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「進み過ぎている」日本

Business | Society

残念ながらWebでは公開されていないが、IT系調査会社のガートナー社が提供しているレポートの中で、気になる「予測」を見かけた。「2013年までにはほとんどのソフトウェア開発者は、企業や政府機関のIT部門では働かなくなる」というものだ。代わりにソフトウェア企業や、システムインテグレータで働くことになると予測する。

恐らくこれは、ガートナー社が主に調査活動を行っている米国(および一部欧州)における話であろう。日本においては、すでに何十年も前からそうなっているからだ。

ガラパゴスとかIT後進国と揶揄されてきた日本が、実は「進み過ぎている」可能性を指摘される例は、最近、しばしば見かけるように思われる。携帯電話の販売モデルや携帯向け情報サービスの課金モデルもそうだし、Webサービスにおける「はてなブックマーク - 日本のwebがレベルが低い理由 - はてなポイント3万を使い切る日記」あるいは「はてなブックマーク - 日本のウェブは遅れているのではなく、急速に進みすぎたのではないかという仮説 : tokuriki.com」といった話も1つの例である。しかし、その中でも、システムインテグレータを中心とする、エンタープライズ向けのITサービス業は、いつも「遅れている」と考えられてきた。そのモデルを欧米が追っているというのはどういうことだろうか。

日本において多くのIT技術者がソフトウェア企業や、システムインテグレータで働くことになっている理由は、言うまでもなく、正社員の解雇規制の厳格さ、労働市場の硬直性にある。米国では、ITプロジェクトが起きる度に、必要なスキルセットを持ったIT技術者を直接雇用し、プロジェクトが終われば解散、つまりレイオフすることで対応する。日本では、そういったプロジェクトに応じた柔軟な雇用が不可能なため、長年、システムインテグレータがその役割を担当してきた。複数の企業のプロジェクトを担当することで、負荷を平準化する仕掛けであり、日本の雇用環境の下では一定の妥当性があるモデルであるとも言える(*1)。ただ、この仕組みでは、経営や業務とITの間で分断が起きがちであり、IT投資の投資対効果が低くなることで、コスト低減要求ばかりが強くなり、誰もハッピーにならない構図になりがちなため、しばしば日本のIT産業の後進性の象徴とされてきた。日本も米国のような企業によるIT技術者の直接雇用モデルになるべきだ、ということであった。

(*1)更にシステムインテグレータの中で、負荷の平準化を行うために多重下請け構造がある。

欧米のおいて企業のIT部門がソフトウェア開発者を雇用しなくなっているというのは、日本における理由とはやや異なり、業務部門担当者のITスキルの向上や、業務アプリケーションを業務視点で作れるツールの成熟(によって、IT部門に必要なスタッフが減っていくこと)や、業務パッケージや方法論の成熟によって、大手ITベンダにシステム構築が集約されていくことがその理由と言う。今ひとつロジックの繋がりがピンと来ないところもあるが、触れられていない最大の理由として、コストの問題があるのではないか。Infosys、Wipro、TCSといったインドの大手ベンダの米国でのメジャー化と、それに対抗するコスト競争力の強化のため、米国のITベンダがインドや中国へのオフショア化をどんどん進めている。もちろん、SaaSやクラウドのようなサービス化の流れもあるが、その開発を米国で行う必要はない。例えば、「インドでのソフトウェア・オフショア開発を成功に導く: IBMは米国での業務を縮小し、インドを拡大させます。」では、IT技術者をインドの賃金水準で米国からインドに移転させるという話が出てきている(*2)。企業のIT部門どころか、米国で働く場すらなくなる可能性がある。

(*2)ライブドアがコールセンタを中国に設置して、日本人を中国に送り込む話(「中国を舞台に仕事する!~ライブドア~ ライブドア&中国でキャリアUP!」)を想起させる。

このような状況では、日本の技術者が羨やんできた米国の待遇も、今後はどうなるか分からない。もしかすると、IT技術者の不遇という意味でも、日本は「進み過ぎている」のかもしれない。

Posted: 2009年07月03日 00:00 このエントリーをはてなブックマークに追加
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