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「おひとりさま」市場

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現代日本において晩婚化・非婚化が進展し、パートナスタイルが多様化する中で、昨今「おひとりさま」(*1)への注目がますます高まっている。今回はこの「おひとりさま」市場についてまとめておく。

(*1)「おひとりさま向上委員会」が商標登録を申請中らしい。商標、ですか。

世の中の多くの飲食店や娯楽施設は、従来、家族やカップル向けにデザインされており、それゆえに1人では行動範囲が非常に狭くならざるをえ得なかった。しかし、晩婚化・非婚化が進展し、パートナスタイルが多様化する中で、1人でもポジティヴな行動派女性が増加。こういった流れを受けて「おひとりさま向上委員会」が誕生する。「おひとりさま向上委員会」が提唱している「おひとりさま」は何故か女性に限定されている(*2)のだが、家庭を持っているかどうかやステディなパートナがいるかどうかに関係なく、自分1人の時間を大切にできることがポイントとなっている(*3)。

(*2)男性の「おひとりさま」も対応して増えているはずだが、こちらはしきりに「ひきこもり系」と断定されている。
(*3)JapanKnowledgeでは「負け犬」と同じ境遇、としているが、おひとりさま向上委員会の定義を見る限り、(ポジティヴに捉えているという点では共通するものの)全く異なる。もっとも、「おひとりさま」を自負する人たちがどの程度結婚して子どもを持っていたり、ステディなパートナがいたりするかは不明。

では実際に、飲食やレジャーのシーンにおいて、「おひとりさま」はどの程度受け入れられているのか。そうした問題意識から、当サイトでは、2004/10/4〜2004/11/14にかけて次のような質問を行った。集計結果と合わせてご覧頂きたい。

Q.今、「おひとりさま」がひそかなブームですが、あなたが下記の中で「おひとりさま」で行けるものを全て選択してください。(当てはまるもの全て)
映画館

(66.1%)
カフェ

(61.7%)
ショッピング

(87.0%)
テーマパーク・遊園地

(6.6%)
動物園

(19.7%)
美術館

(67.4%)
洋食レストラン(ランチ)

(49.3%)
洋食レストラン(ディナー)

(14.1%)
吉野家

(71.0%)
旅行

(58.0%)

当初2週間程度の掲載期間を想定していたのだが、連日多数の回答を頂いたためアンケートをクローズするタイミングがなく、結局1ヶ月以上に渡って掲載することとなった。回答数は2200以上。読者の関心の高さが伺える結果である。

このアンケートはたった1つの質問で行っているため、もちろん調査の信頼性は低い。ちゃんとしたマーケティングリサーチであれば少なくとも、性別、年齢、未既婚等の属性データが必要だ。例えば、「吉野家」の入りやすさは性別によってかなり異なることが想像される(逆に言えば、間接的に回答者の男女比率がある程度推測できる)。また、回答の選択肢も「選択肢のレベルを揃える」という調査のキホンがなっていない。同じ飲食系でも先ほどの「吉野家」はいきなり具体的な店名なのに対して、片や「洋食レストラン」では余りに幅が広過ぎる(*4)。

(*4)「行ける」と回答された人でさえ、例えば汐留のスカイレストランとかになるとなかなか躊躇するものがないだろうか。

ただ、傾向を見るだけならこれでも十分興味深い。趣味・教養系の「映画館(66.1%)」「美術館(67.4%)」が2/3程度と比較的抵抗感が小さい一方、利用する機会の多いはずの飲食系では「カフェ(61.4%)」「洋食レストラン[ランチ](49.3%)」「洋食レストラン[ディナー](14.1%)」ときちんとした食事になるほど相当抵抗感が高いようだ(*5)。「『おひとりさま』の旅」が広がりつつあり、対応した宿泊施設が増えているとは言うものの、「旅行」も58.0%に留まっている。

(*5)「レストラン」や「吉野家」という選択肢でなく、例えば「大戸屋」とか「おはち」だったらどうだったろうか?

これはマーケティングの教科書に載っているような「2人の靴のセールスマン」のケースと見ることができる。現状本格的な店になるほど、「おひとりさま」で食事を取るお客が少ないことから、そういった「おひとりさま」ニーズはないと結論づけることもできなくもないが、それよりも、「おひとりさま」でも入りやすい店づくりをすれば莫大な潜在ニーズを掘り起こすことができるという仮説の方が面白い。

電通の調査「『ひとり』も楽しい〜ひとり消費の実態に迫ってみました〜」にもあるように、「おひとりさま」の楽しさは広く受け入れられているものの、その消費シーンは自宅でインターネットやテレビ、ビデオゲーム、という答えが多く、外食や旅行で外出してというところにはまだ十分なっていない。女性の「おひとりさま」市場もこれからが本番と考えられるし、男性に至ってはほとんど未開の地だろう(*6)。

(*6)男性のおひとりさま向け室内娯楽はすでに十二分に充実しているが。

社会的には、女性にしろ男性にしろ「おひとりさま」の居心地が良くなり過ぎると、ますます非婚化とそれに伴う少子化傾向が止まらなくなり、偉い人のアタマを悩ませることになる可能性も少なくない(*7)が、個別のビジネス的には確かに面白い市場が広がっているということが言えそうだ。

(*7)現状でも、他人の干渉が低め、生活サポート環境が充実し、シングルにとって居心地がいい東京都では全国よりも非婚化・少子化がはるかに先行している。当初の「おひとりさま」の出発点がどうであれ、現在のブームは開き直り型シングルな人の賛同を得て広がっている側面もあるのかもしれない。

【関連ページ】
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「男性が逃避的なこもり系なのに、女性はショッピング、カフェ、芝居、コンサートなど幅広く1人で参加して楽しんでいる。女性の方がひとりを楽しむ商品やサービスを多岐にわたって求めているようです」

トレンド?!【おひとりさま】…「おひとりさま向上委員会」
コラム(晴雨曇) 11/18

【関連書籍】
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Posted: 2004年12月29日 01:28 このエントリーをはてなブックマークに追加
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