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Columns: Partner Style

ラブハラスメントの「発見」

Partner Style | Society

今、ハラスメントがブームである、などと言うと不謹慎かもしれないが、今回はラブハラスメントの「発見」について(元ネタは小山昌宏氏の不定期日記の6/24および11/24を参照)。

○○ハラスメントという言葉で最もよく使われるのはセクシャルハラスメント(セクハラ)であるが、セクハラ行為等の防止と対策でも最近の傾向として「被害者の主観的認識を主軸として、成立要件を緩やかに認定する傾向が見受けられる」ことが挙げられているように、ハラスメントの成立要件として、受け手が嫌だと感じることが中心に置かれている。そのため、物理的には全く同じ行為であっても、行為者に対してどういった感情を持っているかによって、セクハラと感じるか感じないかが大きく変わったりする。それを理不尽だと言っても仕方がない。社会的にどうかということではなく受け手がどう感じるか、という個人の主観的な感情を重視する時代になりつつあるということが言える。

ともあれ、今回のテーマはラブハラスメントである。セクシャルハラスメントの一種と言うこともできるが、それを望まない相手に恋愛経験について尋ねたり、恋愛話をする行為が該当するだろう。10代から30代頃の男女にとって恋愛はしばしば大きな関心事であり、趣味や価値観が多様化(多ジャンル化)する中で、最後に残された「大きな物語」として、多くの場合学校や仕事の話題に続いて共有可能な数少ない話題の1つである。しかし、恋愛の話題というのは自分の恋愛経験が少ないと盛り上がらないため、恋愛経験の少ない人がコンプレックスを抱いてしまうことがある。ある集団においては、例えば飲み会の場などでも、そういった比率が非常に高いため、恋愛の話題がタブーになってしまっている例もある。恋愛経験が豊富で、恋愛能力に長けた人は一般的にEQ(=Emotional Quality。心の知能指数とも言われる)が高く、場の雰囲気を読み取ったり、相手の感情の機微を捉える力に優れているので、こういった集団にたまたま入ってしまっても巧みに別の話題を振ることができるが、稀に無意識/意識的に「場違いな」発言をすると、このラブハラスメントが起こることになる。

ラブハラスメントが「発見」された背景には、恋愛のグローバル化の進行に従って、ラブデバイド、つまり恋愛経験の格差が一方的に広がりつつあることがある。国立社会保障・人口問題研究所の第12回出生動向基本調査(2002年)では、これが異性との交際は二極化として指摘されており(同性愛者への言及がないのが気になるが)、特定のパートナを持たないライフスタイルが増えてきていることを示している。無論、この中には、大きく分けてi)パートナが欲しいが「いい人」がいない、ii)パートナが欲しいが(人間的に何らかの問題があり)誰にも相手にされない、iii)そもそも恋愛に興味ない、という3グループぐらいがあり、そのパートナスタイルは一様ではない。

このうち、ラブハラスメントをハラスメントと感じるのはii)かiii)に属する人の一部であろうが、ii)とiii)ではそのハラスメントは恐らく質的に異なる。ii)のグループに属する人は恋愛の価値を認めているが、享受できていないことに対するコンプレックスであり、iii)のグループに属する人は恋愛の価値を余り高いところに置いておらず、フラットに単なるエクスペリエンスの1つのオプションとしか考えておらず、恋愛至上主義という価値観の押し付けに不快感を感じる、という違いである。同じページに「結婚できない」から「結婚しない」へというのがあるが、更に一歩進んで、「恋愛できない」から「恋愛しない」ということである。

この2者の割合がどれぐらいなのかは特に資料を持ち合わせていないので分からないが、現状はまだii)の割合が高く、iii)は比較的少ないと思われる。年齢による違いもあるだろう。特に若いうちは余りパートナの必要性を感じていなかったのが、年をとることによって変化するということもある(そしてしばしば手遅れになっている)。また、本当はii)であるにも関わらず、何とか生きていくために「シングルっていいよね」と単なる強がりになっていることもあるかもしれない。シングルの素晴らしさを語りながらもういいじゃんと本音が出てしまっては実に惨めであると言うしかない。このii)とiii)の分かれ目は、「40歳独身男(あるいは女)、コンビニ弁当を買う」自分の姿をイメージしてみて、全然平気か耐えられないか、ということを考えてみれば良い。

ii)のグループは大衆的な恋愛の価値観を認めている点でシンプルに恋愛競争の敗者であり、声高にラブハラスメントを唱えるには弱い立場である。新たに「発見」されたラブハラスメントが認知されるには、「恋愛しない」派の増加を待つ必要があるだろう。

Posted: 2003年12月14日 00:00 このエントリーをはてなブックマークに追加
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コメント

何故、パートナーを持たない=コンビニ弁当を買う、のかがわかりません。シングルだと自炊をしないというイメージが筆者の方の中にあるのでしょうか。この文章のそこかしこからシングルに対する否定的な態度が見受けられます。こういったことを書かれるならば、もっと公平で客観的な立場から書かれた方がよろしいのではないでしょうか。揚げ足をとるようで申し訳ありません

Posted by: : 2004年01月12日 10:39

あくまでそういう図をイメージして貰うことが目的であって、「=」で結んでいるつもりはありません。もちろん、自炊されている方も多いでしょうし、パートナがいてもコンビニ弁当の方も少なくないでしょう。

私が望むのは、シングルを含むあらゆるパートナスタイルの選択肢が本人自身および社会的に、納得の行く形で自信を持って選べる社会です。ただし、そこにたどり着くまでの過程で、偏った圧力にさらされることがあると思いますし、それをゆさぶってあぶり出すことが狙いである訳です。そのため、意識的に特定の立場を演じることが多々あることをご承知いただければと思います。

ただもしかしたら仰るように私自身が深層意識ではそういった考え方に侵されているのかもしれません。自分自身では分からないことではありますが。

Posted by: 秋風 : 2004年03月08日 01:41

このコラムを読んで、目から鱗が落ちました。
私はOLをしていて、同僚の30歳を越えているのに、
結婚はおろか恋愛もしていなそうな女性は恋愛話
になると、貝のように殻に閉じこもってしまうのです。
私はその人に恋人が居ないのを知っているので、
あえて話は振りませんが、知らない若い子は罪の
意識も無く恋人の有無なりを聞いてしまうんです
よね・・・
ラブハラスメント、もっと社会的に認知されて欲しい
ものです。

Posted by: kei : 2004年08月31日 14:36

この「ラブハラスメント」という概念についてはすごく共感するところがあるので、もっとたくさんのひとに知ってもらえるといいですね。

Posted by: とうりすがり : 2005年07月10日 23:05

一般化すれば、支配的な価値観を共有しない人、及び支配的な価値序列において下位に位置づけられる人が、支配的な価値観がまさに支配的であることに直面させられることによる苦痛。こういう場面で価値観がみんなで確認されるわけで、支配的な価値観はますます支配的になってゆく。こういう場合手続き上、価値観に合わないものを排除したりするわけだけと、その排除されるものがほかならぬ自分である場合、かなり困ったことになる。まあこれは恋愛に限らないでしょう。

Posted by: ばんたくん : 2005年09月07日 20:20

ラブハラスメントもセクシャルハラスメントと同様に、女性が受ける場合は問題だとするような傾向が日本ではできそうな気がするので、男性は少し心配ですね。
私は既婚者ですが、既婚者でもラブハラを受けることがあるんですよ、とくに男性の場合はね。

Posted by: 既婚者30代 : 2006年01月03日 16:16
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