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Columns: Society

何故カネが動かないのか

Society

日本の内需(もしくは投資)を活性化させるための課題の1つとして挙げられるものに、シニアの金融資産をどう活かすか、ということがしばしば挙げられる。個人の金融資産は株価の下落で毀損しているとはいえ約1400兆円あり、50歳台以上で75%以上を占めている(例えば「年齢階層別の金融資産保有割合をグラフ化してみる」や「家計金融資産1,400兆円の分析-金融資産の質、量及び分布の状況-」(pdf))。溜め込んだ資産が85歳で亡くなるまで使われず、「老々相続」で60歳の子どもが相続し、また溜め込むとすれば、シニア層内でグルグルと回っているだけになってしまい、どんどん「死に金」が増えていってしまう。振り込め詐欺は、結果的に、シニア層から若者層にカネを移転する上で非常に有効に機能してしまっている訳だが、できれば、合法的なやり方が望ましい。

何故カネが動かないのか、ということになるが、(i)欲しいものがない、ということと、(ii)デフレのため、使わないで貯めていた方がトク、ということは当然ある。そこで、(i)JR東日本の大人の休日倶楽部のように、シニア向けのサービス開発が行われていたり(実際、旅行に出かけると、見かけるのは、ほとんどシニア女性グループか、シニア夫婦ばかりで、たまに不倫と思われるシニア男性と若い女性の組み合わせがいるぐらいだ)、(ii)リフレ(緩やかなインフレ)政策の必要性が説かれていたりする。これはこれで重要だ。

もう1つ、大きな要因として挙げられるのが(iii)将来に対する不安である。ただ、年金や医療を含むセーフティネットは確かに不安(特に現在の若年層にとっては)ではあるが、年金や医療が不安になる程度の資産であれば、いずれにせよ、亡くなるまでには介護や医療で大体使い切ってしまっていたりするのではないのだろうか。シニアになるほど格差は大きくなり、もし活かす余地があるとすれば、年金や医療が不安にならないような人の資産だろう。

年金や医療が不安の種ではないとすると、この不安ということの正体は何なのか。恐らくそれは、「社会から必要とされなくなるのではないか」という不安なのではないかと考える。社会との繋がり、と言っても良い。社会ということが漠としているのであれば、つまるところ、他者からの承認感、ということである。日本では、率直に言って、シニアはあまり敬われているとは言えない。むしろ、世代間格差の悪者や、既得権の象徴とされ、時には「老害」とすら呼ばれることもある。昨今の欧州の社会政策が、単に収入・資産面の貧困から、社会的排除を対象とすることに変わってきている(例えば、「EU、イギリスにおける社会的排除の概念と対応施策の動向一日本へ与える示唆一」 (pdf))ように、カネだけではなく、社会と繋がっているかどうかは、人間的な生活を営む上で重要な要素である。

例えて言えば、孫にこづかいをあげるからこそ、息子・娘夫婦が(少なくとも見かけ上)喜んで訪ねてきてくれるのであり、もしあげるカネがなくなれば、息子/娘夫婦は来なくなってしまうのではないか、ということだ。遺産の相続が期待できるから、子どもに世話をして貰えるのではないか、ということでもいい。そして、もしそうであるならば、相続税率を上げ(課税最低限度額を引き下げ)、生前贈与の上限を引き上げることで、消費性向の高い若年層に移転させる、という政策パッケージは、必ずしもそれだけでは上手くいかないことになる。

むしろ、仕事を引退した後も、カネの要らない社会との繋がり、社会参加の場が用意されていることが必要なのかもしれない。1つには、地域社会へのデビュー支援であり(「地活」)、あるいは、NPOなどへの参加の促進とマッチングである。NPOにはマネジメントができる人材が求められていると言う(「プロボノを成功させる、3つのキーワード」)。かつて、企業のリストラが盛んであった際に「何ができますか?」「部長ができます」という笑い話があったが、事業部長や部長が行うべきマネジメントが「本当に」できるのであれば、そのマネジメントスキルは非営利団体においてもとても有効なはずである。

懸念があるとすれば、競争激化による顧客満足至上主義が蔓延している日本では、財(モノ・サービス)の生産者よりも、消費者の方が人としての尊厳を保つ上で有利であることであり、シニアの社会参加を促進すれば、社会との繋がりが切れてしまうという不安が軽減され、財布の紐が緩むはずという見立ては、甘過ぎるだろうか。

Posted: 2009年11月28日 00:00 このエントリーをはてなブックマークに追加
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