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Columns: Society

社会現象のハイプ曲線(2004-2005)

Communication | Society

2004年も今日で終わりということで、社会・コミュニケーションに見られる様々な現象(*1)について、ハイプ曲線(*2)を借用して今年を振り返りつつ来年を考えてみたい。

(*1)もちろん社会には当サイトで取り上げない現象あるいは問題がたくさんあるが、当サイトではテーマを絞り込むため、主にコミュニケーションが原因で起こっているものを対象としている。
(*2)ハイプ曲線とは、緩やかに伸びてきた(黎明期)のが一時期に急速に関心が高まった(流行期)後、その反動で急速に冷め(反動期)、その後a)一定の範囲で盛り返し(啓蒙期)定着するもの(安定期)と、b)冷めたまま完全に廃れていくもの(衰退期)の2つに分かれる、といったトレンドを記述・分析するためのフレームワークであり、IT系調査会社のガートナー社が使用している。

今回、社会現象を対象とするため、横軸に時間、縦軸に話題性を取った上、各社会現象が本格的に社会問題となると思われる時期を色で塗り分けている(図1)。話題になる時期と本格的に問題になる時期がずれているのが通例である。

社会現象のハイプ曲線
図1 社会現象のハイプ曲線(2004-2005)

【安定期】
まず、安定期には「少子高齢化」と「フリーター」を配置した。
「少子高齢化」は「少子化」+「高齢化」が同時に起こっている現象で、両方とも毎年状況が進行しているため、常に話題の耐えないテーマである。後続の「パラサイトシングル」「おひとりさま」「負け犬」「オニババ」といった多くの現象と繋がっている。社会保障の仕組みの破綻が目に見えており、団塊の世代が引退する5-10年のスパンで、本格的な問題へと発展していくと考えられる。高齢者雇用の拡大、大量移民導入で労働力を支え、経済の維持に努めるか、あるいは人口減少を前提とした社会へとシステムを変革していくのか、残された時間は余りない。

「フリーター」はもはや「社会問題」というより、雇用の流動化が「既定路線」であると言うべきだろう。課税対象にする動きはその存在が事実上容認されている印だ。全体として、ワーク・ライフ・バランス、つまり仕事と生活のバランスを重視する流れから、あるいは雇用者側の都合から、被雇用者は長時間労働を課せられる一部のa)中長期被雇用者と、比較的生活重視のb)専門型短期被雇用者およびc)非専門型短期被雇用者と分かれて行くと思われる。ただc)非専門型短期被雇用者は経験の積み上げがないため、年齢が上がるに従って仕事を見つけにくくなるのはなかなかカイゼンが期待できないかもしれない。この場合、後述する「ひきこもり」「パラサイトシングル」「ニート」と同様の問題に直面する。「フリーター」が命名されもてはやされたのは20年近く前だが、最初の頃の「フリーター」が40代に突入しており、様々な課題が顕在化するのは時間の問題だ。

【衰退期】
衰退期に配置したのは「(社会的)ひきこもり」および「パラサイトシングル」である。もっとも、衰退期、と言っても該当する人々が減った訳ではなく、むしろ、増えている傾向にあると考えられる。衰退しているのはあくまで「話題性」である。「(社会的)ひきこもり」は「ニート」という言葉の登場により「ニート」概念に吸収されつつあり、一方、「パラサイトシングル」は「パラサイト(親との同居)」「シングル(独身)」が別に何も珍しくなくなってしまったため、取り立てて話題に上がるようものではなくなってしまった。あるいは「負け犬」や「おひとりさま」に回収されていったとも言える。問題になる、ということでは、安定した仕事に就いている「パラサイトシングル」を除けば、親の世代が引退した頃からが本番となる。

【啓蒙期】
次に、啓蒙期に配置したのは「おひとりさま」。「おひとりさま」は一時期話題になった後一旦落ち着いたが、「負け犬」ブームにより再び注目されるようになったとされる。「おひとりさま向上委員会」もメディアにしばしば登場し活発に活動しており、まさに「啓蒙期」にある。問題になるとすれば、5-10年経って第2次ベビーブーム層が40代になってからでは遅いということだが、女性は男性よりも結婚しなくても構わないと考えている人が多いようなので、心配の必要は余りなさそうだ。むしろ大きな問題になりそうなのは女性よりも非婚率が高く、ひとりでは生きていけない男性版「おひとりさま」である。

【反動期】
反動期は「経済格差」「負け犬」「オニババ」。
「経済格差」は森永卓郎氏の「年収300万円時代」を想定して配置。経済格差を示すジニ係数は確実に格差が広がりつつあることを示しているが、生活者はもはや一億総中流社会の崩壊を受け入れており、敢えて話題に上ることもなくなっている。

「負け犬」もその言葉の強烈なインパクトで2003年-2004年前半に大きく話題になったが、浸透し尽くしたためすでに落ち着きを取り戻している。一方、「オニババ」は余り浸透することなく消えて行く可能性が高い。問題になるかどうかということでは、「おひとりさま」と同じであり、今後も様々な形で煽られ続けるだろうが、実際困るのは男性側と思われる(だから煽り続ける訳だが)。

【流行期】
流行期は「ニート」「アキバ系」「学力低下」。
コモディティ版「ひきこもり」とでも言うべき「ニート」ブームのピークは「働いたら〜」発言でカリスマニートが一世を風靡した2004年前半だが、後半に入っても波状的に関心を持つ人が広がっている。現時点ではレイトマジョリティからラガードに移りつつあると言えるだろうか。来年には沈静化していくだろう。もちろん、話題として沈静化するだけであって実際の「ニート」がいなくなる訳ではなく、むしろ増加傾向を辿ると思われるため、親世代の引退に従って社会保障の破綻に拍車をかける可能性がある。「ニート」が皆裕福で将来も心配がないことを祈りたいところ。

「アキバ系」は2chを発祥とするクロスメディアコンテンツ「電車男」で話題に。これも現時点ではレイトマジョリティからラガードに移りつつある。一部では「負け犬」との組み合わせがメディアで取り上げられたりもしており、恐らくネタで言っているのだろうが、そうでなければ真の「アキバ系」を知らな過ぎる。ライト化されたオタク的コンテンツはマーケットに広がって行くと思われるが、「アキバ系」の人自体は取り残され続けることになるだろう。

「学力低下」は2004年末になって各種の国際比較調査で話題に。「ゆとり教育」への反動が起こっているが、「勉強しても仕方がない」という子どもたちの側の事情、言わば学業ニートの影響が大きく、教育制度をいじくりまわすのは無策批判の回避以上のものにはならないのではないか。

【黎明期】
最後に黎明期として「コミュニケーション力低下」「希望格差」を。
「コミュニケーション力低下」問題には、古くは「ひきこもり」、新しくは「ニート」(の一部)という時代の先駆者が存在したが、更にコモディティ化が進み、一部の人に留まらず、だんだん子どもたちや若者全体に広がって来ているようである。教育の現場では、「学力低下」と並んで問題視されていくだろう。

「希望格差」は「パラサイトシングル」を世に送り出した山田昌弘氏によるものだが、上記の様々な現象のバックボーンを説明するのに都合の良い言葉だ。インターネットを通じてセレブや成功者の実態がより身近になり、自分とのどうしようもない落差を実感させられるようになったことも大きい。この言葉が来年にかけて広がるかどうかはともかくとしても、この希望格差、あるいは意欲格差の広がりが今後も様々な現象を引き起こして行くことは間違いないと思われる。

4年前、小説「希望の国のエクソダス」で「この国には何でもある。ただ、『希望』だけがない。」と登場人物に語らせたのは村上龍だが、ここに来てまさにこの「希望」のなさが未来にくっきりと暗い影を落とすようになってきた。厳しい現実をしっかりと見据えた上で、どうしたらより多くの人が希望を持てる社会にできるのかが今、問われている。

関連: 希望格差社会と不幸の「発見」

Posted: 2004年12月31日 12:27 このエントリーをはてなブックマークに追加
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