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Columns: Partner Style

ラブキャズム

Partner Style | Society

新しいコンセプトの商品やサービス、あるいは社会的現象などの市場ヘの受け入れられ方がモデル化されるとし、ロジャースが著書「Diffusion of Innovations(邦訳: イノベーション普及学)」で提唱した採用者分布曲線(※1)は、マーケティングの分野でしばしば利用されており、特に、革新的なハイテク領域では、トレンドに敏感なイノベーター・アーリーアダプターと主要市場であるアーリーマジョリティの間にキャズム(隔たり、深い裂け目、溝、亀裂、など)が存在することが指摘されている(ジェフリー・ムーア「キャズム」)。

(※1)Webでコンパクトにまとまった解説ページとしては、この辺(MITSUE-LINKS)この辺(@IT)を参照。

さて、6月頃に、ブログ界隈で活発にされていた恋愛/モテにまつわる議論は、古くから繰り返される、すでに答えは明らかであると同時にある意味で答えのない類の議論だが、そういった場面でいつも感じるのはラブキャズム(モテキャズムの方が語感が良い?)とでも言うべき深い溝、すなわち、恋愛未経験者が恋愛を成就させる際のハードルであり、同時に恋愛経験者と未経験者の間の認識ギャップの存在である。一般に、恋愛市場への初期参加時期を横軸に取ると、ロジャースの採用者分布曲線に似た分布を取ると考えられる。ここでは、ロジャースの理論を応用しているオーディーエス社の分類を参考にする(図1)。

恋愛市場参加曲線
図1 恋愛市場参加曲線(図をクリックで拡大)

横軸の年齢はあくまで仮説的なものである。各年齢を同じ幅で取るのではなく、高校生(15〜18歳)の辺りを幅広く取った方がより正確かもしれない。なお、オーディーエス社の分類は、こちら(GLOBIS ORGANIZATIONAL LEARNING)に簡単にまとまっているので引用させて頂く。

アメリカのロジャースという学者は、ハイテク製品の受容スピードに着目して消費者タイプを5つに分類しました。この考え方を発展させて、マーケティング調査やコンサルテーション・サービスを行うオーディーエスという会社(http://www.ods-lsi.com/)は、(1)イノベーター(新しい情報や商品サービスに敏感なオタク的探索層)、(2)アーリーアダプター(流行るものを見分ける力を持つトレンド・セッター層)、(3)ブリッジピープル (流行しはじめたものを積極的に取り入れる層)、(4)フォロワーズ (みんなと同じ選択を志向する追随層)、(5)レイトフォロワーズ (何が良いのか分からないが世間と同じ選択を行う後方追随層)、(6)アイソレイテッド(新しいことや世の中の動きに関心がない流行隔離層)という分類を発表しています。

通常、キャズム理論で言われる、イノベーションが乗り超えるべきキャズムは、冒頭に述べたように、イノベーター・アーリーアダプターとアーリーマジョリティ(上記では(3)ブリッジピープル)の間に横たわっている訳だが、恋愛市場参加曲線の場合、(1)イノベーターから「初期適応者」である(2)アーリーアダプターを経て、(3)ブリッジピープル以降のメインストリームにすぐに展開し、(後になるほど若干ハードルは高くなっていくだろうが、) (5)レイトフォロワーズまでは比較的スムーズに来て、(6)アイソレイテッドとの間で生まれるのが特徴である。幼少の時期から年齢が上がり異性(ヘテロセクシャルの場合)を意識し始めた頃には異性と遊ぶことがからかいの対象になっていたのが、中学校、高校と学年が上がることにごく自然に当たり前のことのように普及していく。これは、恋愛の価値がすでに社会で広く共有されており、個人の中でそれに「気づく」かどうかだけがカギとなっていて、年齢を経るにつれて「みんながしている」こととして、むしろ参加しない事・人に対して周囲から社会的圧力(集団圧力)がかかることが背景にあると考えられる。

ラブキャズムを巡ってしばしば観察されるのは、キャズムの「こちら側」と「あちら側」で「言葉が通じない」ことである。(1)イノベーターから(5)レイトフォロワーズ層までにとっては何でもないことが、5%(40人学級であれば2人)の(6)アイソレイテッド層には途方もなく精神的負荷がかかることであったりする。また、キャズムを超えた瞬間に「かつていた場所」のことが分からなくなることも少なくない。実際のところ、キャズムをまたいで話をする必要もないのだろうが、あえて話をするのであれば、「なぜあの人だと話がまとまるのか?」で書かれているような相手主義(=単に相手の事を思う(or 同情する)のではなく、相手の立場や境遇を理解し、相手の視点から世界を観る)ことが必要なのだと思われる。もちろん、それが難しいからこそのキャズムである。

なお、セクシャルマイノリティの場合、図1の恋愛市場参加曲線をそのまま当てはめるのはやや厳しいものがある。あくまで推測でしかないので間違っていればご指摘頂きたいが、ホモセクシャルやトランスジェンダーの場合、周りの多くの人との違いに気づきそれを受け入れるまでに時間が必要なことから、やや曲線が右側にずれることが想定される。しかし、人々の理解の深まりやオンラインコミュニティなどの発展により、パートナーを見つけること自体は機会が広がり、次第にヘテロセクシャルが置かれる状況に近づいて行くことになると思われる。一方、最近注目が高まりつつあるAセクシャルでは、(6)アイソレイテッドに属することになる可能性が高い(特に主導権や積極性を要求される男性の場合)が、原義通り「関心が薄い」訳なので、ラブハラスメントへの注意が必要となる。

他にも、恋愛市場参加曲線は、あくまで「参加する」ことだけに着目しているため、「参加した後に撤退する」ことまでは説明できない。すなわち、一旦は恋愛市場に参加したものの、失恋などで傷つき、再び恋愛することにためらいを抱えた人や、恋愛経験こそあれ、自分としてはキャズムを超えた感覚を得られないでいる人々を上手く説明することができないといった限界がある。もしラブキャズムの対岸で異国と化した双方の言葉を通訳できるとすれば、彼らが最も有力であろう。

以上、恋愛市場参加曲線とラブキャズムについてほとんど思いつきで書いてきたが、合計60%を占める(4)フォロワーズや(5)レイトフォロワーズにとって、周りと合わせることが重要となり、それが結果的に社会的圧力(集団圧力)を生み出している一方で、(6)アイソレイテッドがコンプレックスを抱いている状況がある。そのような中では、「できる or できない」という「能力」ではなく「する or しない」という「行動」と捉えることが、圧力を柳のように受け流すのに適したものの考え方だろう。確かに恋歴社会の側面があるのは事実だが、初期の参加時期だけが、豊かなパートナーリングに結びつく訳ではない。(特に若いうちは)いたずらに焦る事なく、自分のペースで、共に歩み成長できるパートナーを見つける方が大切だということは意識しておきたい。

Posted: 2005年07月11日 00:36 このエントリーをはてなブックマークに追加
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コメント

しかし世の中には自分が知らないだけで面白い本や理論が
わんさとあるものですね。イノベーション普及学、是非読んで
みたいと思いました。
 出来る、出来ないと捉えがちなものをする、しないに
捉えなおす作業は、確かに可能ならば重要だと思います。
問題は、これをどう可能ならしむるのか?という所っぽい
ですね。この、可能ならしむる事の重要性が論議されて
無い事も勿論問題ですが、ではいかにしてcannotの
問題をdon'tの問題に切り替えていくのか?がもっと
大きくて深刻な問題のような気がします。

案外、こういった答えは一部の恋愛の達人・先行者のほうが
よく答えを知っているような気がしたり、古い古い書物に
書いてあったりするような気が個人的にはしますが、溝の
向こうの人たちに届く形でデリバリーするのは大変そうですね。

「脱オタしない」となんとなく似ているなぁとも感じました。
そういや、脱オタって奴はラブキャズムからの脱出と
パラレルか、もしかしてそのものっぽいですね...。

Posted by: シロクマ : 2005年07月11日 10:35

いやま、シロクマさんにはバレてるでしょうけど、こういうのは
「資本主義」への遠回しのアイロニーだったりする訳ですが、
はじめての経営理論とかはじめてのマーケティングみたいな半ば
自分のための勉強みたいなところもありますので、関心を持って
頂けたら私としても嬉しいです。

「いかにしてcannotの問題をdon'tの問題に切り替えていくのか?」
が問題だというのは全く仰る通りでして、これを個人の心の持ち方
(自己責任)に帰しては多分何の解決にもならないですね。
達人の方が分かっているというのはなるほどと思いました。自然体、
ということなのかも…?

Posted by: 秋風 : 2005年07月18日 00:15
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