Back Numbers | Home

Columns: Society

お客様は「参加者」です。

Business | Society

[society] はてなブックマーク > 集中治療室といつてもそれほど必死に治療をしてゐるわけでない:イザ!

「お客様は神様です」という言葉があるが、この言葉はあくまでもサービス提供側の心構えとしては意味があるかもしれないが、利用者側が振りかざすものではない。特にサービスにおいてはお客様は「参加者」である。

製造業においても製品サポートの重視、差別化、付加価値の向上のためにサービス化が進んでいるし、「2.0」的な流れやある種のオープンイノベーションの動きの中で、マーケティングや企画、研究開発のフェーズに顧客が参加することも増えているので一概には言えないが、シンプルには、製造業はあらかじめ作った製品を買うということで、一般に価値が生まれる場面に顧客とのインタラクションは少ない。

一方、サービス業においては、生産と消費がその場で同時に行われ、提供者と利用者のインタラクションの中から価値が生まれる(「同時性」)ことから、利用者がサービスの成立に役割を果たす割合が高い。サービス提供者と利用者が、サービスの成立に向けて同じ方向を向いて協力する必要がある。提供側に一方的に無理難題をふっかけたり、逆に無関心な「丸投げ」では成立しない。

例えばビュッフェ形式のレストランは分かりやすい。利用者は比較的リーズナブルな価格で好きなものを好きなだけ食べられるところに価値を見出すのに対して、店側も、もっともコストがかかるフロアスタッフの人件費を削減できることからメリットがある。もちろん、自分が取ってくるのが面倒な人は普通のレストランに行けばば座っていれば料理が運ばれてくる。ただしこの場合も静かに座っていて騒がないとか、メニューにないものを頼んで困らせない、など、サービスにおける一定の「プロトコル」を守る必要がある。

[society] ガソリン高騰でトラブル急増 セルフで軽油給油、エンスト

少し前にセルフサービス(*1)のガソリンスタンドで、軽自動車に軽油を入れて動かなくなるトラブルが増えているという笑い話があったが、これは利用者がサービスの「プロトコル」を理解していないために、サービスが適切に機能しなくなってしまった一例である。(この場合は、利用者の「常識」には頼れない、ということで、目立つところに注意事項を掲載する、究極的には、給油口のサイズをガソリンと軽油で変えるなどのシステム的な対処が可能であり、今後はそうなっていくだろうが。)

(*1)余談だが、日本における「サービス」の使われ方は「サービス残業」に代表されるように、本来の「service」にはない「無償」のニュアンスが強過ぎるが、「セルフサービス」は珍しく本来の意味の使われ方だと思う。

医療や教育、最近では一般の店舗を含めた場面で利用者の「モンスター化」が語られているのは、こうした「プロトコル」が成り立たなくなっていることを示している。中でも特に医療や教育が難しいのは、サービス提供側が、お客様を選びにくいことがある。普通のビジネスであれば、手に負えない、利益を生まないお客さまに丁重にお引取り願うのは一般的なことである(もちろん不況などで客が取れずビジネスが成り立たない場合はそうも言っていられないが)。例え利益を生むお客様であっても、提供側の人的リソースなどの問題で、利用者が増え過ぎると一定の品質を保てないと分かっている場合には、断らざるを得ない。高級料亭ではそういったリスクをあらかじめ避けるため「一言さんお断り」としている場合もある。

その点、「平等」の観点から、サービス提供側に断りにくい社会的認識がある医療や教育においては、ゴネ得やリソース不足問題が起きやすいのは仕方がない。それだけに、より利用者側の適切な「参加」が、サービスの持続可能性を保つために重要であるはずだ。サービスにおいてお客様は「参加者」であることを理解できない利用者が増えるのだとすれば、日本のサービスの現場(と「サービス生産性」)はまだまだ酷くなる。「べき」論に期待が出来ない以上、サービスの、法や契約、アーキテクチャ(*2)による「システム」化は不可避なのだろう。

(*2)例えば監視カメラとか会話録音とか。

関連: [society] レジデント初期研修用資料: 弱さを運用する文化

Posted: 2007年12月23日 00:00 このエントリーをはてなブックマークに追加
Amazon Search(関連しているかもしれない商品)
コメント

コミケでは現在に至るまで本を買いに来る人は客では無く「参加者」です。

Posted by: 赤木大介(akakiTaisqe) : 2007年12月24日 05:54

コミケでは現在に至るまで本を買いに来る人は客では無く「参加者」です。同時に運営のシステム化も営々と進められていますが

Posted by: 赤木大介(akakiTaisqe) : 2007年12月24日 05:57
コメントする









名前、アドレスをブラウザのcookieに登録しますか?