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「40歳定年制」はどう運用されるのか

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政府の国家戦略会議「繁栄のフロンティア部会」が7月に提言した「40歳定年制」が話題になっています(繁栄のフロンティア部会報告書 ~未来を搾取する社会から、未来に投資する社会へ~ (pdf))。特に、雇用の流動化により社会の効率、ひいては経済の潜在成長率が上がると考えている経済学者の中では評判が良いようです。

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企業は基本的に、あらゆる雇用規制には否定的ですから、「40歳定年制」には賛成の立場でしょう。「40歳定年制」の導入、あるいは何歳であれ、60歳よりも前の年齢での定年制が認められるのであれば、事実上の65歳までの雇用義務化を求める、今回の高年齢者雇用安定法の改正は、相矛盾することになりますから、これも撤廃ということになるはずです。

では、「40歳定年制」は、実際のところどのように運用されるのでしょうか。これは、もともと、長期雇用による個人の技能や組織能力の向上が、企業の競争優位を構築する上で重要になっている企業がどうかによって、全く異なると考えられます。

企業の業務プロセスが高度にシステム化、マニュアル化され、ある意味誰でも回るようになっている企業では、体力や新しいシステムの飲み込み能力の落ちる中高年を使い続ける必要がありませんから、これは綺麗に40歳で雇用終了ということになる可能性が高いと言えます。

伝統的なメーカーなどのように、長期雇用に価値を見出してきた企業の場合は、少し様相が異なります。新卒採用時に間違って採用してしまったローパフォーマーは同じように40歳で雇用終了となりますが、厳選採用が進む中ではその割合は高くはならないのではないでしょうか。企業は、長期雇用によって育成された企業独自の能力に価値を見出している訳ですから、多くは再雇用となると考えられます。

ただし、再雇用時には年単位契約の契約社員の形になります。高年齢者雇用安定法によって、60歳定年以降、再雇用されるのと同じ形です。そこでは、一部の管理職・専門職型の契約社員と、管理職・専門職になれなかった一般の契約社員に分かれます。管理職・専門職は、企業にとって手放したくない存在なので、役職が上がるに従って、賃金が引き上げられることが期待されます。一方、その他の契約社員の賃金は上がりません。むしろ、今の60歳以降の契約社員のように、定年前の6~7割に引き下げられるかもしれません。つまり、40歳以降フラット賃金制(役職が上がらない限り)として運用されるのです。もちろん、パフォーマンスが出なくなれば、いつでも契約終了です。

日本型経営を構成する「終身雇用(長期雇用)」「年功賃金」は、常に一部の識者に目の形にされてきましたが、長期雇用が良いかどうかは企業の戦略次第であり、国や学者は口出しするな、というのが企業の本音でしょう。一方で、「年功賃金」は年齢構成の歪みによる人件費圧迫の問題が出てきている中で、企業自身(正確には自分自身は賃下げの対象とならない経営層)も止めたいと思っているわけです。現時点でも、すでに40代での賃金カーブのフラット化は、伝統的な大企業や公務員を別にすれば一般的になりつつありますが、これをより徹底したいということになります。

では、狙いの1つであった、雇用の流動化は達成されることになるのでしょうか。これまで見てきたように、再雇用される人がいますから、40歳定年で離職するのは、もともと離職率の高い業界と、ローパフォーマーとして辞めさせられた人材です。残念ながら、中高年人材の採用が活性化する期待は薄いと考えにくいと言わざるを得ません。不況で買い手市場なら尚更です。

つまるところ、「40歳定年制」は、実際には雇用の流動化というよりは、実質的な賃金の切り下げとなった成果主義の導入と同じ結果が、より徹底された形としてもたらされると考えられます。雇用者が生み出すアウトプットと賃金が釣り合うのは本来あるべき姿ですから、欧米流の、役職が上がらなければ賃金は変わらない、年齢に関係なく高い成果を出せば、上の役職に就け、役職に見合った賃金が得られる、逆に、ノンエリートはワークライフバランス重視でまったり、というのであればむしろ望ましいのかもしれません。

ただ、経済状況が今後も改善しないのであれば、若年層はこれまでのように、賃金が低く抑えられ、年齢が上がっても賃金が上がらないし、昇進・昇格の代わりに契約終了をちらつかされ相変わらず業務範囲に定めはなく労働時間は長いという、悪いところだけを継ぎ合わせたことにならないかどうかが懸念です。

Posted: 2012年11月05日 00:00 このエントリーをはてなブックマークに追加
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