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Columns: Society

ベーシックラブ

Society

馬の名前ではない。

個人主義の発展と、恋愛格差の拡大による非婚化・少子化が進行する中、恋愛や性愛という「私的」な問題については、公的機関が政策により何らかの対策を打つことが難しい、ということを前回マス政策の限界にて書いた。とは言え、可能性として、ほとんどファンタジーというか電波のレベルになってしまうのだが、少し思考実験(机上の空論)を行ってみよう。

人間の欲望は人それぞれであり、多種多様で限りがないが、多くの人が持っている主要なものとしては、「カネ(物質的充足)」と「恋愛/セックス(精神的/身体的/社会的充足)」の2つが挙げられる。こういった欲望がボジティヴに満たされようとして遂行される活動は、原則として社会をより良くするものであると言えるが、ネガティヴに満たされようとして遂行される活動は、ある種の犯罪行為に繋がりやすい。当然のことながら、「カネ」と「恋愛/セックス」が充足していない人全てが犯罪者であるはずもないし、犯罪者予備軍である訳でもないが、世の中のニュースを眺めていると、「カネ」と「恋愛/セックス」が充実していればまた違ったストーリになっただろうな、と思わされる例も少なくない(統計的に比率が出ている訳でなく、単なる偏見)。

「カネ」の場合、極端な場合には生死に関わるだけに深刻である。折しも、日本で100万人とされる「ひきこもり」や76万人いるとされる「ニート(NEET; 無業者)」の問題が一部で関心を集めている。主に若い世代に多いこれらの人たちは、現状親が健在で子供を養える状況なので、ほとんど顕在化していない(多くの人が無関心である)が、親の世代が退場してゆく数年?10年のうちには、高齢化したフリーターと合わせて社会問題化する可能性が大きい。既存の社会福祉の枠組みでも、生活保護法に基づく経済的支援があるが、「甘え」や「自己責任」の問題として捉えられかねない「ひきこもり」などの場合、生活保護を受けることは必ずしも容易ではないと思われるし、どういった人が生活保護を受けられて、どういった人が受けられないか、という線引きが困難で、これ自体不公平感の残る仕組みである。

それに対し、「ベーシックインカム」というアイデアがある。これは年金や生活保護といった従来の経済支援とは異なり、総ての市民に最低限度の生活が可能なだけの一律の経済的支援を行う、というものである。

端的に言えば、ほとんどの自治体の財政が危機的だったり、国家にしても苦しい状況の中で「総ての市民に最低限度の生活が可能なだけの一律の経済的支援を行う」というこのアイデア自体がすでに非現実的である(財源を富裕層に求めれば大量の国外退避が懸念される)のだが、これを恋愛・性愛の場面に適用してみるとどうなるだろうか、というのが今回の思考実験(机上の空論)である。つまり、「ベーシックラブ」あるいは「ベーシックセックス」という発想である。

「ベーシックラブ」、つまり、「総ての市民に(それが必要とされる場合)最低限の恋愛経験を提供する」ということだが、これは少々ファンタジー過ぎる。というのも、恋愛は1人ではできないが(*)、互換性の高いカネに比して人的資源は1人1人が異なるため、最低限の恋愛経験を提供するためのリソースを確保しようがないし、大体人の心をどうかできるものではない(特に女性の場合「生理的に受け付けない」という感覚がある)。

(*)小谷野氏であれば、片思いでも恋愛だと言うかもしれないが。

そこで、恋愛のある場面のフリをする、つまりせいぜいデートごっこをするというサービスが考えられる。もっとも、普通に恋愛できる人にとっては現実的に意味のないサービスなので、不公平感があり、公的には難しいかもしれない。とすれば、民間やNPOの出番である。以前から当サイトをご覧の方はもうお気づきかもしれないが、恋愛体験デーティングサービスというジョークは、こういった「ベーシックラブ」のコンセプトがその出発点だった。

一方、「ベーシックセックス」となると、比較的分かりやすく極めて安価で公娼を復活させるということが想定される。公娼と言うと何だかある種の人たちから猛反発を受けそうだが、60歳の女性であっても、望めば若い男性とセックスができるし、もちろんクィアなどもカバーされる訳で、あくまでフラットな「公的サービス」である。民間レベルでは基本的にすでに性風俗があるのだが金銭的に「総ての人に」と言うには少々無理があると思われる。例の「セックス奉仕隊」の方が想定しているものに近い。加えて、公的サービスとして立ち上げることにより、莫大な雇用創出が期待される。

このようなサービスは、(特に公的サービスとしては)決して現実味があるものではない。しかし、ビジネスやカネのアナロジーで捉えようとする中で、こういった思考実験を行うことで、恋愛や性愛固有の特徴的な性質が浮かび上がってくるものと考えられる。

【関連文献】
学校から職業への移行を支援する諸機関へのヒアリング調査結果?日本におけるNEET問題の所在と対応?
生活保護110番
世界規模のベーシック・インカム

Posted: 2004年05月28日 12:13 | Trackback このエントリーをはてなブックマークに追加
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