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ワークライフバランスが新手の「リストラ」になる

Business | Society

タイトルはやや釣り気味だが、メンタルヘルスの問題が従業員の生産性に影響し、仕事と家事育児の両立を支援することで、女性の継続的な雇用を広げることが必要になっている中で、ワークライフバランスは、マネジメント上の重要課題の1つになっている。一方で、ひとつやり方を間違えれば、ワークライフバランスの推進が本来の意図とは異なる結果に繋がってしまう可能性はないだろうか。

ワークライフバランスの実現のためには、労働時間(例えばフレックス制度)や、勤務場所(例えば自宅勤務制度)の自由度は実は余り効果がなく、単に絶対的な労働時間の問題であることが指摘されている(*1)。

(*1)『柔軟な働き方はワーク・ライフ・バランスを改善するのか』~働き方の柔軟性が高いほど、生活が充実している人が多くなるという関係はみられない~(pdf)など。

そこで総労働時間をどのように減らすかということになれば、企業は有給休暇の消化率をKPIにするのではなく、残業時間の削減をKPIにするはずである。企業にとって、残業時間を減らすことは即人件費の削減になりウェルカムだからだ(もともとサービス残業になっている企業は論外だが)。

問題はここからで、業務の(投下資本に対するというより実態としての)生産性が変わらないまま労働時間を短くすれば、普通は生み出す付加価値や売上の低下に繋がる。しかし、ワークライフバランスのために業績が下がります、ということを許容する経営者や株主はいないので、ここには矛盾がある。残業は減らします、でも仕事量は変わりません、は、2000年代以降の日本の生産性向上が、生み出す付加価値の増大というよりはむしろ、アウトプットを減らさずに、従業員を削減するリストラ、インプットの低減(人は減ります、でも総仕事量は変わらないので1人当たりの仕事量は増えます)によって実現されたという指摘(*2)と同じようなことになる。

(*2)日本のTFP上昇率はなぜ回復したのか:『企業活動基本調査』に基づく実証分析など。

従業員を増やすある種のワークシェアも1つの方法ではある(社会全体としては1つの形である)が、これはインプット(コスト)が増えてしまうので1企業にとっては意味がない。ビジネスモデル自体の見直しや、仕事のやり方の見直し(*3)なくして、単に残業時間だけを管理し、成果はこれまで以上に出して行かなければいけないとすれば、自宅に持ち帰る作業など、数値上見えない仕事が増え、ワークライフ"バランス"どころか、仕事と私生活の境がなくなるワークライフ"フュージョン"になりかねないのである。測定しやすい数値だけではなく、施策自体の"バランス"を取っていくことが必要ではないだろうか。

(*3)例えば、はてなブックマーク > “ホウレンソウ”は第二の“カロウシ”になるか/Joe's Laboで指摘されているように、日本の企業ではしばしば顧客に価値を提供するよりも、内部の偉い人向けの説明に多大な時間を割いている(もっとも、上の人は部下の責任を取らないといけないので、そうならざるを得ないのだが)。

Posted: 2008年09月23日 00:00 このエントリーをはてなブックマークに追加
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