、出会いの機会も必然的に減少する。
では、よりオープンな、少子化担当大臣の偉い人も検討しているらしい「お見合いパーティ」の場合はどうだろう。これも会場の広さの都合はあるが、パーティによっては職業や年収といった直接恋愛経験に関係しない前提条件はあるものの、逆に前提条件さえ満たしていれば、通常自分から申し込めるので、ロングテール側の人にとっても参加はしやすい。
しかし、そこで理想的なパートナを見つけるのは残念ながらそれほど簡単ではないかもしれない。場合によってはロングテール同士のマッチングになりかねないからである。恋愛・結婚領域において、ロングテールであるということはすなわち、自分を買ってくれる人が全国で比較的少数存在するということである(極力ポジティブな表現をしてますが)。そして、自分を買ってくれる人が全国で比較的少数存在しうる人と、自分を買ってくれる人が全国で比較的少数存在しうる人が限られた機会で上手くマッチングする可能性はそれほど高くない。
では恋愛市場におけるロングテールからカップルが誕生する可能性としてより高いものに何が考えられるだろうか。もうご想像つくだろうが、ロングテールと相性がいいのは出会い系サイト(結婚情報サイト)だろう。マイナーな趣味でも同志を見つけられるインターネットサイトでは、周囲の限られた中から探すよりは、共通の価値観を持ったパートナを探せる可能性がある。逆に、自分のプロフィールの公開により、データベースから自分に関心を持つ人が現れるかもしれないと期待される。
それでは、出会い系サイト(結婚情報サイト)の進化により、iTMSで「全ての曲が最低1回は購入された」というような状況が発生するのだろうか。残念ながらこれも話はそれほど簡単ではない。冒頭で確認したように、(ほとんど0)×∞=somethingと言われるような、ロングテールがビジネスとして成立しうるためには、在庫、マーケティング、営業、そしてクロージングといった、一連の販売やサポートプロセスが自動化されており、比較的一定のコストでスケーラブルになっている必要があり、そうでなけでばロングテールへの対応にコストがかかり過ぎて利益を食い潰してしまう。
出会い系サイト(結婚情報サイト)の場合、「在庫(=登録者)」はほぼスケーラブルだし、データベースからのマッチングも容易なのだが、肝心の「営業」と「クロージング」は普通の1対1の恋愛プロセスそのものとなり、まったくスケールしない。当たり前だが、iTMSのように、データベースで検索して気に入った人を見つけたので「恋人(パートナ)をダウンロード」という訳にはいかないのである(*1)。
(*1)スケールしないのはあくまで「恋愛市場」であって、出会い系サイトはもちろんスケールする。
もう1つの障壁として、そもそもロングテールの人たちが「登録しない」ということがある。「だから文化系男子は(女子も、かな)出会い系とか結婚紹介サイトを使えばいいのに」におけるコメント
出会い系や結婚紹介サイトは、なんか必死な人が多そうでイヤです。でもって、かっこわるいからいやです。もし出会い系でつきあった事が会社でバレたら絶対に笑い者になるでしょう。非モテである我々は、女の人と付き合うことによって自分が人並みだということを確認したいわけであって、付き合うこと自体が目的ではありません。よって、もっと自然な出会いを待つことにします。
はその1つの典型的なものだろう(ネタのようにも思えるが)。「登録されたニッチ商品」が検索技術や協調フィルタリングなどのリコメンド技術によって発掘されるのがロングテールの基本だが、そもそも登録されていなければ発掘されようもない。がっついているのはカッコ悪い、モテないという認識が、(基本的に正しいとは言え)流布したことで、ロングテールの人たちが、こうしたお見合いパーティや出会い系サイトにも能動的に参加せず、更に可能性の低い「自然な出会い」を望んでいる状況は、周囲の人たちがお膳立てしてくれるような職場のマッチング機能の低下とあいまって、非婚化を急速に進めていくことになりうる。
少子化に対する、偉い人や経産省の対策案がトンデモ扱いされるのは、普通に恋愛ができる大多数の人(…じゃあテールはロングじゃないじゃん)にとっては無理もないし、経済的な問題や雇用の問題の方が遥かに大きいのは明らかだが、例えばこうしたサイトへの登録の心理的障壁を取り除き、信頼性を高めることで(*2)、ロングテールを生かしたマッチングを広げていくことは、一定の可能性を感じさせるものである、かもしれない。
(*2)信頼「感」だけが高まっても消費者金融みたいなことになるのでアレだが。
【関連url】
[society] 「少子化時代の結婚関連産業の在り方に関する調査研究報告書」について
【関連書籍】
80対20の法則を覆す ロングテールの法則 菅谷 義博 東洋経済新報社 2006-02-24 by G-Tools | なぜ結婚できないのか 非婚・晩婚時代の家族論 菊地 正憲 すばる舎 2005-04-21 by G-Tools | ||
Posted: 2006年05月25日 00:00 ツイート