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Columns: Society

モチベーションと職業教育

Society

「兵士としての教育」が隠蔽され、誰もが「将軍の夢」に酔っている異常
ある種の業種では、「練兵所」なんて要らない。必要なのは「弾薬工場」と「鉄砲玉」だ!

いつもながらシビアで身も蓋もないエントリであるものの、極めて的を射ているように思われる。仕事関係のサイトが余り積極的には書かない部分だが、「「社会化装置」化する大学」でいうところの学生の希望を現実的なところに落とし込む「学校の役割」というところとも通じるものがある。高校入試や大学入試がそうだったように、仕事においても、基準はそれぞれ違うにせよ、ピラミッドや輪切りの構造があるにも関わらず、一体何故ある種の大学や、専門学校は、そうした高過ぎる夢を持ってしまうような教育を行ってしまうのか。

恐らくそれは、授業を成立させるためにそうせざるを得なかったのではないか、と考える。

家庭の教育がしっかりしていたという社会資本を持てる者や、幸いにしてというべきか、田舎な家であるがゆえに保守的な価値観が強かったがためなどで、「学校を出たら、働くことは当然である」という考えを持って育った者はある意味で恵まれている。「働くということ」にさしたる疑問を持たないですむからである。「働くということ」に疑問を持ってしまった瞬間に、何故働くのかという非常に困難な問題にぶつかる。

そもそも今、大人自身が、しばしば「働くということ」についての確信が得られないでいるため、学生にとって親をロールモデル(将来こうなりたいというイメージ)にすることが難しい。

そこには、事業環境・社会環境の変化がある。従来日本型の経済成長下の終身雇用の下では、多少の遅い早いはあれ、年功序列で収入は右肩上がりに上がるし、それなりの役職にもつけた。しかし経済成長率の低下とグローバル競争の激化、および階層間の所得配分の政策的な見直しなどにより、今や、ベア(ベースアップ)は言うまでもなく、定昇(定期昇給)すら崩壊しているし、上に上がろうにも上がつかえており役職の席が足りない。

企業は、カネと地位というニンジンがない状態で、社員のモチベーションを上げなければならない訳であり、しかも、総従業者数の多いサービス産業では、モチベーションによってサービス生産性の変動が激しいため、モチベーションをいかに上げるかが極めて重要な課題になっている。といってもちろん人件費コストは増やせないため、もはや年功序列への後戻りもできない。

逆に言えば、大多数のサラリーパーソンにとって、モチベーションが上がりにくい状況が発生しているということになる。そうした親のくたびれた背中を見て、「自分もああなるのか」(そして恐らく、更に厳しくなる)ということでは、将来に向けて明るい希望を持つのはなかなか困難であると言わざるを得ない。対照的に、TVのようなメディアの中のビジネスパーソンは、「プロフェッショナル 仕事の流儀」に代表されるようにどこまでもカッコいい。若者が、身近な親ではなく、TVの向こう側にロールモデルを置いてしまうのも、無理のないことだろう(*1)。

(*1)NHKの名誉(?)のために補足しておくと、「あしたをつかめ 平成若者仕事図鑑」という若い人向けの番組もやっており(多分、実際その仕事に就いている人から見れば十分美化されているように見えるのだろうが)、本も出している

つけ加えれば、社会保障制度の給付と負担の世代別格差のような、世代の違いによる絶対的な「損感」というのも統計はともかく、少なからず肌で感じているかもしれない。1つ2つ上の世代は「貧乏クジ世代」などと呼ばれており、少なくとも超就職氷河期に見舞われたが、トータルには、少子高齢化が更に進むので、その後の世代も必ずしも明るいとは言えない。

授業が将来に役立つという実感が沸かない中で、しかも将来の人生の青写真が描けないとくれば、刹那的な享楽に走り、学生たちが授業に身が入らないのも無理はなく、そのような状況で授業を運営して行かなければならない先生方の苦労が偲ばれる。ここでもやはり、モチベーションの課題がある。将来への「夢」はそのような中で、少しでも授業を成立させるために、語られなければならなかったのではなかったか。

もっとも、そうした「夢」はいざ社会に出ようとした時に、まさに企業との「ミスマッチ」を起こしてしまう訳で、そうなっては、先生方においても長期的な視点で学生に役立つものを提供できているとは言いがたく、職業教育上、本末転倒である。本来は、そこでオルタナティブな選択肢としての、地に足着いた平凡な生活こそが、幸せであり、貴重なものであると、自信を持って伝えていくことが必要なのだろうが、実際のところは、学生の「夢」と「現実」のギャップを埋めていく、根気のいる対話で精一杯ではないだろうか。それでも、先生方にとって負担は大きく、結婚における結婚カウンセラー(ある種の納得させor諦めさせ師)のように、専門のキャリアカウンセラーが現場で支援していくことが、重要であるように思われる。

【参考】
[society] 夢のためフリーターも 学生4割肯定、親は否定的
[partner style] プライドを捨てられないもの同士の結末
[partner style] おおらかな人は結婚する!

【関連書籍】

4121017935働くということ - グローバル化と労働の新しい意味
ロナルド・ドーア
中央公論新社 2005-04-25

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4901234803熱狂する社員 企業競争力を決定するモチベーションの3要素
デビッド・シロタ スカイライトコンサルティング
英治出版 2006-02-02

by G-Tools

Posted: 2006年05月03日 00:00 このエントリーをはてなブックマークに追加
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