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ライフタイムバリュー

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年初ということで、今日は少し昔の話をさせて頂いても構わないだろうか。

私が初めて恋愛アニメ/ビデオゲーム(以下単に恋愛ゲーム)に触れたのは1995年5月(当時は「恋愛ゲーム」という言葉も存在しなかった)、最初の作品は「同級生2」であり、当時とても夢中になったことを覚えている。それから1年半後の1996年11月に当サイトの前身となるWebサイト「恋愛SLG研究会」を立ち上げるに至った。

しかし、現在、かつてのような恋愛ゲームに対する熱意を維持することは非常に難しくなってしまった。恋愛ゲーム自体の質が落ちたのではない。それどころかグラフィック、音楽、音声、プレイアビリティなど、どれをとっても当初とは比べ物にならないぐらい格段に進歩を遂げた。だが、変わるのは常に人間の側である。

恋愛ゲーム(以降、サイト上恋愛ゲーム、としているが、いわゆる「美少女ゲーム」と読み換えて頂いてもほぼ問題ない)は、多くのユーザにとって数ある娯楽の中でもとりわけ「卒業」までの期間が短いジャンルであるように思う。恋愛ゲームファンサイトを運営している立場上、様々な読者の方とコンタクトをとらせて頂いているが、読者の方が3代ぐらい入れ替わっているように感じる。当サイトが今7年目なので、平均的なユーザがハマってから飽きるまで期間として2~3年、といったところだろうか。私自身、実際恋愛ゲームを「ワクワクして」購入したのは、1997年7月の「バーチャコール3」が最後なので(何だかんだ言ってその後も購入している訳だが)、オーダとしてこの2~3年というのは割と間違っていないのではないか。これは他のビデオゲームと比較しても、「Tactics Ogre」「バハムートラグーン」の時代に始まり、今でも「魔界戦記ディスガイア」「FRONT MISSION 4」などのSRPGを「ワクワクして」購入していることを考えれば遥かに短い期間である。

この理由の1つとして恋愛ゲームが恋愛と性を扱うジャンルであることがあるのは間違いないが、一方で、継続的に年数十本のオーダで購入を続けているユーザも存在する。この違いがどこから生まれるのかを考えるのは非常に興味深い。

マーケティングの概念にライフタイムバリュー(LTV=Life Time Value; 顧客生涯価値)というものがある。これは平均的な寿命を持つ1人の顧客が、生涯を通じて、ある業界または、ある企業の製品やサービスに支払うお金を指す。産業が成熟するに従って、新規顧客獲得のコストが非常に高くなっているため、リピータをいかに増やすかに関心が寄せられており、これは、やはり成熟度が高まりつつある恋愛ゲームにおいても例外ではない。未だに新ブランドが立ち上がったと思ったらキャッチーな絵と詐欺くさい宣伝攻勢の上1,2作で消える「あとは野となれ山となれ」の焼き畑農業のような例を見かけるが、このライフタイムバリューの考え方からすると愚の骨頂だろう(が、少なからず稼がせしまっているのはユーザの責任)。

さて、ライフタイムバリューの考え方は、極めて嗜好性の強い恋愛ゲームにおいては、i)業界として、ii)メーカ/ブランドとして、iii)クリエイタとして、という3つのレイヤにおいて突き詰めていくことができそうだ。

i)業界として
2点。「2:8の法則」という言葉がある(別名: パレートの法則)。これを当てはめると、恋愛ゲームにおいて、20%のユーザが80%の製品を購入している、ということである。人によって購入本数の差が非常に大きいことを考えるとこれはかなりよく適合するのではないか。この20%(20%であることに意味があるのではなく、高い利益を生み出している顧客が一部であることに意味がある)のユーザは業界にとって「ロイヤルカスタマー」である。彼らは、一体、どんなプロフィール/コンテクスト(恋愛、セックス、結婚、家族、年齢、年収、余暇、趣味、嗜好、etc.)を持っているのか、メーカは十分に分析できているだろうか(そして言うまでもなく、そのユーザ層は一様ではないのだが)。

もう1つは、恋愛ゲームの消費期間の短さへの対応。「ライフタイム」も何も、恋愛ゲームは人生のごく一部の期間しか消費されない。平均的なユーザが月1本(月間約40万本、20~30万人のユーザというところから推定)、2年間に渡って購入すると仮定すると、1本約6000円として、ライフタイムバリューはざっくりと6000(円)x1(本/月)x12(月)x2(年)=14.4万円である。これがもし5年間に渡って手にとって貰うことができれば、36万円と2.5倍に増加する。送り手側は「焼き畑農業」をそろそろ卒業して、顧客層を広げるだけでなく、1人の顧客をより長く繋ぎ止め、ライフタイムバリューベースを増大させるような努力が必要だと考える。

ii)メーカ/ブランドとして
1メーカとしては、業界単位でのライフタイムバリューを無数にあるメーカで奪い合う形となる。いわゆる「ファンクラブ」やメーカWebサイトはまさにこのブランドレベルでのライフタイムバリューシェア向上のためのリレーションシップマーケティングツールである訳だが、最終的には製品や周辺商品(グッズなど)を購入して貰わなければ意味がないので、ここでもブランドにとってのロイヤルカスタマーをどれだけ増やせるかとともに、プロフィール/コンテクストをどこまで押さえられているかが鍵となる。ここについては、これまででも比較的力が入れられて来たところだろう。

また、1つのメーカであるユーザの全てのニーズを満たすことは(1ヶ月1本出し続けられるところは除いて)物量的に厳しいので、他メーカとの連携ということも、より大切になってくるかもしれない。

iii)クリエイタとして
恋愛ゲームは「原画家買い」「シナリオライタ買い」などといった言葉があるように比較的「クリエイタ信仰」が根強く残っているので、会社やブランドが変わっても一度ファンになったユーザは離れない。グラフィッカやプログラマでは厳しいかもしれないが、プロジェクト型製品開発が増える中では、クリエイタ個人としてのロイヤリティを築いていくことが、今以上に重要になる。


年に数本程度しかプレイしない私1人が仮に恋愛ゲーム消費者からフェードアウトしていくことは、業界にとって何の影響もない。しかし、総体として見た時に、少子化が進行する中で、恋愛ゲームベンダは、これらの「ライフタイムバリュー」の考え方を十分理解し製品開発を含むマーケティングの場で実践することが必要になってくるのではないだろうか。

一方、1ユーザである、ほとんどの方は、高く積み上がったパッケージを眺めながら、自分が生涯に渡って恋愛ゲームに支出するライフタイムバリューについて(実際には金銭面だけでなく時間も消費している訳だ)、思いを巡らせて頂くのもいいかもしれない。

【参考文献】
ロイヤルティマーケティングの勧め
JERICHO CONSULTING DBM用語辞典「ラ」

Posted: 2004年01月07日 00:04 このエントリーをはてなブックマークに追加
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コメント

どうも。

今回はより自分の中で興味深いテーマでした。
「卒業」に関して思うのは、「あれだけアツかったものは何だったのか?」ということです。
ただの風邪(幻想)だと割り切りたくない感情があるからかもしれません。
リアルに関心が強い今でも、(ゲームをプレイする機会は減りましたが)萌えキャラとか見ると、(マンガとかでも)ときめくのです。
(生理的に気持ち悪かったらゴメンなさい)
自分にとって、二次元キャラ(ひいては物語が)どういう存在なのか?
今でも分かりません。

ライフタイムバリューについては、メーカー/ブランドのユーザーリピートの工夫はなんとなく分かるのですが、
業界としてとなると、具体的にどういったことが実践に繋がるのか、思いつきません。
単体のメーカーではやりにくい構造的な変化を競合とも持ちつ持たれつでやっていくということでしょうか?
業界全体としてロイヤルカスタマーのデータ把握と、リピーター化させる仕組み作りを模索せよと。
最近(?)では、80%でも稼げるとからしいですが、どちらにしろ、クリエイタ信仰がある以上、
継続的に売っていくモデルとして質の高い作品にする為、投資していくことをベース(生命線?)にするということでしょうか?

なんか書いてて分からなくなってきました。
的外れなこと書いてたらすみません。

では。

Posted by: 永夢 : 2014年10月13日 02:56
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