Columns: Society
マス政策の限界
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社会に目を向けてみると、非婚化・少子化が凄い速度で進み、一方では長寿大国として年金問題が大変なことになっているのが今の日本であり、個人主義が進んだ現代において、政府の偉い人は表立っては言えないもののホンネは「産めよ増やせよ」の勢いで少子化対策にしゃかりきになっているらしいのだが、何をやっても一向に効果がないようだ。もちろん、傍目にも彼らの政策がピント外れであることは分かる(結婚対策としての地方でのお役所主導によるお見合いパーティや、農村に来てくれる女性に送られる結婚「ボーナス」などはその最たる例だし、育児休暇取得を促進すれば良いというものではないのは明白)が、この「少子」はその感覚を否応なく強化してくれる。
見出しを見れば、それは一目瞭然。筆者自身が「産まない理由」を1つずつ章を立てて綴っているのだが、これが、
という具合。多分に「私的」な理由なのである。
- 痛いから
- 結婚したくないから
- うらやましくないから
- 愛せないかもしれないから
- 面倒臭いから
- シャクだから
- 男が情けないから
お役所のマス政策による公的サービスは、「アファーマティヴアクション(*1)」を除けば、基本的に「公平」であり「公的」であるのが原則である。しかし、著者が挙げるような「私的」な意識レベルの問題は、「公的」なサービスで解決することが難しい(「痛いから」「面倒くさいから」は社会的にある程度解決可能なはずだが)。(特に女性の)個人レベルの感情や意識に気づかないフリをして(本当に気づいていないのかもしれないが)、年金のような社会問題(*2)を何とかしようと、無神経に施策を振り回すところに結婚・出産における無策がある。
(*1)特定のマイノリティのための優遇政策。
(*2)世代間扶養である現在の日本の年金制度の元では、労働者人口の現象は致命的。
「私的な理由」としては、「男が情けないから」という言葉で端的に表された恋愛格差の拡大もまた非婚率の上昇と結果的に出生率(*3)の低下を招く原因の1つである。結婚が、いかに(階層上昇を目的とした)経済目的的・ビジネス的なものであったとしても、見合いは本当に最後の最後の最終手段で、あくまで恋愛のような「自然な出会い」を望むのが近年のパートナスタイルである訳だが、恋愛というこれまた「私的」な問題は、やはり基本的に公的サービスでカバーできない。恋愛障害者への「アファーマティヴアクション」があり得るのかどうか分からない(一体どんな形で?)が、恋愛できなくても別に死ぬ訳でもなく、周囲からは単に「努力不足」で「自己責任」であるとしか捉えられないからだ(*4)。
(*3)こういった統計上の数字自体がすでに個人の気持ちを無視した乱暴なものな気がしないでもない。
(*4)政策において「公平性」は原則として「機会の平等」を意味する。しかし恋愛はもともと機会が平等なことになっている。これに対して、「結果の平等」を実現する政策が「アファーマティヴアクション」である。
個人主義が浸透したことによって、子供に夢を託さなくても自分で自分の夢を、自分の幸福を追い求められるようになったのは好ましいことであると言うべきだし、恋愛や結婚といったパートナスタイルも飛躍的にその自由度が向上した。しかし、それがゆえに選択の自由に悩まされる人や無能力により事実上の選択肢の無さに直面する人を生み出し、一方でマス政策およびマスメッセージがすっかり無力化してしまった(*5)。果たして、恋愛や結婚のシーンで、マス政策を超えた、「ワントゥワン政策」は可能なのだろうか。
(*5)自分とは直接関係ない、あるいは直接関係あることに想像力が及ばない事柄については、依然としてマスコントロールが容易なのだが…。
【関連資料】
「産まない」時代の女たち―チャイルド・フリーという生き方
少子化対策の的は外れるばかり
合計特殊出生率が東京で衝撃の1.00
非婚化の先に見える多民族社会
空前の生涯独身時代
厚生労働省関係審議会議事録等 その他(検討会、研究会等) 「少子化社会を考える懇談会」参照
その他、教育問題と並んで、誰でも一家言持つような話題らしく、右から左までネット上に山のように少子化問題/少子化対策について触れたページが存在する。
Posted: 2004年05月25日 02:42 ツイート