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「ルール」が「ルールされる」とき

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以前、「ゲームのルールを変えるゲーム」で書いたように、一般的にゲームのルールを決められる者は通常圧倒的に有利な立場にある。宝くじや競馬・パチンコのようなギャンブルで、分配率こそゲームによって異なるものの、胴元はどうやっても儲かるようになっているといったようなのがその代表的な例である(もっとも地方競馬は大変なことになっているようだが)。しかし、ルールが及ぶ範囲や競合するオルタナティブなルールが存在する場合、ルールの強制力が強くない中でルール自体の魅力が色褪せてしまう場合にはルールメーカが壁にぶつかることがある。

コンビニは一種のプラットフォームビジネスであり、フランチャイズによって出店数を拡大し、ビジネスを広げるモデルであった。しかし、「コンビニ業界:セブン-イレブンの覇権は完成間近か」などで指摘されているように、登場当時のような、コンビニ業界と零細小売店の競争ではなく、同程度かあるいはそれ以上に競争力のあるディスカウントストアや惣菜屋の登場に加え、コンビニ需要が飽和するにつれてコンビニ業界内での競争が激しくなった。そのような中で、引き続き業績を伸ばしていくために、フランチャイズのルールに「変更」を加えていったことは容易に想像される(※1)。先の記事についているコメントがまた熱い。少なくないフランチャイズ加盟店が過酷な状況に追い込まれており、エコシステム(生態系)が破綻しつつあるため、多くのコンビニチェーンが転機を迎えていることが窺える。

(※1)例えばごく狭い地域に同じチェーンのコンビニを何店舗も出店する戦略があるが、これはチェーン全体としての売り上げを拡大し、他のチェーンが進出できなくする効果がある一方で、各店舗にとっての収益は明らかに苦しくなる。

ネットビジネスでも最近コンビニと楽天の比較がされている(※2)ように、EC市場の飽和が進む中で楽天がプラットフォームに乗るプレーヤとの関係を悪化させ次第に難しい立場になりつつある。強い立場にあるルールメーカは容易にルールを変更できてしまうがゆえに、他のプラットフォーム(=他のルール)との競争よりも容易に実行できる、自らが決めているルールの変更によって、プラットフォームに乗るプレーヤとの分配率を変える方に走ってしまうのだろう。今のところ、楽天の知名度や集客力の魅力が大きいだけに、そうそうは「ルール」から降りられないものの、様々な火種がくすぶっているだけに、より出店者にとって魅力的なオルタナティブ・プラットフォーム(ルール)が出てくると、NitendoDSの成功によってソニー陣営から任天堂陣営になだれをうって傾いたように(スクウェア・エニックスさん、FF3、PS2でも出して下さい)、「民族大移動」が起きるかもしれない、という話である。

(※2)「楽天がずるいとか言うならコンビニはもっとひどいんだよ」など。

情報の共有が進み、ルールの模倣が容易になる中で、こうしたプラットフォームの優位性を決定している要素の1つはプラットフォームを支える「卓越したオペレーション」による模倣の困難さである。「楽天はなぜWeb2.0のプラットフォームになれないのか(上)」にも比較対象としてあるが、Amazon.comの優位性は膨大な商品を迅速に顧客に届けられる在庫管理や物流といった足回りにあるし、Googleではインフラ・ハードウェアコストの、一般的なISPやホスティング企業に対する圧倒的な安さにあるとされている。水平分業型だったネットビジネスは、競争優位の構築に垂直統合型の要素がかなり大きくなってきている。

「ルール」がワークするにはまずその「ルール」自体が(それに乗っかることの)魅力的なことが当然ある。ギャンブルでは胴元が絶対儲かると書いたが、totoは赤字になっており苦戦しているという。それは、オペレーションやシステム構築の非効率もあるのだろうが、それ以前に参加者にとって「ルール」が魅力的でなかったのだろう。そして、「ルール」の魅力に加えて、他に競合する「ルール」が少ないこと、真似がしにくいこと、そのルールを運用するオペレーションが優れていることが必要になってくる。

余談だが、その意味で、社会的な価値観のルールが変わらないのは、何であれ、降りたり乗り換えたりするための、対抗するオルタナティブ・ルールの魅力がそれほどないことがその理由であろう。単に一面的な価値観の強制を批判するだけではなかなか変わらない。「普通」とは異なる「ルール」、カウンターとなる魅力的な価値観の提示が課題である。

【関連url】
[society] はてなブックマーク > 【コンビニ店長たちの反乱】(上)1円廃棄-話題!ニュース:イザ!
「ルール」を逆手に取る人たちも。
[business] フランチャイズの現状:コンビニ大リンク!
コンビニ・フランチャイズ問題を取り上げているところは多数あるが、比較的ニュートラルなトーンということで。
[business] 集客機能つきのASP=楽天市場=の「楽天税」は高いか安いか
確かにこれまでは自前でECサイトを立ち上げるよりは全然よかった。
[business] この道は破滅に至る道@web2.0といつかきた道
コンピュータとビデオゲームにおけるプラットフォームの話。

【関連書籍】
[book] セブン‐イレブン覇者の奥義
[book] 日本からコンビニがなくなる日!
[book] 楽天市場がなくなる日
[book] プラットフォーム・リーダーシップ―イノベーションを導く新しい経営戦略

Posted: 2006年09月25日 00:00 このエントリーをはてなブックマークに追加
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