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恋愛競争戦略概論

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ある種の仮想空間のように、何故か同性のライバルのいない(いても引き立て役かお笑い役しかいない)メルヘン世界とは異なり、現実世界の恋愛市場は、際立った恋愛資源を持たない人にとって、厳しいグローバル競争(*1)のもとに置かれるものである。そういった環境において、プレーヤは一体どんな恋愛競争戦略を取ればいいのか。以前恋愛マニュアルの是非では、戦術レベルの恋愛マニュアルについて取り上げたが、今回は一段高い戦略レベルについて、やはりグローバル競争に晒されている企業の、ビジネスのアナロジーで考えてみよう。

(*1)恋愛のグローバル化については以前の出会わない系を参照。

「競争戦略」というとファイブフォース分析(*2)や低価格化戦略・差別化戦略・集中化戦略の3つの戦略分類で有名なマイケル・E・ポーターが定番中の定番で、「競争の戦略」が古典であるが、日本発の戦略論テキストもなかなか興味深いフレームワークを提供してくれる。

(*2)企業にとってのある産業における5つの競争要因を「業界内競争」「新規参入障壁」「代替品」「消費者」「供給業者」の観点から分析するフレームワーク。経営用語の基礎知識を参照。

競争戦略論 一橋ビジネスレビューブックス
青島 矢一 , 加藤 俊彦

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競争戦略論
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この「競争戦略論」で、筆者らは、競争戦略のアプローチ方法の分類軸として、
  1. 「内」と「外」
  2. 「要因」と「プロセス」
という2つの軸を挙げ、この2軸に基づいてマトリクスを描き、各象限にそれぞれ、合計4つのアプローチをマッピングする(図1)。
競争戦略における4つのアプローチ

図1 競争戦略における4つのアプローチ

  • 「外-要因」に着目: ポジショニングアプローチ
  • 「内-要因」に着目: 資源アプローチ
  • 「外-プロセス」に着目: ゲームアプローチ
  • 「内-プロセス」に着目: 学習アプローチ
実は本書の中でも、企業の競争戦略を説明するアナロジーとして、「好きな人にアプローチする」例を挙げており、このフレームワークが、恋愛の場面でも有効であることを示している。今回は、こちらから逆に各アプローチを恋愛に適用していこう。

i)ポジショニングアプローチ

ポジショニングアプローチは「外」の「要因」に着目する。恋愛は2人いないとできない、「関係」の問題であるので、自分1人だけで完結するものではない。いかに自分を、恋愛競争において有利なポジションに配置するかが重要である。具体的には、異性愛者の場合であれば、より同性が少なく、異性とたくさん接する環境にいた方が一般的に良い。「美人で優しいのに彼氏がいない」女性の例では、「美人」「優しい」というのはいずれも「内」の「要因」であり、それだけでは恋愛は成功しない。その原因を分析すると「いつも同性の友達と一緒にいる」ということだったりする。これはポジショニングアプローチが間違っているのである。

もう1つの例としては、恋愛に余り縁がない人は「電車男」に一時の夢を見るかもしれないが、ポジショニングアプローチで考えると、自分はそういうチャンスが巡ってきやすいポジショニングをしているか、ということを十分に内省する必要がある。例えば、いつも移動手段に自動車を使っていたら永遠にフラグは立たないし、まして家の中に引きこもっていたら何をか言わんや、である。

ii)資源アプローチ

資源アプローチは「内」の「要因」に着目する。これはシンプルで分かりやすい。恋愛競争において有用な資源は「人柄/性格」「容姿」「コミュニケーション力」「年齢」「資金力」「職業/社会的地位」「趣味」「性的魅力/能力」などが挙げられる。男性と女性では通常重視される資源は異なるし、年齢によっても異なる(*3)。もちろん、個人差も存在する。このアプローチは、ビジネスとは異なり多分にもって生まれた素質が関係するので、必ずしも自由に伸ばすことができない。自分の素質を見極めてどの資源を獲得し、どの欠点をカバーしていくことに注力するかが戦略となる。

(*3)例えば、学生時代には、そもそも周囲と「年齢」に違いがないし、「資金力」「職業/社会的地位」の影響も無に等しい。これが社会人の場合、そうはいかなくなってくる。

資源アプローチは分かりやすい上に重視されやすいが、これだけでは上手く行かない。「いいものを作れば売れる」時代ではないのと同じである。ファッションに投資することは、最低限必要なことではあるが、単なるファッションオタクでは仕方がない。

iii)ゲームアプローチ

ゲームと言ってももちろんビデオゲームのことではない。ゲームアプローチは「外」の「プロセス」に着目する。同じ「外」のアプローチとしてポジショニングアプローチと異なるのは静的な「要因」ではなく、動的な「プロセス」に力点があることである。具体的に考えると、より直接的にはデートや食事に誘い、行き先(店)を選択し、トークその他により、相手を楽しませ、「落とす」過程そのものであり、間接的には、「将を射んとすればまず馬を射よ」の格言がしばしば挙げられるように、周囲の好感、信頼を得ることによって、本人に好印象を持ってもらうことがある。ライバルを蹴落とすことも必要だが、それと同時に協調も大切である。恋愛が「駆け引き」であり、あらゆる意味での「コミュニケーション」であることを最も重視したアプローチがこのゲームアプローチであると言える。

iv)学習アプローチ

学習アプローチは「内」の「プロセス」に着目する。恋愛能力を生まれた時から備えている人はほとんどいない。幾多の恋愛経験を経て、学習していく訳である。そうした情報やスキルの獲得プロセスに焦点をあてる。これがいい例かどうかは分からないが、デートヘルスで練習するのもある種の学習アプローチであろう。

恋愛が上手く行っている人は、こういった4つの戦略アプローチがほとんど無意識的にバランス良くとられ、また相互に好循環を起こすことによって、恋愛能力が高まっていく。一方、上手く行かない人は逆に、あるアプローチの失敗が悪循環を招き、恋愛能力の成長が止まってしまっている場合が少なくない。

恋愛はもっと感情的、情熱的なものであり、理論や理屈ではない、というのはその通りであり、もちろん非常に正しい。しかし、比較的若いうちに、極めてネガティヴな失恋を繰り返し経験してしまった人の場合、逆の「学習アプローチ」が機能し、「人を好きにならない/人に好かれないことによって少なくともこっぴどい失恋を招くことを避ける」ような、ある種の防衛機制(*4)が働くようになってしまう場合が往々にしてあるのではないだろうか。そういった状況を避けるためにも、今回のような競争戦略とそれに基づく戦術レベルの恋愛スキルについて、理解しておくことはそれほど無駄ではないと考える(逆に言えば、上手く行っている人には理論は不要な訳で)。

(*4)「こころ」が壊れてしまうのを守るための防衛的な「こころ」の働き。防衛機制ってなぁに?回復のための方法論などを参照。

Posted: 2004年06月12日 05:36 このエントリーをはてなブックマークに追加
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コメント

大変興味深く拝読させて頂きました。
このような視点は、単一であれば多分に副作用をもたらす
リスクが高いものと推測されます(たいていの理論はそうですから)が、
複数の視点や理屈の中のひとつとして採用するならば、きっと
役に立つのではないかと思いました。ビジネス論からの援用との
事ですが、恋愛にもビジネスにも当てはまるうえに、どうも
それ以外のコミュニケーションシーンにも役に立ちそうなご指摘に見えて
ならないです。抽象的ではあっても、汎用性の高い方法論だなぁと思いました。
対人接触における汎用性の高い適応戦略は、おそらく
様々な場面で運用できるでしょうし、だからこその汎用性の高さなのでしょう。

この手の戦略的方法論を実際に恋愛に利用するOR
もっと進んでイデオロギーとして採用するか否かは個人の選択の
問題でしょうけど、なかには「いい方法があればいいけどなんもわからん」
ような人もいるでしょうから、こちらのサイトでも色々考えたいものです。
きっとリファレンスさせていただきますが、その節はご容赦ください。

一方で、戦術論や戦略論だけでは恋愛って切り取れない所が
あるような気がしませんか?ただし、この漠然とした思いは
もしかしてぜいたく品なのかもしれませんが...。
なんというか、ロマンとかこころとか、そういう次元の論議を...。

Posted by: シロクマ : 2004年06月21日 18:43

ありがとうございます。こんな記事でよろしければご活用ください。

どなたかが、loveless zeroを「しょーもないことを真面目に扱う」サイトみたいな言い方をされていましたが、非常に良く当サイトを言い表していると思います。(笑)

昔は社会学、心理学系、最近は主に経営学系など、ビデオゲームなりコミュニケーションなりを学祭的「風」に扱うというのは開設当初からの芸風ですので、Simpleさんの「読者が望むもの(2004/06/21)」ではありませんが、なかなか変えられないというのが正直あります。

無論、恋愛の全てが理論で説明可能とは思ってないです。「ロマンとかこころとか、そういう次元の論議」というのはちょっと私には荷が重いですけど…。

感情の洞察を中心とした、フランチェスコ・アルベローニの「新・恋愛論」とか行っときます?

Posted by: 秋風 : 2004年06月23日 22:19

そうですね。とにかくも、恋zero2さんは恋zero2さんでいてくれるのが
(少なくとも一読者の私には)とてもありがたいことです。
今後も、お体を壊さない程度にぜひがんがってください。

感情や情緒の問題は、また別のところやご本で当たってみますし、
きっとそういうのが得意なソースはあちらこちらにあることでしょう。

Posted by: シロクマ : 2004年06月28日 12:01

ありがとうございます。

当初loveless zero(の前身)を作るときに考えていたのが、「他にはないサイト」ということでして、それに、個別のゲームファンサイトはすぐに消えることが目に見えてましたんでこういう形になったのですが、「他にはないサイト」ということは今でも意識してます。こういう余り内面をさらけ出さないサイトはクールには見えますが、親近感を持たれにくいので損ではあるんですけど。

あと細かいですけど、loveless zero 2の「2」はフェーズ番号で、サイト名の一部ではないです。(^^;

phase1が完全なゲームサイトオンリーだったとすればphase2は社会系サイトへの転換や「外部」の視線を意識し始めた時期、ということですね。

最近はこういうバージョン番号を後ろにつけるブランド名とかも増えてきていますのでどっちも構わないっちゃ構いませんが。

Posted by: 秋風 : 2004年06月30日 00:53

こんにちは、またブログ覗かせていただきました。また、遊びに来ま~す。よろしくお願いします
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Posted by: MONCLER ダウン : 2013年01月12日 07:10
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