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期待値マネジメント―3つの戦略

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店に行けば手にとって確かめられる、カネを出したらあらかじめどんなものが手に入るかがほぼ分かるモノ売りのビジネスと異なり、生産と消費が同時に行われる同時性を持つサービスビジネスにおいては、顧客の期待値を適正な水準に保つこと=「期待値マネジメント」が極めて重要である、ということを考えている。

顧客満足や顧客感動は、カネを払う前に持っていた期待値を、実際に提供した価値がどれだけ上回ることができたかで決まる(良い意味での裏切り、とか)。つまり、初期期待値がリソース上現実的に提供可能なレベルをはるかに超えて高ければ、提供側がどう頑張っても顧客を「がっかり」させてしまうことになる。医療、介護、教育、公共サービスといった領域で起きている「モンスター化」の一因は、この初期期待値の暴騰にもあると思われ、期待値の適正化がサービスマーケティング上ますます重要になってくると考えられる。一般のプロフェッショナルサービスでも同様であり、営業が無理な約束をしたために商談が成立した瞬間にすでに「敗北」(例えば、現場のデスマーチ、訴訟問題に発展)が決まってしまうことも少なくない。

ただ、単に期待値を下げればいいという訳でもない。他社との競争ということもあるし、例え競争が厳しくなくても、初期期待値が低ければ、そもそもお買い上げ頂けなくなってしまう。期待値が高過ぎても低過ぎてもいけない、適正な水準に保つことが必要であり、だから期待値「マネジメント」なのである。

この「期待値マネジメント」は必ずしもビジネスの場面だけでなく、個人の生活においても、就職(企業側から見れば採用)や恋愛・結婚といった、「契約」前には得られる情報が限定されており、分からないことが多いものでは似たような側面があり、初期期待値と現実の落差がしばしば契約を維持する上で問題になる。そこで、ここでは「顧客(広い意味での)」の期待値をどうすれば適正水準にしていくことができるか、3つの戦略を考えてみたい。

i)「正直者」戦略
1つ目はとにかく正直になる、という考え方である。インターネットの広がり、それも2.0時代(これが何なのかはともかく。例えば、「口コミ2.0 ~正直マーケティングのすすめ ~」が近い)を迎えて、消費者が製品・サービスの利用体験をアップロードすることが一般的になってきている。そうした中では、いくらマス広告やオフィシャルWebサイトでいいところばかりを宣伝しても、消費者は信用してくれない。そこで、欠点は欠点で正直に認めた上で、それでも魅力があることを分かって頂き、同じ目線の高さで顧客を巻き込んでいく、というやり方である。

この戦略は、もともとの「商品」が基本的には魅力的な場合に有効である。もともとの「商品」に問題があり過ぎる場合は、欠点を洗いざらい正直に説明すると、誰も買ってくれなくなってしまう。以前、はてな匿名ダイアリーで弱さをさらけ出した上でこんな自分で良ければ付き合って欲しい…みたいな話があったような気がするが、これではよほどイケメンでもない限り、初期期待値が下がり過ぎる。いわゆる「ブラック企業」の採用活動も同様であり、過酷な労働現場を説明する理由がない。

ii)「落としどころ」戦略
そこで2つ目の戦略として、初期期待値は下げない、とりあえず「契約」までは出来る限り魅力的に見せた上で、一旦「契約」してしまった後で、コスト・リソース上現実的な線に向けて「落としどころ」を探っていくというやり方が考えられる。というよりむしろ、コンペになる一般のプロフェッショナルサービスは、契約までは競合よりも魅力的に見せなければならないので、意識せずとも概ねこれをやっているのだろうが、いざ契約した上で着地点が見つからないとさっくりデスマることになる。

昔、「殴らぬオタクより殴るDQN」という比較になっていない比較がブログで語られたことがあったが、これも買ってみるまでどうせ分からないんだから、だったら外から見える初期期待値が高い方がいい、ということになる(ただ、この場合「落としどころ」がDV男/女は、共依存でもなければ嫌だろうが)。企業説明会で調子のいいことを言って落としどころが「ブラック企業」も、従業員にとってはたまらないが、労働市場の流動性の低さが障壁になって、残ってくれる可能性もある。

この戦略は、製品・サービスの利用体験が余り表には出ない場合に有効と考えられる(情報の非対称性を活用できるため)。プライベートの恋愛・結婚体験が相手の個人名を挙げてインターネットに公開されることは、余りないはずである(SNSが今後どうなるかは分からないが)。一方、「ブラック企業」は、データベース化が進んでいるため、次第に厳しくなるかもしれない。

iii)「世の中そんなもの」戦略
3つ目は、自分では弱み・欠点を説明しないが、マスメディア、アナリスト、学者先生、コメンテーター、その他第三者の「識者」を通じて、大体これぐらいの期待値が適正なんですよ、ということを語って貰い、顧客に認知して頂く、というやり方である。この方法は自分では弱み・欠点を説明することが難しい場合に特に有効である。医療や介護サービスにおける医療問題、介護問題をメディアで大いに取り上げ、現場の困難さに対する理解を広げることは、一定の効果が期待される(これを医者が患者に直接リソース上無理です、などと言うのは困難だろう)。

そういう視点でみると、「女性が結婚できない3つの理由(その1)」も、一見、これが日経WomanではなくてNBOnlineに載っているのは独身男性が溜飲を下げてアクセス数を稼ぐため?とも思ったが、ある種の期待値の「適正化」、例えば、男性の積極性・能動性が求められる恋愛市場に残っている人にリードを期待するな、ということを狙っていると考えれば分からなくもない。もっとも、男性から女性への家事・育児の期待値、女性から男性へのカネの期待値を下げるというのがより本質的だろうけれど。

Posted: 2008年09月25日 00:00 | Trackback このエントリーをはてなブックマークに追加
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