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「一瞬で勝負が決まる」社会

Society

就職サイトにおける学歴による入手可能な情報量格差の話や、ビジネスパーソンにおいて高い外見力がビジネスの場面で成績に影響し、年収に有意な差を生むという話はより俯瞰的な視点でみると、大きな1つの潮流を示していると考えられる。すなわち、資本主義社会は絶え間ない成長を志向するがゆえにスピードと流動性を求め、より多数の人と接する機会が増えるため、人間のある種の「選択」において瞬間的もしくは短時間に効力を発揮する能力が、(あくまで足切りの時点であるものの)より重要になるということである。

就職活動に関して言えば、インターネットの普及により、応募者にとっても情報の入手が容易になっていることから、人気企業においては1企業当たりの応募者がむしろ増加していることが想定される。正確には、総合系就職ランキングのように、ネットよって良い情報も悪い情報も一瞬で伝播してしまうため、人気の高い企業とそうでない企業とは2極化していくことが「ミスマッチ」を更に生みやすくする土壌だが、競争率の高い企業に群がっている学生から見れば競争の厳しさとしてのみ見える。結果として、企業は多数の学生を限られた期間の中で限られたリソース(人・カネ)で捌く必要があり、そのためにじっくり個別の応募者と関係を築く前に、効率の良い振るい落とし作業の必要が発生することになる。

当然ながら企業側は、高校卒業時の成績で判断していいのかといった話や、学校の成績と仕事のできるできないは必ずしも一致しないという限界は理解しているし、いわゆる偏差値が高くない大学にも逸材が眠っているかもしれないこともあり、可能な限り多くの学生に会いたいと思いつつも、限られたリソース内での効率性を求めるゆえに、あくまで確率の問題として学歴という指標をフィルタ条件として採用することになる可能性は高い。少なくとも、受験を戦い抜いた忍耐力や論理的思考力、理解力などがある程度測れるからである。その意味で、学歴以上に仕事の成績と相関する属性がもし発見されれば、それが重要なフィルタ条件となり、就職サイトにもすぐに搭載されることだろう。

仕事の場面でも、いつも同じ取引先と付き合っているだけではなく、アドホックにプロジェクトが立ち上がって人が集まるような仕事のやり方の中で、初対面で会う絶対的な人数が増えれば、「第一印象」だけで終わってしまう場合も少なくなく、長期の関係に繋げていくためにはどうしても最初の短い時間で注意を引き、相手にインパクトを与えていくことが求められ易い。

また、企業と応募者とのマッチングや仕事のパートナ探しと同様に、恋愛・結婚のようなパートナ探しの場面でも似たような状況が起こりうる。もっとも、昔は昔でも、お見合いにおいて釣書という文書レベルで会う前からある程度はフィルタリングされていた訳だが、結婚してから深まるような関係もあった。一方、昨今の合コンや出会いパーティのような場面では、外見やトーク、空気を読む力などの短い時間(1〜2時間)で相手の心を掴む能力が有力となる。

「外見力」なるものがまことしやかに語られ、特にこれまで「男は中身」とされ、おざなりになりがちだった男性のプレゼンスマネジメント (服装、身だしなみ、表情、視線、姿勢、声、話し方…などの総合的なマネジメント)が要求されてきている背景には、もちろん「社会のサービス化」が1つの理由としてあるが、もう1つの理由としてこうした「一瞬で勝負が決まる」機会が増えていることがあるのではないかと考える。もちろん、意識して打算的である訳ではないとしても、(時間的な制約などで、事実上)短い時間で、今後つき合うことがメリットになるかどうかを判断されやすい、ということであ。

それでは、こうした瞬間的な能力にはやや自信がなく、中長期的にじっくり付き合うことで良さが分かるような人はどうすればいいのだろうか。「一瞬で勝負が決まってしまう」機会の多い中で、そうした能力を強化していくことも必要ではあるが、それよりもできるだけ同じ土俵(=ルール)で戦わないようにする方が有効だろう。誰しもが、(性格テストで質問によくあるような)「初対面の人に会うのが楽しい」訳ではない。

仕事に関して言えば、アルバイトでもインターンシップでもいいが(※2)、とにかく職場の中に入り込んで、仕事の中で着実に成果を出していくことがある。そうすれば、自分にとっても自信がついてくるし、周囲の見る目も変わってくる。恋愛・結婚の場面では、学校・職場・趣味のサークルのような、否応なく同じ空間で長い時間を過ごす環境がパートナを見つける上で鍵になるのだろう(※3)。

(※2)インターンシップの期間が十分に長いかというと疑問だが、面接の時間で判断されるよりははるかにマシだ。
(※3)ただし、職場のマッチング機能はセクハラ問題に発展することを避けるため、次第に低下していくことが予想されるが。

【関連書籍】

4478770212カーネギー 心を動かす話し方―一瞬で人を惹きつける秘訣
デール カーネギー Dale Carnegie 田中 融二
ダイヤモンド社 2006-02

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4894511967一瞬で信じこませる話術コールドリーディング
石井 裕之
フォレスト出版 2005-06-01

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4822243567仕事は「外見」で決まる! コーチングのプロが教えるプレゼンスマネジメント
鈴木 義幸
日経BP社 2003-07-24

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4140810483初対面の教科書―おちまさとプロデュース
「おちまさとプロデュース 初対面の教科書」をつくる会
日本放送出版協会 2005-05

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Posted: 2006年04月26日 00:00 このエントリーをはてなブックマークに追加
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コメント

 外見力もそうですし、世間でいうところの「コミュニケーション能力」にしてもそうですが、文化ニッチが細切れで、人とモノの流れも滅茶苦茶な昨今においては「共通基盤が無い者同士の出たとこ勝負」における相互スクリーニング合戦が(コミュニケーション全般に占めるウエイトとして)重いものにならざるを得ないんでしょうね。
 
 今後この傾向は都市部を中心に拡大こそすれ、なかなか衰退しないでしょう。でも、人間は本来、そんな環境で「出たとこ勝負」を繰り返すようには出来ていないと思います(ついでにこんな情報の流れの速い社会に生きるようにも遺伝的に設計されていないような気が)。本来、中~長期的な関係のなかで現生人類は暮らしてきていた筈なわけで、現状と人間の設計に関するギャップという視点からも、「否応なく同じ空間で長い時間を過ごす環境」は再認識されていくんじゃないかと思ってます。いずれ。

Posted by: シロクマ : 2006年04月29日 13:13

シロクマさん、どうも。

企業においても、私たちの頃は職場はあくまで仕事の場所、という捉え方だったのが、最近の若い人の間ではすでに、安定志向が高まったり、職場でのコミュニティを大切する傾向が出てきているように思います。

ライフイベントとストレスに関する研究などもされていますが、これらもやはり生活の「変化」によってストレスを受ける、ということで、人間の本質としてはやはり余り変化を好まないということなんでしょうね。

そういった意味で何らかの揺り戻しは来ると思いますが、そこで資本主義的なものがぶつかってどうなるのかは予想できません。

(参考)人生の出来事型ストレス問診
http://www.asahi.co.jp/hospital/check/index.html

Posted by: sociologic : 2006年05月02日 19:28

>>そういった意味で何らかの揺り戻しは来ると思いますが、そこで資本主義的なものがぶつかってどうなるのかは予想できません。

いやぁ、駄目なんじゃないかと(苦笑)。
ただ、揺り戻しに伴って幾つかの「商品」は必ず出てくる筈!

Posted by: シロクマ : 2006年05月02日 23:04

シロクマさん、どうも。

…また身も蓋もない。(笑)
「商品」ですか…今日のエントリじゃないですが、カウンセラー系のニーズは明らかに高まりそうですけど。
「揺り戻し」ということでは、SNSやMMOの馴れ合いコミュニティはある意味でそうとも言えるかもしれませんね。

Posted by: sociologic : 2006年05月08日 07:23

お世話になります。とても良い記事ですね。
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