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差別と選抜

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[society] 政府・与党が求人年齢差別禁止を義務化方針

バブル崩壊後の不況期にしばしば中高年層のリストラが行われ、リストラされた人たちがその後安定した職に就き難くなっていることや、超就職氷河期とか失われた世代と言われる25-35歳世代の高い非正規雇用者層の、そう遠くない将来の社会問題化への懸念などから、採用における年齢差別禁止への関心が高まっている。

最初、年齢差別禁止という考え方を聞いた時にはそれは確かにいい試みであり今こそ必要だ、と思ったが、しかしよくよく考えてみると、単に自分の勉強不足だけかもしれないが、今現在において、ただ「年齢差別を禁止」すれば問題が解決するとは到底考え難い。

というのも、「年齢差別を禁止」すれば採用時の募集条件から年齢の表現は消えるだろうし、履歴書から生年月日はもちろん年齢を推測できるあらゆる記入項目は消えるかもしれないが、面接をすれば、その選抜の過程では、採用する側にとって様々な理由で年齢が意味を持っている限り、年齢の要素が事実上考慮されてしまうことが、容易に想像されるからである(面接官と応募者の間についたてを立てて声を変えるマイクでも使えば話は別だが、かなり異様な面接である)。

そうすると、応募する側からすれば年齢条件がないから次々に応募するが、競争率が上がって結局次々に不採用になるということになり、採用する側も1人を採用するためのコストが上がるし、応募する側も表からは見えにくい裏の採用条件によって落とされ続けるということになる。これではLose-Loseであり誰にもメリットがない。ただ単にホンネとタテマエの差が大きくなるだけである。実の、正直ベースの選抜条件において年齢の条件を見直さなければならなくなるような、労働力の需給ギャップが解消されない限り、状況は改善しない。ただポリティカリーコレクトなだけでは余り意味がないのである。

需給ギャップの解消については、10年後、団塊世代が65歳を過ぎていよいよ本当に引退し、かつ団塊ジュニアも中年を迎えて本格的に20-35歳の若手の人数が減少した中で、かつその時にもまだ国内消費規模が保てているか、海外向けの輸出の競争力が維持できてれば、新卒だけでなく、全世代で需給バランスが売り手市場に変化していくことになるだろうが、それではかなり遅い。

恐らく、年齢差別禁止より前に必要なのは、応募者に伝えらえる採用条件が建前でなく、正直ベースの実態に近いものになるように指導されることだが、とはいえ、条件よりも、とにかくより多く実際に面接してみて「人で選ぶ」という考え方の企業も少なくないだろうから、むやみに詳しく精緻にすればいいというものでもない。結局、国は余計な事をしない方がいい、ということになってしまう。超就職氷河期世代への対応としては、そうした層を積極的に採用する企業へのインセンティブの方向で考えた方が実効的ではないだろうか。

Posted: 2007年02月21日 00:00 このエントリーをはてなブックマークに追加
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