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Columns: Society

退却マップ

Communication | Society

最近またマスコミでニート(*1)が騒がれているためか、ネットでも良くこの話題見かけるが、ひきこもりと混同して扱われるなど誤解されていることがある。

(*1)NEET=Not in Education, Employment or Training。EducationとEmploymentがひっくり返っていることがあるがこちらの場合が多いようだ。日本語では無業者。ホームレスとニートと引きこもり&フリーター(3)などを参照。

ニートはひとことで言えば仕事からの退却なので、恋愛については問題ない場合もあるが、逆に、これまでloveless zeroで扱って来た恋愛障害者(非モテ)は恋愛からの退却ということができる(*2)。ここでは、これらのニートとひきこもりと非モテの関係を例によって可視化してみよう。名付けて「退却マップ」である(図1)。

(*2)NEETに合わせて英語にするとしたら、NLST=Not in Love, Sexperienced, or Talking。恋愛してない、経験なし、(異性愛者の場合)異性と話すこともない、というところか。

退却マップ
図1 退却マップ

2つの軸には「仕事力」と「恋愛力」を取った。いずれも、社会人として周囲から要求される力であり、仕事(とそれによって得られるカネやステータス、あるいは充実感)と恋愛(最終的には結婚や家庭)は多くの人に取って2大関心事なのではないだろうか。

「○○力」というのは、「能力」とは微妙に違うもので、実際にこれまでに残し、今後も期待される成果、ということで捉えて頂きたい。能力主義と成果主義の違いと言ってもいいかもしれない。とは言え、ここでは、差し当たり良いとか悪いとかの価値判断を一切しないことにする。感情的になりやすいテーマなので、まず事実としてどうなのかだけを捉えることが必要だ。

ニートと非モテのマッピングは明解で、それぞれ仕事力と恋愛力が欠けているということである。

ニートの定義にも含まれる意欲の問題はどこに行ってしまったんだという話がありそうだが、ここでは意欲の有無をあえて外して考えることにした。「できない」のか「しない」のかという違いは、いざ個別の対策を考える上では重要になってくるのかもしれないが、内面の意欲の問題は、外からは見えにくく、どこまでが「できない」で、どこからが「しない」のかを区別するのは困難だからである。社会から見ても、アウトプットを出していないということでは何ら変わりがない。

意欲とかやる気、モチベーションはビジネスにおいていつもホットなトピックではあるが、意外なことに、モチベーションと生産性の関係は根拠が疑問視されている。モチベーションが高いから生産性が上がるのではなく、むしろ、生産性が高いからモチベーションが上がるだとの指摘がある(「マネジメントの正体―組織マネジメントを成功させる63の「人の活かし方」」)。着実に成功体験を積み上げていくことが大切ということである。

そしてこれは、仕事だけでなく、恋愛でも同じだろう。ことごとく(時には人間扱いすらされないで)振られ続けて、それでもなお、意欲を維持できる人はなかなかいない。そして、やらなければスキルがつかない負のスパイラルが働くのもどちらも同じである。「できない」と「しない」は実はコインの表裏と考えて良いのではないか。

図で灰色の部分は、ここには余り当てはまる人が(皆無ではないとはしても)少ないだろうという考えでグレーアウトしている。恋愛力が高いということは、コミュニケーションや容姿に優れている可能性が高いため、それなりに向いた仕事が見つかり安いだろうし、逆に仕事においても、重要な役割ほど高いヒューマンスキルが求められるため、恋愛力が極端に低い人には厳しいからである。いずれもコミュニケーションがコアであり、本来2つの軸は直交するものではない。

一方、ひきこもりは人間関係からの退却なので、この仕事力-恋愛力平面にマッピングするとすれば図のようになるだろう。恋愛が難しいのは人間関係の延長上にある以上避けられないが、仕事においても、現代の仕事は多くの人の連携によって行われている場合がほとんどで、多くの人がストレスを感じているぐらいなので、やはり結果的に難しいということになりそうである。個人的には、対人関係をそれほど要求しない仕事を、社会が仕組みとして用意することが必要ではないかと考えている。

さて、ここまで3種類の退却をマッピングしてきた訳だが、自由主義(→大辞林 第二版)の時代にあって、基本的にこれらの退却は個人の自由である。冒頭で一切の価値判断を留保するとしたのは、原則としてこれらの選択は守られるべきで、安易に私情を挟むのは危険と言う感覚がある。

しかし現実には、偉い人を初めとしてこれらの退却に問題意識を持っている人は多い。非モテ層が増加すれば、非婚率の上昇、その結果として少子化をますます加速するということになるし、ニート層が増加すれば、いくら人口が維持できても社会の負担が大きくなり、かえって経済が破綻するという心配がなされる(ひきこもりはその両方)。

ただ、何らかの対策を打つのだとしたら、やる気とか甘えの問題に帰着させた乱暴な議論を行うのではなく、まずは「できない」ベースで捉え、小さくてもいいので本人が成功体験を味わえるような取り組みをしていくことが大事なのではないだろうか(*3)。

(*3)ニートと呼ばれる若者たち−−玄田有史・東大助教授が調査では「働かない」のではなく「働けない」、とされている。

「彼らは『働かない』のではない。『働けない』のです。職場での人間関係を極度に恐れ、自分は働けないと思いこんでいる。不況など時代背景や教育、家庭などの要因が複雑に入り組んでいるのでしょうが、多くのニートたちが口にするのは『生きづらさ』です。これは今の若者全般の特徴にも重なっており、誰もが『ニート』になりうるともいえます」と玄田さんは強調する。
Posted: 2004年10月18日 08:26 このエントリーをはてなブックマークに追加
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コメント

モチベーションが高すぎて生産性が下がることもありますよ。完璧主義な人とか……。
#オーム社から出ている「ソフトウェアクライシス」か「SEクライシス」のどっちかで言及されていたような。

Posted by: fkz : 2004年11月22日 00:27

fkzさん、コメントありがとうございます。

モチベーションも生産性も漠とした言葉ですので、両方のベクトルが一致している必要がありますね。顧客満足だとか、ROIの最大化といったことに両方の焦点が合っていれば正の相関を示しそうですが。

特にソフトウェアの場合ライン数とかおかしな指標が未だにまかり通っている場合がありますし。

Posted by: 秋風 : 2004年11月22日 06:57

こんにちは、またブログ覗かせていただきました。また、遊びに来ま~す。よろしくお願いします
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Posted by: モンクレール ダウン : 2013年01月12日 20:48
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