Columns: Society
人口減少を前提とした社会
Society団塊ジュニア世代が30代後半となり、出生率反転のラストチャンスが消えつつある中で、少子化対策がもう手遅れという専門家の指摘が紹介されている。
[society] はてなブックマーク - 痛いニュース(ノ∀`):専門家「少子化対策はもう間に合わない」
(参考)国立社会保障・人口問題研究所の2055年までの人口予測[出生低位(死亡中位)推計]
少子化対策として何が必要かはsocioarcでもこれまでも触れてきたし、「ゼロから考える少子化対策プロジェクトチーム」でも遅まきながら真っ当な提言が出てきている。移民を導入するのも1つの選択である。一方で、日本は人口が多過ぎるから、減った方が良いのだという意見も少なくない。「人口減少を前提として作り変えられる社会」というのは具体的にどういうものだろうか。
人口減少を前提として社会システムを再設計することで、豊かな社会を実現できるという視点は、松谷明彦氏が繰り返し指摘している(*1)。
(*1)「人口減少社会の設計―幸福な未来への経済学」「「人口減少経済」の新しい公式―「縮む世界」の発想とシステム」など。要旨は例えばここ。
確かに人口減少によるメリットは考えられるだろうが、依然として懸念されることも、主に2つある。1つは経済力の低下であり、労働生産性の向上によって、人口減少でも経済成長は持続できる、という考え方があるが、そもそもこれまでも労働生産性が上げられなかったものが急に上げられるのかということと、程度問題で、さすがに人口が2/3になっても成長を維持できるとは考えにくい。経済成長を持続すること自体が社会の目標として誤りであり、日本はもう経済的な豊かさは諦めて、これからは環境やこころの豊かさだ、という考え方もあるが、資源や食料の大部分を海外に依存している中では、経済の低迷が負のスパイラルに陥り、環境やこころの豊かさどころではなくなる可能性もある。松谷氏の「再設計」は企業経営のミクロ視点から見ると労働分配率を上げよとか企業規模を縮小せよとか、到底実現しそうな感じがしない。
人口減少そのものよりももっと危険なのは、言うまでもなく、少子化+高齢化による人口構造変化であり、生産年齢人口に対して高齢人口の比率が大きくなることで、高齢者を支える現役世代の負担が重くなり、社会保障(および財政)が破綻することである。いや、こんなことは20年前の小学校の教科書にも書いてあった記憶があるのだが。年金については、松谷氏の「再設計」では積立方式にすればいいということではあるが、積立方式では現役時にそれなりに高賃金を得ていなければ、生活できるほどの年金にならず、社会保障として機能しないと思われる(老後は「自己責任」ということだが)。また、年金とは別に医療・介護の問題もある。
人口減少を前提として社会を作り変えるとすれば、真っ先に対応すべきはこの問題だ。現役世代、その中でも実際の労働力を増やすには、女性の労働力率の向上に加え、高齢者層の労働力化の効果が大きい。現在は65歳未満までが生産年齢人口ということになっているが、これを70歳、75歳と広げることによって生産年齢人口率が維持される。年齢差別の撤廃、「いくつになっても働ける社会」は、これまでの経験を生かして社会に貢献したい高齢者本人の希望でもあり、家にずっといられても困る妻の希望でもあるが、何より国の希望というのが本音ではないだろうか。
とはいえ、65歳を超えた高齢者の希望者全員雇用は、企業側もそう簡単には受け入れられないだろう。そこで着目するのは、15歳以上65歳未満、という生産年齢人口の逆側の端になる。現在、生産年齢人口は15歳以上ということになっているが、「大学全入時代」(実際には約5割)には、バイトは別として、22歳までは実際には「生産」していない。
少子化の原因の1つとして、高等教育の負担感の大きさがある。常識的には、高等学校の義務教育化や、大学の無償化というのが高等教育の負担感、不安を軽減する少子化対策ということになる(日本のGDP比教育予算は他の先進国よりも低い)が、ただでさえ人口減少+高齢化で高齢人口比率が増大すると、全てが豊かな高齢者ばかりではないので、社会保障費の配分が悩ましい。
そこで、発想を逆転して、大学と大学進学率を減らすことで、労働力を増やすと同時に、高等教育の負担感を(結果として)なくすことを主張しているのが三浦展氏(*2)で、一見いつもの大雑把な論だが、少子化対策兼、労働力対策として意外に有効な可能性がある。競争力や生産性の向上に「教育が重要である」ことは総論として誰も否定しないが、どんな教育が有意義か、ということであり、産業界と連携し、若年層の雇用を促進する職業訓練中心に転換する、ということになる(イギリスに近いか。もっとも、イギリスはむしろ高等教育を強化しようとしているようだが)。ここでは受け入れる側の企業の取り組みが重要だ。逆に、金銭的に進学する余裕がないが、将来、科学技術(人文系を含む)を牽引する優秀な学生には、返還不要な奨学金を出す、というように、限られた教育投資の中で、「選択と集中」を行う、ということになる。
(*2)はてなブックマーク - J-CASTニュース : 大学進学率は20%でいい 「下流大学」に税金投入価値なし (連載「大学崩壊」第3回/消費社会研究家の三浦展さんに聞く)
その他、人口減少+高齢化に伴う地方経済問題の加速にどう対応するか、ということは遅かれ早かれ直面する(松谷氏の、地方に産業が分散して地方での就業機会が増える、という予想は、全然そんな気がしない)。こういった、人口減少を前提とした社会に変えるかどうかは、私たちの選択であるが、もしそうするとすれば、変えなければいけない社会の仕組みには、他にどのようなものがあるだろうか。
関連: [society] はてなブックマーク - 小渕優子少子化担当相 少子化の一因である晩婚化・未婚対策として「婚活」支援など10の提言:アルファルファモザイク
Posted: 2009年07月07日 00:00 ツイート