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人を育てるシステム

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 現在どういう問題が起きているかと言えば、誰も職業教育をやらなくなった日本という現実である。  企業は都合よく、学校に即戦力を輩出する教育をしろだとか、国に職業教育しろと言うのである。
「人を育てる」という最低限の社会的責任を放棄した企業

職業教育の崩壊には様々な理由が重なっている。長引く不況の中で新卒採用を控え、派遣・請負やフリーター、中途採用を増やしたことの反動として、今、就職氷河期世代に相当する現場リーダクラスが不足しており、現場リーダクラスは業務で手一杯で育成を担当できる人材がいないこともあるし、直接的には最もコスト削減がしやすい部分として、教育への投資を減らし、キャリアアップ・スキルアップはむしろ社員自身の「自己責任」であるということになったこともある。

また、社員にとっても、成果主義の導入により、直接成果に繋がり難いOJTのような他人の育成に時間を割く余裕はなくなっているし、終身雇用が崩れることで、下手に自分より優秀な部下が育ってしまうと、自分のイスがなくなってしまうという不安も起き、ますます育成へのモチベーションが高まりにくい状況がある。

その結果は、実際には自助努力で育つ社員が一部に留まったため、そのツケが今、現場力の低下という形で回ってきている訳だが、とはいえ、多少の「いざなぎ超えが確実視される景気回復」程度では、ますます厳しくなる企業の競争環境の中で、「古き良き時代」に戻ることはもはやほとんど考え難い。すでに成果主義や派遣・(時には偽装)請負、フリーター活用による人件費圧縮を前提としたモノ・サービス価格での競争になっているからだ。今の条件やリソースを前提にしつつも、自助努力だけに頼らない、システムとしての人材育成ということを考えることが必要である(*1)。

(*1)なお、個人的に大学での職業教育は余り現実味がない(=役に立たない)と思っているので、ここでは初めから考えていない。

当然ながら、これは簡単なことではない。成果主義による自己中化を防ぎ、チームとしての成果を高める方法としては、個人の成果ではなく、プロジェクトやチーム単位での成果主義にするということがあるが、フリーライド問題と表裏であり、高い成果が期待できそうなプロジェクトやチームに入りたがる人が続出してしまうという課題が残る。また、成果を売上や利益といった財務の数字だけでなく、顧客や業務プロセスの改善、人材育成といった総合的な観点から評価するバランススコアカード(BSC)というツールも近年よく採用されており、上手く適用されれば良いが、財務視点を別にするとしばしば誤ったKPI(主要業績評価指標)が設定されてしまうのが課題である。言うまでもなく、人は「KPI達成に適応した行動」をしてしまうため、本質的でない作業が自己目的化されてしまい、かえって負担が激増してしまったりする。

要は、やりたいことは、「ある人が、後進を育てた事で、育った人がその後達成した成果が、育てた人に適切に還元されることによって、現場での人材育成をシステム的にモティベートするような仕組みを構築する」ことではないだろうか。とすると、この「価値の流れ」はどこかで見た気がする。そう、以前にも人事の採用の話で少し触れたが、PICSY(伝搬投資貨幣)的な発想だ。

もともと、自分1人でできることには所詮限界があり、後進を育成することは、チームの成果を伸ばす上で意味があることだが、従来の成果主義にPICSY的な発想を組み込む(言うなれば、成果主義2.0)ことで、自己中化を防ぎ、後進を育てるという行動をより後押ししやすいことが期待される。もちろん、この仕組みにしても課題はある。育成された人が達成した成果のうち、「育成」の効果をどう評価するかということは必ずしもはっきりしないし、育成すると言ってももともとの素養や地頭、その仕事への向き不向きの違いがあるため、今度は「高い成果が期待できそうな人を育成したがる」最適適応行動が起こってしまうのは想像に固くない。ただ、多少なりとも人材育成をモティベートしやすくする仕組みとして検討してみる価値はあるのではないだろうか。

4534040032なぜ、「できる人」は「できる人」を育てられないのか?
吉田 典生
日本実業出版社 2005-12-08

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4534040741「できる人」で終わる人、「伸ばす人」に変わる人
吉田 典生
日本実業出版社 2006-05-24

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Posted: 2006年10月23日 00:00 このエントリーをはてなブックマークに追加
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コメント

「太平洋の嵐」という太平洋戦争をテーマにしたウォーシミュレーションゲームがあるのですが、熟練度の高いパイロットを教官にして後進を育成しないと、ゲームが進んでからパイロット不足に落ちいるというのがあったのを思い出しました。

Posted by: anomy : 2006年10月24日 21:10

anomyさん、どうも。

直近の楽な道を選ぶと後々苦労するというジレンマですね。勝手が分かってない1stプレイではハマりそう。ゲームの場合、2ndプレイ以降は学習するから良いんですが、残念ながら企業経営では半年(最近は4半期)ごとに成績を挙げなければならない上に、特に雇われ社長では任期がそれほど長くないため、どうしても近視眼的になってしまいますよね。

Posted by: socioarc : 2006年10月28日 23:29

今日は~^^またブログ覗かせていただきました。よろしくお願いします。
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Posted by: モンクレール : 2013年01月12日 06:14
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