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Columns: Society

ストーリーとしての国家戦略

Society

タイトルは「ストーリーとしての競争戦略」からの「インスパイア」ですが、経営戦略あるいは事業戦略において、様々な施策に筋の通った繋がりが重要であるのと同様に、国の様々な政策も、実現したい社会のビジョンに向けて、政策間が整合していることが望まれます。政策パッケージという言葉も使われますが、単に抱き合わせに並んでいるだけのパッケージでは不十分で、政策間がストーリーとして静的・動的にプラスのロジックで繋がっている(あるいは、副作用があるのであれば、それを軽減する)必要があるわけです。

そうした観点から見た時に、現在の政府の政策群はどうでしょうか。どのような社会を実現したいかというビジョン自体、人によって様々でしょうが、仮に「持続的な経済成長とそれを通じた雇用と所得の改善を実現し、広く生活者が豊かさを感じられる」社会を目指すとして、経済政策については、今のところ一定の成果が出はじめているように見えます。緩和的な金融政策は、実質金利を引き下げ、為替水準を是正し、資産効果や所得上昇の期待をもたらすことで、雇用や投資、消費に良い影響が出始めています。景気改善が続けば、デフレ脱却も近づき、更に雇用や投資、消費の改善に繋がることが期待されます。

財政政策は、「機動的」としているだけあって、総額としてはほぼニュートラルで、どこからどこに移すというというのが主でしょうが、公共事業は、必要なものはやるとして、重要な、老朽化した社会インフラの更新に集中した上で、かつ10、20年以上のスパンで、長期間、一定規模以上の事業を継続的に行うという方針を出すことが必要だと思います。公共事業が長らく縮小され続けてきた中では、若年層が将来を見越して、建設業に就職しようとは考えません。また、公的雇用を増やすのも有力ですし、保育所整備・保育士育成などの少子化対策や教育のような次世代育成、積極的雇用政策といった人的資本の強化に投資を振り向けるべきと考えます。高度人材に限らず移民を積極的に呼び込む方法もありますが、文化的な適応の困難さを考えれば、人口減少を少しでも食い止める政策こそ、社会保障の持続可能性を引き伸ばすとともに、最も重要な成長戦略の1つなのではないかと思います。

成長戦略は、これまでまともに機能したこともないし、大して期待はありませんが、自由貿易の拡大や、農業や医療における規制改革といった政策は、中長期の潜在成長率を引き上げる上で、ある程度の期待はあります。ただし、何でも規制緩和をすればいいわけではなく、雇用・労働環境における長時間労働の抑制は、むしろ規制強化の検討も必要です。心身の健康維持を通じた人的資本の保護、医療費の削減、仕事と家庭の両立を通じた女性活躍の推進、出生率の改善、時間あたりの生産性の向上、といった、あらゆるプラス効果に繋がるからです。しかし、ブラック企業対策の強化の可能性は、公認候補を見れば、お察しというところでしょう。

その他の政府がやろうとしている政策も、完全にチグハグな面が否めません。来年4月に予定されている消費税増税は、景気を冷やし、デフレ脱却を遠ざけることになります。財政規律は無視はできませんが、経済停滞の中での緊縮財政がむしろ更なる経済と財政の悪化を招くことは、過去の日本にも経験がありますし、欧州が現在進行形で経験しているところです。デフレを脱却し、安定的な成長を取り戻すまで増税は凍結すべきでしょう。

生活保護支給の抑制は、ただでさえ捕捉率が低いとされる中で、生活困窮者の家族・親族といった社会との繋がりを悪化させ、社会復帰をより困難にさせる、つまり逆に社会保障費の増加という結果になりかねません。特に稼働世代については、生活保護受給に陥る前のセーフティネット、経済的支援や就職支援を強化することで、何もかも失う前に生活の安定を取り戻せるようにし、結果的に稼働世代の生活保護受給者の減少を目指すことを考えるべきです。

一方で、野党の政策もまた、疑問が多いと言わざるを得ません。国家公務員の削減は、財政上緊縮的で、景気回復とデフレ脱却に逆行しています。人件費削減分を低所得者層などに分配すれば一応、財政上はニュートラルですが、失業率を上げてしまってはトータルでマイナスの方が大きいと考えられます。むしろ、既出の通り、公的雇用は積極的に増やす(公務員の人件費総額を変えないためには、代わりに地方の賃金水準に合わせる)ことを考えるべきです。

原発ゼロは、時間軸が論点であって、新規原発の建設については、今回の事故を踏まえて、あらゆるコストを考えても本当に経済的なのかを慎重に検討すべきである一方で、既存の原発に関する限り、安全が確認された原発を再稼動することは避けられないでしょう。電力料金の負担が大きくなれば、家計も企業も打撃を受けますし、電力会社が赤字を垂れ流している状態では、廃炉に向けた原資の積み立ても、代替となる火力発電所の建設も、再生可能エネルギーの研究開発もできませんから、むしろ、原発ゼロを遠ざけることになりかねません。海外からの安価な天然ガスエネルギー獲得の交渉力を高めるためにも、日本に「選択肢」があることを示すことが有効です。

実際には、各党の政策が完全に自分の考えとマッチすることは困難ですが、目指そうとしている社会のビジョンが魅力的か、政策群の実現性があり、かつきちんとストーリーとしてロジックが繋がっているか、といった点を判断したいと思います。

Posted: 2013年07月05日 00:00 このエントリーをはてなブックマークに追加
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